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12.キャンプ場に到着

ロゼッタ達が到着したキャンプ場は充分な手入れが施されている場所であり、青々とした大自然の景観を損なわない程度に一通りの設備が備わっていた。

多くの蛇口とかまどが用意されている炊飯場、トイレ用の小屋、緊急時用を含む複数のロッジ。

シャワールーム、テント設営用に整地されている場所。

そしてキャンプファイヤーや花火、バーベキュー等のために設けられた砂利場。

どれも一目で各敷地の用途が分かるようフェンスで分けてある上、更に山奥へ行けば種類豊富なレジャー遊具がある。

更には散策を楽しめるよう補装された道に加え、多くの魚が生息している川まで流れているほど。


当然、これほど至れり尽くせりな環境下である以上、いくら肌寒い季節とは言え他の利用客達がいる。

しかし偶然なことに、他に居るのは家族連れ達くらいで十人程度。

それも家族達の方はロッジを利用しているらしいので、簡単な挨拶以外で気を遣い合う必要は無さそうだった。


「すっごー!ちょっと枯れ木が目立ち始めているけど、それでも超壮観だよ!超大自然の超パワーを超感じる!つまり超スゴイ!」


最初に浮かれて大声をあげるのは優羽だ。

生粋のアウトドア派である彼女は自然の解放感に当てられたことで、テンションが急激に上がっていた。

おそらく長時間かけて車内に座っていたため、より気分が高揚しやすくなっているのだろう。

それに広大な景色を見て、つい大声を響きさせたくなる気持ちは分かる。

そして彼女と同様に騒ぐ人物は他にも居た。

それは同じく元気が取り柄である、ブルプラとヒバナの二人だ。


「ポリスといつも散歩へ行っている自然公園とは、また違う心地良さがありますね~!都会の音が全く聴こえないだけで爽快な気分になりますし、空気も一味違います!」


「それについては同じ感想だわ!しかもUFOの一つや二つ、すぐに呼べそうな気配があるもの!きっとミスティックパワーが溢れ出ているのね!これなら宇宙人の痕跡もあるに違いないわ!」


