19.新しい家族の一員+後書きに短編
ロゼッタがチサトの家へ行ってから数時間後のこと、煌太は自宅で驚き戸惑っていた。
リビングに見知らぬ子犬、それも確実にペットショップで飼って来たであろう一匹のチワワが、なぜかブルプラと仲良く戯れているのだ。
どちらも元気な鳴き声をあげていて、尚且つ派手な動きでリビング中を駆け回っている。
「……は?いや、え?いやマジでどうしたんだ?やたら犬の声が聞こえるなと思っていたけど、なんで子犬がいるんだ?」
あまりの予想外の事態に、煌太は誰かに訊くわけでも無く独り言をぼやいていた。
悪い意味でショックを受けたわけでは無いが、やはり混乱してしまう。
チワワの元気良さと人懐っこさからして、さすがに拾って来たとは思えない。
全身の毛並みも良好で、前々から手入れされているのは明らかだ。
とにかく漠然とした疑問しか残らず、チワワと遊び続けるブルプラに声をかけた。
「なぁ、ブルプラ。その犬、一体どうしたんだ?誰からか貰った訳では無さそうだけどさ……」
「あっ!煌太様!このロングコートチワワ、実はロゼッタさんが買って来てくれたんですよ!ブルプラもびっくりしましたが、すっごく可愛いですよね!」
ブルプラは眩しい笑顔で答えながら、黒色が目立つチワワを抱きかかえた。
適切な持ち方を教わったのか、まだ手のひらサイズとも言える子犬は尻尾を振って喜んでいる。
そんな一人と一匹の馴れ親んだ様子を見ることで、煌太は少しずつながらも状況を受け入れつつあった。
「あのロゼッタが?珍しいな。飼う事に反対はしないが、俺達に確認を取らないなんて。……でも冷静に考えれば、ビルを買った事に比べたら些細すぎる話か」
「まだ名前は決めてないそうですよ~!名前、名前~。何が良いですかね~!ロングベリー、チワンコ、メルコート……うーん、悩みます!これは悩むのが楽しい悩み事です!」
「名前は、まぁ好きに決めていいんじゃないか。よほど酷く無い限り、誰も文句は言わないだろ。それで肝心のロゼッタはどうしたんだ?」
「ロゼッタさんなら、自室を模様替えしている最中です!元から使っていなかったから、これを機に犬の専用部屋へ変えると言っていました」
「そうか。じゃあ、ちょっと様子を見てくる」
ロゼッタは、煌太からネット活動のための作業部屋と自室の二部屋を与えられている。
そして自室に関しては、ほとんど彼女の私服が整理されているだけの物入れと化していた。
だから犬を世話するための部屋に変えているそうだが、どのように様変わりさせているのか想像がつかない。
もしかしたら、犬が脱走しないよう厳重な警備態勢にしているのではと心配しつつ、煌太はロゼッタの部屋へ向かった。
「しかし、何に触発されたのやらだな。多分、動物番組かペット動画だと思うが………。何にしても、まだ小型犬で良かったぜ」
ロゼッタなら最大級の大型犬どころか、当たり前のようにクマを拾って飼いだしても違和感が無い。
または絶滅危惧種を飼育する場合もありえる。
それだけにペットショップから飼ってきてくれたのは真っ当な判断で、安堵すべき事態だ。
そんな偏見混じりの杞憂が払拭される中、まだ彼女の部屋へ向かう途中で大きな変化に気づくのだった。
「まさかこれ、犬に配慮してカーペットが通路全体に敷き詰められているのか。しかも部屋の扉には、犬が自由に出入りできるペットドアまで既に取り付けてある……」
自宅内の通路を歩いている段階から、早くもロゼッタらしさが満ち溢れていた。
ペットの世話経験が一度も無い内は、日常生活を送る中で少しずつペットに適した環境作りするのが一般的だろう。
それなのに、最初から完璧かつ万全な用意をしようとするのはロゼッタだからこそだ。
また部屋の中でも大規模な作業に当たっているらしく、かなり大きめの物音が鳴り続けていた。
そのため煌太は、安全確認の意味合いで扉をノックして呼びかける。
