19.料理は火力!そしてアイデア!あと気持ち!
ブルプラとしては、ただ気軽な思いで提案しただけに過ぎない料理勝負。
そのはずだったのに、いざ開始すれば全員が真剣な面持ちで調理へ望む。
つまり四人とも熱意は足りているのだが、肝心の実力差は開始前から大きく表れていた。
まずブルプラは、まったくもって料理が得意では無い。
人が食べられないような暗黒料理を生み出すほど極悪な腕前では無いが、根本的な問題として味覚の機能が備わってないのだ。
そのせいで匙加減が分からず、かなり大味な味付けとなってしまう。
「料理は愛情!更に真心です!あと気合いに熱血!スーパーパワー!そして一番大事なのは超火力アルヨ!アイヤー、ホワチャアー!」
本人も味で勝てないことは承知の上なのか、気合いの一点突破でポイントを稼ぐつもりだ。
しかも、いつの間にかブルプラは中華シェフらしい恰好へ着替えている。
一体どれほどの情熱を料理に注ぎ込んでいるのか分からないが、こうして調理風景にパフォーマンスを取り入れても現時点では意味が無いだろう。
なにせ今は調理している人達しかおらず、審査員となってくれる人達はまだ戻って来ていない。
それでも彼女は豪快な調理方法を用いり続けるため、どのような仕上がりになるのか予測つかない。
一方ロゼッタはひたすら手際が良く、もはやキャンプ感が無いほど凝った調理に取り掛かろうとしていた。
「調味料含めた材料と器具の準備良し。最初に野菜をカットして、それから圧力鍋で炒めて白ワインを加える。そして調味料を投入後、加圧している間にソースを作って……。あぁ、焼き上がり時間を加味してタルトも進めないと」
種類豊富な海鮮類と野菜を使用している辺り、事前に献立を決めてあったことが伺える。
何より必要な調理器具一式を揃えてあるのは大きなアドバンテージを生み出していて、このまま計画的に事が進めばロゼッタの勝利は揺るぎ無いだろう。
それほど彼女以外の三人には勝ち目が薄く、何らかの工夫が要求されていた。
ブルプラはともかく、まだ初心者同然の腕前でしかない優羽とヒバナには難しい話だ。
むしろ安直な工夫を取り入れても、余計な雑味を生み出してしまうリスクが高い。
よって堅実な方法で調理する他なく、スマホで検索したレシピ通りに手順を進めていた。
「えーっと、作るのはチーズリゾット。あと魚と芋の付け合わせ。そして色合いを整えるためのサラダかなー」
「優羽ちゃん、私は何をすればいいのかしら?味見担当でもいいわよ。人にケチをつけるのは得意なの」
「会長だから注文が上手なんだね。でも今回は、ヒバナちゃんにはこのチーズリゾットを任せてもいいかな?もし分からないことがあったら遠慮なく聞いてね!特に火を入れ始めてからが大事だよ!」
「そう、味見だけを担当するというわけにはいかないのね」
「共に勝利を目指すペアだからね!それに自分で作った方が絶対においしいって!あと、褒めて貰えたら思い出に残るくらい嬉しいよ!」
彼女の純粋無垢な意見がヒバナの良心に突き刺さる。
きっと他の人ならば、味見と調理の両方を担えば効率が良いという、論理的な説得を試みるだろう。
しかし、優羽の場合は意図せず人間性に訴えかけるものであって、見栄っぱりのヒバナでも駄々こねる気が失せてしまっていた。
「……ふふっ、そうね。一緒に頑張って作った方がおいしいに決まっているわよね。全力で頑張るわ」
「うんうん!二人分の愛情で料理も二倍おいしくなるよ!そういえば、さっき言っていた料理以外で勝つ方法って、結局は何するの?」
「別に奇をてらった案では無いわ。例えば優羽ちゃんが料理店へ行ってとして、おいしい料理を提供されただけだと味気無いと思っちゃうでしょ?」
「それはそうかもね。接待や店内の雰囲気とかも満足感に繋がるし、料理とは関係無い所も評価ポイントになるかな。ただ個人的には無料サーピスが一番嬉しいかも、うへへ~」
