5.ワガママなポリス
川土手で賑やかに遊ぶ煌太、ブルプラ、オメメ、そして愛犬ポリス。
そこでブルプラはフリスビー争奪戦という勝負をオメメに仕掛けるも、結果は文句の付けようが無いほど惨敗だった。
二人の間には悲しいくらい性能差が生じていて、ブルプラが動き出す前にオメメがフリスビーをキャッチしてしまうほどだ。
オメメは恐ろしいほど鋭い俊敏性を誇っているのみならず、一挙一動が洗練とされていて、未来技術の真髄を披露された気分となる。
そのせいでブルプラは勝機が無い事を悟って観念し、涙目で彼女に跪いていた。
「ひ、ひぃ~…!この負け犬でしかないブルプラが、先ほどは偉そうなことを言ってすみませんでしたぁ!シミュレーション以前の問題で、オメメちゃんさんと競おうとする考え自体が恐れ多い事だと気づかされました!うぅ~……」
意気揚々と勇み、自信満々に挑んだ姿はもう見受けられない。
早くもブルプラは完膚なきまで敗北を喫したアンドロイドとして振る舞っていて、敗北者に相応しい姿を見せる。
ただオメメからすれば、たかがフリスビー勝負だけで互いの優劣が決まったとは考えられなかった。
「そんなブルプラさん……。どうか顔をあげて。あたしなんてブルプラさんの姪であり、そして後輩で、更には部下みたいなものなので」
「結果が求められるアンドロイドである以上、優秀なアンドロイドには容赦なく頭を下げますよ、ブルプラは!もはや頭を下げることが最高の喜びです!ふへへへ~」
「う、うぅ~?あたしには意味が分からないよ……。助けて煌太お父様ぁ」
オメメにとってブルプラの態度が予想外過ぎるためか、今度は彼女が涙目となってしまう。
そうして煌太に助けを求めるものの、彼は場の空気を軽く流すようアドバイスを送った。
「あまり気にしなくて良いぞ。ブルプラは何度もロゼッタに負けているけど接する態度が変わらないからな。だから……」
実際、煌太が話している間にブルプラは勢いよく立ち上がる。
それから彼女は輝かしい表情で再び勝負に挑もうとしていた。
「次は別の勝負をしましょう!缶蹴り、かくれんぼ、石で水切り、水泳……サバゲ―にトランプとか!あっ!草むしりならブルプラが勝てるかも!ちなみにブルプラは草笛が得意です!しかも自称、魚採り名人でもあります!」
「ほらな。ブルプラはお調子者で突飛ない所が目立つかもしれない。でも、それだけ今に一喜一憂するし、次を楽しむ才能がある」
「煌太様、それは少し違いますよ!一瞬一瞬が本当に輝かしいからこそ、こうしてブルプラは楽しめているのです!つまり……えっと、皆さんのおかげで楽しいのです!ふふん!」
「なんで気張ったんだ。あと、そろそろポリスとも遊んでやれよ。あいつ、ずっと一人で穴を掘っているからな」
ポリスの行動に目を離してはいなかったが、気づけばチワワの仕業と思えないほど地面を掘り起こしていた。
よほど気になる臭いでも嗅いだのだろう。
そんなポリスにオメメはたじろぎながらも、自分からコミュニケーションを取ろうとする。
「ぽ、ポリス~?オメメと一緒に遊ぼ~」
明らかに緊張が高まった仕草で、その声は震えている。
仮にポリスから危害を加えられても無傷で済むことを思えば、それほど用心する必要は無いはず。
もしかしたらオメメは、相手に嫌われるという状況を避けたいと願っているのかもしれない。
それは社会に生きる人間らしくあり、同時に子どもらしい純粋さを備えている表れだろう。
とは言え、その馴染もうとする気持ちが通じるとは限らないものだ。
『イヤだ』
ポリスは自動翻訳機で意思を伝えると共に、オメメから露骨に視線を逸らしてしまう。
そのことにオメメはショックを受けるが、まだ持ち堪えて喋りかけた。
「で、でもオメメはポリスと遊びたいなぁ~。仲良くなって、一緒にロゼッタお母さんやブルプラさんと……」
「ワンッ!ワンワンワン!」
どこで逆鱗に触れてしまったのか、急にポリスは本気で吠え出してしまった。
分かりやすい拒絶反応であって、今度は行動で敵意を伝えている。
これには煌太も驚き、どうすればいい問題なのか悩む他なかった。
「一体どうしたんだ?チワワだし吠えるのは珍しいことじゃないが、こうもオメメだけに吠えるなんて分からないな。ましてポリスは、それほど相手を毛嫌いする性格じゃないのに」
これまでポリスは初対面の相手に遊びを強請るほど友好的で、活発な遊び好きだった。
だからこそオメメに心を許さない理由が見当つかないわけだが、ポリスと遊ぶことが多いブルプラは察するのだった。
「ははぁん、ブルプラは分かりました!これはヤキモチですね!」
「ヤキモチだって?ポリスが……何に?」
「きっとポリスは、オメメちゃんさんが私達とは並々ならぬ関係だと気づいたのでしょう!いきなり現れた癖に自分より仲が良さそう、それはプライド高い先住犬にとって堪え難いことなのだとネットで見ました!」
「最初からそうならポリスの察しが良すぎるな。やたら賢いなとは思っていたが……。何にしても、ブルプラの推察は一理ありそうだ」
「こういうのは上下関係を教えるのが良いそうですけど、オメメちゃんさんは対等な立場を望んでいますからね~。それが余計に関係を拗らせてしまっている気がします」
「凄いな、まるで犬博士だ。いや、この場合はポリス博士か」
そう呑気に話している間もオメメはポリスとの距離感を図りつつ、あれこれと手を尽くそうとしている。
当然、どれも上手くいかず、頑張っては落ち込むの繰り返し。
そんな微笑ましい光景を見ながら煌太は言葉を続けた。
「それでポリス博士のブルプラ。具体的な解決案は無いのか?できれば爽快かつ痛快、そして実現性が高い案を出してくれ」
「ブルプラみたく、とりあえず勝負すれば良いんじゃないでしょうか」
「え?未来の戦闘アンドロイドとチワワの子犬を対決させるのか?それは勝負方法に関わらず危険だろ」
「そうでもありませんよ。ポリスはトランポリンで飛びながら餌をキャッチできるくらい凄いですから。ああ見えても体が丈夫で強い子なのです」
「俺が知らない間にポリスはサイボーグ化手術でも受けたのかよ。……というか、まずは平和的な手段で頼む」
「それなら躾けるしか無いような気がします。それに一緒に生活していくなら、犬とのコミュニケーション方法を覚えるのも大切ですからね」
ブルプラにしては珍しく真っ当にして順当な意見だ。
しかし躾けると言っても、ポリスの躾け方に関してはロゼッタに任せっきりだった。
どのような手段が適切か分からないままだが、ひとまず煌太は動物と仲良くする方法をオメメに教えることにした。