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34.ブルプラの相性

自然公園から離れようとする前に、既にブルプラの周りには人が集まりかけている。

そのためブルプラは月音の手を引きつつ、ちょっとした強行突破するよう駆け足を促した。


「ごめんなさい月音様。自分勝手で申し訳ないですけど、ちょっと急いで離れましょうか」


「え?あっ、うん。その方が良さそうなのかな」


まだ月音は急ぐ必要性を感じていなかったが、確かに人だかりに揉まれるのは好ましくない。

何よりブルプラと違って、大衆からの注目を浴びるのは苦手なことだ。

そもそも見知らぬ人達と接すること自体が恐怖でしか無かったので、そのまま月音は流される形で彼女に連れてかれて行った。

そうして早歩きで自然公園から離れること数分後、二人は人通りが少ない道端で足を止める。

それほど移動距離は長いものでは無いが、つい月音は息を切らし気味に喋り出した。


「はぁはぁ……。なんだろう。なんか久々に運動した気分。歩き回ることなんて滅多にしないから、一周して新鮮な感覚かも」


「月音様。いきなり無理に引っ張ってしまい、誠に申し訳ありません。でも少し強引に連れ出さないと、落ち着いて話せそうに無かったものですから」


「別に気にして無いよ。ブルプラ課長の考えは間違って無いし、私に体力が無さ過ぎるのが原因なだけだもんね。まぁ、日頃の運動不足が(たた)ったかな。とは言え、これから運動する習慣を身に付ける気は無いけど」


そう言いながら月音は浅くなっていた呼吸を整えつつ、ポリスの顔周りを撫でて可愛がる。

大勢と接したばかりだからポリスは疲れて眠そうにしているが、彼女の愛情に喜んでいるようだ。

そんな愛嬌ある子犬の反応を楽しみながら、月音は言葉を続けた。


「それにしてもブルプラ課長は、すっかり人気者ですね。テレビに出ている有名人と同じだと言っても良いくらい。あくまで戦闘アンドロイドとして製造されたというはずなのに、凄い人徳です」


「本当、皆さんが関心を持ってくれて嬉しいです。でもブルプラに対する注目なんて、全部ロゼッタさんが頑張ってくれているからに過ぎないですよ。それに比べてブルプラは、とにかく今を楽しんでいるだけです」


「……うーん?なにかと(こじ)らせている私からすれば、どんな物事に対しても楽しめているのが凄い話なんだけどなぁ。その素直さは誰にでもあるわけじゃないし、私には一生かかっても真似できない事だよ」


「そんなこと無いですよ!そもそもブルプラは月音様という素敵なお友達がいるおかげで、より色んな人達と楽しく過ごせるようになれました!」


これ程までに善意に満ちた言動を(よど)みなく繰り返すのは、プログラムに従って思考するロボットだからなのか。

そう偏屈な解釈をしたくなるほど、ブルプラは輝かしい顔を見せていた。

とことん前向きでお人好し。

そんな彼女と比べてしまうと、自分がちょっとだけ(みじ)めに思えてきそう。

ただ月音はそんな彼女が好きであるし、合わせて感心も覚えながら応えた。


「誰かのおかげだとしても、それで更に大勢を惹き付けられるのはブルプラ課長の実力ですって。どれだけ頑張ろうと、魅力が無い私には無理です」


「うっ、うぅ~……。でも、ブルプラは月音様の魅力を知っていますよ!月音様は妄想が素晴らしい方です!」


「そう下手に慰めなくても大丈夫。それに私は裏方役に回るのが大好きなので。もしもブルプラ課長みたく大勢に囲まれたら、確実に即死しますね」


「えぇ!?死んでしまうのですか!?」


「その際は四肢が飛散し、五臓六腑(ごぞうろっぷ)も弾け飛びます。ついでに死んだ後は悪霊となりますので」


「それは恐ろし過ぎます!」


「ですから、私の死亡条件が揃わないよう気を付けて下さい。もし死んだらブルプラ課長に責任を取って貰うため、ずっと取り憑きますからね」


「う~ん、中々に衝撃的な話ですね……。ブルプラが責任を負いきれるかどうか、けっこう心配です」


ブルプラは戸惑った表情を浮かべながら、本気の心配と不安が入り混じった雰囲気を漂わせている。

こんな見え透いた冗談一つで振り回されるなんて、一々全ての反応が単純だ。

あまりにも単純すぎて、ついからかい(・・・・)たくなる。

でも、意地悪を続ける気分では無いから、すぐに月音は訂正する言葉を付け加えた。


「即死するというのは、私なりの比喩表現ですって。せいぜい胸がキュッと締め付けられるだけで内臓も無事です。あとは昏睡状態に陥る程度ですから、あまり心配しないで下さい」