「ロゼッタ。部屋に入っても大丈夫か?」
「あら、煌太様。今ちょっと……、よし。まだ散らかってしまっているけれど、入室しても問題無いわ」
「じゃあ入るぞー」
煌太は気が抜けた声を発しながらも、念のため慎重に扉を開ける。
そして部屋の中を見た瞬間、あまりの情報量に混乱することになってしまった。
「げっ、なんだこれ?予想はついていたが、それでもこれは……」
ロゼッタの部屋だった空間は、ペットが遊ぶための施設に変貌を遂げていた。
他で言い例えるならば、小さな子どもでも楽しく遊べる遊園地だ。
トンネルや昇り降りするアトラクションが多く、様々なぬいぐるみとオモチャまで豊富に揃えてある。
更にはしっかりとした寝床を用意してあり、無数の監視カメラと空気清浄機などの設備も準備済みで、カーテンは時間に合わせて開閉する仕組みとなっている。
他にも種類豊富なブラシやら爪切り、シャンプーを含めたペットの生活用品も置かれている辺り、一段と気合が入っているように見受けられた。
「す、凄い道具の数々だな……。まさしく何でも取り揃えましたって感じだ」
「何が合うのか分からないから、リードの種類もいくつか買ってみたわ。……いえ、それよりも事後報告になってしまうけれど、いきなり犬を飼ってしまって申し訳ないわ」
「それは別に良いさ。小さい頃から俺も動物は好きな方だしな。むしろ、こうしてロゼッタが欲を出してくれたこと自体が嬉しい話だと思ってる」
「そこまで特別な事かしら?」
「だって、ロゼッタは必要最低限の物しか買わないだろ。ブルプラを見てみろよ。あいつなんて最初から自分の趣味に全財産をつぎ込んでいるぜ」
実はブルプラは、初めての同居時からお金を頻繁に使っている。
それは決して無駄遣いだと言いきれるものでは無いが、やや遠慮不足だったのは事実だ。
そして今では自分が遠慮不足になりがちだとロゼッタは気づき、少し後ろめたい気持ちを今更ながら覚えてしまう。
「確かにそうね。ただ私も散財癖が付き始めているから、もはや自分の事のように聞こえくるわ………」
「いや、俺は注意しているんじゃなくて、個人的な目的を持って行動しているのが嬉しいんだよ。ところで、部屋はまだ模様替えの途中なのか?」
「あとは被災対策ね。地震と火災、それと突発的な事故に備えた対策を施して、あの子……チワワを歩かせて、問題が起きそうな所を改善していくわ」
「ははっ、中々に過保護だな。そういう所もロゼッタらしい」
そう返事をしながら室内を見たところ、既に一通りの危険性を排除しているように思えた。
ただ、やはりロゼッタは完璧を求めるのだろう。
実際、彼女は模範的な考えと答えを持ち合わせていた。
「命は一つきりだから、快適安全に過ごして欲しいだけよ。そうなるように世話するのが、飼い主の責務だと思っているわ。命どうこうを、アンドロイドの私が語ってしまうのは変な話かもしれないけれど」
「そんなこと無いさ。むしろ命が尊いものだと認識しているのは、素晴らしい事だろ。そういえば……、犬の名前はまだ決めてないってブルプラから聞いたぜ」
「そうね。煌太様からの案があれば、是非とも採用したいわ」
「俺が名付けしていいのか?でもなぁ、俺のネーミングセンスは壊滅的だからなぁ。こういう場合、優羽の方が良い名前を付けてくれそうだ」
「では、ペットの紹介ついでに優羽様を家へ招待するわ」
「良いんじゃないか?あいつの事だから、文字通りに凄まじい勢いで駆けつけて来そうで怖く感じるが」
それから煌太が優羽にペットについての報告メッセージを飛ばして数分後、猛烈な勢いで玄関のチャイムが鳴らされた。
タイミングというより、この迷惑極まりない鳴らし方で誰が来訪してきたのか分かってしまう。
そして玄関扉を開けた瞬間、優羽は犬の鳴き声がする部屋へ駆けつけていった。
