表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/63

15.エゴサーチから始まる意識改革

ロゼッタが長旅から帰宅して更に一週間後のこと。

『ロゼプラ』は順調に伸び続け、まだ爆発的に人気を獲得している状態だった。

これについては予想を上回る出来事であり、非常に喜ばしい話だ。

ただ一つ気掛かりな事があって、ロゼッタは珍しくパソコンの前に座り込んでいた。


「ビルを使えるのは二ヵ月後の話。それを記念に初配信しようと考えていたけれど、このままだと勢いが衰えてしまうわ」


ロゼッタは変動するグラフを眺めつつ、数値の変化について考える。

彼女は考えうる限りのジャンルに挑戦しているつもりだが、それでも何かが決定的に足りないと感じていた。

そもそも大量に投稿しても動画という枠組み内に過ぎず、豊富なコンテンツを提供できているとは言い難い。

もっと具体的に言えば、動画以外の形でも楽しめるようにしなければいけないと思っていた。

それこそ企業チャンネルを見れば、イベントを主催する側として人々を楽しませている。


「とは言っても、さすがの私でもイベント主催なんて出来ないのよね。参加者を集うことはできても、連携が取れずに杜撰(ずさん)な結果を招くだけ。これも社員の力が必要だわ」


まだ内容は漠然としているが、やりたい事が多いと彼女は感じる。

特に、テレビ番組みたいに決められたスケジュールで色々なお題をレギュラーメンバーで盛り上げる、というのも一つの夢だ。

それに配信ではラジオ形式の事もしたいし、リスナーに親近感を持って貰えるような交流も取りたい。

正直、やりたいことを考え出すと止まらないが、まずは目先のコンテンツ展開について見つめ直した。


「そういえば前にブルプラちゃんと撮ったコスプレ衣装の写真、まだ商品の形にしてなかったわ。ふむふむ………、ファングッズねぇ」


ふと気にかけて自分の名前をネット検索へかけると、どれもロゼッタ自身に関係する事なのに認知していない情報が多くあった。

ファン自作の小物類、ファンアート、無数の書き込み、コラボ商品の告知やら自身に関するニュース。

その他にも、様々な視点による情報で形作られていて、それら全てに人間らしさが満ち溢れていた。


「そういえば、まともにエゴサーチをした事が無かったわね。ただ私がエゴサをしたところで、今求めている有益な情報は得られ………」


そう思って彼女はSNSや掲示文などの反応を見て、どうしても気になってしまう書き込みがあった。

それは『服装がいつもダサい』だ。

とてもシンプルな指摘で、これについてはブルプラや優羽からも指摘があったことだ。

実際、(いま)だにロゼッタはラフな格好というスタイルを変えていない。

そして、今この瞬間に気掛かりな要素となってしまい、彼女は似通(にかよ)ったコメントを更に調べあげていく。


『いつも無地の服で顔以外に華やかさが無い』

『動画内容に合わせた服装をしろ』

『日本は彼女に服を買ってあげるべきです。または流行を教えてあげて下さい』

『アンドロイド設定なのに、TPOやドレスコードって言葉が辞書に無さそう』

『うっかりで可愛い』

『これはこれで社会的に下品な恰好』

『色物センスだけど、たまに出るブルプラ様の方がオシャレを意識していて好き』

『フェティシズムを感じられない』


よほど動揺が激しかったのか、彼女は無意識に声に出して読み上げていた。

ただ一通り読み終えた頃には、声が僅かに震えてしまっている。

当然、もっと暴力性が高く排他的な書き込みもあるが、それは強い敵意と嫌悪感を持っているから理解できる。

しかし、服装の指摘に関しては純真な気遣いによる書き込みが多く、()たたまれない気分にさせられた。


「…そ……、そうよね。CM撮影の時は個性が出て分かりやすいと言われたけれども……。よくよく見返したら他の人はしっかりとした恰好じゃない!う、うぅ~!急に恥ずかしくなってきたわ……!」