「そう。つまり大事なのはサービス。接待で差をつけるのよ。あとは賄賂や色仕掛けね」
「おぉー、もはや何でもありだね!でも、そういう手段を選ばない感じがヒバナちゃんらしくて好きだよ!」
優羽は彼女の案を真に受けてしまっているが、普通ならば友人に過剰な接待をしても望ましい結果は得られないだろう。
むしろ鬱陶しく思われるのがオチだ。
だが、あいにく彼女らの考えを制止する者が居ないため、二人は妙な接待の準備まで進め始めてしまう。
その一方でようやく月音とチサト、そしてオメメの三人が炊飯場へ遅れてやって来た。
そして、ひとまず三人は調理の手伝いに入ろうとするものの、一見分かりづらい作業分担が行われているせいで戸惑うのみだった。
「すみません、もう始めていたんですね。手伝います」
それでも月音が積極的に手を貸そうと声をかけたとき、唯一余裕あるロゼッタが声量を大きく返事する。
「ごめんなさい月音さん、先にこちらの方へ来てもらえるかしら。あとチサト様とオメメもこっちへ来て。今、ちょっとした料理対決を始めている所なのよ」
「料理対決?また何らかの腕試しを?」
先ほどオメメから写真勝負の話も聞かされているので、月音とチサトの感覚からすれば、グループ協力より競い合っている事の方が多いなと思う所があった。
同時にこうして日頃から競えるほど、どんな物事にも本気で取り組めるのは逞しい精神力だと感心する。
そんな感想を抱く中、今しがた到着したばかりの三人はロゼッタから一通りの経緯を聞かされた。
「今度はブルプラ課長からの提案だったのですか。確かに彼女が一番熱中していますものね」
月音は中華鍋を全力で振るうブルプラを眺めつつ、呑気に応えた。
彼女からは空回りした気合いと掛け声が発せられているが、格好も相まって一番楽しそうだ。
唯一気になる点を述べるとしたら、発汗しないのにわざわざタオルで顔を拭いていることくらいだ。
あのブルプラのことだから中華シェフになりきっているつもりなのだろう。
対して優羽とヒバナの方はなぜか水着姿になっていて、あまり触れない方が利口だと思わせる気配があった。
なんなら視線を向ける事すら可哀そうな気がしてきたので、すぐに月音は話を戻す。
「……とは言え、ただ待っているだけなのは申し訳が立たないので、私達も飛び入り参加で作りしましょう。どうですか、同志チサトさん」
「ぅえ゛っ…!?私も?私、カップ麺以外の料理はできないんだけど」
「ちなみに私もできないです。でも、できないからと言ってやらないは違いますよ。何より失敗が許される事なら、どんなことでも挑戦した方が良いのです」
「なんという大人じみた意見、いちいち研究者思考過ぎるよ………。だけど、私が作ったら殺人兵器が爆誕するよ?それでも良いの?」
「それは逆に見てみたいので任せたいくらいですねー。ところでオメメちゃんは料理できます?」
月音が声をかけたとき、オメメは熱心にスマホで写真撮影をしていた。
どうやら皆の調理風景を撮っていたようだ。
「あたし?オメメは作ろうと思えば作れる」
「それは人並みに作れるってことです?」
「はい。オメメはハンティングが得意なので」
思わぬ観点からの発言であり、このたった一言で会話が噛み合ってない事が分かる。
ただ、どの部分で認識がズレてしまっているのか分からず、月音は不思議そうな反応で返すので精一杯だ。
「えっ、ハンティング……って?どういうことです?」
「言葉の通り獲物を狩れます。それに食事とは、食材を用意して適切な下準備を施した後、よく焼けば大丈夫だとオメメは知ってます」
「……なんでしょう。具体的には分からないですけど、なにか基準が違うような。少なくとも調理技術のことじゃなくて、生き抜くための知識を保有していますって感じがしますね」
「違うの?それでも食材の用意が必要には代わり無いので、オメメなら獲りに行けますよ」
