29.初配信イベント開催に向けて
そうして煌太達三人で交流を深めていると、ちょうど二人のアンドロイドが通りかかって来た。
それはロゼッタとブルプラだ。
「あら。こんな朝早くから知り合いが集まっているなんて、とても珍しい状況ね」
「皆さま、おはよーございます!煌太様と優羽様……、あとはご友人様ですね!」
いくら自宅の近くとは言え、こうした形で集合するのは不思議な気分だった。
それからチサトが改めてブルプラと自己紹介し合っている中、その隣で煌太はロゼッタに話しかける。
「ところで二人とも、どこへ行っていたんだ?」
「川土手でスプラッシュロボットの動画撮影しつつ、予行練習していたわ」
「予行練習?動画のやつか?」
「初配信するに当たっての練習よ。それと煌太様、その配信でまた協力して欲しいの。本当に申し訳ない頼みごとになってしまうけれど、かなり大掛かりな仕掛けで長時間の協力になるわ」
「構わないぜ。機械関係なら精根を尽くすことは苦じゃない。それで何を準備しておけばいい?」
煌太は気軽に頼って欲しくて、親身な態度を崩さなかった。
それに前向きに返答したつもりだったが、まだロゼッタは言いづらそうな表情を浮かべていた。
「その………、実は前準備だけじゃなく、配信当日に人手も必要なの。それで丸々三日間、時間を空けることは可能かしら?もし難しそうだったら、遠慮なく断って欲しいわ」
「断るも何も、いまいち話が見えてこないな。具体的に何をするつもりなんだ?」
「ごめんなさい、話す順序を間違えたわね。まず、ざっくりと言ってしまえばイベントを開催するわ」
イベントを開催すると言われても、煌太の中では想像がつかなかった。
なにせ彼は娯楽に関するイベント経験が乏しく、アイドルやら有名アーティストのコンサートに参加した事すら無い。
そのため無料で参加できる小規模なイベントくらいしか思いつかず、チケット販売という発想にすら至らなかった。
「イベント?つまり観客を集めるってことだよな?」
「えぇ、そうよ。それでネット配信のみならず、テレビ放送も兼ねるわ。テレビ放送は莫大な手間賃がかかってしまったけれど、短時間の放送枠が取れそうなの」
「手回しが早いな。しかもニュースに取り上げられるとかじゃなく自分から放送枠を取るなんて、相当大変だろ」
「そうね。それにテレビ放送については、まだ確定じゃないわ。私の頼みを聞いてくれた先方は了承してくれたけど、企画が通らず終わるかもしれないとも言っていたわ。あと余程の事情でも無い限り、どれだけ急いでもリアルタイム放送はほぼ不可能だともね」
「その業界に詳しくないから分からないが、ロゼッタ自身に知名度とブランド力が無いと難しいだろうな。抜群の話題性を生んだのは事実だが、長期的に世間を圧巻したわけじゃない」
この煌太の発言は事実だ。
ロゼッタは絶え間なく動画投稿を続けているが、結局一番伸びているのは注目されてから投稿した新着動画のみ。
過去の動画はそれほど視聴回数が伸びきっておらず、新着動画すら数値だけ見れば既にブームは去ったと言っても差し支えない。
何よりネット以外での活躍が強みとなっていたから、ロゼッタは再び活動範囲を広げなければいけない。
「現状、私も動画投稿だけに留まっているから勢いは落ち着いているわ。だから、またちょっと海外を飛び回ってもいいかしら?」
「また大会やイベントに参加するのか?あと現地交流か」
「それだけだとインパクトが薄いから、別のことも実行するわ。私が躍進するためには、もっと強い憧れと夢を与えないといけない」
「かなり難しいことを言っているな。実力で実績を獲得したことには変わり無いし、既に大勢のファンが居るはずだろ。どうやって更にファン層を広げるつもりなんだ?」
これ以上ロゼッタが手早く目立つためには、もはや世界一のプロ格闘家やらプロスポーツ選手にでも勝利して、世界一に匹敵する実力者だと世間に認識してもらうくらいだろう。
それだけ世界一の栄光は凄まじい。
だが、ロゼッタの発想はもっと別の方向性へ寄っていた。
「簡単に言えば地域貢献ね」
「地域貢献?詳しくは教えてくれないのか?」
「実際に実行できるか分からない上、心配させてしまいそうだから伏せておくわ。ただ、誰もが知っている行為だけど、これまで誰もが成し遂げられてない行為だからこそ、成功した時の見返りは大きいわね」
「なんだか、ナゾナゾみたいな言い方だな………。それに予想がつくから余計に心配だ」
「とりあえず私は企画を練りつつ、イベントの準備は月音さんにも協力して貰うわ。彼女には既に話を通してあるから」
「そうだったのか。じゃあ、ロボット研究会の方にも連絡つけておくか。研究会であれば、機材の準備はビビるほど迅速だからな。あと実験も兼ねていると言っとけば、すぐに人手を用意してくれる」
まるで煌太は当然のように言っているが、さすがにイベント開催のために研究会の人員を使うのは無理な気がしてしまう。
どんな理由をつけても個人的な要望なのは明らかで、普通なら不信感を抱かれてもおかしくない話だ。
だからロゼッタは困った様子で応えた。
「そんな無理をする必要ないわよ。いくら煌太様からの要請でも、研究会がすんなりと受け入れるはずが無いわ」
「ちょっと演出に手を加えることになるかもしれないが、スポンサーの宣伝も兼ねれば大丈夫だ。むしろロゼッタをCM起用してくれた会社とか、このイベントに便乗してくれるかもしれない」
「………言われてみれば、そこまでの考えには及ばなかったわね。でも、とても良い着眼点だわ。それならイベント周りについては、ひとまず煌太様に任せても良いかしら。予定より負担が大きくなってしまうけれど」
「あぁ、任せてくれ。このイベントの話を聞けば、是非とも協力したいと言ってくれる知人も居るからな!」
そう煌太は笑顔で応えたものの、まだこの時点では問題なくイベント開催できるよう準備する事しか考えていなかった。
なにせイベントに限らず、何事においても安全に成功させるのが第一目標だ。
まして今回は短い準備期間だから、それが一番難しいと言っても過言では無い。
しかし、彼の呼びかけは全員の想像を超える影響力を発揮させることになり、その規模は世界各国を巻き込むレベルへ発展する事となってしまうのだった。