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11.大食い

「ということで、(わたくし)め優羽がロゼッタちゃんに紹介する金策はこれでーす!」


天真爛漫(てんしんらんまん)な性格を最大限に活かしながら街中で声を張り上げたのは、おてんば娘の優羽だ。

そこそこ人通りが多い場所で金策というワードを使うせいで、不本意ながらも周囲からの注目を集めてしまう。

実際、女子学生が白昼堂々と口にするべきでは無い言葉だろう。

もちろん本人は気にかけず、とある民営食堂を前にして説明を始める。


「それで見てよ、この豪快な字で書かれた張り紙!濃厚三種の超絶ドカドカ肉ドン(どん)を一人で食べきれた場合、初回のみ賞金一万円を贈呈!」


「つまり大食いチャレンジね。正直、予想外の選択だわ」


「訊くの忘れていたけど、ロゼッタちゃんなら完食できそうかなぁ~と思ってさ!」


「ずいぶんと肝心な要素を確認しなかったわね。でも、問題を気にかけない思いきりの良さは優羽様らしくて素晴らしいわ」


「あれれ、もしかして食べきれない?」


ちょっと面をくらった口ぶりから考えるに、まるで完食できることを前提とした質問だ。

そもそもアンドロイドという時点で、普通ならば人間と同じ食事が可能だと思わないはず。

ただロゼッタは根本的に異なった存在であり、ずっと年下に喋りかけるような声色で答えてくれた。


「そう心配しなくても大丈夫よ。これは煌太様にも明かしてない秘密なのだけれど、私は無限に等しいほど食べられるわ」


「へぇ、そうだったんだ!無限なんて凄いね!ということは、ブルプラちゃんも呼べば良かったかなぁ~」


「あいにく私が特別なだけよ。彼女を含めた現代のアンドロイドは、人間と同じ食事行為は不可能となっているの。一から十まで機械だから当然の話ね」


「どういうこと?つくづく人間と変わらないなぁとは思っていたけど、ロゼッタちゃんは機械じゃないの?動物ってこと?」


「私は遺伝子組み換え超複合金属生物と言って、ブラックホールの現象に適応した粒子生物を元に………。とは言え、ややこしい説明は必要ないわね。早速お店に入りましょう」


最初の一言を発した時点で優羽が呆気に取られた表情を浮かべていたため、すぐにロゼッタは説明を打ち切って入店を促した。

それは正しい判断であって、既に優羽は目先の事へ思考を切り換えている。

自分が分からないことは深く考えないのが優羽のスタンスだ。

そして能天気な彼女は店の扉を開けるなり、他の客を気にかけず軽快な第一声を飛ばした。


「よっ、大将!今日も繁盛しているねぇ~!」


誰よりも早く言い出すものだから、店員は歓迎の対応より先に驚きの眼差しを向けていた。

この妙な空気感が滲み出ていることはロゼッタですら感じ取れて、すかさず優羽に問いかける。


「この反応、おそらく優羽様は常連じゃないわよね」


「うん!全くもって完全な一見(いちげん)さん!ロゼッタちゃんが連絡くれた時に、たまたま発見したんだよ!」


「感心するわ。私でも躊躇(ちゅうちょ)することをやってのけるなんて」


「えっへへ~。とりあえず空いている席へ行こうかな。ねぇ店員さん!あの張り紙に書かれている大食いにチャレンジしたいから、できたら広めのテーブル席が良いな!」


彼女の発言に対し、店員は立て続けに戸惑っていた。

どうやら大食いチャレンジすることが無謀だと思われているらしく、まず相手からはたしなむ言葉をかけられてしまう。


「その、いらっしゃいませ。………それで大食いチャレンジの話ですが、本当に大丈夫でしょうか?」


「大丈夫って?」


「まず食べきれなかった場合、代金として二万円を支払って頂くことになります」


「うん、知ってるよ~!ちゃんと余すことなく読んだからね!」


「それと大食いの量についてですが、13人分前もありまして………。加えて肉汁たっぷりの丼なので、並大抵の大食らいの方でも厳しく、記念という意味合いでチャレンジする方が大半です」


