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24.肝試しには良い思い出が無い

ロゼッタ達の設営テント内にて。

昼食後間もなくして、早くも疲れきってしまったヒバナはぐっすりと眠っていた。

なにせ刺激的で浮かれる事ばかりが続いた上、どれも新鮮な体験で普段以上に騒いでしまった。

そんな彼女だったが、特に騒がしい様子も無い時にふと目を覚ます。

あまり昼寝をする習慣が無いので、時間感覚が全く掴めない。

まだ昼頃な気はするが、既に夜な気もする。

とにかく彼女は欠伸をこぼしながら、ゆっくりと背筋を伸ばした。


「ふぁあぁ~……」


軽くテント内を見渡してみるものの、他には誰も居ない。

全員、外だろうか。


「そういえばキャンプ中だったわ。今、何時になったの」


思っていたより深い眠りに入っていたみたいで、まだ思考力が浅いままだ。

そのことを自覚しながら、ヒバナは近くに置いておいたスマホを手探りで見つけて、ぼんやりとした気分で現時刻を確認する。

そして現状を理解した瞬間、一気に目が覚めるのだった。


「ふっ…あへぇっ!?もうご……午後…、6時近く!?どれだけ寝ていたのよ、私ってば!」


ちょっとした仮眠をするだけのつもりだったのに、すっかり熟睡してしまった。

そのおかげで心身共にすっきりした気分ではあるが、いくらなんでも一人で眠り過ぎだ。

そう思った彼女は自分の両頬を叩いて気合いを注入し、すぐさまテントの外へ駆け出した。

すると外はちょうど夕焼けを迎えている頃合いとなっていて、日が水平線へ消え行く様をロゼッタ達が眺めている。

見たところ他に居ないのは優羽と煌太の二人だけで、あとの全員は揃っているようだ。


「ごめんなさい!私ったら、ずっと爆睡してしまいました!」


せっかくのキャンプ初日なのに、気を遣わせてしまったかもしれない。

そんな考えが()ぎって、ついヒバナは本気で焦りながら謝った。

しかし、別に約束事や集合時間を決めていたわけでは無い。

まして彼女らの場合、わざわざ他人の睡眠にケチをつけることはありえないだろう。

その中でもロゼッタは焦る彼女の存在に気づくなり、爽やかな目つきで微笑んだ。


「そんな非を感じて謝ることじゃないわ。むしろ、丁度良いタイミングで起きてくれて嬉しいくらいよ」


「ちょうどいい?キャンプファイヤーの準備かしら。それなら任せてちょうだい。眠っていた分だけ人一倍に気張ってみせるから」


「準備全般の方は済んでいるから大丈夫よ。それよりも、これから肝試しを始める予定なの」


「えっ、肝試しを?」


ついヒバナは意表を突かれた表情で訊き返してしまう。

なにせ薄暗い道を歩くことに変わり無いものの、完全な暗闇を迎えている時間帯とは言い難い。

つまり今から始めるとしたら、暗闇による恐怖感が大幅に薄れたシチュエーションだ。

しかも廃墟を探検するならともかく、ここは設備が揃ったキャンプ場だ。

それならば、もう少し遅い時間帯でも問題は無いはずとヒバナは考えた。

そんな彼女に対し、ロゼッタはこれからの予定を伝える。


「キャンプファイヤーでは花火と同時にバーベキューもするの。そして、その後はブルプラちゃんが全員で天体観測に行きたいとお願いされたわ」


ロゼッタがブルプラの名前を出した途端、その当人がポリスを抱えながら会話に加わってくる。


「はい!それからヒバナ様がやりたいと熱望していた宇宙人との交信!その後にシャワーでさっぱりして、夜は枕投げ!更に眠る前にはガールズトークで盛り上がりたいです!あと明日はトレジャーハンターと未確認生物の捜索をしますし、他にも思いついたことを実行したいわけですよ!」


「……ということで、やりたいことが多い状態なの。それで想定していたよりスケジュールが詰まっちゃって、今しか肝試しの時間が取れなくなったわ。また人によっては、ある程度は時間を気にせず過ごしたいはずでしょ」


