第5話 世界で一番固い果実
私の目の前には高級な食材の数々が並んでいる。
サーティ様が痛み止めのお礼として送ってくれたものだ。
……きっと今までで一番美味しいアイスが作れるわ♪
ふん♪ふふ♪ふ~ん♪
私は鼻歌を歌いながら仕込みに取りかかった……
………
……………
…………………
「……って、違ーーーう!!!」
私は世界一固いと言われるコッチンの実を床に思い切り叩き付けた!
コッチンの実は跳ね返って私の顔面を強襲する!
私は咄嗟に顔をずらして避けたが、頬に一筋の切り傷が入った。
……果物の癖に生意気ね!
コッチンとの死闘の末、コッチンの実は半永久的に凍結された。
ふう……
果物が粋がるからこうなるのよ……
……はっ!私は何をしてるの?
アイス作りは目的じゃなくて手段なの!
楽しんでどうするのよ!?
でも、食材に罪は無いのよね……
コッチンは重罪だけど。
結局、私は心の中で鼻歌を歌いながら仕込みをした。
「出来た!!」
目の前には光輝くアイス(比喩表現)が鎮座している。
「……元手無しのこのアイスを高く売りつければ丸儲けになりそうね♪ここは強気に1個100ゴールドにするわよ!……だけどラクトとかおばあさんみたいな常連客には普通に食べて貰いたいから10ゴールドくらいにおまけしとこうかな」
初見さんには悪いけどこれも商法の1つだから騙されても文句は言えないわよ!
「……そうね。このアイスは大金を落とす魔物になぞらえて『ゴールデンアイス』と名付けるわ!」
だが、いざ販売を始めると客の全員が常連客だったため、予定していた売上の丁度1割になった……
「こんな筈では……」
「全部売り切れたのに落ち込んでんだな……」
「物凄く美味しかったわよ♪スノウちゃん、元気だして!」
そ、そうよね!元手がかかってないから痛手にはなってないし、全員が常連客って事はそれだけ私のアイスが人気って事だもんね!
「ありがとう、2人とも!元気が出たわ!まだ食材の残りもあるから明日も楽しみにしててね♪」
「……………」
私は使命を忘れる呪いにでもかかっているのだろうか?
楽しみにしててね♪って何!?
人間を楽しませるために王都に来た訳ではない!
思い出せ!思い出すのよ!人間にされた仕打ちの数々を!!!
…………
………………
……………………
……あれ?特に無いわね。
そう言えば、私が戦争で頑張ったのは魔王国の内乱だけで、人間と関わったのは王都に来てからが初めてだったわ。
義務教育で人間を憎む事を常識として教えられたから真に受けちゃったみたいね。
まさか……刷り込み?
ははは♪そんな、まさかね。
だが、人間を憎んでいない事がはっきりとした所で、私が魔王様から情報収集と王都の内部撹乱の命を受けているのも事実。
さて、どうしたものか……
!!?
凍ったコッチンの実を眺めていたら、急に頭に閃きが訪れた!
「コッチン!ありがとね!」
私に傷を負わせた恨みのせいで、溶かしてはあげられないけど……
私は早速仕込みに取りかかった。
「おはようございます♪眠気覚ましのアイスはいかがですか?」
「今日は朝から元気だな。……ってこれ、アイスか?」
「そうです!果物をそのまま凍らせてます。果物本来の甘味と徐々に溶けていく際の食感の違いを楽しんで下さい♪」
「まあ、物は試しだな………って旨いな!」
「そうでしょう。そうでしょう♪」
何せ使っているのは高級食材である。
まあ、凍らせ具合は私の腕なんだけどね♪
しかも、一番の利点は……なんと言っても仕込みが楽!!
私だって、たまにはゆっくり寝たい日もあるのよ!
「あらあら♪私も食べてみたいわ♪」
ラクトが色んな果物を食べて全て絶賛していると、おばあさんがやって来た。
あれ?
「おばあさん、杖は?」
「もう足も腰も痛くなくなったから置いて来たの。スノウちゃんのアイスのおかげよ♪」
「?」
腰を曲げて杖をついて歩いていたおばあさんが、背筋を伸ばして二足歩行に進化している。
わ、私は一体何を見せられているの?
おばあさんは受け取った固いアイスをシャクシャクと音を立てて食べている。
昨日までは固いからと言ってすぐには食べ出さなかったのに……
どうやら顎もパワーアップしているようだ。
「固い物を気にせずに食べれるって幸せよね♪」
おばあさんの笑顔は爽やかだった……
「なあ、嬢ちゃん。ずっと気になってたんだが、これ何だ?」
「コッチンの実を氷付けにした物です」
「これがコッチンの実か!初めて見たぜ!」
私の中で無駄になる食材などありはしない!
コッチン……あなたの罪を償わせてあげる。
精々衆目に晒されて見世物になるが良いわ♪
心の中で高笑いをしながら果物に対して勝ち誇っていると、コッチンを飾っていた台が急に傾いた。
あ、危ない!!
私はコッチンを受け止めたが閉じ込めている氷自体が予想以上に重く、コッチンもろとも押し潰された。
「……きゅう………」
「嬢ちゃん!大丈夫か!?」
「スノウちゃん!」
私は薄れゆく意識の中、コッチンに対する恨みが3倍増になるのを感じていた……
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