「そうなんだ!じゃあ記念になるね!」


あまりにも優羽の反応が軽薄に等しいため、店員は良心から本気で心配している様子だった。

ここまで念を押して止めようとするのも無理はない。

優羽とロゼッタの両者が典型的な未成年に見えるから、店員の勘からして結果が火を見るよりも明らかなのだろう。

しかし、ここにきてロゼッタは自分の目標のために前へ出る。


「彼女は連れ添いで、私が挑戦するわ。忙しい時間帯で申し訳ない注文だけれど、是非とも挑戦させてちょうだい」


「その眼……、本気という事ですね。そこまで強く言うのなら分かりました。では、奥の挑戦者用テーブルへどうぞ」


「あら、専用の特等席が用意されているのね。光栄だわ」


「はい。昔はドカ食いが原因で失神したり、喉詰まりを起こす人が居ました。ですので、なるべくトイレに近く、そして店員の目に入りやすい場所で挑戦するよう決められました」


「ふふっ、つまり挑戦者のために設けた決闘のリングというわけね。面白いわ」


心なしかロゼッタは闘争心を湧き立たせているようで、その顔つきは最前線で立つ歴戦の兵士と同じだ。

また何か思いついたらしく、彼女は店員に問いかける。


「それと別にお願いがあるのだけれど、撮影してもいいかしら。ここのお店と大食いチャレンジを紹介しつつ、迷惑にならない範囲でネットへ動画をあげたいの」


「えっと、もしかして名高い大食いファイターでしょうか?」


「いいえ。大食いについては初めての試みよ。ただライトチューブで活動していて………」


それからロゼッタが店員に事情説明した後、店長直々の撮影許可を得てから準備に取り掛かっていた。

条件は他の客を移さないこと、客の会話内容がネットに流れないよう対処すること。

また故意に批判的な内容を動画に収めないことの三つ。

そうして準備が進められている間、優羽は眺めることしかできないわけだが、とても浮かれた様子で彼女の行動を見ていた。


「うわぁ~。ロゼッタちゃんが生撮影している姿を見るのは初めてだから、なんかワクワクしちゃうなぁ~!ねぇねぇ、私は静かにしていた方が良いかな!?」


「いつも通りで大丈夫よ。今回は日常生活の賑やかさが伝わった方が楽しめるから」


「それじゃあ、エキストラってやつになるね!もしかして合いの手も必要かな!?」


「みんなに迷惑をかけたりしなければ気にしないわ。ただ合いの手って何かしら。初耳だわ」


「知らないの?ちょっと良いとこ見てみたい!さぁイッキ!イッキ!イッキ!ってやつだよ!」


ロゼッタにとっては聞き馴染みが無い掛け声だが、それでも飲み会で使われる一気飲みコールだと瞬時に理解した。

そして彼女なら冗談では無く本気でコールしそうであり、その光景を思い浮かべたロゼッタの口元は自然と緩まる。


「ふふっ、大食いチャレンジで一気飲みコールなんて斬新ね。でも、きっと危険行為を増長させるから禁止にするわ」


「うん分かった!それなら学校の昼休みだけにしておくね!」


「どのような状況か想像つかないけれど、いつの日か校内で責任問題が問われそうな話ね」


「大丈夫だよ!私がコールされる側で、私しかやってないから!ちなみに二リットルの水を一気飲み!そして私の得意な一発芸!」


「凄いわ。大丈夫な要素が皆無で感心しちゃう」


「とにかくウケが良いんだよね~。ショート動画を一度あげたとき、ヤバ過ぎてウケる~ってコメントが沢山あったし」


そんな彼女の話を聞きながらも、ロゼッタは一通りの準備とチェックを済ませる。

それから優羽に対して撮影における注意点を話した後、ようやく彼女は席の方へ着くだった。


「こほん。では、撮影を始めるわね」


「うん!どうぞどうぞ~!」


優羽からの了承を得て間もなく、ロゼッタはピンマイクと撮影用カメラを気にかけながら撮影モードへ切り換える。

それは声から表情、そして動作に至る全てが楽しそうで明るく、また陽気な雰囲気を保ちつつも礼儀ある振る舞いを意識したものだ。


