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17.彼氏は子ども好き

みんなが野外で活発に遊んでいる中、煌太は木を利用したハンモックの設置に勤しんでいた。

初めての試みで手探り状態だったが、物作りに関しては自信がある。

それに注意すべきポイントも事前に調査済みであって、いざ完成した時は(ささ)やかながらも達成感による(えつ)(ひた)った。


「よしよし、我ながら良い出来栄えだ。この大自然の中、ハンモックでのんびりするなんて都会じゃあ難しいからな」


彼の場合、都会という条件下に限らず、生活環境からしても外でリラックスできる機会は少ないだろう。

なにせ外出するときは騒がしい同行者が居るのが基本で、のんびりと自然を堪能する暇が無い。

だからこそ、こうして何も気にかけずリラックスできるシチュエーションは貴重だった。


「写真はドローンの自動撮影に任せれば何とかなるだろうし、ひとまずゆっくりするかなー」


煌太は長距離移動とテントの設営で疲労感を(つの)らせていたので、午前中は休憩するための時間に当てた。

ただキャンプ初日から休憩に専念するのは、少々時間がもったいなく思われるかもしれない。

しかし、あとの予定を考慮すると彼の判断は合理的なものだった。


「どうせ優羽達と遊ぶとき、ありえないほど騒がしい事態に巻き込まれるからな。つーか、あのまま合流したら俺の身が持たないのが想像つく。凄い勢いで走って行ってたし」


長い付き合いを経ているからこそ、容易に想像できることだ。

実際、ヒバナがとてつもない勢いで優羽に振り回されて、既に疲れ果ててしまっているほど。

つまり煌太の考えは正しく、日陰のハンモックで休む行為は時間を惜しむ必要が無く、とても有意義で優雅な一時となっていた。

穏やかな風と自然の香りを楽しみ、心身共にリラックスできるなんて贅沢な過ごし方だと言っていい。

そのはずだったが、大人しく休もうとするほど思考する余裕が出てきてしまうものだ。

それによって煌太は少し思いつくことがあった。


「……そういえば優羽とのデートプラン、何も考えて無いままだったな。夜は色々するってロゼッタが言っていたから、デートの時間は限られてる。明日でも良いけど、初日の方が新鮮な気分を感じられて退屈せずに済む」


