5 波乱
光にからかわれて言い返す。
このやりとりを五分程続けていた。
しばらくすると、廊下をドタバタと乱暴に走ってくる音が聞こえた。
その直後、部屋のドアが勢いよく開き、誰かが入ってきた。やむを得ず私達は一時停戦した。
「ゴルァァアア!!!!!人が眠ってんのになに騒いでんだてめぇはぁ!!!!!!!」
若い男の人が扉を全開にして仁王立ちで叫んでいる。
その声に負けじと光も叫んだ。
「うるせぇのはてめぇだ若禿!!」
確かに薄めだが、禿というほどではないだろう。
「んだと女顔!!」
「あ!!!人が一番気にしてることを!!!」
「だから言ったんだよ!!俺だって毎日頭皮マッサージしてんのにこの量なんだから仕方ねえダロこの野郎!!!!」
「かっわいそ〜。俺その気持ちわかんねえわ」
「あんまり大人からかうと痛い目みんぞ」
「へぇぇあんた大人だったんだぁ」
「んだとクソヤロ―――――」
男の人の怒りが頂点に達しようとしたとき、後ろから何かが飛んできた。
“スパ――――ン!!”
それは男の人の頭にヒットして落ちた。
「ス、スリッパ・・・・?」
スリッパが飛んできた方向を見てみると、1人の女性が立っていた。
身長は170センチ以上ありそうだ。
年は30前だろうか?
「いい加減にしなあんたたち!!!」
「「すんません」」
気がつくと、光と男の人が土下座をしている。
「毎日毎日喧嘩して!!!いつになったら飽きるの??・・・・・あら、林檎ちゃん、おきてたの」
「あ、おはようございます」
つい条件反射で答えてしまった。
しかし、この人達は誰だろう?年の離れた兄弟だろうか。
「林檎ちゃん、シャワーあびといで。服はあたしが貸してあげるよ」
「ありがとうございます・・・」
「美月のはでかすぎるんじゃねぇか?身長全然違うだろ」
これは男の人の意見だ。
確かに、この美月というらしい女性の身長は170を越していそうだが、林檎は150程しかない。
「そうねぇ。でもあたしの小さい頃のはないし・・・」
しばらく考えたあげく、大人2人は光の方を見ていた。
その視線に気づいた光は、呆れ顔でため息をつく。
「男物着せてどうすんだよ」
それを聞いて、美月が光の耳元でなにかをつぶやき始めた。
すると、光が顔を赤くして鼻を押さえた。
手の隙間からは赤い液体がポタポタ垂れ、男の人が急いでティッシュを持ってきた。
美月は腹を抱えて笑っているが、林檎には状況が読めなかった。
「ひ、光!?どうしたの!?」
「い、いや!!これは別にそういうことじゃなく!!!」
「???」
「ヒカちゃん、林檎ちゃん意味わかってないよ。あたしが教えてあげよっか?」
美月が笑いをこらえながら言った。
しかし、光がそれを阻止しようとしている。
「オイ馬鹿!!ヤメロ!!!」
そのやりとりを聞いているうちに男の人が笑い出した。
「美月、そのへんにしてやれよ。男のサガなんだから」
「ふ〜ん?じゃあ渚もあたしがそういう格好したら鼻血出す?」
「・・・さぁ?」
その瞬間、林檎の視界が暗くなった。
「ふぇ!?」
驚いて変な声をあげてしまった。
「林檎、自分の耳ふさげ」
どうやら光が両手で目隠ししたようだ。
林檎はそれに従った。
だが、ものすごい音と声が隙間から聞こえてしまった。
“ドカッバキッメキメキ”
「ギャー!!助けてくれ光!!!」
・・・だんだん声が聞こえなくなってきた。
声が完全に聞こえなくなると、光が手を離し、目の前の状況がなんとなく理解できた。
光が男の人の変わり果てた姿を見てこう言った。
「うーん・・・今のは渚が悪い」
・・・どうやら男の人は渚というらしい。