それから彼女ら三人は雄叫びと変わらない歓声をあげつつ、あれこれ見回ろうと勝手に行こうとする。

しかし、煌太にとって自主的なキャンプは初めての経験だ。

そのため彼の生真面目な性格も相まって、なるべく手はず通りに事を進めたかった。


「おいおい、まずはテント設営からしよーぜ。遊ぶことが目的でも、準備を怠るのは感心できないからな」


真っ当な言い分で呼びかけるものの、今の彼女らは遊び心が圧倒的に勝っている状態だ。

つまり正論など通じない。

特に優羽の場合は最大限に遊び尽くし、この限られた時間を堪能することが最重要目的となっている。

よって彼女は煌太の意見を聞き入れず、いじらしい態度で反発した。


「えぇ~!煌太ったら真面目ちゃんなんだからぁ~!荷物とかは車に保管しておけば良いし、ここは役割分担でよくない?」


「何を言ってるんだ?そもそも役割なんて決めてないだろ」


「じゃあ準備する役と遊ぶ役ね。はい、決まり」


「マジかよ。欲望に素直すぎてビビるわ」


「大丈夫、安心して!あとでちゃんと煌太の恋人として、二人っきりでキャンプデートもするからさ!ね?」


唐突に優羽は恋人関係を意識させることを言いつつ、楽し気な振る舞いでウインクする。

こうも分かりやすく甘えられてしまっては、そのワガママを聞き入れる他ない。


「ったく、分かったよ。ここで意固地になるほど、俺の器が小さいわけじゃないしな。とりあえずケガには気を付けろよ」


「うんうん!さっすが煌太!私のことを優先的に考えてくれるなんて、凄く頼りになるよ!こんな素敵な彼氏で私は幸せだなぁ!嬉しいなぁ!愛してるよ!」


「はぁ………都合良い事ばかり言って、けっこうズルい奴だな。それとも俺が甘いのは、単に惚れた弱みなのか」


結果的に煌太は優羽に根負けしたものの、湧き上がる気持ちは非常にポジティブなものだ。

むしろ彼女のために労力を費やすことが誇らしく思えるほどで、やる気は充分となっていた。


「俺も単純だな。ただ、ああ言われると……。うん、少し舞い上がるな」


あれほど率直に愛情を伝えられると、気恥ずかしいと共に嬉しくある。

そうして彼はそのまま山へ走りっていく優羽達を見送った後、ロゼッタと共にテント設営の準備へ入るのだった。

一方で、今のやり取りを堂々と見せつけられたチサトは困惑していた。


「なにあれ、陽キャが過ぎない?もしかして恋人って、親友の前でデートの約束をするのがデフォルトなの?しかも私から見れば、ユッキーさんが魔性の女みたく平然と手玉に取っていたし。ヤバくない?媚売り上手ちゃんなの?あまりにおも素直過ぎて、言われた側が羨ましいんだけど」


チサトは誰かに向けて問いかけたわけでは無く、ただ勝手に一人で強烈ラブラブエピソードとして捉えていた。

何より彼女は、無条件で相手の要求を呑むという事態に縁が無いのみならず、目の前で異性が和気あいあいと仲良くしている雰囲気にも耐性が無かった。

完全に二人の好意だけで成り立っていて、打算的な部分は微塵も感じられない。

チサトからすれば理解しきれない感情だ。

その結果、彼女は軽い眩暈(めまい)を覚え始めてしまう。


「む、ぬぬぬぅ~……。甘い。あの二人の気持ちが甘すぎる。明らかに会話以上のモノを伝え合っていたし。はぁあぁ~~!理想の彼氏彼女さんがよぉ~……!あんなの見せられたら、私も恋したくなっちゃうだろうがよぉ~…!」