「おっ邪魔しまーす!そして子犬ちゃん、初めまして~!」
「お、おい優羽!あまり犬を驚かせるなよ!まだ今日が初日で、家に慣れてすら……って、聞いてるわけも無いか」
彼女を出迎えた煌太が玄関に取り残されるほどの勢いであって、大声で注意しても無駄だと彼は悟る。
とりあえず慌ててリビングへ行くと、そこには早速チワワを抱きかかえている優羽の姿があった。
その光景を居合わせていたブルプラが和やかそうな眼差しで眺めているが、煌太は面をくらう他ない。
「もう抱きかかえているし、犬も普通に優羽を受け入れてる………。この犬、実は誰よりも順応性が高いだろ」
「んまぁ~!私のお顔をスリスリしちゃうよ~!あー、まだほんのりシャンプーの匂いがするなぁ~!でも、この獣臭さも堪らんのですよ~」
「もっと優しく触ってやれよ。優羽は力加減が下手な時があるんだから」
「はっはっはー!さすがの私でも、小動物には優しく接する術を持っているよ!それとも、私の名前の文字をご存知無いのかな~?」
「優しい羽と書いて優羽だろ。とは言え、そこまで名前に沿った信念は持ってないだろ」
「あ~。年頃の乙女に対して、そんな失礼な事を言っちゃうんだ~。私は誰にでも優しいし、羽みたく空を舞える朗らさを持っているもんね~。ね、ポリス!」
いきなり優羽は会話の流れに合わない単語を発しつつ、チワワの顔を覗き込んだ。
その動作から察するものがあって、煌太は恐る恐る訊いた。
「ポリス?なぁ優羽……。なんか今、名前を呼ぶみたいな感じでポリスって言わなかったか?」
「うん、言ったよ。というより、このチワワの名前は今しがたポリスに決定しました!判決!この子の名前はポリス!」
「滅茶苦茶だな。提案じゃなく決定なのかよ」
煌太の言い分は尤もだが、どれほど的確な指摘でも優羽が聞き入れるわけが無かった。
むしろ彼女は自己肯定を高めていく雰囲気に満ちており、何も気にかけず子犬を可愛がる。
「ポリスって良い名前でしょ~。言いやすいし、こう……なんだか聞き馴染みがあるっぽい感じもするからね。どうしても嫌ならサツでも良いよ?」
「その二択ならポリスにしてくれ。しかし、どうして警察関連なんだ?」
「この子、毛色が黒いからね。だからポリス」
「ん?さすがに意味が分からな………えっ、警察犬のことを言いたいのか?あれは基本的にドーベルマンだし、そのチワワはロングコートと言って毛が長い犬種だぞ」
「細かい事を気にするねー。そこまで言うなら、煌太が名前を決めれば?飼い主の一人なんだしさ」
「じゃあ……、レオタイガーホーンケルべロス」
「ダッッッッサ!!呼びづらいし、絶対にケロちゃんとかに略されるやつ!もうダサすぎて逆にセンスあるよ!それにレオって部分、前に飼っていたペットで私が付けた名前じゃん!」
「う、うるせー。ここぞって時に口が回り過ぎだろ。それに思いついただけでも、俺からしたら世界的な大発見や発明と同レベルなんだぞ。ノーベル賞ものだよ、ノーベル賞」
結局、優羽と煌太の二人は仲良く言い合う始末だ。
そんな愉快な状況が続けられる中、折り合いを見てブルプラが仲裁に入った。
「ブルプラの意見としては、ポリスという名前に賛成ですよー。カッコいいし、正義感が溢れて利口そうな雰囲気がしますからね。それに、この子も覚えやすいと思います」
「でしょでしょ~!少なくとも、誰かが言った何とかロスよりは断然に素晴らしい名前だよ!ほら、ポリスって名前を言う度にニコニコしながら吠えてる!」
黒のロングコートチワワ、もといポリスはキャンキャン言っているが、そろそろ降りたいと訴えているように見える。
それでも優羽は赤ん坊を可愛がるように抱く姿を見ながら、煌太は全面降伏する態度で観念した。
「分かったから。もう完全敗北を認めるから、俺の案は忘れてくれ………」
