13 二人目の渚
いや、松下早恵は別にサディストではないんですよ(。・_・。)ノ"
ただ他人の問題に茶々入れるのが楽しいだけなんですよ。
つまり、現在光君。遊ばれてます☆
放課後。
私達は屋上のど真ん中に立っていた。・・・一人をのぞいて。
光はフェンスの上に座っていて、態度はいつもの光に戻っていた。
「約束があるんだろ?早く話しなよ」
早恵はいつになく挑発的だ。そしていつになく楽しそう。
そんな早恵に対し、光は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「ダレのせいだろうねぇ?☆」
・・・いつもより少し声が大きい。
怒ってるなぁ。
「でもそうだねぇ。早く終わらせたいもんねぇ?じゃあ早速・・・」
そういいながら光がフェンスから飛び降りる。そして早恵の目の前、あと50センチ程の距離まで歩いてきた。そのまま早恵を見下ろし、口を開く。
次の瞬間、まるで別人のように低い声が聞こえてきた。
「何のつもりだ」
うわぁ。
たった今何人か殺してきましたみたいな顔してる。
それでも早恵は動じない。
「すごいね。二重人格?」
「ちげぇよ。人を病気みたいに言うな」
「わかってるよ。演技だろ?」
この間も二人は動かない。光は眉間にシワを寄せて早恵を上から睨みつけ、早恵は下から探るように覗き込む。
「・・・それで?」
「なにさ」
「とぼけんな。弱み握って脅してやろうとでも考えてんだろ?」
「そう思う?」
「違うってのか」
「ちょっと違う」
「なんだよ」
光の眉間のシワが深くなってきた。どうやら早恵ののんびりした喋り方が気にくわないようだ。
「別に金出せとかは言わないよ」
「・・・?」
「あんたの芝居も黙っといてやる。それどころか、協力しようとしてるんだよ?私は」
「は?」
一瞬だけ光の眉間からシワがなくなったが、またすぐに深く刻み込まれた。
「もちろん条件はある」
「・・・だろうな」
「あんたがみんなに隠してること、私に全部言いな」
早恵は自信満々に光の胸を人差し指で突いた。
まさか早恵・・・何か感づいてる?
「・・・何を話せってんだよ?特に隠してる事なんて――――――」
「無かったら演技なんてしないと思うけど?」
「・・・」
「あれ?言えないの?まぁ無理にとは言わないけどね。じゃ、私は本屋に行く予定があるから」
そう言うとクルリと向きを変え、階段の方へ足を踏み出した。
「待て!!」
「・・・言う気になった?」
「・・・あぁ」
返事を聞いた早恵は再びこちらに近寄ってきてその場に座り込んだ。
「契約成立☆」
「・・・はぁぁ」
「早恵、やっぱりすごいね。光のこんな悔しそうな顔見たことないかも」
「ありがと。さぁ、座って座って」
なんだか渚さんよりも強引なやり方だが、これでよかったと思う。
協力してくれるらしいし。
座ろうとしたとき、耳元で小さな声がした。
「ルーンのことは言うな」
光だ。
さすがに林檎もそのぐらいのことは承知している。
「・・・えっと。中学の時になるが・・・俺は少々目つきが悪くて、不良どもに絡まれることがしばしばあった」
「少々?」
「・・・なにか?」
「いえ、続けて下さい」
「・・・そのせいでよくケンカをしてて・・・別に自分から進んで向かってったわけじゃないし、相手に怪我負わせることだってほとんどなかった。それでも、学校ではいつも問題児扱い。俺が怪我して登校したらすぐに呼び出しだ。・・・それも数ヶ月したら無くなったけど」
「なんで?」
「怖いからさ。俺がそういう奴らと関わりがあることが。そのうち殺られるとでも思ったんじゃねぇの?・・・仲の良いヤツがいなかったわけじゃない。俺みたいなヤツが他にも数人いたからな。でもこのままじゃ家の奴らに迷惑がかかる。実際学校に呼ばれたこともあったし」
「で、家族のためにイイ子ちゃんになったわけだ?」
「・・・イイ子になったつもりはねぇよ。ただケンカをやめるために絡まれないような人間になろうとしてんの」
「ふぅん?・・・ケンカは無くなった?」
そう早恵に問われると、首を小さく横に振って答えた。
「やっぱり、俺を良く思わない奴らはたくさんいて・・・よく登下校中に待ち伏せされる」
「え?そうなの?じゃあ光が毎日遅刻してくるのは・・・」
「・・・そりゃ遅れるわけだ」
「・・・」
光の目がまた遠くを見つめ始めた。
そんな事があったとは・・・だから遅刻の理由をはっきり言えなかったのか。
でも「UFOにさらわれかけた」というのは正直言ってやりすぎだ。
「うーん。それは悩みモノだね。でも怪我して学校来たことはないような気がするんだけど?」
「ん?あぁ。ここ一年半ぐらい強いヤツに襲われることがなくてな。大抵はどうにかなる」
それは場慣れというやつの所為では・・・?