「そ、それはそれで深刻な事態だと思いますよ……?心配事になり得る要素としては充分過ぎます」


「それよりも先ほどの出来事について訊きたいのですけど、ブルプラ課長はファンサービスするために公園へ行っていたのですか?それぐらい大盛況な雰囲気で驚いちゃいました」


「さっきのアレですか。アレ自体はちょっとした成り()きですね。最初はポリスと遊ぶつもりだったのですが、気づいたら皆さんと賑やかに遊んでいました」


「ちょっとした成り行き?あれだけ集まっていたのに?……つくづく私とはスケール感が違いますね。さすがブルプラ課長。世界で活躍するロゼッタ社長と肩を並べるだけあります」


「そうですか?ブルプラからすれば、分野が異なっているだけで月音様も世界的な活躍をしていると認識していますよ。舞台演出も凄い工夫が成されていて、ここ最近は驚かされてばかりです」


まだロゼッタ本人は世界中を飛び回っているが、それでも通話で打ち合わせを(おこな)いながらイベントの舞台準備は進められている。

その際に月音研究員は舞台演出の責任者として協力してくれているわけだが、その彼女の働きはブルプラから見ても驚嘆に値するものだった。

とにかく用意が信じられないほど迅速で、細かな調整と(たく)みな演出指導、更には機材の改良と改善処置、事前の不備発見まで完璧だ。

おかげでロゼッタはイベント管理に専念しやすくなっていて、開催当日は運営チームに負担が少ないイベント進行ができそうとなっていた。

つまり月音研究員の働きぶりがイベント成功に直結していると、そう断言しても差し支えないほど。

ただ月音自身は、それほど自慢することじゃないと捉えている様子で応えた。


「私だけが唯一、イベント開催の素人では無いですからね。経験者として、やれることをやっているだけです。むしろブルプラ課長の方が凄いくらいですよ。いきなり私がリクエストを出しても、プロみたいに順応してくれますから」


「リクエストと言っても、台本の筋書きから逸れているわけでは無いですからねー。動画撮影と同じ感覚です」


「あぁ、なるほど。ロゼッタ社長との撮影経験が活きているわけですか。やっぱりロゼ×ブルが鉄板なのかな」


「えぇっと?……とりあえず今回のイベントも規模が大きいだけで、動画撮影の延長線上みたいなものです。それにロゼッタさんが臨機応変にフォローしてくれると信じていますから、不安もありません」


「ふむふむ。百合(ゆり)アンドロイド同士の絶対的な信頼関係というわけですね。なるほど、ごちそうさまです」


月音の口から、ブルプラですら反応に困る妙な発言が繰り返され始める。

つまり急にカップル厨のスイッチが入りかけているわけだが、その様子をブルプラは気にかけず別の話題を出した。


「そういえばですが、チケット販売はどうなっているのですか?」


「チケット販売?あぁ……、『ロゼプラ』イベントのことですね」


近い内に開催予定としているイベントは、『ロゼプラ』の宣伝とコンテンツの提供を目的としている。

だが、チケットの値段は決して安いとは言えない。

なぜならイベント会場を用意する以上、莫大な費用を要する。

何よりテレビ放送の関係で観客数は大きな制限を設けなければいけないし、設営するための手間賃も相当な(がく)だ。

そのせいで割高なチケット代金となってしまったのみならず、世間における知名度と動員客数が比例するわけでは無い。


まして『ロゼプラ』が活動開始してから一年も経過していない上、今回が初イベントだから売れ行きは怪しいはず。

だから多くの不安要素が重なっているわけなのだが、月音は元から問題視してないらしく、あっさりとした態度で教えてくれた。


「海外在住なのに買う人も居たおかげで、とっくに完売していますよ。思っていたより待ち構えていた人が多かったらしく、ネット販売開始と同時に終了しました。これで残す心配事は、イベント会場が野外なので当日の空模様くらいです」


「そうだったのですね!じゃあ、てるてる坊主を作っておかないといけませんね!むしろブルプラ(みずか)ら、てるてる坊主のコスプレをするのが一番効果的かもしれません!」


