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20.『翻訳機』+『犬の服』

黒のロングコートチワワであるポリスを飼い始めて三日後。

煌太は子犬に合わせたチョーカーを手に、ロゼッタが居るポリスの部屋へ訪れた。


「ロゼッタ、前に俺が言ったやつ組み立てたぜ。試してくれ」


「凄いわ、煌太様。数日足らずで作ってしまうなんて」


「俺の手柄(てがら)じゃなく、ちょうど同所属の研究員が作っていたおかげだ。特に犬猫は需要が高いから、研究が大きく進んでいるらしい。GPSとバイタルサイン機能が付いているし、これなら装着していても負担にはならない」


特別なチョーカーであるらしく、それを受け取ったロゼッタは早速ポリスに付けてみせる。

その間のポリスは甘えながらも比較的に大人しく、彼女に大きな信頼を寄せているようだった。

そしてチョーカーの機能を確かめるべく、ロゼッタは近くに備えていたタブレット端末を起動させた。


「所在地と健康状態のデータが問題無く送られているわ。これなら私の方でも直接受信できるわね」


「ただバッテリーは一週間しか持たないから、小まめな充電は必要だ。そして一番注目している機能はどうだ?」


「試してみるわ。……ポリス、おやつよ」


ロゼッタはタブレットを手にしたまま、ずっと見つめてくるポリスに声をかけた。

するとタブレットに文字が表示される。

その内容は『喜び』という一つの単語だ。


「あら?てっきり会話ができると思ったのだけれども、翻訳機が教えてくれるのは感情表現だけなのね」


「どちらかと言うと、具合や健康状態チェックの機能が最重要って説明だったな」


「残念。でも、これで調子を知れるのはありがたいわ」


「………なんてな。実は俺の試作プログラムを組み込んでみた。まだバグが発生するかもしれないが連動させてみてくれ。そのタブレットに入っているアプリで操作するだけだ」


「分かったわ」


ロゼッタは彼に言われるがままタブレットを操作し、動物翻訳アプリを起動させる。

すると早速チョーカーと連動し、短い文章が画面に表示された。


『早くオヤツくれ。オヤツ、オヤツを下さい。ロゼッタ、はよ』


この言葉こそが、恐らくポリスが伝えたい内容なのだろう。

それを察しながらも、ロゼッタは眉を潜めた。


「………どことなく(いや)しい言葉が羅列(られつ)されたわ。まだ吠えても無いのに」


「鳴き声以外でも反応するようにしたからな。そして精度も高いはずだ」


「翻訳というより思考読み取り機能なのね」


「その代わり、まだ決められたパターンしか表示されないぜ。あと内容判別できないときは、不明って画面に出る」


「それでも、よりコミュニケーションが取れやすくなっていると考えたら便利だわ」


そう言いながらロゼッタは液状おやつを少量だけポリスに与えた。

子犬は喜んで食べており、同時にポリスの言葉が画面に表示される。


『うんめぇ~。やっぱこれがたまんねぇよ~。生涯の好み、早くも見つけちまったかな』


「偶然そうなっているだけなのかしら?さっきから口調が少し荒いように思えるわね」


「あぁ、そういえば言葉遣いも設定できるようにしてある。ちなみに初期設定は少年口調だ」


「少年……?今のところ、おっさん臭い気がするわ」


「そうか?ところでポリスって(めす)(おす)、どっちなんだ?」


「女の子よ」


ロゼッタの返事を聞きながら、煌太は事前に持ってきたメモを眺める。

しかし、それに全ての要素が記載されているわけでは無いらしく、彼は思い出して喋る様子だった。


「それならお嬢様、淑女、おばあ様、一般少女、幼女、ギャル、ヤンチャ、元気っ子、キテレツ、オタク、真面目、呑気、ヤンキー、擬音語主体の女子学生、ビジネス口調……あとは何があったかな」


