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16.滝登りカヤックで漁獲するも犬に指摘されてしまった件

ロゼッタは事前にキャンプ場全体を調査しているため、どこが絶景ポイントになるのか把握していた。

つまり煌太の提案で写真勝負を受けた彼女だったが、実のところ情報戦を完璧に制している。

それによりロゼッタは候補となる写真を事前に多く撮影しておくことで、あとはキャンプを満喫できるよう準備に専念するのだった。


「テントの防寒対策良し。キャンプファイヤー、肝試しの準備良し。昼食は……、大事なのは味じゃないから全員で調理した方が良いわよね。そうとなれば、あと他にするべきことは何かしら」


彼女は思案しながら一通りの目視確認を終えた後、再度キャンピングカーへ足を運ぶ。

すると大事な家族が一匹で待っていて、その家族は嬉しい気持ちを全身で表現しながら彼女を迎えてくれた。


「ポリス。調子はどうかしら」


愛犬ポリスは尻尾を振り、元気よく飛び跳ねている。

慣れない場所では萎縮しやすい性格だとブルプラから聞いていたが、今回は見知らぬ人が少ないおかげで大丈夫なようだ。

むしろ早く駆け回りたい気持ちが溢れているみたいで、今すぐにも飛び出してしまいそうだった。


『ロゼッタお姉ちゃん!早く!外へ連れて行って!一緒に皆のところへ行こう!』


「はいはい。散歩へ行くからハーネスを付けるわよ。それと、外は寒いから服も着なさい」


『えー?ブルプラお姉ちゃんが作った服だよね?私、高級ブランド物じゃないと毛並みに合わなくてムズムズしちゃう』


「高級品を着せた覚えなんて無いわよ。それにブルプラちゃんが日夜、寸法を細かく調整したりして改良を重ねているの。つまりオーダーメイドと同じなのよ」


『でも、そのせいでほぼ毎日、着せ替え人形にさせられているんだよね。何時間にも渡ってさ』


「あら。じゃあブルプラちゃんのことは苦手なの?」


『ううん!ブルプラお姉ちゃんは大好き!沢山遊んでくれるし、よくオヤツもくれるの!それにブラッシングも上手で、撫でられると気持ちいい!自慢のお姉ちゃんだよ!』


あくまで翻訳機を通した会話なので、少し好意的な意訳が含まれているかもしれない。

しかし、ポリスが浮かれているのは間違いなく、自慢気にブルプラについて語っていることは疑う余地が無いほどだ。

なんであれ、家族を想いやっていると分かるコミュニケーションが取れていて、その間にロゼッタはポリスに服を着用させた。

ほんの少しだけ違和感を覚えているようだが、やはり室内犬なので温かいことに越した事は無いだろう。


「とても似合っているわよ。元から美人だった姿が、より洗練された美貌になったわ。ついでに写真も撮っておきましょう」


ロゼッタは記念撮影した後、お利口だったと褒めるようにポリスを撫でまわす。

それからハーネスを装着させるときは大人しく待ってくれていて、その何気ない反応すら愛おしく見えた。


「こうして静かに待っている姿だけじゃなく、気にする素振りにも愛嬌が感じられて良いわ。ふふっ、庇護(ひご)欲が掻き立てられて仕方ないわね」


一つ一つの仕草すら心の底から可愛く思えて、その姿を見る度に飼って良かったと実感できる。

だからこそ愛犬の思うままに楽しませたいと考えつつ、ロゼッタはポリスを外へ連れ出した。

そしてポリスの活発な行動ぶりには、目を見張るものがあった。

