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10.資金不足を見据えて脱ぐ

ロゼッタは所持している全てのパソコンを遠隔操作しながら、編集作業や動画エンコード等を進めていた。

そして、その片手間に動画の撮影や家事を終わらせることで、もはや組織運営のようにチャンネル更新を続ける日々となっていた。


「それにしても、このままだとパソコンが足りないわね。SNS等の広報活動でも稼働させているから、肝心の配信ができないままだわ」


ロゼッタは編集作業を終える(たび)に、その編集速度と技術を格段に跳ね上げていた。

だから今では端末が多ければ多いほど、その動画投稿の頻度を上げることが可能となっている。

また、最近は様々な人の配信を積極的に視聴しており、配信に対する姿勢の勉強も進めていた。


まさに不眠不休の活動が可能かつ、同時進行で作業しても支障が無いアンドロイドにしか不可能な(わざ)だ。

そのため、一部のリスナーからは『本当に未来からきた人造人間で、むしろその方が納得する』という一説が出ているくらいだった。


「チャンネル登録者も増えてきたわね。……いえ、それ以上に再生回数の増加が嬉しいわ。なぜか視聴者層は年代問わず、男性の比率が圧倒的に高いけれども」


始動開始から早一ヵ月、『ロゼプラ』のコミュニティは絶え間ない活動のみならず、新たな展開を模索している。

今は最初に公開していたジャンルを更に増やし、勝手にCM化してみたシリーズ。

子どもの遊び、または海外の遊びを超全力でやってみたシリーズ。

なんでも解説、なんでも紹介シリーズ。

募集した家事の豆知識を実践シリーズ。

更には制作系の動画も始める準備に入っていて、一週間経過する(ごと)に投稿する動画の種類が増えていく一方だ。


「この調子を継続させるとなれば、もっと受け入れやすいように公式サイトと専用アプリを用意しないと駄目ね。どちらにしろ、まずは端末不足を解消しないと……」


やがて起こり得る問題に備えるため、ロゼッタは煌太の作業部屋へ向かう。

当然ながら端末を増設するためには資金が必要で、彼の協力が必要不可欠だ。

ただ、いくら煌太が前向きに協力してくれているとは言え、今回ばかりは一から十まで自分勝手な要望に過ぎない。

だから、どうしても中々に気が進まない頼み事だと彼女は感じていた。


「お邪魔するわ、煌太様。ロゼッタよ」


それでも躊躇(ためら)っている時間が惜しく、ロゼッタは彼の作業室に入る。

そこでは相変わらずマイペースに作業している煌太が居て、彼女の入室に気が付くなり作業の手を止めた。


「どうした?また何か()(よう)か?」


「そう言ってくれて、いつも申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。ただ今回は少し毛色が違う頼み事で、私用のパソコンを増やしたいの」


「あぁ、そのことか。チャンネルを見た感じ、あれこれとやっているみたいだからな。もう一台くらいなら用意できると思う」


「いえ……。その、とても伝え難い事なのだけれども、あと十二台は欲しいのよね」


十二台と答えられた瞬間、思わず煌太は室内を見渡した。

それはカメラを探すような動作であり、そういう動画ネタの撮影だと思って言い返した。


「十二台って、それマジ?おねだりドッキリとかじゃないよな。現時点で三台用意しているわけだから、合計で十五台にもなるぜ」


「これは、あくまで要望よ。だから無理にとは言わないし、現実的な観点から却下してくれて良いの。酷いワガママを口にしていることは、充分に自覚しているから」


「うーん………。ロボット研究会の先輩を通せば、何台かは融通を利かせてくれると思うけどさ。仮に用意できたところで、その台数は家に置けないだろ」


「そういえばそうね」


「いわゆる、スタジオ(けん)事務所が必要だな。あと管理するための人員も必要になる。今にして思えば、100億人を目指すってことは相応の事務処理班が居ないといけない」


