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テイワズ6

「・・・」


「でな!!あんパンとクリームパンで迷ったからさ、コイン投げて表が出たらあんパンにして、裏が出たらクリームパンにしようと思って軽く上に投げたんだよ。そしたらつかみそこなって棚の下に入っちまってよぉ!!アハハ!!ウケるだろぉ?」


「・・・うん」



どうしてついてくるんだろう。

そして何故そんなに楽しそうなんだろうか。

俺は大した反応はしていないのに、コイツはずっとはしゃぎまくって身振り手振りを加えながら話し続ける。

よっぽど友達が欲しかったんだろうか?


あ、「親友」だっけ。


親友同士話すんだと言って子分達は帰してしまったから、今は「親友」と二人きりだ。



「そういやぁ、なんて呼べばいいんだ?」


「ん?」


「ずっと“猫目”じゃ味気ないだろ?っていうかお前、本名なんだっけ?」


「・・・肴山 光」



知らないで奇襲かけたのかよ。


坂下は何やら考え込んだ後、光を見下ろして呟いた。



「コウちゃん」


「・・・?」


「“ひかる”ってコレだろ?」



そう言いながら地面に文字を書き始めた。“光”と書いてある。



「そうだけど?」


「コレって“こう”とも読めるだろ?名字の最初も“こう”だし。それに、なんか小動物ッポイから、“ちゃん”付けしてみた。合わせて“コウちゃん”」


「“ちゃん”の部分に納得出来ないんだけど」


「だって幼なじみってあだ名に“ちゃん”付けて呼ぶのが王道だろ!?」


「あれ?親友どこいった?」


「いいじゃねぇか。堅いこと言うなよぉ」



何が堅いものか。小動物ッポイなんて言われて光が喜べるはずがない。ただでさえ女顔で悩んでいるのだから。



「よしっ!!決定!!コウちゃん!!」


「・・・勝手に決めるなよ」



・・・聞こえていないんだろうか。それともただ強引なだけなんだろうか。

光の主張は無視されて、勝手に話が進みだした。



「じゃあオレの事はなんて呼びたいんだ?」


「・・・名前と南中をかけて“みなみ”」


「・・・それは仕返しか?マジで泣くぞ?」


「泣けよ」


「コウちゃんのバカヤロォォォオオ!!!」


「叫ぶな!!」


「ところでコウちゃん」


「え?」



唐突に泣き顔から笑顔に切り替わる。


・・・百面相?



「今どこに向かっているんだ?」


「・・・学校」


「何!?」



相当驚いたようで、立ち止まってこちらを指さして震えている。



「あの悪魔の巣に乗り込む気か!?」


「お前学校で何があったんだよ」


「あれは授業という名の拷問を数時間にもわたって繰り返される巨大な箱だぞ!!!」


「要するに勉強が嫌いなんだな」


「好きそうに見えるか?」


「全然。・・・・・俺も授業自体は嫌いだけど、学校は好きだ」光は好きな時間に、しかも気が向いた時にしか勉強はしない。いつも気まぐれなのだ。だから学校の授業は退屈で、寝ていることが多い。

しかし休み時間になると、クラスメイトとの何気ない会話が始まる。

中学の時には数人の男子としか話していなかったのが、今ではみんなが話しかけてくれるのだ。もちろん、素の光では誰も寄ってきてくれない。教師すらも。

まがい物でも、やっぱり嬉しい。

だから遅刻はしても、欠席はしないのだった。



「おっ?」


「何だよ」


「初めてコウちゃんの笑った顔見たぞ!!なんかレアっぽいな!!写メっていいか?」


「ふざけんな!!」










やっと着いた。

もう一限目が終わる頃だな。



「学校って何時に終わるんだ?」


「ん〜・・・四時前くらいじゃないか?・・・なんでそんなこと聞くんだよ」



すると、勢いよく右拳を突き出して親指をピンと立てた。



「遊ぼうぜ!!!」


「・・・は?」


「コウちゃん家行ってもいいか?」


「やだ」


「じゃあ俺んち来い!!」


「なんで」


「なんでって・・・ゲームでもしようじゃないか!!スマ○ラとか」


「・・・家で出来るからいい」



そう言ったとたん、泣きそうな目で光を見つめてきた。



「だぁ〜っもぉ!!わかったよ!!!ちょっとだけだぞ!!」


「マジか!?」


「マジだよ!!だから今は帰れ!!」


「わかった!!メアドと携番教えてくれ!!」



結局赤外線通信させられた。



「じゃあな」


「おぅ!!また後でな!!コウちゃん!!!」



振り返ると、両手を大きく左右に振っている身長185センチの子供がいた。

そういえば、こんな風に遊ぶ約束をして「また後で」と手を振られたのは初めてだった。そう考えると、なんだか少し嬉しくなって光も小さく手を振り返していた。



「電話するよ・・・南」



さて、それじゃぁ林檎に説教されに行こうか。









上履きに履き替えた後、登校したことを報告するために職員室のドアを叩いた。



「肴山、只今到着いたしましたぁ」


「今日は何だ?ケガしたオッサンでも見つけたか?」


「いえ、お姉さんです」


「美人にうつつを抜かしとる場合かお前はぁ」


「じゃあ先生ならどうする?道で綺麗なお姉さんが助けを求めてきたら」


「ほっとくわけないだろう」


「だよねぇ☆」



心から、こんな毎日が続いてほしいと思う。確かに本当の自分を理解してもらえないのは心苦しいものがある。だがそれ以上に、この平和な日常が幸せなのだ。学校にはみんながいる。林檎がいる。家に帰れば美月と渚が待ってくれている。これ以上はいらない。十分だ。


だから、どうか・・・。



「肴山君!!聞いてるの!?」


「あ、聞いてます聞いてます。俺も好きで遅刻してるわけじゃないんですよぉ。明日はもっと速く走ってきます!!」


「そうしてください?まったくもぅ。どれだけ遅刻すれば気が済むのよ。日本史だけじゃないわ――――――」



好きで遅刻なんかするわけないだろう。

出来るならば朝のホームルームが始まる前の空き時間も楽しみたいのだ。

しかし毎朝、まるで誰かの陰謀かのように誰かしらに奇襲を受ける。今朝は特例だが、だいたいは全員を伸さなければ通してくれない。最高で合計三回来たしぶとい輩もいたりする。道を変えても何故か必ず一回は襲われてしまうので、どうしても遅刻してしまう。


明日からは一時間くらい早く出ようか。

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