「どうも皆様方ごきげんよう!ロゼッタ☆プラネットのロゼッタよ。ずばり今回は動画のタイトル通り、とてつもない大食いチャレンジに挑戦させて頂くわ」


撮影を始める前から編集した後の映像が完璧に思い描けているらしく、ロゼッタは初挑戦の企画内容でも流暢に前口上を述べて進める。

その様子で特に驚くべき点は、リアクションが大袈裟(おおげさ)過ぎないよう必要最小限に留めていることだ。

恐ろしいほど無駄をそぎ落としているけど、淡白になり過ぎないようにこな(・・)している様は、もはや台本通りに動いていると言っていい。


ネタ的な面白おかしさを損なわず、自然体なのに全体のテンポが良く、上手く紹介をしながら自分の特色を存分に活かす。

これには優羽ですら呆気に取られることで、マイクが拾わないほど小さな声で呟いた。


「えっ、すご……。いつもテレビや舞台で活躍している芸人さんとかは、多分こんな感じなんだろうなぁ」


この瞬間のみ、優羽は彼女の友達というよりお客様気分になる。

こうして間近に居るだけで心躍る気分になれるから、まさしく舞台鑑賞している最中だと断言して良いのかもしれない。

無性に()きこまれて、何も考えずに楽しめてしまう。


また、ロゼッタが作り出した空間を一緒に体験している感覚があって、ただ圧倒されているわけでは無いと思う部分があった。

多々ツッコミ所があるのに安定感と安心感があるのは、まさしく大衆が求める娯楽の完成形に近い。

そう優羽が考えている中、ロゼッタは事前に店長や店員、そして客から聞いたオススメや評判をさりげなく紹介しつつ、あっという間に本題へ入っていた。


「つまり、どれも満足度が高い料理を提供されているお店なのよね。そして私は究極の一品を頂き、その溢れんばかりの魅力を一気に堪能しちゃうわ。うーん、我ながら欲張りな性格!」


ひたすら愛想良く話し続けていると、やがて店員が重そうに一つの丼をテーブルへ運んできた。

ただし、それは丼と呼ぶにしては異常に巨大であり、横幅と高さは五段の重箱を大きく超えている。


「はい、お待たせしました~。濃厚三種の超絶ドカドカ肉ドン(どん)です。どうぞ、お気を付けてお召し上がりください」


「うわぁ~!これほど(すさ)まじいという表現が似合う丼は他に無いわね。特注の大丼に堂々と座る姿は、まさに王様!あまりの迫力に、この料理と一緒に記念撮影したくなるわ!」


より一層に輝かしい表情を浮かべて、はしゃぐ様子をロゼッタは演じた。

だが、いざ改めて説明するときは少しだけ声のトーンを落としては喋るのだった。


「この丼の魅力について、ざっくりと説明するわね。まずこの丼は三層となっていて、最初に主役を張るのはカツ丼!このお店自慢のトンカツが乗っていて、キラキラとした輝きを放っているの」


そう言いながらロゼッタはカメラを動かして、丼の頂上で食べ物とは思えない存在感を放っているトンカツを丁寧に映す。

優羽からしたら見ただけで満腹になりそうであるし、カツ丼の部分だけでも食べきれる自信が無いほどだ。

ひたすら巨大で、おそらくトンカツのみで4人前に匹敵するだろう。


「そして今お見せできないのが残念だけれども、二層目にあるのは牛丼!店主(いわ)く、白米とのバランスなんて度外視しているそうで、どれだけ牛肉を避けても下の白米が見えないそうよ」


「うわぁ胸やけ凄そう~」


「本当に恐ろしい話よね。でも、それだけに想像が難しくて、どうなっているのか期待しちゃうわ!そしてそして、そこまで進んだ挑戦者を最後に待ち構えているのは、みんな大好き親子丼よ!」


ロゼッタは間を不要に溜め過ぎず、疲れ聞きしないように細心の注意を払いながら上手く喋る。

これに編集を加えることで常に新鮮な印象を与えるわけだが、だからと言って飽きさせない工夫ができるのは容易では無い。


「これまた質の高い卵と鶏肉が存分に使われていて、おいしく食べられるよう店主は最大限に工夫して下さっているのよ。とても素晴らしい親切だけれども、このボリュームある料理を提供する辺り…」