「………念のために言っておきますけど、コスプレはしても首を吊ったりしないで下さいね?ブルプラ課長は全くの無事でも、傍から見たら相当ホラーな絵面ですから。きっと煌太先輩ですら腰を抜かします」


「そうですか?でも、首を吊るドッキリとか動画で見たことありますよ?あと高所からの飛び下り」


「そういうのは手品で、タネがあるに決まっているじゃないですか。それどころか、よく知れ渡っている手法ですって」


月音は手品関係に疎く、手品の基本的な技も何一つ知らない。

それでも知った素振りで話せば、ブルプラは本気で驚いたように目を丸くした。


「えぇっ!?そうだったのですか!てっきり首つりは気合いで耐えているのだと思っていました!………はっ!?もしかして空中に浮いて座っているやつも手品ですか!?念力や奇跡じゃなくて!?」


「どうしてアンドロイドなのに科学的観点から考えず、真っ先に超能力の(たぐい)だと捉えているのですか。もう……、ブルプラ課長は愛らしい天然ボケっ()ですね」


「でもでも、その認識は早計ですよ!なぜなら私達アンドロイドを作ったわけですから、人間に少しくらい不思議な能力があっても驚くことじゃないですもん!」


そう勢いよく言われてしまうと、つい納得してしまう部分はある。

やはりアンドロイドからすれば人間は創造主であるため、神に匹敵する存在だと断定するのは不思議では無い。

しかもブルプラは煌太の凄まじい開発力を間近に見ているから、余計に人間を高位な存在として認識してしまっている可能性がある。

実際、煌太の開発力はロボット研究会でも頭一つ抜けているので、ロボット開発の神と言って良いほど。

それらを踏まえてしまうと、最終的には月音が一人で納得する側となってしまっていた。


「いや、まぁアンドロイドの製造自体が不思議な能力と言っていいかもしれませんね。どこぞの研究チームは遺伝子研究していたら、クローンとは別に人間の脳を作っちゃったみたいですし。ただ、そういうのは科学の積み重ねがあったわけで……うぅーん…?」


「ゼロから生物を誕生させられるなら、自力で空も飛べますよね」


「うん、ごめん。やっぱりその理論はおかしいよ。よくよく考えたら超能力があるなら、てるてる坊主とか要らないじゃん。アレお(まじな)いってより願掛けだし」


「え?あれ?………なぜか分からないですけど、うまく返されたような気がします。なぜでしょう。今ブルプラの中で、落胆の色が隠せそうに無いです」


そう言うブルプラの瞳は暗く、本気で残念の気持ちが湧いていそうな様子だった。

もしかしたら超常現象やオカルト話が好きなタイプなのか。

というより彼女の性格上、何でも心から信じるタイプだと言うべきなのかもしれない。

要するに嘘を知らず、サンタクロースなどの夢溢れる物語が好きな小学生と同じ。

そのことに月音は気づき、慌てて言い直した。


「あー………でも、私の意見一つで全てが超能力じゃないと否定されたわけでは無いです。超能力を持って無い人が多いから、てるてる坊主などが生まれた、と考え方でも良いんじゃないですか」


「つまり超能力はあるわけですね!」


「あるかもしれませんね。ところでブルプラ課長は、サンタやお化けは信じていますか?」


「え?信じるも何も、実在するじゃないですか。サンタになるためには認定試験があるという話は有名ですし、お化けは証拠映像が沢山ありますよ。そして、どちらも目撃証言が数多くあります」


「………そうですか。そうですね。やっぱりブルプラ課長は愛らしい天然ボケっ()というわけですね」


「えぇどうして!?なぜそこに話が戻るのですか!?」


それからブルプラは駄々っ子みたく何度も聞き返してくるが、これは褒め言葉だと月音が言った瞬間にニコニコと笑顔で受け入れてくれる。

まるで入学したばかりの小学生の面倒を見ているみたいであり、悪くない気分だと月音は思った。

更には姉妹関係に似たものを感じられるし、お互いに大事な友達だと言いきれる仲なのは間違いない。

そして二人で街中を歩いている途中、ブルプラの方に一報が入る。

それは明日には帰って来るというロゼッタ本人からの連絡であり、帰国次第すぐにスタッフを集めてイベントのリハーサルを始める内容だった。


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