11 困惑
話が前後してしまってすみませんm(_ _)m
早恵の「ショタ」発言により、光は爆発寸前です。
“ドオオォォォオン”
どうやら間に合ったようだ。
林檎の目の前には直視出来ないほどの惨劇が広がっている。
・・・とりあえずえぐれた地面だけは埋めておこう。
「この゛くそアマ゛ァァァアアァァアアア゛!!!!!!」
“バキバキッバタァァン”
あ、桜の木が・・・。
男の人ってみんなこんなに力が強いんだろうか?
もしかしたら女性でも出来るのかもしれない。
試しに近くの壁を突いてみた。
「えぃっ」
・・・やめとけばよかった。
ひとしきり暴れ回ったところでダラリと肩を落とし、ゆっくりとこちらを向いた。
そしてゆらゆらと近づいてくる。
怖すぎる。逃げた方がいいのだろうか?
どうしようかと迷っているうちに、とうとう壁際まで追いつめられてしまった。
「ひ、光?せめてその目やめようか。なんか肉食獣に見えてきたよ?ね、ねぇ・・・」
聞こえていないのだろうか。
無言で両手を伸ばしてがっしりと捕獲されてしまった。
というかこれは・・・抱きつかれているのか?
そのまま力強く抱きしめ続け、4、5回深い息をした。
落ちとこうとしているのかもしれない。
・・・抱きつく必要があるのかはわからないが。
そしてゆっくりと離れていった。
「・・・ふぅ・・・悪いな。どぉもあの手のヤツは苦手なんだ。なんかイライラする」
「・・・渚さんに似てるから?」
「へ?」
「早恵って渚さんみたいなところあるよね?人の心の中探るの上手いし」
「・・・そうか・・・渚・・・あぁ、だからこんなにデジャヴを感じるわけだ」
「でも渚さんはもっと大人っていうか・・・計画性あるよね。早恵は探りを入れてるかんじ。で、しっかりと人の弱みは握ってしまう・・・」
「それはそれでタチわりぃな」
そこで話は中断されてしまった。
何故なら光が暴れた時の轟音を聞いて教員たちが駆けつけたからだ。
しっかりと不審者用の武器まで用意している。
見つかるといろいろと面倒なので倉庫の中に隠れることにした。
「爆弾かぁ!?大砲かぁ!?」
「何じゃこりゃ!!まるで象が暴れたみたいじゃないか!!」
「いや、象が暴れたところで地面はえぐれないでしょう」
様々な詮索をしているようだが、倉庫の方までは来そうにない。
「・・・なぁ」
「何?」
光が扉の隙間から外を覗きながら目を細めている。
何かを見つけたのだろうか?
「あれ・・・俺がやったのか?」
「え?あれって?」
「あの折れた木と・・・地面」
「少なくとも来たときはもっとキレイだったね。・・・覚えてないの?」
「・・・嘘だろ?」
「私がやったって言うの?」
「んなわけあるか」
・・・もしかしてあの怪力は男性でも珍しいのだろうか。
「光は何か特別なトレーニングでもしてるの?」
「そんなことするくらいなら昼寝する」
「普通の男の人って木を拳一発で折ったり出来ないの?」
「・・・お前は俺達をなんだと思ってるんだ」
そうか。出来ないのか。
では何故光には出来たんだろう?
「特別な鍛え方をすると出来たりしない?」
「・・・板ならまだしも、桜の木を人の力で折るなんて人間じゃな――――――」
何故かそこで固まってしまった。
光は口を開けたまま、まばたきを繰り返している。
「光?」
「あぁぁあああ!!!!????」
びっくりした。
いきなり大きな声を出したと思ったら、「鏡!!林檎!!鏡!!」とパニクり始めた。
当然そんな大声をあげると外にも聞こえるわけで、先生達がこちらに気づいてしまった。
「そこかぁぁあ!!」
そう言いながら一人が走ってくる。担任の秋本先生だった。
慌てて跳び箱の裏にある掃除道具入れのロッカーに2人で飛び込んだ。
音はたてないようにしたが、もしかしたら見つかってしまうかもしれない。
心臓がすごいスピードで鳴り始めた。
だが、すぐに林檎はもっと大変なことに気がついた。
狭いロッカーだ。もちろん人が隠れるためのモノではない。2人ならなおさらだ。
光に抱えられるように入ったので、顔を光の胸に押さえつけ、肩を抱かれる格好になっていた。
二の腕のあたりから抱きついていたさっきとは違う。もっと包まれるような感覚。
18センチの身長差がひしひしと伝わるその体勢は、光を別人のように感じさせた。
光は細身の女顔だが筋肉はしっかりとついているし、身長も平均的で声が高いわけでもない。
肌色は白い方。目鼻立ちはくっきりしていて、正直言って綺麗だ。でも女装が似合うかと言われるとそうでもない。
実は光は、林檎が思っているよりも“男の子”なのかもしれない。
入学当時はあんなに女の子のように可愛い子だと思っていたのに、その可愛さが作り物だと知ってしまったからかもしれないが、最近はゴツゴツした手や広い肩幅の方に目がいくので可愛くは思えても女の子には見えなくなっている。
今林檎は、その“男の子”に抱かれているのだ。
肩を抱いていない方の手は林檎の頭に添えられている。足元にはバケツなどが置かれているのでさらに狭くなっていて、膝と膝とが密着していて暖かい。
とうとう林檎の心臓は早鐘のように鳴りだした。
「・・・林檎」
「ふぇい!!??」
「・・・何だよ“ふぇい”って」
「な、何でもない」
驚きすぎてまた変な声が・・・。
だって、いきなり耳元で囁くから・・・。
「あいつら、行ったぞ」
「あ、うん」
「出るか」
「そうだねっ」
「・・・?大丈夫か?顔色が良くないような・・・」
そう言いながら林檎の頬に手をあてて近くで顔を覗き込んできた。真っ黒な瞳の中に、テイワズのルーンが蒼く浮かんでいる。思わず見とれてしまいそうな程に綺麗だ。
「大丈夫!!大丈夫だよ!!」
「でも・・・あ」
やっと光も状況が飲み込めたようだ。
今更ながら顔を赤らめている。
「あ〜・・・教室、戻ろうか?」
「え、あ、う、うん」
緊張して上手く呂律が回らない。
すると何を思ったのか、光がまた顔を近づけてきた。そしてフッと笑う。
「何?戻りたくないの?」
「え!?なんで?」
「だって、ほら」
光はそう言って自分の腰を指差した。
どうやらいつのまにか光のシャツを掴んでしまったようだ。
急いで手を離したが、恥ずかしくてたまらない。
光は微笑みながら耳元で囁き始めた。
「林檎ちゃんはまだ、光と一緒にいたいのかな・・・?」
「ぅ〜〜〜〜・・・」
また“ドSモード”だ。
どうしよう。
「ほら、言ってごらん?」
「・・・ぃ・・・たくないです!!」
あたし、頑張った!!
急いで外に飛び出して教室まで走っていこうとしたが、ロッカーを出たところで捕まってしまった。
勢いよく壁に押しつけられて少し痛かったが、それよりも光の表情が怖かった。
怒っているようだ。口を開けたので怒鳴られると思い、目をつむった。しかし一向に怒号が聞こえてこない。恐る恐る目を開けると光が悲しそうに私を見つめている。
光はそのまま何も言わずに倉庫を出ていってしまった。
「・・・ひ・・・かる・・・?」
・・・何だったの?