「ずいぶんと豊富なのね。(こだわ)りを持っているのが研究員らしいわ」


「更に(えだ)分かれして、もっと細かな設定もできる。例えばお嬢様口調だとしても、母親が大好きな甘えん坊お嬢様もありえるだろ?そういう所も自由にしてある」


「ふふっ、それなら少女+元気な子ども+活発で前向き設定で良いわね」


「ん?それってつまり………」


ロゼッタが設定している横で、それがどのような結果を出すのか煌太は薄々感づいていた。

そして実際に設定した後、彼女はポリスに話しかけてみる。


「ポリス。調子はどうかしら?」


『はい!おかげさまで、ポリスはとても元気ですよ!』


「そう。私の言葉を理解しているのね。まだ幼いのに、とてもお利口さんだわ」


『ありがとうございます!褒められて嬉しいです!』


ほぼ内容が合っているのか、ポリスは元気に尻尾を振っていた。

ただロゼッタはイマイチそうな表情を浮かべていて、そのまま思ったことを口に出す。


「既視感があると思ったら………、これだとブルプラちゃんと変わらないわね。反応まで同じなせいで混乱しそうだわ」


「だと思ったぜ。じゃあ今度は俺が設定してみるかな。ツンデレ+キザ+ヤンキーっと。さぁポリス、何をしたい?」


『ふん!気軽に話しかけないで!あたいは他人に心配されるほど、ヤワな存在じゃないんだから!別に一緒に遊びたいとか、少ししか思ってないんだからね!』


「おぉ、中々いい感じじゃないか?ベタなのに新鮮な気分だ」


「煌太様って、案外変わった趣向をしているのね……。私は素直な方が良いわ。それにポリスらしさと犬らしさの特色が出た感じでにしてっと…」


またロゼッタはタブレットで設定を書き換える。

そして何か話しかけずとも、画面にポリスの言葉が表示された。


『ご主人様、ワタクシは遊びとうございまする。欲を言えば、遊び相手になって欲しいと願っております』


「あらあら、礼儀正しいのね」


「うーん、でもなぁ。それだと気取りすぎじゃないか?もう少し簡潔な方が良いって。……さて、これならどうだ?」


『我ポリス。遊ぶ。頭を触れ。ワイは寝るゾ』


「それはそれで気取っている雰囲気が出ているわ。次は呑気+お嬢様+ミステリアス+永遠の17歳アイドルで試しましょう」


「じゃあ俺は、ワガママだけど従順+執事+俺様系+貪欲(どんよく)で試すかな。ついでに政治家タイプも試したい」


『私がオヤツを既に食べた?そのような行為に及んだ記憶はございません。(しょく)した記録が無い以上、事実無根の言い掛かりに過ぎません』


結局二人の話は()れてしまい、翻訳アプリで遊び続けるだけの時間となってしまう。

また最終的には無難な妹口調で落ち着く形になり、他の独創的な口調に関しては動画のネタになるくらいだった。



――――――――――――――――――



またある日のこと。

自宅のリビングにて、ブルプラは愛犬ポリスとロゼッタを目の前に張り切っていた。


「ということで!今日はポリス様のために衣装を作りたいと思います!」


「ブルプラちゃんはポリスにまで様付けをするのね。この子は私達の妹として扱うよう決めたのに」


「ブルプラは妹相手であろうと、家族には様を付けますよ!親しき中にも礼儀あり、です!」


「そうなのね。ただそれよりも、まだポリスに衣装は早いんじゃないかしら。体格がしっかりするのはこれからなのよ」


ロゼッタは、自分の足元で転がって遊ぶポリスを見ながら応えた。

実際まだまだ成長の途中であり、日々成長する時期だ。

しかしブルプラは気にかけず、素直過ぎる願望を告白した。


「でもでも!子犬である時期は今だけです!それに本音を言ってしまえば、犬にコスプレをさせるのは夢みたいなものなんです!」


「……ポリスは着せ替え人形でも無ければ、遊び道具じゃないわよ。何よりコスプレに限らず、趣味は相手に押し付けず同じ仲間同士に留めなさい」


「うっ、うぐ……凄い正論パンチきましたね。ダメージレベル4で、即座に機能停止するほどの損傷を受けましたよ……」


