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10.これからの展望

あれからオメメが高等学園に転入した後日、ロゼッタは新たな悩みを抱えていた。

それは彼女の活動とは関係無く、家庭内の問題だ。

ただ些細な悩みであって、名案が浮かばずとも害や損を(こうむ)るわけでは無い。

それどころか問題を放置したままでも、取り返しのつかない事態を招くことはありえないほど。

むしろ世間の流れに任せて良いくらいの悩みごとだった。

けれども、完璧主義であるせいでロゼッタは気楽に看過することができず、頼れる主人に相談を持ち掛けることにした。


「どうすれば良いのかしらね……」


彼女は煌太の研究室へ入るなり、構って欲しそうにぼやいた。

深く(うつむ)き、目を伏せてまで思い悩んでいる様を見せるのは珍しいことだ。

とにかくロゼッタにしては消極的な話しかけ方だったので、聞き流すべき独り言だったのか、煌太は判断に迷う。

とは言え、今更遠慮するような仲でも無いことは明らかだ。

そのため彼は気を取り直し、なるべく自然体で問いかけてみた。


「どうかしたのか?そんな思い詰めるなんて、らしくないな」


「気を遣わせてしまってごめんなさい、煌太様。実はオメメちゃんのことで悩みがあるのよ」


「ははっ、それだけ聞くと本当の母親みたいだな。すっかり保護者だ」


元々は相容れない敵対関係のエージェントだったはずなのに、ずいぶんと厚い信頼関係が築かれたものだと感心する。

同時に、これほど前の関係を気にせず仲間だと認識できるのは、とてもアンドロイドらしい。


「それで悩みってのは?転入した後は楽しく過ごせているんだろ。優羽からは、オメメのおかげで毎日が更に充実しているって聞いているぜ」


「えぇ、そうね。オメメちゃんの学校生活は上手くいっているみたい。何事にも真剣に取り組む姿勢を教師陣から評価されて、純朴で反応が良いおかげで生徒達からのウケが良い。……そう、優羽様が教えてくれたわ」


「あいつが言うなら実際にそうなんだろうな。可愛い後輩として、ずっと付きまとっている姿が目に浮かぶ。それにヒバナって女子生徒も、かなり面倒見が良いらしいからな」


「そしてオメメちゃん本人からも明るい報告が多いの。今日も新しい友達ができたとか、大勢から褒められたとか……。ただ、周りの趣味趣向にやたらと影響されているみたいで心配なのよね」


「まぁそれは学校に限らず、世間のブームってのがあるからな。何かに影響されるのは、当然の話じゃないか?」


煌太はまだ若く、当然ながら子育て方針について本気で考えたことは一度も無い。

だから彼女の心配がどこにあるのか理解しきれず、それっぽい考えを出すのが精一杯だった。


「もしかして……、あれか?不良だとか、そういう素行が悪いものに影響されているとか?いくら人間社会に疎いオメメでも、一定の分別は付けられそうな気はするけどな」


「いいえ、私が言いたのは本当に世間一般的な趣味趣向の話。つまりブームに流され続けている一方で、オメメちゃん自身が持っていた好奇心を失っている気がするの。物事に対する好き嫌いも、相手に合わせている気配があったわ」


「よ、よく分からない心配だな。俺からしたら、どこに焦点を当てた問題なのかすら分からん。まだ新生活が始まったばかりだし、オメメの好きにさせていて良いと思うぞ。特にオメメの場合は、娯楽の見聞を広めることはかなり有意義だろ」