煌太は組織運営するために部署が必要というのは、学生の身分でありながらも理解していた。

実際、今はロゼッタが強引に一人で兼任しているだけだ。

これは端末で処理できる事なら良いが、必ず人の手で処理すべき物事が出てくる。


そうなれば人員不足から(つら)なるマンパワー不足、そしてロゼッタのキャパシティオーバーが発生するのは避けられない。

やがて本末転倒を迎え、いくらアンドロイドである彼女でも活動を続けるのは不可能になってしまうだろう。

それらの問題を踏まえ、ロゼッタは根本的な部分に焦点を当てて応えた。


「つまり、これから活動の幅を更に拡大していくためには、何にするに当たっても資金が足りない状態なのね」


「資本金ってやつだな。正直、今の貯金からして難しい話だ。とは言え、まだ活動履歴が浅いから、有名企業のスポンサーが付くわけじゃないしな」


「スポンサー……。話が飛躍しているような気がしてしまうけれど、それくらいのお金が必要になってしまうのね」


「銀行からの融資とクラウドファンディングって手もある。あとはグッズを売って地道に(たくわ)えるとかな。他には……、最終手段として親父のお金を使い切ってもいいが」


煌太の父親、つまり神崎(かんざき)博士の財産に関わる話が出てきてロゼッタは戸惑う。

それほど身を削って貰おうと考えてないし、早急な助力を求めたつもりでは無い。

そのためロゼッタは、つい強い口調で否定した。


「それは例え冗談だとしても、安易に言って良い事では無いわ。それだけは絶対にイケナイ判断よ」


「いや、本当に使い切っても良いんだ。ただ、そこまでして急ぎ足で物事を進めるのは難しい気がする。要するに、まずは事務所の用意を小目標にしてくれってことだ」


ざっくりとしているが、煌太は即座に次の道を示してくれた。

それだけでもロゼッタからすれば相談した甲斐(かい)があり、心強くなれる要素だ。

そして彼は真摯に対応しながら、知人との連絡を付けるためにスマホを手に取る。


「とりあえず、親しい先輩に事情を説明しておくよ。用意するのは配信用とかじゃなく、作業用パソコンで良いんだろ?」


「えぇ、余計な手間をかけさせてしまって申し訳無いわ」


「なぁに、そんな大した手間じゃない。それにロゼッタも、自分から必死に手段を模索している。だから、その頑張っている姿勢が報われて欲しいだけさ」


「……ふふっ。本当にありがとう、煌太様」


それから二人は軽く挨拶を交わしてから、各々に次の行動を起こした。

煌太は自分が所属する研究会繋がりで知人に連絡し、ロゼッタは次にブルプラへ相談する事にした。

ネット交流という分野ではブルプラの方が見識は深く、その歴も長い。

だから相談相手にはうってつけだと思い、すぐさま彼女の部屋前まで移動した。


「ブルプラちゃん。今、部屋に入っても大丈夫かしら?」


扉を前にしたロゼッタはノックした後、一声かける。

すると扉越しから、彼女の無邪気な返事が聞こえてくるのだった。


「一応大丈夫ですよ~!」


「一応って何よ。……とにかく了承を得たから、遠慮なく失礼するわよ」


扉を開けると、その先は意外にも女の子らしい雰囲気で包まれた部屋が広がっていた。

華やかな小道具を丁寧に飾り立ててあり、化粧品や衣服を収納しているタンス等は綺麗に掃除されている。

まさしく整理整頓を心掛けた空間であって、持ち物を大切にする性根なのが伺えた。


ただし唯一、彼女が愛用している机の上には裁縫道具が散乱している状態だ。

また、当の本人は下着姿の状態で居るのだった。


「なぜ肌を露出しているのかしら。もしかしてブルプラちゃんは、自室では裸で過ごすタイプだったの?」


「それは違いますって。今、どの冬セーラーへ着替えようか悩んでいた所なのです!」


「本当に好きね。ひとまず、そこのカーディガンを羽織(はお)りなさいよ」


「えぇ~。でも、下着にカーディガンって変じゃないですかぁ~?」


「じゃあ何でも良いから早く着なさい。それより、私は相談したくて来たのよ」


早速ロゼッタが本題に入ろうとしている中、ブルプラは呑気に長シャツを着始めながら応えた。


「相談ですか?あっ、分かりました!いつもの撮影協力についてですね!今度はどんな役割を(にな)うのか、楽しみだなぁ~!」


「それもあるけれど、今は案が欲しいの。そして率直に言ってしまえば、資金不足という問題に直面しかけているのよね」


「資金不足?中々に現実的な問題ですねー。どれくらい足りないのですか?」


「まだ細かく見積もってないわ。ただ煌太様の反応を見た限り、けっこうな額になりそうなの」


お金の問題は、アンドロイドでも容易に解決できることでは無い。

だから普通なら悩む場面なのだが、ロゼッタが告白した直後、ブルプラは(こころよ)く反応してくれた。


「金額に寄りますけど、少しならブルプラの財布から貸せますよー。えっと……多分、300円くらいまでなら問題無いです!」


「ありがたい申し出だけれども、お金を無心しに来たわけじゃないわ。あと私は駄菓子でも買うつもりなのかしら」


(ちり)も積もれば、ってやつです!それに300円あればガチャガチャとか、シール集め企画ができますよ!」


「興味深い話ね。でも、これ以上は話が()れてしまうから、質問の仕方を変えるわ。要するに、どうにかして必要経費分を稼ぐ方法を知りたいの」


もはや小遣いを欲しがる子どもの会話内容だ。

どこか漠然としていて、堅実的では無い上に稚拙(ちせつ)