それからもロゼッタは前向きな姿勢を崩さず、好意的な言葉のみを選んで語る。

店と料理、そして店長の人柄に好印象を与えるように(つと)める様は、視聴する人によっては深く感心する要素だ。

これほど気立て良く清廉潔白(せいれんけっぱく)な振る舞いに(てっ)せるのは、彼女がアンドロイドだからこそと言えるかもしれない。


噓偽り無い思考パターンを作り出せて、それを最初から最後まで完璧に実行できるのは、よほどの訓練と経験を積み重ねた人間でも困難だ。

そしてロゼッタは前口上が長すぎると感じれば、自分の()さを下手に見せつけず、躊躇(ためら)いなくシーンをカットするだろう。

今、彼女が一番に優先すべき要素は自身の評価を上げることより、大勢の人がのんびりと楽しんでくれる事だからだ。


「さて、そろそろ猫舌の私でも食べやすい温度になったわね。それでは店員さん。待たせてしまって申し訳ないけれども、開始の合図をお願いするわ」


「はい。では、カウントを始めさせて頂きますね。時間制限は50分。それでは………始め!」


店員がストップウォッチを作動させた後、ロゼッタは綺麗な(はし)使いでトンカツを食べ始める。

食べ方も上品で一回(ごと)咀嚼(そしゃく)にも気遣っていて、誰が見ても料理が美味しそうに感じさせるだろう。

むしろ大きいのが贅沢で羨ましいと思わせるから、どこか不思議な気分で優羽は呟いた。


「ロゼッタちゃんは凄いなぁ。真剣な表情でスッと食べているだけなのに、私も挑戦したくなっちゃう雰囲気だもん」


やがて10分ほどかけて、ロゼッタは早くも上段のトンカツと白米を食べきる。

次に迎えるのは中段の牛丼であり、まだ半分にも達していない。

この途中経過を見て、やはり店員は心配する視線を送っていた。

思っていたより早いペースで食べているが、当然ここから食事のペースは格段に落ちてくる。


もちろん、それは人間に限った話であり、ロゼッタは一瞬も速度を落とさずに食べていく。

ただし彼女は食べている途中、唐突に店員を呼び掛けた。


「店員さん、すみません。先に一つ注文をしたいわ」


それから小声で耳打ちをすると、店員は明らかに仰天して目を見開く。

何を注文したのか気になるところだが、あえて優羽は見守る観客で居続けるのだった。

そして何の問題も無く、ロゼッタは牛丼の部分を突破して下段の親子丼へ到達する。


丼の形状上、下へ進めば進むほど残りの量は少なくなるところだが、この大食いには手抜かりが無い。

器は寸胴な鍋と変わらない形になっているから、最初から最後まで量は均等だ。

ただ残りの親子丼は器の奥底へ眠ってしまうため、あとは食べやすいように通常の容器へ移すことになる。


「ついにゴールが見えて来たわね」


ロゼッタはスタート前と何も変わらない涼しい顔で呟いた後、勢いよく食べ続けた。

それどころか水を飲む余裕っぷりを見せつけるほどで、気づけば店内に居る客達からの注目と関心を集めている。

食べ終わる前から感嘆する声が多くあがっていて、付き添いである優羽は何度も質問される有り様だ。


そうしてスタートしてから僅か30分後。

終わりが近づくほど声援が増える中、ものの見事に彼女は完食しきってみせた。


「ごちそうさまでした」


「えぇすごっ!本当に食べきっちゃった!」


机の上、容器、箸、受け皿、食べ終わった彼女の姿。

それら全てが綺麗な状態に維持されたままで、周りからは歓声とどよめきが聞こえてきた。

また祝福を受けるに相応しい姿を見せた彼女に店主は感激したらしく、手書きの表彰状まで用意してくれていた。

更には店側が記念写真まで撮るほどで、それを挑戦用のテーブル近くに飾ると言い出す始末だ。


「いやぁ、ロゼッタちゃんは凄いなぁ!いざ実物を見た時、これは無理なんじゃないかなぁと私思っちゃったもん!」


「食べ進めていくほど、見た目以上の手強(てごわ)さが秘められていたわ。お腹の調子は問題無くても、気持ちがいっぱいなりそうだったもの」


そう人間らしい反応で返してくれるが、実際は何一つ危機感を覚えてないだろう。

その証拠に………、なぜか先ほど食べきったものと全く同じ料理がテーブルへ運ばれてくるのだった。


「えっと、お待たせしました。濃厚三種の超絶ドカドカ肉ドン(どん)。……はい、二杯目です」


あまりの出来事に対し、ロゼッタと店主を除く全員が青天の霹靂(へきれき)に見舞われた様子だった。

大半が仰天し、ある者は恐れ(おのの)き、一部からは短い悲鳴があがる。

中には調子が良い言葉をかけてくれる人も居たが、まさか本当に二杯目を食べるとは思っていないだろう。