「そうかもしれないけれど、そういうものなのかしら」


「同調するのもオメメなりのコミュニケーションだろうしな。あと最適解だけを選択させようとしたり、経験させようとするのは窮屈すぎる」


「そう言われてみれば、私の悪い癖が出ているのね……。解決策が求められる事態でもないみたいだし、中々に難しいわ」


こうして再びロゼッタが割りきれずに悩む姿だけを見たら、ますます子どもの方針で話し合う夫婦のようだ。

ちなみに煌太が問題意識を持っていない理由は、オメメが戦闘アンドロイドだという前提があるからだ。

要するに庇護を必要とする存在でなければ、わざわざ出しゃばって注意せずとも強制的に自制が機能することを知っている。


独断行動が可能かつ、学習能力を持っている万能ロボットであろうとも大原則は絶対遵守(じゅんしゅ)だ。

これは秘密開発されたロゼッタと、全プログラムの上書きが施されたブルプラですら例外では無い。

そして大原則の内容は、あらゆる状況下であろうとも非武装員、また無抵抗の相手に対して危害を加えてはならないというもの。

更に、アンドロイドのみで独立した勢力を築いてはならず、無差別破壊は禁止されている。


それらを(もと)に細かなルールが設けられており、いくら改造を施して大原則を無視させようとするものなら、強制停止かエラーが発生するよう開発されている。

これはアンドロイド開発に携わった人物が仕組んだことであり、そのプログラムはロボット研究会でも解析不可能のブラックボックスと化していた。


何にしろ、その理由からオメメが任務以外で非行を働いたり、破壊活動や犯罪行為に加担することは決して無い。

そもそも彼女の性格上、ロゼッタ達の都合を最優先にして行動するだろう。

人間社会における小さな間違いを犯す可能性はあっても、取り返しがつかない事態を引き起こすことはありえないのがオメメの実態だ。


「とりあえず都度(つど)、気になることがあれば俺にも相談してくれ。成り行きとはいえ俺にも監督責任はあるだろうし、それで関与せずに放置したままってわけにはいかないからな」


「ありがとう、煌太様。それで早速、他に相談したいことがあるのだけれども、まだ時間は大丈夫かしら?」


「ん、なんだ?新しい企画か?」


「私の活動とは別のことよ。実は近々、高校で授業参観や三者面談があるの。授業参観の方は、どちらかと言うと生徒達のお披露目会みたいなものだと聞いたわ」


そう言われた途端、オメメが高校へ入ったことによる行事や催しがあることに煌太は遅れて気づく。

学校としては当然のことで、何も特別でなければ珍しくも無い。

もちろん身構える要素だって無いだろう。

ただ、オメメの場合は頭を捻る必要がありそうな話だ。


「えー………マジか。いや、授業参観は場に合わせるだけでいいだろうけどさ。三者面談って、いわゆる将来設計の話し合いをするってことだよな」


「そうらしいわね。子どものために話し合うなんて、とても楽しみだわ」


嬉しそうに表情を緩めるロゼッタの姿は、もはや我が子に期待する保護者でしかない。

当然オメメの能力であれば、世間で活躍させることは難しくないだろう。

だが、だからと言って彼女をロゼッタ同様に目立たせるのは軽率な判断だ。

なにせオメメも未来技術の結晶である上に戦闘能力が高いため、そろそろ危険な集団だと認知されても不思議では無い。

それほど単独の脅威と組織的脅威は別物だ。

そのため煌太はなるべく平穏を望み、無難かつ現実的な意見を口にした。


「それじゃあ三者面談では、まだ将来については模索中です。またはロゼッタが経営している会社に社員として勤める予定です。……今のところだと、それくらいが妥当だろうな」


「私も最初はそう思ったけれど、そうもいかないのよ。なにせオメメちゃんは将来有望な逸材として知れ渡っていて、既に各業界からスカウトが来ているの。その誘いを全て無下にするのは気が引けるわ」


「ロゼッタの(はく)が付いているからだとしても、目を付けるのが早過ぎるだろ……。ちなみにオメメ本人は何か言っているのか?」


「ロゼッタお母さんが様々なことに挑戦しているように、あたしも挑戦していきたと意欲的な返事だったわ。これだけの熱意を持ってくれている以上、是非とも母親として応援したい所ね」