ぶつけどころが無い気持ちに駆られ、一人で勝手に気疲れを覚えてしまうチサト。

そんな彼女の異変に月音は気づき、さりげない態度で声をかける。


「盟友チサト、何を呻いているの?もしかしてカップリングを見て興奮してました?」


「つ、月音ちゃん……。まだ私には、外の世界は早かったのかもしれない。刺激が強すぎて、なんだか胸焼けがするの」


「えっ、胸やけ?つまりカップリングというコンテンツに対して、ようやく目覚めたわけですか?やっぱりチサトさんには素質がありましたね」


「月音ちゃんは月音ちゃんで、さっきから強引に自分の世界へ引き込もうとしてくるし……。とにかく、もうムリ。うぅ、ぐはぁっ……。あとのことは任せた……」


「あれ、倒れた。車酔いしたって意味だったのかな。おーい、大丈夫ですかー?まだキャンプは始まってすら無いですよー?」


早くもダウンしたチサトを月音が介抱する一方、唯一残されたオメメはロゼッタと煌太のテント設営に加わっていた。

慣れないことで手間取るものの、こうして苦労しながら協力するのは良い経験だ。

ただ設営した後、煌太はテントを高く見上げて呆けた。


「途中でおかしいとは思っていたけど、なんか異様にデカくね?」


そんな感想が出てくるのが当然なほど、彼らが設営したテントは巨大なものだった。

いくら八人と一匹で宿泊するとは言え、事業用の大型トラックを四台以上は駐車できるスペースがあるのは想定外だ。

最早(もはや)、このテント内だけでミニコンサートが開催できる。

しかも凝り性のロゼッタは隙間なくマットを敷き始める上、装飾まで付け始める。

その他にもソファや簡易ベッドも設置し出すので、近くのロッジより過ごしやすい環境へ化していた。


「一体どこからそれだけの荷物を運び出して来たんだよ……」


あまりにも用意周到が過ぎるせいで、野外のキャンプ感が薄れてきた。

とにかく快適になるよう追求し続けるのはロゼッタらしいが、まだ準備を進める様は裏目に出ていると言っていい。

簡単に言えば、やりすぎだ。


「念のため色々と用意してきたの。発電機とコードはどこに設置した方が良いのかしらね」


「いや、さすがにそこまでは良いんじゃないか?なんというか、今回は少しくらいサバイバル感が合った方が良いと思うぞ。個人的にはな」


「あら、もしかしてお節介だった?」


「ロゼッタの気遣いを否定するつもりは無い。ただ一応、不便を楽しむってことも一種のイベントだからな。どうしても本当に必要となったら使う、って気持ちに留めた方が良い」


「分かったわ。要するに非日常の雰囲気を楽しむ、というわけね。アミューズメントパークと同じだわ」


すぐに納得してくれたが、煌太からすれば少し意外だった。

ロゼッタは幅広くエンターテインメントの活動をしている。

そのため人間にとって何が楽しいのか、彼女なら既に理解しているのかと思っていた。

しかし、どうやら実際は違うようだ。

何が楽しいと思って貰えるのか分からないからこそ、彼女は手当たり次第に多くの事に挑戦している。

それが良い結果を生み出している側面も確かにあるが、闇雲のまま努力を続ける彼女の苦悩は計り知れない。

それならば、ロゼッタには今回のキャンプくらい気兼ねなく楽しんで欲しいと思えた。


「そういえばロゼッタは、今回のキャンプで何かやりたいことは無いのか?」


「私?私は奉公することが一番の望みよ。家事を怠慢していた分もあるから、より熱心に尽くしたいわ」


「ただ酷く忙しかっただけで、別に怠慢していたわけじゃないと思うが……。それより他には無いのか?例えば、久々にブルプラと勝負するとか」


「ブルプラちゃんとは動画企画でよく遊んでいるわ。それに考えついた事は全部実現させているのよね」


さすが行動力の化身だ。

アンドロイドだから物怖じするわけが無いし、すぐに次へ繋がる一手を打ち続けているのだろう。

そうなると煌太の気遣いこそお節介になってしまうかもしれないが、それでもロゼッタとの思い出を作りたい気分だった。


「それなら俺から遊びを提案した方が良さそうだな。それでロゼッタが遊びに付き合ってくれれば、奉仕したことにもなって二度おいしいってな」


「理屈上はそうね。でも、どんな遊びを提案してくれるのかしら?」


「どうせなら全力でやろうぜ。だから、俺と写真撮影コンテストなんてどうだ?被写体はなんでもいい。動物、昆虫、植物、景色でもな。とりあえず写真を撮って、それで優羽達に評価して貰う。そして、どの写真がベストショットか決める」


優れた着眼点であって、思い出を残すのにちょうどいい案だ。

何より、これだけのメンバーが揃うことは滅多に無いはず。

更に煌太とロゼッタの二人がいつまで家族として一緒に暮らせるのか分からない上、初めての撮影勝負という点も新鮮な体験を生み出してくれる。

対してロゼッタは純粋にやりがいある勝負として受け取ったらしく、期待感に満ちた笑みをこぼした。


「センスが求められるウォッチング勝負というわけね。散策を楽しめるし、工夫のしがいもある。とても素敵なアイディアだわ」


「ちなみにテーマは何でも良い。芸術を意識するか、キャンプらしさを意識するか。とにかく制限は設けないから、自由に沢山撮ってくれ。……あと、ついでにオメメにも参加してもらおうぜ」