まるで餌に釣られる猛獣と同じで、常時全力疾走だ。

どこまでも伸び伸びと駆け抜けて行くから、飼い主が小走りで追わないといけないくらい勢いが激しい。


『スゴイ!スゴイよ、ロゼッタお姉ちゃん!今までで一番ずっと広い!それに走りやすい!』


「本当、運動能力が並外れた子ね。疲れ知らずだし、まるで牧羊犬だわ」


ポリスの心は解放的で心地良い刺激を受け、幸せな高揚感に満たされていた。

素晴らしい自然環境で、最高の天気。

更にロゼッタがいるから何も心配しないで済む。

ただ楽しい。

何もかもが新鮮で、一歩進む度に新しい発見があるから足を止める理由が無い。


「ちょっと心配になるくらい落ち着きが無いけれど、上機嫌なようで嬉しい限りだわ」


なるべく自由に活動させたいため、あまり獣道へ行かないようポリスを優しくコントロールするだけだ。

それでも愛犬は突き進むことをやめないから、時には抱えあげて場所を移動させてやらないといけない。

要はロゼッタにとっては慌ただしい散歩になってしまっているとき、空から魚が降ってきた。


「え?」


『へっ……!?』


これは誰からしても不意のことだろう。

だからポリスはびっくりし、その場で硬直する。

しかし、その間にも更に数匹の魚が頭上めがけて落ちてくるのだった。


「なにこれ。嘘でしょ」


落下してきた魚の中には生きているのも居て、地面で必死に飛び跳ねている様子が見受けられた。

そんな事態に対してポリスは好奇心を湧かせているだけだが、ロゼッタにとって不可解な現象に巻き込まれている状況は望ましくない。

よって原因究明に乗り出そうと思うものの、次の瞬間には遠くから大きな着水音が響いてきた。


「まるで隕石でも落ちた音ね。……そういえば近くに川があったかしら。一概に近くとは言っても、(ゆう)に百メートル以上は離れているはずだけれども」


もしも脅威が潜んでいるとしたら、最優先で排除しなければならない。

その思いからロゼッタはポリスを抱えて、凄まじい音が発生した場所へ向かった。

すると近くづくほど賑やかな声が聴こえてくるのみならず、漕ぐことで発する水かき音が大きくなっていた。

ますます不可解。

だが、ロゼッタが目にした原因の正体は、意外にも身内によるものだった。


「これは……驚いたわ。ヒバナ様に優羽様じゃない。それとブルプラちゃん。いつの間に川へ行っていたのね」


彼女の口にした名の三人はカヤックに乗っており、信じられない速度でオールを漕いでいた。

息が合っているのか、漕ぐタイミングもぴったりだ。

それだけならまだ感心するくらいで済むのだが、なぜ当たり前みたいな顔で川の急流をカヤックで遡上(そじょう)しているのか、全くもって理解が難しかった。


「あっ!ロゼッタさんにポリスちゃん!こんな所で会うなんて奇遇ですねー!」


ロゼッタ達の存在に真っ先に気づいたのはブルプラだ。

彼女は戦闘用アンドロイドだから、状況に惑わされず察知できたのだろう。

その彼女は呑気に手を振っているくらいで、川の流れに逆らっていることを楽しんでいるみたいだ。

一方で優羽は漕ぐことに熱心であるし、ヒバナは項垂(うなだ)れながらぼやいていた。


「人生で初めて滝を越えたわ………。しかもカヤックで、オールだけで昇ってUFOみたいに。まだ生きているのが不思議なくらい。あれ?私、まだちゃんと生きている?ふ、ふふふっ……」