ブルプラは大げさな事を言うほど落ち込むなり、床へ崩れ落ちた。

まるで駄々っ子みたいなリアクションだ。

そんな彼女の様子に見かねて、ついロゼッタは甘い態度を示した。


「しょうがないわね。外出用の服くらいなら許可するわ。チワワは寒さに弱いし、そろそろ冬が近いものね」


「はっ!?これはキラっとチャンス到来なのでは!?それでは、これをどうぞ!」


瞬時に立ち直ったブルプラは、すっかり元気ハツラツな表情で衣装を取り出してきた。

あまりにも態度の切り換えが早過ぎる辺り、どんな文句を言われても着せる魂胆があったのだろう。

まだ可愛いワガママで済む範疇(はんちゅう)だが、持ち前の素直さを利用する彼女に対してロゼッタは溜め息をこぼす。


「呆れた。最初から用意済みだったなんて、あなた着せる気満々だったのね」


「うぅ~そう失望しないで下さいよ!ほら!これはブレザー制服をイメージしたデザインですが、機能性はバッチリですから!お確かめください!」


「可愛いデザインね。でも、ポリスは犬だから見た目より………あぁ。どうやら、まずは臭いチェックから採点するみたいよ」


ロゼッタはタブレットを使い、ポリス専用の翻訳アプリを起動させる。

そしてポリスがブルプラ手製のブレザーを一通りチェックした後、画面には子犬の言葉が表示された。


『ふむふむ。ブルプラお姉ちゃんの匂いがするから、65点ワンねぇ』


「ちょっと微妙な点数じゃないですか?予想を超えて中途半端な感じが伝ってきますよ。それに、ブルプラの体臭が苦手みたいにも受け取れます」


「むしろ動物のような体臭が感じられないから、低めの点数になってしまっているんじゃないかしら。ブルプラちゃんは私と違って食物が摂取できないせいで、自然の匂いはまったく発生しないもの」


「た、確かに香水の匂いが強めかもしれませんが、なんだか悲しくなります。あぁ、最初会った時は無邪気に甘えてきてくれたのに……」


『ポリスは今でもブルプラお姉ちゃんのことが大好きだよ!いつも遊んでくれるし、一緒に寝てくれるもん!』


「本当ですか!うぅ~思いやりある妹が居てくれて、ブルプラは幸せ者ですよ~!」


ポリスは相手の反応に敏感な犬だから、おそらく気を遣って慰められているだけだ。

そのことにロゼッタは気づいていたが、告げるのは酷だから触れないように気を付けた。


「それで、この服はポリスからしてどうなのかしら?正直に答えて良いのよ」


『ブルプラお姉ちゃんの手作りなので合計で100億万点ワン!』


「驚きね。急に子どもっぽい点数配分になったわ」


ポリスは幼いから、そこまで真剣に考えた上で答えてくれたわけでは無いだろう。

だが、すぐに最高の点数を出してくれたのはブルプラにとって喜ばしく、飛び跳ねるほど舞い上がっていた。


「気遣いでも嬉しいです!そこまで高い点数で褒めてくれるなんて!では、早速試着してみましょうか!どうかなぁ~写真を何枚撮っちゃおうかなぁ~」


ブルプラは喜々としながらも、ポリスに丁寧に服を着せる。

サイズは合っていて、色合いやデザインからしても似合っている。

しかし、肝心のポリスは着衣した直後から固まっていた。


「あ、あれれ~?反応がおかしいですね………」


「尻尾の動きが止まっただけじゃなく、悲しそうな目をしているわ……。そして翻訳で初めて『不明』と表示されている。そんな言葉で言い表せないほど落ち込むなんて、こんな事がありえるものなのね」


「うぅ~何故なのですか~!でも、ブルプラは諦めませんよ!ちょっとビックリしましたが、絶対にポリス様が気に入る服を作ってみせますからね!精一杯に頑張ります!」


そうブルプラは決意を固め、彼女の目標が一つできた日となる。

そして最初に作った服は鈴を入れたボールへ形を変えられて、ポリスにとってお気に入りの遊び道具となるのだった。

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