「それじゃあ、名付け親の私が責任を持ってロゼッタちゃんに報告するね!さぁ行こうね、ポリス・レオタイガーホーンケルべロス!」
「なんで俺の失言に限って、はっきり記憶するんだよ。とりあえずロゼッタは通路に出て奥の部屋だ。ペットドアを付けているから、すぐに分かる」
「分かった!えっへへ~。ロゼッタちゃん、ポリスって名前を気に入ってくれるだろうなぁ~」
気付けば優羽が一番浮かれている様子で、子犬のポリスを抱えたままロゼッタが居る部屋へ向かった。
その向かう途中で彼女は煌太同様に犬のための環境作りに感心しつつ、目的地に辿り着くなりノックせず扉を開けた。
「やっほ~、ロゼッタちゃん!この子の名前はポリスに決まったよ~!」
開口一番に名前の報告をするが、何やらロゼッタは物静かな様子で床に座り込んだままだった。
作業が捗っている雰囲気どころか、行動停止しているように見える。
これは予想外な状況であって、優羽は心配そうにしながらポリスを降ろした。
「どしたの、ロゼッタちゃん?具合が悪いの?それとも前みたくパニック状態で悩んでいる?」
「あ、優羽様……。どうもいらっしゃい」
「うん、お邪魔するね」
「名前、ポリスにしたのね。良い名前だわ」
「聞こえていたんだ?それにしては、なんだかチグハグした様子だね。やっぱり悩み中なんだ」
「そうね。ただ、先に言っておくと犬………、ポリスのことで悩んでいるわけじゃないわ。それでも私の心配事、聞いてくれるかしら?」
神妙な面持ちという言葉が似合う様子であって、ロゼッタは本気で困っているようだ。
そんな彼女の調子に合わせて、優羽も真剣な態度で応える。
「私で良ければね。そして私が痛快な答えを与えてあげるよ」
「ありがとう。実は、子犬を飼い始めたのは私自身のためでもあるのよ」
「へぇ、そうだったんだ。でも、それって前々から動物が好きで興味を持っていたから飼ったとは違うの?」
「それもあるけれど、他にも理由があるのよ。今日チサト先輩に相談したことがあって、私は煌太様との関係性をフランクにしたいと伝えたの。そうしたら私自身が変わるのも一つの手段だと教えてくれたわ」
「えっと………あぁー、何となく分かった。このポリスちゃんで、もっと家族らしい関係を煌太と構築したいんだ。私から見ても、二人の間にある態度が堅苦しいなぁと思う事はあったからねー」
どれだけ完璧な環境を自宅内に用意しても、ポリスは犬で動物だ。
具合が悪くなることがある上、外の遊びを経験させる必要があるなど、些細ながらも多くの物事が付きまとう。
それらを通して煌太と話し合ったりすれば、今ある彼とロゼッタの主従関係に加えて、家族関係や仲間意識も合わさる事だろう。
そうなれば、お互いに接する態度のパターンが増えていくはずとロゼッタは考えていた。
少なくとも今は同じ立場で談笑しているとは言い難く、二人とも主従関係を気にかけて接する場合がほとんどだ。
これに関しては互いの立場や境遇に限らず、第一印象による影響が強い。
特に出会った頃ばかりのロゼッタは兵器らしい思考であって、煌太が本気で悩んでしまうほどだった。
そして優羽は、煌太がロゼッタに対する第一印象を知っていて、いくら同居していても簡単に関係は変えづらいだろうなと理解している。
しかも彼は家庭の事情により、家族と日常生活を過ごした経験が酷く乏しいと、あまりにも多くの要因が重なっていた。
「ロゼッタちゃん、そんなに気にしていたんだね。これから会社経営とかを始めて、色々と大変な時期になるんでしょ?難しいことは何も分からないけどさ」
「思い立ったのは、より忙しくなる前だからこそよ。多忙になれば煌太様と話す時間は減ってしまうだけじゃなく、子犬と遊んであげる時間も少なくなってしまうもの」
「あ、ちゃんとポリスちゃんを気にかけているんだ」
「当然よ。特に小さい頃は遊び相手になってあげないといけない、って情報があったわ」