よほどスリル満点の状況続きだったらしく、あまり生きた心地がしてないようだ。

比べて優羽はいつも通り活き活きとしており、全てが楽しくて仕方ない表情だった。


「うっはぁ~!カヤックって難しいね!中々うまく前へ進めないよ!ね、ヒバナちゃん!」


「……前って何よ。それより本来カヤックは川を下るものでしょ。どこまで昇るつもりなのよ」


「そりゃあ天まで昇るよ!」


「天国一直線は勘弁して欲しいわ……。そもそも私からしたら、まず耐久性が不安よ」


「んー?大丈夫なんじゃない?滝を越えたし、多分岩とかにぶつかってないし。三途の川だって小舟で……って、うっひゃあ!?」


二人が和気あいあいと話していると、カヤックが急流に煽られてしまい転覆する。

それは一瞬のことで、あっという間に彼女ら三人は急流へ呑み込まれてしまう。

危険極まりない非常事態であり、その現場を目撃したロゼッタもさすがに焦る。


「もう何をしているのよ!」


つい声を荒げながらも、ポリスを近くに繋いでから救出へ向かおうとした。

だが、すぐさま優羽は自力でヒバナを川岸へ引き上げていて、ブルプラはカヤックを頭の上へ抱えながら上がって来た。

まるで経験済みのような手際の良さであって、このことからロゼッタは察するものがあった。


「もはや感心するわ。貴女達、見たところ何度も転覆しているわね。どうりでヒバナ様がクタクタになっているわけだわ」


「大変なほど楽しい体験だからね!それに無事だからオッケー!」


危険度が高い災難に見舞われたというのに、優羽は普段通りの笑顔で受け答えをする。

全く恐怖心を抱いてない辺り、ただ単純に危機感が欠如しているのか。

はたまた優羽からすれば、今の転覆は道で(つまず)くのと大差ない出来事なのか。

どちらにしろ、彼女の安易な行動が危険を招いたことには変わりないため、ロゼッタとしては注意せざるを得なかった。


「結果論を責めるつもりは無いけれど、少しはヒバナ様に合わせてあげるべきじゃないかしら。まだ午前中なのに疲れきっているわよ」


「それは~……そうかも!うん、疲れていたらケガしやすいし一理あるね!配慮します!」


かなりの手遅れ感は否めないが、これから改善されていくと思えば、事故を未然に防げたことになるはず。

ひとまず今のヒバナは休憩が必要な状態である上、こうして濡れたままでは体調を悪化させかねない。

だから、すぐさまロゼッタはタオルと着替えを持って来て、その場でヒバナ達の介抱に努めた。


「もう肌寒い季節なのだから体温管理には気を付けなさい。これで風邪を引いたら、あとが辛いわよ」


「そうだね~。ヒバナちゃんは大丈夫?というか、ごめんね。私が張り切り過ぎて無茶ばかりさせてさ」


ようやく優羽は冷静さを取り戻し始めたらしく、相手を気遣うように謝った。

しかしヒバナ自身は気にしておらず、むしろ好意的な言葉で返してくれる。


「むしろ私を新しいことに引っ張ってくれて嬉しいわ。カヤックで滝登りをするとか、どう頭を捻ってもチャレンジする発想に至らないもの」


「私も初めての挑戦だったから、無事に成功して良かったよ!ずっとミシミシって音が聞こえてたけど!」


「いつ壊れても不思議では無かったわけね。そう聞くと、まだ転覆だけで済んだのは不幸中の幸いなのかもしれないわね……」


何一つ安堵できる要素は無いが、それでも難から逃れられたと知れただけでヒバナの気持ちは軽くなった。

そんな中、ブルプラは魚を手にポリスと会話していた。


「ほら、見て下さいポリス様。()れたて新鮮のお魚さんですよー。ウロコがとっても綺麗です」


『おぉー。空から降ってきたのと同じ魚だー』


「空から魚が?あぁ……そういえばカヤックで進んでいる途中、オールで魚を飛ばしてしまいましたからね。一応、網で捕まえようと頑張ってみたんですけど、中々うまくいきませんでした」


そう応えながらブルプラは、カヤックの方から漁網(ぎょもう)を引っ張ってきた。

どうして持ち合わせているのか疑問であるし、一体どこに備え付けていたのかも分からない。

そして漁網には大量の魚が捕らえられていて、その様は唸れるほど壮観だった。


『スゴイ。密漁だ』


「み、密漁じゃないですよ。釣りオッケーと書いてある立て看板を見かけましたから」


『これって釣りの内に含まれるの?』


「これは……そう、網釣りです!たぶん大量乱獲していませんし、別に漁目的でも無いです。あくまでカヤックで遊んだついでです」


急に言い訳がましい言葉が多くなってしまっているだけでは無く、ブルプラの視線は泳いだものとなっていた。

確かに乱獲する意図で網を使ったわけでは無いのだが、やはり獲り過ぎたと思う部分は少なからずあるようだ。

とは言え、もう川に戻せるような状態でも無くなっているため、そこでロゼッタが提案を出す。


「その魚を昼食に使いましょう。ただ私達八人分でも多いから、同じくキャンプ場に来ている家族達にもお(すそ)分けすれば良いわ。夕食にも使えるから迷惑にならないはずよ」


「そうですよね!いやぁ、ブルプラは最初からそのつもりでした!これだけあれば食事を彩れるかなぁと思いまして!あとでハチの巣とキノコ、それに山菜も採ってきますね!」


「そこまでサバイバルに精を出す必要無いわよ。何も一切の食材を持たずにキャンプ場へ来たわけじゃないのだから」


「あれれ、そうだったんですか?てっきり狩猟するのかなと思っていました。魚の他にも、虫や野生動物とか」


「それで余分なくらい魚を大量に獲ったのね。そうだとしても、どうしてキャンプとサバイバルが混同しているのかしらね。少し不思議だわ」


「何かの動画かアニメで見ましたよ。手作業で地面を固めて、道具や縄を自作してから家を作ったり……」


何やらブルプラは説明し始めるが、結局は彼女の言い分は共感しづらいものであって、何も伝わってこない話が続くのみだ。

とりあえずロゼッタは漁網を片手に話すブルプラの姿を写真に収め、思い出の一つとして形に残すのだった。

その写真の隅には優羽とヒバナも映っていて、如何にカヤックで無茶をしたのか分かる一枚となっていた。

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