特に優羽は順応性が高いので、すぐにキャンプ場に馴染み、見慣れた風景だと思うようになる可能性が高い。

そして刺激的な体験を望む傾向なのは言うまでも無く、早めに決行するのが吉だ。

だから煌太はすぐに行動を起こし、飛ばしているドローンと地図を使ってキャンプ場の再確認を始めた。


「山に展望台があるな。そこまで歩くルートを組むか。そしてプレゼントを渡す。何も用意して無いけどな。わははは……」


我ながら気が利かない。

そんな思いから自虐的に乾いた笑い声をこぼした後、彼は周辺から落ち葉と木々、それからどんぐりや松ぼっくりを拾った。

一見、これら自然物を何に使うのか不明だが、彼には明確な思惑があった。


「手作業というか、工作は元から得意だからな。あとは絵の具を使えば、見た目も華やかにできる」


そうして煌太はキャンプ場に設置されている長台を占拠し、一人で思案しながら工作作業に取り掛かる。

結局は自宅でロボット研究している日々と代わり映えしない状況になってしまうが、製作こそが彼の一番の生き甲斐であり楽しみなのだろう。

あっという間に風車や水鉄砲、木製風鈴にアクセサリー類を完成させていた。

更には森の妖精や野生動物をモチーフにした小さな模型や人形を作るのみならず、そのサイズに見合った小道具も製作する。

かなり手馴れていて、一つ一つの細工にまで()っている様は職人技という他ない。


「椅子、テーブル、カップ、家。うんうん、ボトルも使うと製作の幅が広がって良いなぁ。今の俺からしたら、キャップ一つすら貴重な素材だ」


つい製作に熱中してしまい、次々と新しい作品を作り進める。

やがて精密加工の手間や緻密(ちみつ)な計算も用いるようになり始め、彼の脳内では設計図が書き出されていた。

まさしく手が止まらない状態だ。

そうして時間の経過を忘れていると、いつの間にか見知らぬ子ども達が近づいて観察してきていた。


「おっと、すまないな。もしかしてテーブルを使いたかったのか?」


煌太は工作に集中するあまり、子ども達の反応を一切見ていなかった。

だが、子ども達の興味は彼の作業に向けられていて、その作品の数々に目を輝かせていた。


「うぉ~!すげぇ~!」


「なにこれ、かわいい~!」


「かっこいい鳥!あと犬に猫!そして魚!ってか、作るの早ぁ~!」


感嘆の声をあげている子ども達は、同じくキャンプ場を利用している家族の子だ。

小学生低学年くらいで、何にでも興味を示すし遊びたい盛りの年頃だろう。

そして自分の気持ちに一番素直な年頃でもある。

煌太としては子ども達と積極的に交流するつもりは無かったが、こうして純粋に感動してくれるのなら邪険する気持ちなど湧くわけも無い。

むしろ優しい物腰で接するよう態度を改め、子ども達に向けて作品の説明を始めた。


「まだ模様の付け方が甘いから分かりづらいかもしれないけど、これはフクロウだ。ほら、頭も回るぞ」


「すげぇ!本当だ!ちょっとキモい!」


「ははっ。あと、これは風鈴で音がよく響くよう配置してある」


「めっちゃカラコロって音が鳴ってる!」


「それとけん玉(・・・)に輪ゴム鉄砲。他にも色々ある」


煌太が気前良い声色で紹介してくれるので、子ども達は人見知りせずに関心を寄せていた。

どれも想像力をかき立てられるオモチャで、魅力的な装飾品ばかり。

やがて一通り紹介し終えると、彼は再び手作業を進めながら話題を振った。


「ところで君たちは昨日からキャンプ場に?」


「うん!明日の朝に帰るんだって!」


「そうなのか。それじゃあ、もう色々と見ているならオススメのスポットはあるかい?楽しいと思った場所があったら、是非ともお兄さんに教えて欲しいな」


「川があるよ!あと山には遊具がたくさん!それと……、いっぱいの花!」


「へぇ、いっぱいの花か。そうか、多分ガーデニングのことかな。それは良いことを聞いたな。あとで俺も友達を連れて見に行くよ」


「友達って、彼女さん?」


勘が鋭いのか分からないが、急に核心を突く質問が飛んできた。

ただ、ここに来た時のメンバーを見かけているのなら、そう思うのは自然なことだろう。

なにせ煌太以外は全員女子だ。


「友達と行くし、彼女とも一緒に行くよ」


「彼女さんって綺麗な人?」


「あぁ、綺麗な人だよ。そういうオシャレな一面は見せてくれないけどな。でも、下手に着飾らないところが彼女らしいし、一緒に居やすい。あと話すだけでも前向きになれるくらい、何でも気持ちよく応えてくれる」


「おぉーゾッコンだー」


「もし機会があれば、遊んで貰うよう頼んでみると良い。優羽って名前なんだが、子ども好きで遊びの天才だからな。特に駆け回る遊びが大好きだ。例えば鬼ごっことか、すっごく強いぞ」


「かけっこが得意なんだ!うちのお母さんなんて、ちょっと走ったらすぐ疲れるよ!」


「そうなのか。でも、優羽お姉ちゃんは誰よりもずっと長く走れるぞ。なんなら車より走れるかもな」


「え~、それは嘘だよ~!車は凄く速いもん!それに車は走って疲れたりしないよ!」


子どもらしい言い分であるし、深く考えるまでも無く正しい意見だろう。

しかし、簡単に(あなど)れないのが優羽の凄い所だ。

彼女の運動能力が桁違いである以上、文明の利器を越える結果を出しても然程おどろくに値しない。

むしろ煌太からすれば、軽自動車と競争しても同着が順当に思えるくらいだ。


「まぁ、優羽お姉ちゃんと遊んでみたら、どれくらい凄いのか分かるさ。ちなみに俺は付いて行ける自信が無い。……それどころか、俺は君達より足が遅いかもな」


「じゃあ、試しにかけっこしよ!山の滑り台まで!ね?それで鉄砲を使ったりしよ!」


「そうだな。せっかく作ったなら実用性があるかどうか実験しないとな!」


「実験、実験!うはは~!」


できればゆっくり過ごすつもりだったが、煌太は子ども達に連れ出さられる形で山へ向かうことになる。

とは言え、こんな交流ができるのも今の内だけだろう。

そう思って煌太は走るが、やはり体力が有り余っている子ども達に追いつく事は難しかった。

そして、到着した頃には同い年の遊び相手感覚で接せられることになっており、最初に示してくれていた羨望の眼差しは無くなっていた。

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