「ふぅん、そっか。・・・さすがに待ち伏せを無くすことは出来ないけど、学校のみんなに気づかれない為の協力ならできそうだね」
「・・・松下」
名字で呼ばれたことがないからか少し驚いたようだが、すぐに元の調子に戻って応えた。
「何?」
「なんで協力しようと思うんだ?何かお前にメリットでも?」
確かに。
本気で対策を考えてくれている様子だが、早恵にとっては他人事でしかないはずだ。
すると、早恵はまた挑発的な笑みを浮かべてこう言った。
「そんなの、面白いからに決まってるじゃん」
そういえば、前に趣味を聞いた時「人間観察」と言っていたような気がする。
彼女にはその人の言動から性格や考えを読みとる能力があるようで、よくクラスメイトをプロファイリングしている。
あ、だから光が演技をしていると気づいたのかも。
「・・・やっぱり、渚2号だ」
「・・・うん」
「???・・・あ」
早恵が思い出したように光に目を向けた。
「約束は?」
「・・・あ!!」
光が勢いよく立ち上がり、携帯電話を取り出した。そして後ろを向いて誰かに電話をし始めた。
「あ!!南!?」
『――――――』
「あぁ。悪い!!待たせちまって」
『――――――――――――』
「そうか。今家か?」
相手の言葉が聞き取れない。
林檎と早恵は互いに目配せをすると、光に気づかれないように近づいて耳を傾けた。
『今―――を歩いて―――――』
「あぁ。じゃあ今から行くから」
『――――そっちに―――――か?』
「ダメ。くんな」
『なんで!!!―――ちゃん、ひど――――』
「うっさい。それと・・・何やってんの?」
あ、バレた。
「気にしないで。続けて下さい」
「アホ。盗み聞きしてんなよ」
「別にいいじゃないか。減るもんじゃなしに」
『―――ちゃん。誰―――――――のか?』
相手の人が2人の存在に気づいたようだ。
光はめんどくさそうにこちらをチラリと見た後、階段に向かって歩き始めた。
「気にすんな。とりあえずそっち行くから待ってろ」
『じゃ――オレもそっち―――――――』
「だからくんなっつったろ?メンドいから」
『わかった!!!ツンデレだ!!!』
「耳元でふざけたこと叫ぶな!!切るぞ!!!」
『わっ!!ちょっ――――』
ツ――――ツ――――ツ――――。
「・・・・・・・・・ツンデレかぁ」
「人の顔見て呟くな」
「林檎、ツンデレはデレて初めて成立するものなんだよ」
「あ、そっか!!まだツンだ!!」
「へんなこと吹き込むな。そしてツンデレはやめろ」
「そうだよね、まだツンだもんね!!」
「・・・林檎、ちょっと黙ろうか?」
電話の相手はたぶん、今朝校門のところにいた長身君だろう。
もしかしたら彼は、自分よりも光のことを知っているかもしれない。
なんだか少し気になってきた。