「……あいつ、自分の使命を忘れているんじゃないか?いや、まさか世間に認知されることを想定していなくて、未来の政府とやらは設定し忘れていたのか。何であれ、もう少し慎重に考えたいな」


そう応えながら煌太は真剣に考え込む。彼も自分自身のことで忙しい年頃だというのに、とても真摯な対応だ。

それがロゼッタにとっては嬉しく、そして好きだった。


「煌太様は優しいわね」


「へ?いきなりどうした」


「だって、普通ならアンドロイドの意思を考慮せず、きっぱりと決めつけてしまうものでしょう。むしろ、その判断が適切なくらい。それなのに煌太様は最大限尊重し、理想が実現するよう思案してくれているもの」


「俺からしたら人間もアンドロイドも変わらないからなぁ。突き詰めれば、どちらもプログラム通りに動いているだけだ。それに幸福だと思ってくれる奴が少しでも多い方が、なんか気持ちが楽になる」


「他者の幸福を願い、素直に祝える性格なのは素晴らしいことよ。まさしく善人だわ」


「ははっ、今の考え一つで善人は言い過ぎだろ。俺は俺で好きなことをしているだけで、高尚な正義を掲げているわけでも無い。なんなら人間らしく、自分の都合で意見を変えることだってある。そしてロゼッタのようなリーダーシップも備えてない」


確かに煌太は協調性重視の思考でありながら、そこまでチームワークを重んじている行動は取らないという矛盾を抱えている。

そして、これまで問題無かったという理由で修正する気持ちも強くない。

そんな気まぐれな一面を持つ彼が、咄嗟の思いつきで提案を口にした。


「ということで、たまには俺から積極的に誘うのもありだよな。いつも優羽やブルプラ達のワガママに付き合っているだけだし」


「あら、どんな誘いをしてくれるのかしら。宇宙旅行で月まで行く?」


「おいおい、俺が言う前にハードルをぶち上げるなよ。……とりあえず、キャンプなんてどうだ?」


煌太は最初からキャンプと答えるつもりだった。

それなのに二人っきりであるにも関わらずロゼッタが期待感を高める発言をしてしまったせいで、こころなしか拍子抜けする提案に聞こえてしまう。

集団で楽しむアウトドアとしては良い案であるはずなのに、あまりにも平凡な響きだ。

そして冷めた空気が漂ってしまったことをロゼッタ(みずか)ら察し、慌ててテンションをあげて肯定し始めるのだった。


「キャンプ!あぁ、とても良いわね!すっごく素晴らしい案だわ!」


「だ、だろ~?世間の喧騒から離れて、気兼ねなくゆっくりと話すのにちょうどいいしな」


「本当にそうね!たまには自然の中でくつろぎたいわ!……でも、今は肌寒さが増してくる時期よ?私の会社ではクリスマス企画が進められているくらいだわ」


「個人的には虫が少ない方がリラックスできるから、今が望ましいくらいだ。そして夏に比べれば人も少ない。まぁ、やっぱり王道に旅館でゆっくり過ごすのも捨てがたいけどな」


まだ具体的な内容は定まり切ってないが、実行する方向に話は決まっているようだ。

そうであればロゼッタは主人の要望に応えるのみで、久方ぶりながら仕えるアンドロイドとして立ち回った。


「少なくとも、やる気は充分ということね。それなら私が全力でサポートするわ」


「あぁ、頼む。とりあえず一泊二日を目安にして、それから誰を誘って何をするか決めていくか。それで機会が巡れば、色々と話しておきたい。オメメのことだけじゃなく、俺達の将来についてもな」


このとき、俺達の将来という言葉の意味をロゼッタは理解しきれなかった。

なぜなら彼女と煌太の目標は前から定まっていて、そのために尽力している最中だ。

そしてブルプラは今を楽しく生きるのが一番の望みであって、何かを達することを目的としていない。

つまり改めて話すことなんて皆無に等しい。

だからロゼッタの中で疑問こそは残ったものの、ひとまず遊びに出かける計画を立て始めるのだった。


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