あの優羽ですら険しい表情を浮かべていて、一瞬だけ正気を疑う気配が含まれていた。


「これ本気なの?」


「えぇ、本気よ。賞金は初回限りだけれど、二度目以降は完食すれば無料なの。だからせっかくだし、この機会にエネルギーチャージしようと考えたわ」


「もうよく分からないよ……。でも、ロゼッタちゃんが食べるなら私は応援するよ!ただ無理はしないでね!」


「ふふっ、安心しなさい。ここだけは撮影無しに、手早く終わらせるわ。ちなみに一気飲みコールしても良いわよ」


それからロゼッタは恐ろしい事に、本当に水を一気飲みするスピードで食べ終わらせてしまう。

最早ぺろりと(たいら)らげるなんて表現より、漫画の大食いキャラみたく消失させたと言った方が適切だ。

何より料理が運ばれた十数秒後には消えているから、ついには店主を含めた全員が、どこへ料理を消したのかと見渡し始めてしまう。


「二度目になってしまうけれど、ごちそうさまでした。つい二杯目も完食するくらいにおいしかったわ」


「いやいやいや、それはいくら何でもありえないでしょ!もし煌太が動画を見ても、その発言は信じられないって!」


「つまり信じられないほどの衝撃を与えられた、って事ね。忘れられない思い出が出来たみたいで良かったわ」


「確かに衝撃的な思い出にはなったけどさ……。もう、本当にロゼッタちゃんは皆を驚かせてくれて凄いなぁ」


「ありがとう。これからも頑張るわね。それと、これから締めの挨拶を撮影するわ」


すぐにロゼッタは満腹になった演技をしながら、動画のための撮影を始めた。

あとは表彰状や賞金を受け取る場面を映像に収めて、その場に居合わせた客達からの反応も本人から許可を得て撮り入れる。

そして一通りの撮影を終えたとき、何人もの客達からネット活動について聞かれ、更には色々な言葉が送られるのだった。


「なんかネットで動画をあげるんだって?どういう名前で活動しているんだい?」


「いやぁ凄いねぇ。是非ともまた、この店でアンタの食べっぷりを披露して欲しいねぇ」


「びっくりし過ぎてファンになっちゃった。今度、何か食べ物を送るね」


「二杯も食べたんだ。もう世界中の大食いでチャンピオンになれるだろうねぇ。どうせなら世界王者を目指してくれよ。ここで会えたのが自慢になるから」


この出来事はロゼッタにとって予想外であったが、普段より柔らかい物腰で対応した。

よく見れば彼女の表情がにやついている。

それは嬉しさのあまり出てきた反応であることに優羽は気づいていた。

そんな様子が長く続いたが、ようやく彼女が周りから解放された後、優羽は二人一緒に店を出てから話しかけた。


「ロゼッタちゃん、お疲れ様!すっごく楽しそうだったね!しかも良いお店で、見送りまでされちゃったし!」


「本気で宣伝したくなる店だったわね。それにしてもコメントの賞賛は素直に喜んで受け取れたのに、なぜか直接的な交流で褒められると気恥ずかしくなってしまったわ」


「応援もそうだけど、こうして近くで言葉をかけてくれた方が色々と伝わるからね!そしてこれからも頑張るぞ~って、自分の原動力になる!」


「そうね。それと同じ気持ちを覚えたわ。少なくとも、みんなの純粋な表情は強い印象として残ったもの」


いくら称賛に尽くした文面であっても、そのコメントより自分の目で反応を確認できる方が印象強いのは当然だろう。

そのおかげで、自分が進む道は大変ながらも素晴らしいものだと再認識できた。

更に周りの声が如何(いか)に大切なのか、よく理解できた。


「あとみんなが楽しんでくれた上に、良い宣伝にもなったよね!」


「………そういえば、活躍が(ともな)った活動には大きな影響力があるのね。単に娯楽を提供するだけでは、決して得られない手応えがあったわ」


「応援と期待してくれるファンが増えたみたいだし、きっと口コミの広がりも増えるよ!もしかしたら、ロゼッタちゃんの活動が噂されるようになるかもね~!」


「これは良い兆候よね。一万円獲得より遥かに大きな収穫だわ。それに……、自分だけだったら思いつかない発想を得たわ。本当にありがとう、優羽様」


そう言ってロゼッタは笑顔で優羽に感謝を述べると同時に、自分の中で新たな決意と方法が生み出される。

チャンネル登録者100億人を夢物語で終わらせないよう、絶え間ない活動と新たな展開を求めないといけない。

そして、この思いついた方法こそが、ロゼッタ☆プラネットを一番大きく躍進させる出来事となるのだった。

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