近くに誰も居ないからか、彼女は滅多に見せることが無い弱気な態度を(あら)わにする。

更に椅子の背もたれへ深く寄りかかり、脚をバタバタとさせてしまうほどだ。

普通の人なら一人(もだ)えている光景というだけで済む話だが、彼女の蹴りは破壊的な威力が(ともな)っている。

よって彼女の振るう足が机に触れた瞬間、凄まじい轟音と共に机の脚を一本へし折ってしまうのだった。


「あっ!?きゃっ、ちょっと……!ひゃあ!」


それからガシャンガタンと、大きな物が連続的に床へ落下していく音が鳴った。

合わせて机を壁に密着させていたのが原因で、蹴られた机は勢いよく壁へ衝突した際に(へこ)みを作ってしまう。

さすがに慌てふためくロゼッタだったが。これが予想外の事態であるのは同居人にとっても同じこと。

そのため、今日は軍服姿のブルプラが彼女の部屋へ駆け込んで来た。


「ロゼッタさん!ついに出番ですか!?騒音の原因究明なら、ブルーブループラネット特殊部隊課にお任せ下さい!」


「い、いえ。そこまで事件性がある事なんて起きて無いわ……」


「あっ!?パソコンが倒れているじゃないですか!もしかして敵の遠隔操作でパソコンが襲ってきた……?でも、それにしては家全体が揺さぶられたような気がします!」


「だから落ち着いて、さっきの音は襲撃じゃないの。私が勢い余って机を蹴ってしまっただけよ」


「ん……、えぇっ?ロゼッタさんが机を?本当ですか?いきなり物に当たるなんて、今まで無かったじゃないですか」


「破壊衝動に駆られたわけじゃないわよ。ちょっと私自身のファッション……いえ、そんなことよりもよ!」


唐突にロゼッタは仁王(におう)立ちして、勇ましく声を張り上げる。

こんなヤケになった振る舞いを人前で見せるのも、おそらく初めてのことだ。

そのためブルプラからすれば色々と理解が追い付かず、あえて思考放棄することで冷静に応えた。


「いつになく感情の振れ幅が凄いですね。なんだか、とっても新鮮な気分です」


「それは些細な問題よ!とにもかくにも、今すぐ服を買いに行きましょう!今にして思えば、自社員の前でもラフな格好だったら示しがつかないわ!せめて、尊敬される程度には威厳を(たも)たないと!」


「あれ?既に面接を始めていると聞きましたが」


「……えぇ、そうよ。初対面に相応しい恰好では無かったみたいで、怪しい人を見る目線を露骨に送られたわ」


「一応、適した服装では無いと前から自覚あったのですね………。本当に今更感がある発言ですけど」


「正装が必要な事くらい分かっていたわ。ただ優先順位が低かっただけ。そして今、私が求めて止まないのは正装の方では無く、誰が見ても恥ずかしくないオシャレよ」


オシャレという単語が発された瞬間、ブルプラは意気揚々とした眼差しをみせた。

そして浮かれた気持ちを隠さず、素直ながらも大げさに喋り出す。


「おぉ!オシャレですか!まさかロゼッタさんの口から、その言葉を聞ける日が訪れるなんて!またとない奇跡ですので、今日をラグナロクと呼びましょう!そして、オシャレならブルプラにお任せ…」


「あくまで私に適したオシャレで、貴女の趣味に沿()ったものでは無いわよ。だから撮影用コスチュームと言った方が良いかもしれないわね」


「うーん?わざわざ撮影用と言ってしまう辺り、普段からオシャレしようという気持ちが芽生えたわけでは無いのですね。残念です」


「当たり前じゃない。私が日常的にオシャレをしても、服がすぐに破けてしまうもの」


「そうですよね。普通の運動服ですら、アンドロイドの挙動には耐えられません。そのおかげでブルプラ達向けに調整しないといけなくて、コスプレ衣装も特注品か自作のどちらかです」


そう言いながら彼女は軽く回って、今日のコスプレ衣装を見せつけた。

それはベレー帽を被った軍服姿だが、コスプレと呼ぶにしては本格的な素材を使っているのが一目で分かるほどだ。

つまり実戦で着用しても問題ない作りであって、その姿を見ながらロゼッタは話題を戻した。


「何にしろ、どのような服装にするべきか悩むわ。無難に、私を象徴するロゴマークが入った服が良いかしら」


「それならファングッズの宣伝にもなって良い感じですね。んー……でも、こうしてアンドロイド同士で相談するのはどうかなぁ~って感じです」


「なぜかしら?まったく無知なわけでは無いから、有意義な話し合いだと思うわよ」


「こういう時こそチサト様に訊きましょう!ブルプラのコスプレは真似事に過ぎませんし、やはり人間の感性に刺さるかどうかですから」


チサトは、ロゼッタに多くのアドバイスをしてくれている女性配信者だ。

今でも相談する事があるし、お互いに仲間意識を強く持っているつもりだ。

しかし積極的に連絡を取っているわけでは無くて、長時間の会話に至っては最初の一回きりとなってしまっている。


これについてはチサトが長時間配信者である事に加え、ロゼッタが絶え間ない動画投稿を継続させているのが原因だ。

本当なら用事が無くても連絡を取り合いたいくらいなのに、ただ単純に二人とも暇が少ない。

しかし、これを機に親密なプライベート関係も構築できればとロゼッタは思った。


「良い考えだわ。チサト様のアーカイブを見た時、彼女はいつも様々な動物を模したパーカーを着ていたの。本人は大の動物が好きで、それを一つの特徴に昇華させていたわ」


「確かチサト様は、主にゲーム配信をしていらっしゃるのですよね?動物を題材にした名作ゲームは多いでしょうし、それを欠かさずやるだけでも固定ファンが増えていくでしょうねー」


