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38.『ロゼプラ』初配信イベント(4)

優羽はチサトを介抱しつつ、休憩スペースを求めた。

しかし、イベント会場内はどこも満員状態で埋め尽くされてしまっている。

特にグッズ販売所の辺りは(いま)だに凄まじい人だかりが出来ていて、設けられた休憩スペースも同様に息苦しそうな光景と化していた。

もはやロゼッタの配信イベントだから集まっているというより、ただ祭り気分を味わえるから来ているような人も多く居るのだろう。

それほど賑やかで、各々の楽しみ方で過ごしている人が見受けられた。


「うっわぁ~。スタッフですら身動き取れ無さそうな人数でヤバぁ~。というか、これだと私達も休める場所が無さそうだね」


「それ以前に……、周りに人が居るってだけでも私は無理。むしろ整理されない分、ライブ観客席よりキツイ……」


「じゃあ、ちょっと離れた場所に行こうか。ゆっくり休めた方が早く戻れるだろうしね」


そうして人が少ない場所を求めて移動し続けた結果、イベント会場から大きく離れたベンチで休むことになる。

ようやく見つけた一息できる小さな(いこ)いの場所。

とは言え、やはり前を往来する人が多い。

そのため視線を気にするチサトにとっては、そこまで気楽に休める環境では無いのかもしれない。


「ふ~。なんとか座れたね~!」


「うん。近くの喫茶店とか、どこを見ても人がいっぱいだったからね。本当、外って人が多過ぎてビックリする」


「ロゼッタちゃんの影響なのかなぁ。いつもより外国人が多い感じがしたし、テレビスタッフみたいな人も多かったもん」


「そうだね。………ロゼッタさんって凄いよね」


「歌やダンスも凄かったよね~!まさか、あれだけできるようになっているとは思っていなかったよ!もう凄く興奮しちゃった!次の演目も期待しちゃうなぁ~!」


優羽は観賞したことで覚えた感動を、とても愉快そうに喜々として語る。

それに彼女はロゼッタという人物を深く見知っているからこそ、より共感できる部分が多いのだろう。

だが、チサトが言及したのはイベントに関することでは無く、ロゼッタの成長そのものについてだった。


「それも凄かったけど、私が凄いなぁーと思ったのはロゼッタさんの躍進ぶり。まさかリアル活動で知名度をあげるとは思っていなかったし、私の想像を超えるほど貪欲(どんよく)な気概の持ち主だったからさ」


「あー。まぁ最初はネット活動する前に(つまず)いているレベルだったからね。それを知っていると色々と予想外なのかも。しかも、こうして大きな結果を出している!まさにワンダフル!」


「私は知名度を求めて配信活動しているわけじゃないけど、それでも伸びる人はどこまでも伸びるんだなぁと思い知らされた気分かな。ロゼッタさんに限っては、なにかと前代未聞な気がするけどさ」


「そういえば、数日後にはロゼッタちゃんの会社も動き出すって話だったような。うーん、伸び続けるにしても成長速度が凄いね」


たった一日とは言え大規模のイベントを自分から開催して、更には自分の会社を持ち、ありえない行動力と実力で即座に結果を出して世界中に活躍が知れ渡る。

そして、そう遠くない内にロゼッタは絶大な影響力を持つようになり、彼女の決定一つで運命が左右される人が現れるようになるだろう。

それくらい世界を象徴する存在になりつつあって、現代に現れた神とまで密かに噂されていることをチサトは知っていた。

その呼び方自体は、まだ過剰表現を含めたジョークに過ぎない。

ただ、あまりにもかけ離れ過ぎた能力を見せつけられると、まるで神だと表現したくなる気持ちは理解できる。

それどころか、このまま知名度を上げていけば適切な呼び名になりかねないほどであり、いずれエンターテイメントという域を越えても不思議では無かった。


「あっ!チサトちゃん!ほら、見て見て!今は目利き勝負しているよ!」


いつの間にか優羽はスマホでイベントのネット配信に繋いでいて、その様子を楽しんでいた。

覗き込んでみると、ブルプラとロゼッタが品の見定め勝負をしているらしく、会場内は落ち着きある盛り上がりを見せていた。


「へぇ。パフォーマンスだけじゃなく、配信者らしい(もよお)しもしているだね」


「あと、この日のために作られた美術品があって、その値段をロゼッタちゃんが決めたりしちゃうみたいだよ。更にネットの利点を活かして、視聴者も参加できるようになっているみたい」


