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9.友達一億人できるかな

結局ロゼッタとは別行動となってしまったオメメだが、今はヒバナという女子生徒会長と歩いていることに一種の感動を覚えていた。

やや変わった言動が目立つ子かもしれないが、相手が仲間意識を持ってくれているのは事実だ。

それは友達になるチャンスを得たのと同意義であって、浮かれる気持ちは少なからずあった。

対してヒバナの校内案内は意外にも落ち着いたものだった。


「この別塔は二階以上からそれぞれの部室と委員室、あとは特別学習に使う部屋があるくらいね。隣が本塔で、二階から八階までは教室。そして最上階が図書室。その他に音楽ホールや食堂館と言った別々に建物があって、美術学習と展覧会を兼ねた美術館もあるわ」


「何度聞いても凄い規模で驚いちゃう。何でも取り揃えていて、これで本当に管理できているのか心配になっちゃうくらい」


「『一人一人の生徒が利用者であり管理人でもある。そして各施設に備えてあるマニュアルを読み、些細な不備であろうとも教職員に報告を怠らないこと』って教えられるから。それで私達生徒の約半数が意識するだけで、どこも安全な状態が保たれるの」


「熱心な生徒さんが多いんだね」


「立派な先生も多いわ。もちろん、ちょっと厳しくて堅苦しい所もある校風だけど、不自由だと感じるほどでは無い。そして何より私ヒバナが、クリーンな世界を目指して日々尽力しているの!要するに、学校の平和は私の超能力によって維持されているわけ!」


「急に話が別方向へ飛躍したなぁ……。でも、立派な志を持っているのは伝わったかな。実際に見回った感じ、みんなが思い思いに学校生活を送れているみたいだから」


それだけに限らず、すれ違う生徒達のほとんどがヒバナと気さくな挨拶を交わしていた。

奇天烈(きてれつ)な人という印象が揺らぐことは無いが、多くの人が生徒会長は良い人だと受け入れているのだろう。

事実、こうして案内してくれるだけでも気分が明るくなれるくらい、一緒に居て楽しい人物だ。

特にヒバナは発言内容こそは愉快な方へ寄っているが、相手を素直に褒められる性格だった。


「優れた観察力ね、感服したわ!ちなみに私と同じく将来有望な生徒は他にも多く居るわよ。例えば……、私と同学年の優羽ちゃんね」


「ユウチャン?あぁ、なるほど。海外留学生も居るのかぁ」


「そうじゃなくて、優羽って名前の女子生徒よ。筆舌(ひつぜつ)に尽くしがたいほどスポーツ万能で、誇張無しでオリンピックの金メダルを狙える素質があるわ」


「へぇ、そのユウチャンって人と会ってみたいなー。その子はヒバナ会長と同じくらい可愛い?」


「可愛いけど、それ以上に人柄がカッコいいって感じね。思いきった行動で結果を出すし、客観的に見ても高い評価を得るのは当然って気がするもの。それで彼女のファンクラブが校内に存在するくらいだわ」