こうして順序立てて説明されると、まだまだ遊び尽くせてない状況のだと改めて知る。

また、予定の中には個人的な趣味に全員を付き合わせているものもあるが、元より遊びに意欲的で好奇心旺盛なグループだ。

どれも全力で取り組むことを思えば、どんな些細な物事でも長時間かけて(のぞ)むことだろう。

それなら最適なシチュエーションで行えない予定が一つくらいあるのは、やりたいことが多いからこそ仕方ない話だ。


更に予定とは関係無く、ヒバナはさっきまで眠っていたので個人的にも少し歩き回りたい気分だった。

キャンプファイヤー時にはテンションを上げられるよう、今の内に目を冴えさせておきたい。

だから事情に納得した今、ようやく眠気が取れてきたヒバナは前向きな反応で返す。


「もう皆に話を通してあるなら、私の方から意見することなんてありませんわ。それより、どんな肝試しになるのか期待したいくらい」


「特別な仕込みはしてないけれど、もしかしたら予想外な発見があるかもしれないわね。……それと煌太様と優羽様は不参加になるわ」


「どうして?二人して連絡が付かないの?それだったら…」


「そうじゃなくて、まだ二人きりで歩きたいと連絡があったのよ。そしてキャンプファイヤーを始める前には戻るとも言っていたわ」


「ふぅん。まぁ、優羽ちゃんと彼は恋人だから別に普通の話ですね。あの優羽ちゃんが恋人らしいことをしていることに意外性は感じるけど」


「とりあえず肝試しは二人一組で行うわ。お手製の旗を展望台に置いたから、それを手に入れて戻って来るだけ。ついでに記念写真も一枚撮ること。これなら慎重に歩いたとしても、往復二十分未満で戻って来られるわ」


今ここに居るのはロゼッタ、ブルプラ、ヒバナ、チサト、オメメ、月音の6人だから計三組になる。

何事も無ければ、案外すぐ終わるかもしれない。

そう時間計算しつつ、ヒバナは当然の質問を投げかけた。


「どうやってペアを決めるの?くじ?」


「えぇ、その通りよ。ここに折りたたんだ紙切れがあるわ。それで同じ数字を引いた者同士でペアとなるの。これについては説明することでも無いわね。早速決めてしまいましょう」