「コメントを会場に表示したりすることも今では珍しくないけど、そこまでイベントに取り入れているんだね」


「ちなみに値段予想を的中させた視聴者には、ロゼッタちゃんから直接メッセージが届くんだって!解答は選択式だから、正解者けっこう多そう~」


どのような形でロゼッタからメッセージが届くのか知らないが、特別な参加条件が無いから参加人数は膨大なはずだ。

それくらいは簡単に想像がつき、チサトは不思議そうな顔を浮かべていた。


「メッセージね………。でも、それってスタッフを使っても難しくない?当たり障りないよう定型文なんだろうけどさ」


「それについては前々からロゼッタちゃんが言っていたんだよね。視聴者一人一人に個別メッセージを返せれば、それは強い満足感を与えられるとか何とか」


「え、個別で送るの?じゃあ一つ一つ内容を考えるわけ?いや、やっぱり無理でしょ。たとえ超高速で処理しても、数ヵ月単位の作業時間になるよ」


「私もよく分からないけど、動画でコメントを残してくれている人のことは全部覚えているらしいよ?それでSNSとかでは、相手の理想通りのメッセージを送っているって」


「うーん。それって、どういう仕組みなんだろ?努力ではどうにもならない気がするけど」


「きっとアンドロイドだからこそ出来る芸当だよ!ロゼッタちゃんは、その日気分に影響されるタイプじゃないから常に親切で素直だし」


優羽は当たり前みたいに話を進めるが、実はまだチサトからすれば、ロゼッタがアンドロイドだということは信じ切っていない。

これまでの事実と功績を踏まえれば、本当にアンドロイドだと信じること自体は容易だ。

そうすれば納得いく部分も多い。

しかしアンドロイドだと思った瞬間、もう友達みたく接するのは難しい気がした。


なにせ友達というのは、どれほど些細な事でも良いから何らかの共通点があるもの。

それなのに彼女が人間ですら無いとなったら、さすがに見る目が変わってしまう。

別に気にしない人もいるだろうが、チサトは繊細な気性だから簡単に割り切れない部類だ。

そして、うやむやにする方が気になって仕方ないから、ここでチサトは初めて踏み込む。


「ねぇ、ユッキーさん。……ロゼッタさんって本物のアンドロイドなの?」


「あれ?最初にそう教えて無かったっけ?」


「いや、そうだけど……。普通に息遣いして喋るし、私より表情豊かに反応するし。あと動画で当たり前のように食レポしているから、一般的にイメージするロボットと違い過ぎるんだよね」


「まぁ、確かにロボットと言っても人間と変わらないよね。下手したら普通の人より人間臭い所が多いくらいだしさ。強いて言うなら、容姿端麗すぎる所が一番ロボットっぽいかもね。あははっ!」


優羽は今更気にかけている事は無いらしく、無邪気に笑う。

理解力や順応性が高いのか、それとも何も気にかけないほど神経が図太いだけなのか。

チサトからすれば、そんな優羽が大物に感じられた。


「本当にロゼッタさんがアンドロイドだとしてさ、ユッキーさんは気にならないの?こんな言い方をしたら悪いけど、アンドロイドは生き物じゃないんだよ」


「えーっと、何が気になるのかな?確かに生き物じゃないけど………あぁ、肌のお手入れが必要なくて羨ましいとか?」


「それ以外の色々と。やっぱりプログラムで思考する機械なら、人間と比べて優先順位や価値観が違うわけでしょ」


唐突にチサトが大真面目な意見を述べるため、思わぬ発言に優羽はキョトンとしてしまう。

でも、すぐに優羽は相手の伝えたいことを察した後、あっさりと愉快に笑い飛ばした。


「あっははは、なにそれ~!考え方についてなんて、アンドロイドとか関係無いよ!それにアンドロイドとして見るんじゃなく、ロゼッタちゃんとして見たら気にならないことばかりじゃないかな!」