食材が必要という考えだけは合っている。
だが、いつの間にかオメメの手には黒い長刀が握られており、明らかに狩猟へ出かけるつもりだ。
しかも惑星を瞬時に一刀両断できる兵器を使用する気なので、さすがにロゼッタが強めの口調で注意する。
「ちょっとオメメ。兵器をみだりに取り出すのはやめなさい。自在に制御できるにしても無用心よ」
「はい、ロゼッタお母さん。それなら素手で捕まえます。素手でも時間はかからないので」
「まず武力行使をやめなさい。材料なら車の冷蔵庫にあるから」
「でも、無計画に使ってしまったら夕食分の材料が足りなくなりませんか?」
「あら、その時は買い出しに行けば良いわ。そうやって羽目を外すのも醍醐味なのよ」
「なるほど。つまり、親友と遊ぶ際に重視すべきことはアドリブ。オメメ理解できました。それでは月音とチサト。あたしと一緒に最高の一品を作りましょう」
オメメは率先して二人を引っ張って行くが、ついさっき狩猟へ行こうとしたアンドロイドがメニューを決めているとは思えない。
だが、小さな期待と一抹の希望を賭けて、チサトがオメメに質問を投げかけた。
「ねぇ、ちなみに何を作るつもりなの?やっぱりカップ麺?カップ麺のアレンジなら得意だよ」
「それでも構わないですけど、オメメはオムレツにします。皆さんの進行具合からして、残り時間が少ないみたいなので」
「そっか、オムレツかぁ………。最終的にスクランブルエッグになるのが目に見えているけど、それなら私も挑戦する気は湧くかな」
料理できないと言いきっているチサトの事だから、オムレツすら一度も作った経験は無いはず。
それに本人も失敗を確信しているようだが、よほど雑な作り方でもしない限り材料が無駄にならないと分かっているから、気軽に挑戦しやすいようだ。
比べて月音は少し気難しい顔をしている。
「個人的には知育菓子っぽい方が好ましいです。あとお菓子をクラッシュさせてふりかけたりするのとか。どうです、チサトさん?」
「ついさっき私に挑戦した方が良いと説得してきた本人が、なぜか微妙に逃げ腰なんだけど……。いや、もしかしてそれが好みなの?」
「実は研究の合間に、よくモグモグ食べてます。練ったり配合したりして、まぁまぁおいしいです。ついでにゼリーやグミ系も好きです」
「食べてる姿がイメージできるなぁ。ただ個人で満足する分には良いけど、相手に提供する食べ物では無くない?」
「……じゃあ、私もオムレツ作ります。三人でオムレツ作って、三種のエッグキャッスルにしましょう。三人それぞれ作ったオムレツを重ねるなんて、カップリングみたいでワクワクしませんか?」
「よく分からないけど、とりあえず世界一不格好で弱そうな城ができそう」
「それは分かりませんよ?案外、そこそこ写真映えして食べるのがもったいないほど、なんか凄い出来上がりになるかもしれないじゃないですか。多分……はい」
「ちょっと冷静になっちゃっているじゃん。なんで自分から言っておいて不安気なの……。でも、それも挑戦なのかな。さすがに大袈裟なことにはならさそうだし、それでいいっか」
彼女らは思いつきに思い付きを重ね、そこから更に練り込みと工夫が浅い要素を上乗せしてメニューを決める。
既に出来上がりの形が想像つくが、この様子だと作っている間に余計な要素を足していき、より悲惨な結末を迎えそうに思えた。
そんな中、オメメは二人が意見を出し合う様子に強い感銘を受けたらしく、感動した眼差しで呟いた。
「これがアドリブ……。そしてこれが親友同士ならではのやり取り。オメメ勉強になります。そして是非とも、この気持ちをオムレツで表現したい」
こうして料理勝負に参加しているチームは計四チームとなり、いつの間にか豊富なメニューが取り揃えられるようになっていた。
それからしばらくして完成間近になった頃、煌太が子ども達を引き連れたままロゼッタ達の所へ戻って来るのだった。




