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10 奇人、賭け引き

林檎の周りにいるユニークな人々が登場します。

この間に光が何をしていたのかは、次のお話で (^^)/

「行ってきまぁす!!」


「待ってよ林檎!!置いてかないでよ!!」



バタバタと靴を履きながらこちらに向かってくるのは二歳上の兄、柚樹ゆずきだ。

ハードワックスで持ち上げられた髪は、襟足と前髪の一握り程を金色に染めているが、受験があるのでもうすぐ黒染めをする予定だ。こんな成りでも成績は良く、やる気さえあれば大抵の国立大は彼の席を用意するだろう。しかし、柚樹が受験するのは調理師の専門学校。パティシエになってその名を世界中にとどろかせるんだそうだ。

そんな真っ直ぐでわかりやすい夢を持っているからだろうか、柚樹は校内でも1・2を争うモテっぷりである。所謂イケメンの類で、少々自己愛の強いところは顔でカバーされているようだ。だが、高校に入って一度も女の子からの告白を受け入れたことはない。何故なら彼には、中学時代から付き合っている女の子がいるからだ。学校が別々になっても、2人の仲の良さは変わらないようだった。林檎も彼女の事が気に入っていたし、可愛がってもらっているので2人のその関係は嬉しいものだった。



「なんで待ってなきゃいけないの?柚樹いっつもギリギリで登校するくせに」


「今日は早く起きたじゃんか」


「なにか予定があるの?」


「何言ってるんだ。お前が昨日朝帰り・・・じゃなくて夕帰りなんかしたからお兄ちゃん心配してるの!!」


「だからぁ、友達の家に泊まりに行ってたって言ったでしょ!!」


「ウソつけ!!母さんは彼氏がどうとか叫んでたぞ!!」


「そんなこと言ってたの!?」



母は子供っぽいところのある人で、こういう恋愛系統の話が大好きだ。そういえば着替えを取りに戻った時、そんな事を言ってはしゃいでいたかもしれない。



「彼氏じゃなくて、友達!!」


「お兄ちゃんはお前をたぶらかす不躾な男から林檎を守るために、これからしばらく一緒に登校することにしました」


「人の話聞いてる?」


「ハッハッハッハッハ〜ッ!!!どっからでもかかってこい小童めぇ!!!!」


「柚樹!!恥ずかしいから道のど真ん中で叫ぶのやめて!!!」


柚樹はこの通り、シスコンである。








「・・・はぁ」


「どうしたの?林檎」


「うん・・・子をあやすってこういうことなんだろうね・・・」


「なんか貫禄出てるよ?」


「・・・はぁ」



前の席に座る松下まつした 早恵さえは、入学以来一番気の合う子である。

兄の奇行をフォローする事に疲れ切って倒れ込むように席に座った林檎を見ると、早恵はのんびりと近づいてきた。



「噂のイケメン兄貴の事かな?」


「人目をはばからず叫び出す奇人の事です」


「今朝は叫んだんだね」


「・・・今日から送り迎えする気らしいよ」


「想われてんねぇ〜」



正直やめてほしい。先程本人にもそう告げたのだが、そんなことはお構いなしなのだ。というか聞こえていない。

なんとか教室までついてくるのはやめさせたが、去り際に何か不吉なことを言っていたような気がする。逃げるように教室に向かったので聞こえなかったが。


今日も光は遅刻のようだ。

ホームルームの時間になっても来る気配はない。


一限目にも光は来なかった。


しかし一限終了後の10分休憩に窓際で早恵とイケメン芸能人について談笑していると、近くにいた女子が外に何かを見つけて呟いた。



「あ、肴山君来た」



本当だ。

門のところで誰かと話している。すごく背の高い、細マッチョな男の子。他校の生徒のようで、ここ東林高校のものよりも少し暗めな藍色の制服を着崩していた。遠目でもある程度モテそうなのがわかる。



「なんか可愛い人だねぇ。あんなに笑顔で手ぇ振ってるよ」


「・・・そうだね」



去り際に光が少し手を振りながら何か言ったようだ。光はそのまま学校へと歩みを進めたが、男の子はポカンと口を開けて立ち尽くしている。数秒間そうした後、頬をピンク色に染めて頭を掻きながら去っていった。



「・・・え?光、何言ったの?」


「さぁ・・・?なんだろ。イケメンを赤面させる一言・・・気になるね」



そう言って早恵はニヤリと笑った。


チャイムが鳴ると同時に日本史担当のふくよかな女教師が入ってきた。



「まったくもぅ。どれだけ遅刻すれば気が済むのよ。日本史だけじゃないわ。他の教科も、出席足りなくなるわよ?」



誰と話しているのかと先生の後に続いて教室に入ってきた人を確認する。



「ホントすみません!!でも美奈子ちゃん先生の授業に間に合ってよかったぁ。今日もよろしくお願いしまぁす!!」



・・・光だ。

持ち前の可愛さで先生のご機嫌を取るつもりらしい。コレが毎回成功してしまうから恐ろしい。



「え、えぇ。まぁ、次から気をつけてくれればいいのよ?明日は早く起きなさいね」


「はぁい!!」



本当に昨日の光と同一人物だろうか?

