3 昔話
結局その日、光は私と目を合わせようとはしなかった。
その後も林檎には近づこうとせず、ろくに会話もしないで一週間が終わってしまった。
しかも日を追うごとにやつれていくように見える。木曜日の体育の授業では、貧血だと言って不参加だったほどだ。
さすがにたえきれず、放課後に文字通り光を捕まえた。
腕を鷲掴みにされて逃げきれないと悟ったのか、おとなしくその場にじっとしていた。
やはり目は合わせてくれないが。
「何?」
「光、こないだからへんだよ。なにか気に障ること言ったなら謝るけど、話しかけても聞いてくれないなんて」
「・・・」
「なんとかいってよ!!」
「・・・最近・・・」
「!?・・・何?」
小さくて聞き取りづらかったが、次はハッキリと聞こえた。
「体のどこかに痣みたいなのがなかった?」
「!?」
林檎には身に覚えがあった。
だから少し驚いて光の目を見つめた。その瞳は黒く、どこまでも深い。しかし、場所によって微妙に色が違うようだ。
不思議な瞳・・・。
「痣が・・・あるんだね?」
「・・・うん」
光の様子がおかしくなったあの日、帰宅後すぐに風呂に入ったのだが、風呂場にあった鏡を見て驚いた。
「何・・・コレ・・・」
鏡をのぞき込むと、右の鎖骨のあたりに上を向いた矢印のような痣が出来ていた。
大きさは3センチ。
色は灰色。
「昨日まではなかったのに。どうしたんだろ?」
触ってみたが、特に変わったカンジはしなかった。
他に異常があるわけでもないので、その時はほおっておいたのだ。
「・・・あるよ」
「ヤッパリね。どこにある?見せて」
「やっぱりって?どうして知ってるの?これが何か知ってるの?」
「確認してからじゃないと話せないよ」
「見せたら、隠してること教えてくれる?」
「俺が考えてるものと合ってたらね」
「わかった」
私は制服のリボンをとり、ワイシャツのボタンを2つ開け、右の襟を広げた。
そして右の鎖骨、つまり痣を指差した。
「ここ」
光は私の痣を見つめてため息をついた。
「アタリだ。教えてあげるよ、その痣の正体。鏡持ってる?」
「うん」
「それで自分の痣を見てて」
私はポケットから鏡を取り出し、痣を見た。
「よく見てな」
そう言って光は私の痣に軽く触れた。
その時、痣に変化が起こった。色が変わり始めたのだ。
「ウソ・・・」
瞬く間に痣が変わっていき、とうとう水色に変わってしまった。
「なにしたの?」
「触れただけさ。俺の目を見てて」
素直に従い、光の目を見た。綺麗で真っ黒な瞳の中に深い青色をした矢印が浮かんでいる。
「同じ・・・?」
「そうだよ。そのまま見てて」
そう言って光は私の痣から手を離した。すると、光の瞳の矢印がすぅっと消えていった。
「なくなっちゃった・・・」
「痣を見てごらん」
自分の矢印を見てみると、さっきの水色から灰色に戻っていた。私はワケがわからず、自分の頬をつねった。
とても痛かった。
「夢じゃないよ。現実さ。この痣はテイワズっていうルーン文字だよ」
「テイワズ?なにそれ?」
「林檎、君は俺のコンフォーマー、つまり適合者さ」
「適合者?」
「うん。俺のパートナーだ」
ますますワケが分からない。
ルーン文字というものは聞いたことがある。古代、古くから使われていた文字だ。その文字にテイワズというモノがあるんだろうが、パートナーとはどういうことだろう?何が適合したのだろうか?
「いいかい?今から言うこと、よく聞いて」
昔々、天の世界に神々の楽園があった。
神は人間を作り、その人間の社会の発展を観察し、真似することで暇をつぶしていた。
ある時、人間が戦争を始めた。神々はそれも真似をした。
ランドピープル(陸の人々)とシーピープル(海の人々)、この二つに分かれて戦うことにした。しかし、神々は戦うすべを持たない。そこで、人間の真似をして兵隊を持つことにした。人間と同じ形の生き物を52人作り、ランドピープルとシーピープルに26人づつ分け、区別が付くように体のどこかに印を付けた。ランドピープルは赤、シーピープルは青。その際、ルーン文字を用いた。26文字のルーンを1人1人に、その文字ごとに違う能力を与えた。つまり、同じルーンで同じ能力を持つ兵士が相手国にもう一人いるということだ。
最初は兵士達だけを人間界に送り込んでその様子を見ていたが、同じ力量の者同士で戦ってもなかなか決着がつかなかった。
そこで人間を使おうと考えた。人間は時に思わぬ力を発揮することがある。その力を利用し、兵士達一人一人のエネルギーの波長がピッタリ合う人間(適合者)にもルーンを付けた。兵士達は同じルーンを持つ数人の適合者からエネルギーを吸収し、強くなっていく。そうして個人差を付けたのだ。
兵士とその適合者は自然と引き寄せられる。
そして互いに触れ合って初めて適合者は秘められていたルーンのエネルギーが開花する。
神々はどちらが勝つか賭けをして楽しんだ。
しかし、ある時。
神々が喧嘩をし始めた。
ランドピープルが強い。いや、シーピープルの方が強い。そっちは卑怯だ。そっちは卑劣だ。
こうしているうちに暇つぶしのゲームは本物の戦争となっていった。
ちょっと意味がわかりにくかったと思います(^^;)。わからなかったところがあればジャンジャン教えてください。評価もしていただけるとありがたいです。