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18.戦闘民族なので昼食すら勝負の場

各々が自由にキャンプを満喫して、日が高く昇りきったころ。

そろそろ昼食の頃合いとなり、ロゼッタはスマホ経由で招集連絡を一斉送信する。

しかし、ほとんどが時間を忘れて楽しんでいるのだろう。

すぐに炊飯場へ集まって来てくれたのはカヤックで遊んでいた優羽グループだけで、残りのメンバーに催促の連絡を入れても返信が無いままだ。


今居るのは優羽、ヒバナ、ブルプラ、そしてロゼッタの四人。

事前に予測していた事態の一つではあるし、深刻視するような状況では無い。

それでも連絡が返ってこない以上、目途すら立たない時間だけが続くのは困る。

その事によりロゼッタは困り果て、どうするべきか優羽達に相談を持ち掛けた。


「この場合、迎えに行った方がいいのかしらね」


「まぁ時間通りに行動する必要が無いからねー。そもそも予定自体、あって無いようなものだったしさ」


「そうね。だから集団行動とは言え、まだ帰って来ない人達を()かす気になれないわ」


「とりあえず下準備だけでも進めよっか?動けばお腹が減るし、作っている間に来るでしょ。それにもう私は腹ペコ状態で、今すぐ間食したい欲が倍増し続けているよ」


優羽はわざわざお腹を押さえて空腹アピールしているが、あれだけ動き回って体力を使っているなら空腹になるのは必然的だ。

それに他の人も時間を忘れて遊んでいるのなら、空腹状態で戻ってくることだろう。

よってロゼッタは先に調理を進めようとするが、ここでブルプラが一つ提案を持ち掛けてきた。


「ところで!炊飯場には沢山の台所がありますよね!そして充分な広さもあります!」


「ずいぶんと説明口調ね。何か始めるつもりなのかしら?」


「こうして皆さんが集まっているわけですし、ここで料理勝負しませんか?例えば、それぞれ一品ずつ作って評価して貰うんです!」


「それは料理漫画の影響かしらね。でも、私はそれでも構わないわ」


「さすがロゼッタさん!心意気の良い参加表明です!ちなみに優羽様とヒバナ様はどうしますか?お二方なら、二人で協力して参加という形でも大丈夫ですよ」


つまりブルプラとロゼッタで各一チーム。

そして優羽とヒバナのコンビ参加で計三チームになる。

きっと人数差でハンデを付けたつもりなのかもしれないが、普段から家庭料理を作っているアンドロイドと女子高生二人では分が悪いように思える。

だが、これは遊びの一環であって真剣勝負というわけでは無い。

そのことを優羽は分かっているから、むしろ意気揚々と元気に応えてくれた。


「いいよ!ヒバナちゃんは料理が上手だもん!そして私達二人が協力すれば、よゆーで美味しいオカズを作れちゃうから!」


「え?私が料理上手?その情報源はどこなのよ。そんな料理自慢なんて、生まれて一度もしたこと無いはずだけど」


「そうだっけ?でも、世界一のシェフになるのが夢とか言ってなかった?」


はっきり言って全く記憶に残ってない話だったが、ヒバナは自分のことだから適当に見栄を張ったのだろうと考える。

我ながら後先を考えない発言ばかりだと自覚しているが、嘘つきだとは思われたくない。

何より世界一のシェフを目指しているという肩書きは欲しい。

なので、ヒバナは虚栄を張るように強気な姿勢を示し、上手く口先だけで辻褄を合わせようとするのだった。


「確かにシェフになるのが夢だけど、まだ本格的な修行は始めて無いのよね。そのせいで腕前自体は優羽ちゃんと変わりないわ」


「へぇ、そうだったんだ」


「残念ながらそうなの。だから申し訳ないけど、今回ばかりは私の実力を()てにされても……」


ヒバナは思いつきで言い訳を続けようとする。

これはその場しのぎで意味が無い行為。

それでも彼女は意地になって誤魔化そうとするものの、僅か数秒足らずで優羽の口からは想定していない言葉が返ってくる。


「じゃあ大丈夫だね!」


「へっ?」


「実は最近、彼氏のためにおいしいご飯が作れるよう特訓を始めたんだ!いわゆる花嫁修業ってやつ!」


「そ、そうなの。熱心なのね」


「まだレシピ通りに作るのがやっとだけど、ちょっとずつ慣れてきたんだよ~。ちなみに最近は魚の捌き方を覚えたから、そっちは任せてね!」


「そう、本当に凄いわね。……努力を怠らない志は素晴らしいと思うわ。うん、私も見習うべきね…」


ヒバナはどこか気が進まない気配を滲み出しているが、そのことに優羽は気づいてないようだ。

そのため優羽はウキウキとした様子で喋っていて、何を作るか一方的に相談し始める。

しかしヒバナの返事は鈍いものばかりであって、その態度からロゼッタは彼女の実情を鋭く察するのだった。


「ヒバナ様、もし疲れているのなら休んでいても良いのよ」


自然な助け船の出し方で、あまり罪悪感を抱かせない気遣いだ。

それに魅力的な誘いであり、できるものなら彼女の言葉通りに休みたいくらい。

だが、自分の見栄を理由に友達と協力しないなんて、それこそ一番申し訳が立たない。


「……いえ、ここで引いては生徒会長の面目が失われるわ。それに世界一のシェフを目指すなら休んでなんかいられない!ピンチをチャンスにするわ!」


ヒバナは身に覚えがない設定を守りつつ、勢いだけの決め台詞を吐く。

なぜ(みずか)ら不必要な重荷を背負うのか謎ではあるが、きっとこれこそが彼女の長所なのだろう。

デタラメ同然な上に実現性は皆無であっても、自身の発言に責任を持って行動を貫き通す。

それに伴って彼女が闘志を燃え(たぎ)らせていると、その勇ましい姿に優羽は感心していた。


「おぉ~、凄い。よく分からないけど、まさにやる気スイッチが入ったって感じだね。よーし、一番になれるよう私も頑張るぞ~!」


「ここは一蓮托生、二人で頑張りましょう!そしてどんな手段を使ってでも相手に勝つわ!それこそ料理以外でも差を付けるのよ!」


「そうだね!でも、料理以外で何をするつもりなのかな……?賄賂?」


一体ヒバナは何を考えついたのか、優羽には見当がつかなかった。

それどころかロゼッタですら想像つかず、どのような工夫を凝らしてくるのか期待と不安の両方があった。


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