「うぅん?それって、つまりどういうこと?」


「だって、価値観が違うのは私達人間にも言えることでしょ?」


「それは………。うん、よく配信やSNSでも感じることかな。だけど、そういうのは多様性だと割り切れるよ」


「それと変わらないよ。もちろん相手がアンドロイドだと思ったら仲間意識を持ちづらいとかあるかもしれないけど、逆に同じ人間だからって理由で理解し合えると思っている人は少ないよ。人間って万能から程遠いから、何事にも限度があるでしょ?」


優羽はこの発言に深いメッセージ性を込めたり、正論を口にしたつもりは無い。

ただ一個人の意見であり、無意識に思っていること。

そんな思いつきで喋ったせいか、チサトは小難しい問題にでも直面したかのような、険しい表情を見せていた。


「………ごめん。私から言い出したことなのに、なんか難しくて頭がショートしそう」


「私も考えがまとまって無いし、何か教えたいわけじゃないから大丈夫!あれこれ考えるのは得意じゃないし!それに、とにかくロゼッタちゃんは可愛いことは間違いない!それだけでも仲良くなりたいじゃん!」


相手が可愛いから仲良くなりたい。

とても安直な理由であって、当然ながらチサトが気にかけている問題を無視できるほどの強い説得力は無い。

でも、それくらい素直な方が生き物らしいのかもしれない。

元より友達になる条件を設けるほど傲慢(ごうまん)じゃないし、お互いの気が合えば充分過ぎるほど。


そもそも種族が異なっていても素晴らしい関係へ発展することは、さほど珍しくないケースだと誰もが知っている。

まして相手がアンドロイドだからという理由で忌避する方が、よっぽど安直で傲慢だろう。

そう思えば、優羽の生き様に対する前向きな姿勢は見習いたくなるものだ。


「……うん。確かに仲良くなりたい。あと愛嬌が良くて、気立てもできる子だからね」


「分かる~!ロゼッタちゃんは相手を想ったサービスとか処世術っぽく言っちゃうけど、実際は単なる親切心だからね!ほとんど優しさの塊で、きっと体の半分は思いやりで作れられているよ!」


「それならユッキーさんは九割くらい元気で作られているよね」


「元気が取り柄だからね!じゃあチサトちゃんは何かな~。いつも長時間ソシャゲしているから、根気で構成されているかな!または集中力!」


「えぇ?ソシャゲは好きでやっているだけだから、なにか義務感を抱いてプレイしているわけじゃないんだけど………」


「それなら楽しむ心意気!私も負けない自信はあるけど、私の場合一人で楽しんじゃうからね。チサトちゃんみたいに、配信で色んな人と一緒に楽しめるのは立派な才能だよ!」


そう言って優羽は満面の笑顔を向ける。

眩しいくらいに明るく、一緒に居るだけで楽しくなれる。

ちょっと騒がしく常に元気が有り余っているのはびっくりするけど、チサトはそんな彼女のことが好きに思えた。

だから、つい仲良くなりたい気持ちが先行する。


「ね、ねぇユッキーさん。このイベントが終わったらさ………。その……」


「うん~?なになに?」


「…えっと……。よ、よかったら明日とか一緒に遊ばない?ロゼッタさんやブルプラさんも誘って、一緒に遊びたいな。そ…、その予定が合えばというか、私相手で良かったらというか……!」


こうして相手を誘う経験が少ないため、照れ臭く感じたチサトは視線を逸らしてしまう。

そして無意識的に目をキュッと(つむ)り、あまりの緊張のせいで全身に力が入った。

そんな彼女の手を優羽は握り締める。


「うん!もちろん行こう!私的には遊園地が良いかな!絶叫マシン系が大好き!」


「へ、ひぇ~…!わ、私、絶叫マシンは苦手………!」


「あっ!ちなみにロゼッタちゃんは幽霊が凄く苦手なんだよ!だからお化け屋敷で珍しい反応が見られるよ~」


「そ、そうなんだ……。なんか意外だね……。もっと恐い事に立ち向かったり、沢山のことに挑んでいるはずなのに」


「あれ?そういえばそうだ。幽霊は別腹なのかも!あっはははは、なんだか可笑しいね!」


「ふふっ、私からしたら別腹って言葉がおかしいよ。あははは…!」


気が付けば、チサトの表情からは自然と笑みがこぼれた。

すっかり緊張感も抜けきっていて、今では期待感に満ち足りていた。

雰囲気も和気あいあいとしたもので、ようやく外の世界で自分らしさを出せるようになるのだった。



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