昨日は(渚を挑発する時以外は)微笑むくらいだったのに、今の光は満面の笑みだ。

みんなに挨拶しながら席に着いてこちらを向いた。



「おはよう、林檎!!」


「おっおはよう・・・」



昨日の光とのギャップが激しくて、軽く吹き出してしまった。

それを見た光は満面の笑みを貼り付けて林檎の耳元でささやいた。



「あんまり笑ってっと弄り倒すぞ?」


「・・・すみませんでした」



訂正しておこうと思う。これは間違いなく光だ。



二限目が終了した。

光は相変わらずの笑みを浮かべている。



「光」


「ん〜?」


「さっき門のところで一緒にいた人、お友達?」


「あぁ・・・後で言うよ」



あれ?

「あぁ」って言った時一瞬だけ地獄の底を見てきたみたいな顔になったような気が・・・。



「中学の時に知り合ったんだ☆」



光の目が何かを訴えている。


・・・そうか、不良扱いされていた時の知り合いなのか。


ここでは説明しづらいと言いたいらしい。



「そっか」


「うん」


「林檎〜〜?早く行かないと遅れるよぉ?」



早恵が教科書を振りながら自分を呼んでいる。



「ごめぇん!!今いく!!光も早くきなよ?」


「うん」



なんだか今日の光は疲れているように見える。だけどなんだか嬉しそうだ。

さらに昼休みの時間になると予定があるのか、時計を気にし始めた。

そして情報通の早恵に近寄って問いつめている。



「まっつん」


「なにか?」


「今日って何時ぐらいに終わるかなぁ?」


「先生が予定ありそうだったからホームルームはあんまりしないだろうね。明日行事ないし。う〜ん・・・三時半くらいじゃないかな?」


「そっか。ありがと、まっつん!!!」


「いえいえ。・・・誰かと遊ぶ約束でもしてんの?例えば、今朝の元気君とか」


「元気君・・・?」


「他校の男子生徒と一緒にいたろ?」


「あ・・・うん。そんなとこ」



なんだか言葉に詰まっている。早恵は勘がいいから、いろいろと気づかれそうで怖いのだろう。



「よっぽど仲が良いんだねぇ。学校まで送ってくれるなんて」


「いや、あれは・・・ただついて来ちゃったというか・・・」


「ほぅ。肴山が送れって言ったんじゃないわけだ。じゃああの人にとっても大事にされてるってことか」


「なんでそうなるんだよ」


「だってさ。わざわざ他校の友達を学校まで送ってくれる人なんてなかなかいないよ?」


「だから、あいつは学校サボってて暇だから・・・」


「暇があったら会いに来ちゃう仲か」


「・・・何が言いたいのかな?☆」



あぁぁ・・・光の笑顔がヒクヒクしている・・・。

あんまりイジメると“ドS”モード入っちゃうからやめた方がいいよ・・・なんて言ったら今度は私が光に殺られてしまいそうなので言わない。



「知らないだろうけど、あんたが去り際に手を振り返してなんか一言呟いたたとき、あの人ほっぺたピンクにして帰ってったよ?」


「・・・は?」


「何言ったか思い出してみな」


「えっと・・・電話する、って言っただけだったと思うけど」


「あの人に電話したことは?」


「ないよ?」


「へぇ?初めての電話が嬉しかったのかねぇ?」



そこで光がピタリと動きを止め、少し考えた後納得したように頷いた。



「あいつの場合はありえるな・・・友達欲しくてたまんないみたいだったから」



・・・どうやら見た目とは全く違う内面を持った人らしい。


他校の男子と放課後に会うと聞いたときはまた絡まれたのかと思ったが、案外平和な約束のようで安心した。



「人が寄ってきそうなキャラに見えるけどなぁ?」


「うん。周りにはいっぱいいるんだけど・・・なんか、自分が認めた男以外は友達って呼ばないみたいだよ」


「・・・硬派な奴だな。で、肴山は認められたわけだ?」


「え?あぁ・・・うん。そうみたいだね」


「ほぅ。この“ショタ系”を“おとこ”と?」



ヤバイ。

このままでは光が爆発してしまう!!



「あ、そうだ!!光!!!ジュース奢ってよ!!早くしないと昼休み終わっちゃう!!ゴメン早恵!!先ご飯食べちゃって!!!」



そう言って光の首根っこを鷲掴みにした。

急いで早恵から光を引き離さなければ、お互いに大変なことが起こる。



私達はそのまま体育館裏まで走りつづけた。

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