ロゼッタは進行役として全員に指示を出し、段取りを順調に推し進めた。

一人一人がくじを引いていき、紙に書かれている数字を公開し合う彼女ら。

そしてヒバナは自分が引いた番号を見た後、声に出すことでペアとなる相手を見つけようとした。


「私は3番ね。夜の支配者とも言われている私とペアになれる、幸運な相棒は誰なのかしら?」


「ど、ども……私です。チサトと言います……はい」


チサトはネット弁慶であるがために、親密な 人物以外とは上手くコミュニケーションが取れない。

そんな人見知りオーラが全身から滲み出るどころか、最大出力で噴出してしまっている。

ちょうど薄暗い時間帯である事も相まって、そのオーラによる汚染度は非常に高い。


しかしヒバナに人見知りオーラなど通じない。

むしろ、まとめ役としての経験が豊富で、その役職に長く務めている彼女だ。

そのおかげでチサトみたいなタイプは珍しいと思わないし、(かしこ)まる場でも無いので気楽な態度で接した。


「よろしくね、チサトちゃん。そういえば、こうして二人だけで話すのは初めてよね」


「え、えぇ……んん。そうっすねー…」


「優羽ちゃんとは親友なんでしょ?なら、きっと私達もすぐ打ち解けて仲良くなれるわ」


「はい、うん……。…ははは………」


「あと配信者でしたよね。まだ見たことないから、今度見てみるわ」


「ありがとー…ございますー……」


チサトはよほど凝り固まった状態であるらしく、最低限の応答すらできてない。

しかも視線を合わせないのみならず、顔の向きすら露骨に()らしてしまっている。

当然、チサト本人はこの行為が相手にとって快くないことを知っている。

だけど、これが情けない振る舞いだと知っているからこそ自己嫌悪し、より視線を向けられないという悪循環が続くばかりだった。


「もう……、私の馬鹿……。どうして恥ずかしがっているの。なんで怖いと思っているの……。ネットと変わらないはずなのに」


あまりにも人見知り過ぎて、自分の悪癖を指摘される事すら怖い。

何が正解なのか分かりきっているのに、それでもできないからひたすら情けなく感じる。

そんなネガティブな感情に襲われている彼女を、ヒバナはただ真っすぐに見つめた。

話題を持ちかけるわけでもなく、そのまま様子を探るように黙々と見つめ続けるだけ。

だから、彼女が口に出さないだけで何か不快に思っているに違いないとチサトは邪推する他なかった。


「うっ……うぅ…」


最早、チサトは勝手にたじろぐのみ。

そうして彼女のネガティブな感情が増大した直後のこと、ヒバナは唐突に手を握ってきた。

不意なことで呆気に取られてしまうが、そこには友好的な意思が感じられる優しい握り方だ。


「チサトちゃん、肝試しの間は手を握りましょう。もし何かあれば、生徒会長兼部長として私が守ってあげるから。除霊は得意分野なの」


「え、あ…うん。ありがと………」


「あと、どんな話をしてくれても私は大丈夫よ。自慢話でも、エッチな話でも、社会的な話題でもウェルカム。私自身、ミステリーやオカルトが好きで変わっている方だから」


「えっと。それならゲーム……ううん、オタク的な話でも大丈夫?」


「全然大丈夫よ。とにかく好きな事を語って欲しいわ。その話からチサトさんの好みを知ることができるでしょ?私は、あなたのことをもっとよく知りたいわ」


すかさずヒバナはにこやかな表情を浮かべ、優羽にも似た人懐っこい態度を示した。

その彼女の声色からは物腰の柔らかさが伝わってくるから、彼女の無警戒ぶりに対して大抵の人は心を許すだろう。

何よりチサトからすれば、ただ単純に(ほが)らかで親切な人だと感じられた。


「私、マイナス印象になるような事しかしてないのに……。こんなに優しくしてくれるの?」


「友達なんだから優しくするのは当然よ。……でも、マイナスって?怖いものがあるのは普通のことでしょう?」


「えっ?いや……、そうだけど、うん?」


なんてことない一言により、急に話が(こじ)れてしまったような空気が流れ出す。

よくある会話でしか無かったはずなのに、どこかで勘違いが起きてしまったみたいだ。

どのポイントですれ違いが発生したのか不明だが、とりあえずヒバナは自分が思っていたことを相手に伝えた。


「チサトちゃんは肝試しが苦手で、不安に感じていたと私は思っていたのだけど。だから、つい挙動不審になっちゃって、うまく話せない様子に……違ったかしら?」


「…あぁ。あー……なるほど。そっか。そういうことかぁ……。まぁ、でも親切にしてくれていたのは変わらないよね。うん」


ヒバナがチサトの不安を和らげようとしていたのは事実だが、どうやら意図が違ったらしい。

彼女の人見知りオーラも、肝試し前の恐怖心によるものだと解釈していたようだ。

ただ何であれ、このちょっとした勘違いはチサトの不安を軽くさせる要因となってくれた。


「そうそう。肝試しなんて小学生以来だし、ちょっと怖いかなぁ……なんて。ヒバナさんの方は平気そうだよね。除霊は得意とか言っていたし」


「夜間でのオカルト検証もするから、こういうことには慣れていると自負しているわ。野外活動に関する心得もあるつもりよ。そして、ちゃんと歩行速度は合わせるから安心して」


「うん、ありがとうね。ヒバナさん」


ヒバナは気づいて無いが、チサトから接する態度は明らかに距離感が近いものへ変化していた。

それは対等な関係だという認識を少なからず持てたおかげであるし、意気投合できると期待し始めたからだ。

そもそも、すぐ他者との優劣を強く気にかけてしまうこと自体、だいぶネガティブな思考だ。

大事なのは優劣があっても余裕を保つ器量、そして相手と仲良くなろうとする前向きな親切心だとチサトは知る。

とは言え、すぐさま人見知りを克服できるわけが無くて、(いま)だ落ち着かない気分のチサトはつい癖で視線を逸らしがちのままだ。


「んん~…、なんだろう。恥ずかしいけど、いつもよりドキドキもする。……やっぱり私って肝試しが苦手なのかなぁ」


チサトの胸中では何とも言い表し難い感情が渦巻き、なぜか浮ついた気持ちになる。

理由は分からないが、ヒバナと友達関係になれる事とは別の期待感を抱いてしまう。

すると同時に、彼女らのやり取りを聞いてすらいない月音が大きな反応を見せていた。


「……はぁっ!?今、私のカップリングセンサーが反応しました!しかも肝試しと言えば、吊り橋効果で恋の目覚めの可能性があるじゃないですか!やばい!月音レーダーを起動しないと!」


唐突にテンションが暴走し、大声をあげるのは奇人でしかない。

そのせいで彼女のペアとなるオメメは戸惑いを覚えてしまうのだった。


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