ロゼッタは絶対的な事実みたく自信満々に語るが、やはりそれは犬の性格による。
肝心のポリスは独りで部屋中を駆け回り、ひたすら臭いを嗅ぐ行為を続けている。
それでも構って欲しそうにしないのは今だけで、きっと二人が同じ部屋に居合わせているからだろう。
そのため安心して遊んでいられる。
「ふぅん。じゃあ、あれだね。とりあえずポリスちゃん関係で、煌太と一緒の時間が増やしやすくなるのかな。遊びと散歩、あとはオヤツにトイレの世話をするとかでさ。それと躾の相談も必要でしょ」
「……でも、よくよく考えたら煌太様の手を煩わせるのは駄目な気がしてきたわ」
「えー、それくらいは手伝って貰いなよ。煌太だってポリスちゃんと仲良くしたいだろうし、一緒に苦労を分かち合うのが仲良くなる秘訣なんだよ。スポーツでチームワークが生まれるのも、一緒に頑張ったという事実があってこそだから」
「そうなのね。それなら煌太様に相談してみるわ」
「うんうん。ロゼッタちゃんは性急に事を成そうとする癖があるから、たまにはゆっくりとね。とにかく今日はポリスちゃんには家のことを覚えて貰って、ちょっとずつ慣れさせていこうか」
「えぇ、我が子のように可愛がるわ。どんな理由であれ、これからはポリスもブルプラちゃんや煌太様と同じ存在。大事な家族で、私に家族の在り方を教えてくれる子犬よ」
そう言った直後、ポリスはロゼッタが想定していない場所に用足しをしてしまう。
それに慌てふためくロゼッタの姿を見て、経験が無い事に関してはポンコツ感があるなぁと、優羽は一人思うのだった。
ある日のこと。
ロゼッタは野外で動画撮影をしながら、監視カメラを通して愛犬ポリスの様子をチェックしていた。
とは言え、まだまだ小さな子犬だ。
一日の大半は睡眠時間で、ロゼッタが帰宅していても眠っている最中なのは珍しくない。
「はぁ~……これがカワイイというものなのね」
ポリスの寝ている姿、そしてちょっとした寝相を観測してロゼッタは小さく呟く。
しかし、それが隙となってしまったのか。
ついうっかりブルプラの拳が彼女の顔面にヒットするのだった。
「あっ、ロゼッタさん!?大丈夫ですか!?」
「ぐっ……、だ、大丈夫よ。後ろに数メートル吹き飛んだだけだから。それに組手の撮影中に油断した私が悪かったわ」
「でも……」
ブルプラは言葉を詰まらせる。
なにせ組手の撮影と言っても、撮影場所は山崖の淵だったからだ。
また崖下には大森林が広がっている状態で、人であれば落下した際は即死を免れない高度となっている。
そしてロゼッタは崖に掴まっているものの、そう簡単に登りも降りもできない体勢となっていた。
それにも関わらず、ロゼッタはポリスの監視は欠かさない。
「ポリスが起きて……、鳴いているわ。あぁきっと寂しがっているのに違いない!行かないと!」
「へっ?まさか、そこから飛び下りるつもりですか?ブルプラでも無傷で済まされない高さですよ」
「ドローンで動物撮影をしている優羽様と煌太様のことは任せたわ!」
「えっえ?あの~?」
ブルプラが戸惑っている間に、ロゼッタは意図的に崖から落下してしまう。
その落下光景は恐ろしく、傍から見れば飛び下り自殺も同然だ。
しかしロゼッタは数十メートルある高さからの落下でも華麗に着地してみせ、すぐさま自宅へ走ってしまう。
もはやブルプラからすれば、訳が分からないまま彼女が忽然と消えてしまったようなものだ。
「うーん、相変わらずロゼッタさんは全力でカッコいいですねー。それに電車で移動する距離を走って行くなんて凄いです」
何にしろ、自分がロゼッタを心配する必要は無いだろうと結論づける。
そのためブルプラは、野生のリスを追いかけ回している優羽を追う煌太の所へ向かった。
一方でロゼッタが自宅に戻った頃には、愛犬ポリスは寝ぼけていただけで再び心地良い眠りへ落ちているのだった。