「おぉファンクラブ。実質ロゼッタお母さんと同じ。スゲェー」


このとき、オメメがユウチャンに対して抱いたイメージ像は、簡単に言えば筋骨隆々の巨人だった。

小指だけで男性を軽々と持ち上げ、ジェット機と同じ速度で走り、跳躍すれば九階建ての校舎を飛び越えられる。

絵に描いたような怪物であり、超人。

それに見合う姿をオメメは考えながら、ふと窓の方へ視線を向けた。

するとちょうど窓の外では人が張り付いていて、笑顔でこちらに向けて手を振るジャージ姿の女子生徒が居た。

ロープだけでぶら下がっていて、小柄ながらも力強い体幹で絶妙なバランスを保っている。


「おぉースゴォイー。ねぇヒバナ会長。ここは生徒が外の窓拭きまでするんだね」


「え?ここは四階だし、外から清掃する場合はさすがに業者の方が………って、優羽ちゃんね」


「あれ。ユウチャンって優羽さんのことだったの」


窓に張り付いている女子生徒の正体にきがつくなり、彼女ら二人は納得したように落ち着く。

普通なら一大事に思える中、優羽と呼ばれた彼女は大きな身振り手振りで大声をあげた。


「ヤッホー会長!あとオメメちゃん!元気にしてた~!?」


「………何か言ってくれているみたいだけど、窓越しで上手く聴き取れないわ。とりあえず屋上で話そうかしら」


ひとまずヒバナが適当なジェスチャーで意思疎通を試みると、すぐに優羽は理解したようで親指を立ててきた。

それから彼女はオメメにしか聴き取ることができない言葉を発して、いとも簡単に壁を駆け上がり始めるのだった。


「じゃあ屋上まで競争ね!負っけないよ~!」


妙に意気込んでいることは態度では分かったが、やはりヒバナからしたら何を伝えたかったのか分からない。

そのためヒバナは屋上へ行くためエレベーターに向かいつつ、不思議そうに呟いた。


「彼女、一体何を言っていたのかしら」


「屋上まで競争と言ってました」


「へぇ、あれでよく聞き取れたわね。それにしても競争なんて、さすがの優羽ちゃんでも文明の利器に勝てるわけが無いわ。彼女が登らないといけない高度も充分にあるもの」


互角の条件下で四階から九階建ての屋上まで競争するだけなら優羽が勝つのは確実だが、一方はロープだけで外の壁を登り、もう一方はエレベーターだ。

エレベーターが各階で止まったりしない限り、よほど優羽に勝ち目なんてあるわけが無い。

それ以前に安全性を優先して欲しいくらいだが、仮に会話できても彼女が聞き入れることが無い事をヒバナは知っていた。

そして肝心のエレベーターは無慈悲にも九階まで直行していき、勝利を確信したヒバナは口元を緩める。


「勝負は時の運で決まるもの。あとは屋上へ続く階段を上るだけで、この競争は私の勝ち…」


そう言ってエレベーターの扉が開いた直後、なぜか目の前にはロープを手に待ち構えている優羽の姿があった。

これにはヒバナのみならず、オメメすら唖然とする他ない。

対して優羽は二人の手を引きつつ、愛嬌ある笑顔で喋りかけてきた。


「はい私の勝ち~!でもさぁ、それにしても遅いよ~。待つのが暇すぎて、装備を撤収して階段を降りて来ちゃった」


「さすが優羽ちゃんね。その勇姿を映像に残したかったわ」


ありあふれた日常会話みたく話しているが、オメメだけは状況についていけず、優羽の全身を凝視していた。

この小柄とも言える体型で、どこから戦闘アンドロイドに匹敵する身体能力を発揮させたのか。

それは推測する事すら困難であって、彼女そのものを超常現象として研究するべき対象に思えた。


「あたしが勝手にイメージした姿と全く違うのに、イメージ通りの身体能力なんて。知れば知るほど不可解な謎を生み出している。これが教育の賜物(たまもの)なの?なんて凄い学校……、オメメ戦慄しました」


オメメは学校の力を思い知り、この学び場に強い興味を覚えるようになった。

これほど凄まじい逸材が居る学校なら、きっと自分も新たな学びを得られる。

そんな確信を得る中、優羽は気さくに受け答えした。


「これが私の実力だよ!どうかな!?思わず感動しちゃった!?」


「感動しました。あと尊敬もしました。優羽さんのおかげで、人間というのは本当に可能性の塊なんだと知り得ましたから」


「そうそう!特に私は偉大な人間様だからね!もっといっぱい尊敬しても損はしないよ!ところで、どうしてオメメちゃんが学校に居るの?しかもヒバナちゃんと一緒に散策してるー」