「そうね。彼女なら何を思うままに撮ってくれるのか、予測できなくて期待しちゃうわ。ということでオメメちゃん、ちょっと私達に付き合ってくれないかしら」


ロゼッタはテントの点検していたオメメを呼びかけ、先ほどの勝負内容を告げた。

すると意外にも彼女は目を輝かせ、無邪気な一面を覗かせる。


「うん、あたしも遊びたい!煌太お父様とロゼッタお母さんと、家族で遊んでみたい!」


ややドライ寄りの彼女が、ここまで真っ直ぐに明るい感情を表に出すのは珍しいことだろう。

だから煌太は驚きながらも、彼女の言動から気持ちを理解した。


「そういえば親子で遊ぶみたいなことはまだ一度もしてないな。とは言っても、別に俺はオメメの父親だって自覚は持って無いままだけどさ。そもそも開発したのも教育したのも俺じゃない」


「うーん。でもオメメは、煌太お父様のことをお父様だと思っていますから。いつか本当の娘だと認められるよう、オメメは精一杯頑張ります!」


「そんな嫌ってわけじゃないが、なんだか俺が認知拒否しているだけに聞こえるのが気になるな……。とにかくオメメも遊びながらで良いから写真を撮ってくれ。俺はスマホを使うけど、カメラとか持っているか?」


「オメメもスマホを持っています。この前、ロゼッタお母さんが買ってくれました。学校で友達と交流するためには必要でしょ、って」


そう応えながらオメメは懐からスマートフォンを取り出してきた。

しっかりとスマホケースに入れており、そのケースのデザインはキュートながらも()り過ぎてない。

シンプルなオシャレに留まっているのは現代の女子高生らしいが、ちょっと子どもっぽい所が見受けられる辺り、どことなくオメメのセンスが反映されていた。


「おぉ、さすがロゼッタだな。気遣いの良さはマジで完璧だ」


「あたしの機能を使えばスマホが無くても問題ないのですけど、こうして形から相手に合わせるのも大切みたいです。友達作りにおいて、親近感と共感が大事だとロゼッタお母さんが教えてくれました」


合理的な考えに(もと)づいた教え方はロゼッタらしい。

そしてオメメが教えを実践していることを踏まえたら、ロゼッタは本当に母親として接していることが分かる。

あくまで敵対関係であることは変わらないはずなのに、仲良い家族と変わらないほど信頼し合っているのは奇妙な話だ。

ただ本人達同士が納得しているなら、その関係性に改めて口を挟む必要は無い。


「そうか。何でも教えてくれて良い母親だな」


「煌太お父様も良いお父様です。キャンプを提案したのは煌太お父様ですし、家族で遊ぶと言ってくれたのもお父様だから」


オメメが微笑ましい表情と声色で言った途端、和やかな雰囲気に包まれる。

ただロゼッタが褒め言葉に(じょう)じて、急に乗り気な態度で声を張り上げた。


「えぇ、煌太様はステキで立派な男性だわ。普段から頼りになるし、仕事している姿は格好良いし、どんな時でも勇気と根気があるし、誰よりも賢くて実績もある。若い内から頭角を現している今、まさに非の打ち所がない誇れるマスターよ!」


「びっくりした~……。ロゼッタお母さんが、このタイミングを待っていましたと言わんばかりにお父様を褒めてる。スゴい」


「そして最高のマスターに認められることは、間違い無く光栄な出来事。だからオメメちゃん、もしもの時は私と協力して素敵な写真を撮りましょう」


「おぉー…お母さんと協力。うん、一緒に撮りたい。それで勝負に勝って、煌太お父様にお願いしたい」


「つまり勝者のご褒美というわけね。それじゃあ一番となった人は、負けた二人に対して一つずつ命令する権利を得られることにしましょう!そして帰宅する際に批評して貰うわ!」


「オメメ、賛成ぇー」


こうして煌太が指摘する前に彼女らの間で話は決まってしまい、間もなくして三人は写真撮影勝負という名の遊びが始める。

しかし、これはキャンプを楽しむついでに始められた競争。

そこまで躍起になって本腰を入れるつもりは無く、ほどほどに気張る程度のことだ。

そんな緩い競争が行われる中、月音の方は回復したチサトと共に散策へ出かけるのだった。

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