「本人に打算的な意図は無いでしょうけれど、どんな時もブレない配信スタイルというのは安心感があるものね。とりあえず、チサト様に連絡をとってみるわ」


それからロゼッタはパソコンを立て直し、入念にシステムチェックを繰り返してから通話しようとした。

すると意外にもチサトはあっさりと応答してくれて、通話を受けた相手が先に話し出すほどだった。


「どうもー……ロゼッタさん。あなたの最古参ファンのチサトですよー。何やら最近、目覚ましい活躍をしているみたいだねー…?」


「ありがとう。でも、私が無事に結果を出せているのは、何もかもチサト様の助言があってこそだわ。そうでなければ、ここまで芽が出る事は無かったもの」


「ふへへっ、よっしゃ……!」


何らかの作業をしているのか、なぜか気合が入った返事が発せられた。

そのせいでロゼッタは小さな違和感を覚え、さりげなく問いかける。


「え?もしかしてタイミングが悪かったかしら?」


「いや、何でも無いよー。それで例の如く……、まぁ私に相談ごとかな?」


「そうね。そろそろ生配信を始めたいと考えていて、撮影用コスチュームがあればと考えていた所なの」


「なるほどなるほど……。そこで私に連絡するってことは、私の配信スタイルをリスペクトしてくれているわけだねー。じゃあ、これからは尊敬の念を込めつつフランクに接せるよう、チサト先輩と呼んでも良いよー…?」


「とても良いわね。是非ともそうするわ。きっと私の場合、誰かを先輩呼びすることは他に無いもの」


「なら、これで私はロゼッタさんにとって唯一無二の存在というわけかぁ……。うぅ、今まで配信活動を続けてきて良かったなぁ~…!」


本心から感激していることが分かりやすいほど、涙ぐむ声で言われてしまう。

ここまで露骨な反応をされると、頻繫に連絡を取っていなくても察するものがある。

だからロゼッタはパソコンを操作し、ライトチューブに接続するのだった。


「……なにか妙だと思ったら、配信中だったのね。通りで芝居かかった喋り方をしているわけだわ」


「あっ、早くもバレたかぁ。さすがロゼッタさんは勘が鋭いねー」


「急いでいるわけじゃないから、別に配信中だと教えてくれても良かったのに」


「まぁアクシデント………は言い過ぎだけどさ、予想外の出来事は大勢と楽しまないとね。それに、ほら。私のチリ達から大物到来だとか歓迎コメントされているよ」


チリとは、チサトのリスナーの略称であり、(ちり)も積もれば強大という一体感を高める意味合いも兼ねている。

そのことをロゼッタは知っていたが、このままだと話が逸れると感じたため、今だけは話題を合わせる対応を避けた。


「チリ様達、ありがとう。しっかりと皆のコメントを拝読しているわよ。それでコスチュームの件だけれども、あとで相談した方が良いかしら」


「あぁ、ごめんごめん。そうだったね。私って、余計な話を無限に続けられるからさぁ。前も配信中にね、別ゲーやアニメの話題になってー…」


「もうしょうがないわね。そっちの家に行くわ」


「え?リア(とつ)?まさかの?というか私、住所不明のはずだけど。いつの間にか全世界に公開してた?」


「今しがた特定したの。とりあえず、このままだと相談が滞りそうだからお邪魔するわね。手土産を持っていってあげるから楽しみにしなさい、チサト先輩」


「はっ?うん?えぇー……?マジっすか?私からしたら怖い展開だぞー?」


チサトはずっと戸惑っていたが、まともな説明をしないままロゼッタは通話を切ってしまう。

それから引き続き相手のコメント欄を見ていると、まるでケンカ凸を期待しているような騒ぎになっていた。

ただ、そんな憶測をされてもロゼッタは弁明する気は無く、隣で大人しくしていたブルプラに声をかけた。


「ということで、チサト様のお宅へ失礼しに行くわ。いつも頼んでばかりで悪いけれど、ブルプラちゃんは煌太様の護衛をお願いね」


「それもブルプラ特殊課の仕事みたいなものですから、何も構わないですよ。ところで、チサト様の住所を把握していましたっけ?」


「さすがに確証は得られて無いわ。ただ前に一度、それらしいものを見つけたのよね」


「見つけた、ですか?」


「とにかく善は急げよ。押しかけに行って来るわ。遅くとも晩御飯の支度までには帰って来ると、煌太様に伝えてちょうだい」


ロゼッタはブルプラに言伝を頼むと、適当にプレゼントとなるモノを箱へ入れて、手早くラッピングを済ませる。

そして手荷物を持った状態のまま、自宅から歩き出して数分足らずのこと。

彼女は自宅から然程(さほど)離れていない場所で足を止めて、とある一軒家を見上げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