だが、意外にもブルプラは乗り気な様子で即答してくれた。


「それなら、とても美味しい話がありますよぉ~!ロゼッタさんの協力があれば、多分……いえ、絶対にうまくいきます!」


「何故かしら。貴女が絶対という言葉を使った途端、とても大きな不安が膨れ上がるわ」


「絶対の絶対に大丈夫ですって!私の案なら、今すぐにでも実行できることですから!」


それからブルプラは慌ただしく準備に取り掛かるなり、自分の衣装棚から様々な衣類を取り出してきた。

また、ロゼッタと共に衣装を着ては髪型まで都度(つど)変え、別室でポーズを取りながら写真を撮り始めた。

この状況から考えるに、どう見ても個人の撮影会だ。


しかし、こうして写真を撮り合っている間、ロゼッタは全容を理解しきる前に彼女の勢いに流され続けてしまっていた。

ひたすら相手に押し切られてしまっているが、どのような意図があって行動しているのか薄々察している。

それでも一通りの撮影を終えてから、彼女はブルプラに問いかけるのだった。


「ねぇ、なぜ私もコスプレみたいな事をしないといけないのかしら。それに……、着飾っている自分に違和感があるわ」


そう言ってロゼッタは自分のドレス姿を怪訝そうに眺める。

実は(きら)びやかでキュートなドレスを着るなんて、今回が生まれて初めての経験だ。

そもそも日常生活どころか、動画撮影時でもラフな服装というスタイルは変えて無い。

そのせいで、改めてオシャレする自分に抵抗感を覚えていた。


まして特殊なテーマを意識したファッションショー状態であり、一般的なオシャレとは異なるから余計に違和感が強い。

そんな彼女の心配をブルプラは一切気にかけず、笑顔のままマイペースに語り出してきた。


「ネットでは自分の写真集を出せますからね!あとロゼッタさんが培った編集技術があれば、何とかなります!」


「そうは言っても、必要とされる技術は似て非なるものじゃないかしら……。でも、ブルプラから協力してくれたこと。だから精一杯に努めないといけないわね」


ロゼッタが心からの愛想笑いを浮かべると、今だけ付けている薔薇(ばら)の髪飾りと相まって端麗さが増す。

元より彼女の金髪は輝いて見えるほどで、何をしても絵になる素材だ。

そしてロゼッタの魅力を存分に発揮させている姿を見れば、きっと煌太でも彼女を異性として意識するはずだろう。


「その意気です!それに、この経験が活きる時が来るかもですからね!いえいえ、絶対に来ますとも!」


「何度目の絶対よ。もしかしてブルプラちゃんは、わざと私の不安を煽っているのかしら」


ロゼッタが横目でブルプラを見ると、彼女は大げさな素振りで驚いた表情を作った。

しかも、どう考えても演技臭い声の抑揚(よくよう)付きだ。


「えぇ~!ブルプラがロゼッタさんを煽るなんて、そんなこと絶対の絶対にありえませんって!」


「了解、つまり途中から意図的だったのね。その構って貰おうとするワガママは好きだわ。……それにしても、どうして撮影用の照明機材とかがあるのよ」


「私が買おうとした矢先、煌太様に相談したら作ってくれました!」


「その話を聞いたら、私達って結構甘えさせて貰っているわよね。いきなり押し掛けた存在には変わりないはずなのに、ずいぶんと恵まれた環境だわ」


先ほど煌太は先輩に連絡すると呆気なく言ってくれたが、実際は連絡一つで済む用件では無いはずだ。

つまり見えない所で彼は誠意を尽くしてくれているわけで、いつも感謝の気持ちでいっぱいの日々だ。

そう思いながらロゼッタは喋り続けた。


「とりあえず写真をデータにまとめて、それっぽく仕上げてみるわ。色々とびっくりしたけれど、貴女なりに協力してくれて助かるわ」


「完成品が出来上がった暁には、是非とも煌太様と一緒に鑑賞させて下さいね!そういえばですが、最近ではボイス販売も売り上げが伸びやすいとか何とか!」


「検討しておくわ。あぁそれと、これから私は優羽様と出かけるから留守番を頼むわね」


いつもならブルプラは本心から喜んで留守番を引き受ける。

どんな内容だろうと他者に頼られること自体が最高に嬉しく、彼女にとっては褒美そのものなのだ。

しかし、今回はちょっとした引っかかりを覚えているらしく、率直に驚いていた。


「えぇ!?優羽様とデート!?前は煌太様ともデートしていましたし、ロゼッタさんばかり羨ましいなぁ~」


「あらあら、貴女はいつも煌太様とお(うち)デートしているでしょ」


「まさか留守番って、そういう意味だったのですか!それは気づかなかったです!じゃあ、今すぐデートらしいことしないといけませんね!」


「二人でババ抜きかしら?」


ロゼッタは元の私服へ着替えながら、非常に投げやりな冗談を返す。

対してブルプラは相変わらず誠意ある態度で答えるのだった。


「いえいえ!お家デートは、ベッドの上でイチャイチャするのが定番だと漫画で覚えました!」


「楽しそうで良いと思うわ。ただし、あまり騒ぎ過ぎず、なるべく作業の邪魔はしないようにね」


「大丈夫です!いざとなったら煌太様の隣で、個人的にマイブームな一人でも楽しめる一人遊びをしますので!」


「そうなの。まるで頭痛で頭が痛い話をするのね」


「ちなみにバランスボールとトランポリンを同時に使った遊びでして、私達アンドロイドならではの体幹が要求されます!あ、絶対に物を壊したりしないので安心して下さいね!」


そう言ってブルプラは愉快気な様子のままウインクしてくる。

だが、それはロゼッタからすれば前振りにしか聞こえず、帰った頃には家が半壊している状態を覚悟しなければならないと思うのだった。

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