この優羽の質問に対し、まずヒバナが答えた。


「私は案内を頼まれたから付き合っているのよ。お客様を案内するのは生徒としての役目だもの」


「ふぅん。それでオメメちゃんが学校に来た理由は?もしかして入学前の見学かな?」


「そういえば理由というか、目的を訊いてないままだったわね。あのロゼッタと一緒に来ているからには、何か大事な用があったんじゃないかしら」


そう話しながら遠回し気味にオメメへ尋ねる。

ここへ来た目的を特に隠す理由は無いが、一から説明するとなると中々に手間がかかる。

そのためオメメはざっくりとした言葉で返した。


「友達を作りに来ました」


「友達を作りに……。確かに学校は社交性を養い、社会性を身に付ける場所でもあるわね。とは言え、そういう目的で学校へ訪れるお客さんは他に見たこと無いけども」


(もっと)もらしい指摘だ。

ただ適切な選択では無くとも、学校が最適な場所であることは否めない。

それに比べてアンドロイドに理解が深い優羽は納得し、代わりに補足を入れ始めた。


「オメメちゃんはアンドロイドだし、成長の仕方を学ぶことが大事なんじゃない?それに生徒だって、こう……規律を知るために学校へ通っている所もあるしさ」


「授業だけが学びじゃないものね。それで、いつからオメメは本校へ入学されるの?やっぱり来年の春?」


いつの間にか彼女ら二人の間では、オメメが入学することが前提となってしまっている。

そこまで考えを進めていたつもりは無かったが、予想外の形で転機が舞い降りたような気がした。

それによって思わずデタラメな言動が出てしまう。


「えっと、今日から……とか」


「今日?入学じゃなく転入だったのね。手続きは済んでいるってことなのかしら。さすがに生徒会の管轄外だから知らなかったわ」


「……うん、知らないのは当然かも」


何か言いたげな雰囲気はあるが、それほど気にするような事じゃないとヒバナは判断する。

また、すぐさま優羽は飛び跳ねるほどオメメを快く受け入れるのだった。


「じゃあ私も案内、もといオメメちゃんを全校生徒に紹介するよ!一通りの部活動に飛び入り参加すれば、すーぐ受け入れてくれるよ!私がそうだったしさ!」


「優羽ちゃんは例外じゃないかしら。活躍していたし、他の時でも皆を賑わせていたもの」


「あれ?私そんな目立つことしたっけ?」


「競走行事を全て優勝で総なめ。美化活動のゴミ拾いでは全力疾走で隣の県まで勝手に行き、一人で大型トラック数台分も拾う。講演に来てくれた世界トッププロの格闘家には完勝し、挙句の果てには指名手配の犯人グループを取り押さえて表彰。他にも武勇伝が絶えず、現在進行形で色々と生み出しているもの」


「わはははー。なんかどれも懐かしい話で良い思い出って感じ。そういえば誤って転落した生徒を助けた事もあったけなぁ」


その話を聞くと、ますます優羽の人間離れした能力にオメメは驚いてしまう。

合わせて彼女のファンクラブできるのも納得だ。

そもそも本人は名誉を求めてないだけで、実績そのものは今のロゼッタと大差ないように思える。

きっとネットで少し調べるだけでも、いくらでも世間の記録に彼女の名前は出てくるだろう。

また、生徒会長のヒバナが真っ先に優羽の名前を出すだけあると、オメメは一人納得していた。


「と、そこまで色々と活躍している優羽ちゃんの紹介なら、むしろ皆は率先してオメメと友達になりたがるかもしれないわね。それくらいの影響力が彼女にはあるから」


「……じゃあ、そこにヒバナ会長の力も借りて、オメメは手始めに友達一万人を目指します」


「友達一万人ね。意外に小さな目標だわ」


一万という数字は、実現可能な範囲内かつ達成が困難なラインのつもりだった。

しかしヒバナからしたら拍子抜けだったようで、ちょっとガッカリした様子が垣間見える。

それに対して優羽は少しだけ怒った態度を示した。


「あー駄目だよヒバナちゃん!基準は人それぞれ!相手の目標にケチをつけるのは禁止!はい、ブッブ~だよ!」


「トンデモな優羽が言うと説得力ある言葉だけど、私が言いたいのはオメメにしては小さな目標という点よ。まだ彼女のことは何も知らない。でも、もっと上を狙える逸材だと私の本能が直感しているわ」


「本人も手始めって言っているから、いきなり大胆な目標を掲げる必要は無いと思うけどなぁ。ねぇオメメちゃん?」


「あ、あたしはどっちでも……。それに家族は三人居るけど、まだ友達は一人も居なくて……」


そうオメメが控えめな様子で言った直後、つい優羽とヒバナは顔を見合わせてしまう。

どうやら二人して思ったことが同じのようだ。

それから互いに小さな笑みをこぼした後、彼女ら二人はオメメの手をそれぞれ引いた。


「もうオメメちゃんったら変なの~!私達とは友達でしょ!」


「そうそう!私と同じ『こちら側』の時点で、仲間であり一生の友よ!」


「ということで、友達権限によりオメメちゃんを連行します!目指すぞ~友達一億人!」


「フフッ、優羽ちゃんが勝手に目標のハードルを上げているじゃない。でも、一億人は彼女に相応しいと思うわ。理想を追い求めて、そして見栄を張って生きましょう!」


こうしてオメメは悲鳴を上げる間も無く二人に強制連行され、あちらこちらへと様々なグループへ飛び込む事となる。

やはり最初は引っ込み思案に寄っていたオメメだが、これほど破天荒な二人に引っ張られれば恐いもの無しだ。

何よりオメメ自身は並外れたスペックの持ち主であるため、あっという間に体育系の部活動に限らず、学問や文化系の部活まで圧倒する。


これによって彼女の名前は短時間で学園中へ知れ渡ることになり、教職員の方々は期待の学生だと呑気に受け入れていた。

同時にロゼッタは通信でこれまでの会話を全て聞いていて、一人でオメメ転入の件を校長へ持ち掛けていた。

更には『ロゼプラ』の企画で、オメメ友達を一億人作りますが始動したことにより、その話は預かり知れないところで膨れ上がる一方だった。


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