1 出逢い
“キーンコーンカーンコーン”
高校生活初めてのチャイムが鳴った。
この音を聞いて、やっと高校生の実感がわいてくる。しかし、チャイムを校門の外で聞いたということは、おそらく遅刻したのだろう。
私はできる限りの速さで足を動かした。
「遅れてすみません!!」
ドアを勢いよく開け、教室に滑り込んだ。
その瞬間、頭の上からなにやらゴツゴツした物が落ちてきた。
「…っ痛〜〜?」
「なぁにやっとんだ。早くせき着かんとも一回どつくど」
顔を上げると担任の教師と思われるマッチョな中年男がいた。
「ごめんなさい!」
私は慌てて指定された席に着いた。
“ガラガラガラ…”
どうやら遅刻は自分だけではないようだ。
ゆっくりと開けられたドアからは可愛い顔が覗いていた。
「やぁっと全員揃ったかぁ。はよ席着かんかい」
「いやぁ、寝坊しちゃって。ゴメンゴメン」
タメ口・・・第一印象は大事だが、あの顔なら嫌われる事はまずないだろう。
可愛い顔の子は、にっこりと笑って私の隣まで歩いてきた。
「今日からお隣さんだね」
なんだ、席が隣なのなのか。
「よろしくね」
だが、見る限りこの学校の席順は男女交互の列になっているはずだ。隣に女の子がくるはずがない。
「え!?ズボン…」
「ん?それがどうかした?」
「もしかして男の子?!」
本気で女の子だと思ってしまった。
他にも私と同じ勘違いをした人が多数いたらしく、クラス中がざわついた。
「女にしては背デカいと思ったら…」
「男子だったんだぁ」
周りの人達が話している内容に気づいたようだ。
「みんなヒドい!!ワタシをなんだと思ってるの!!」
そう言って可愛い男の子はおどけて見せた。
それによってクラスの雰囲気が明るくなった。
さっきまで誰とも話していなかった大人しそうな人達まで笑い転げていた。
「俺、肴山 光っていうんだ。君は?」
いきなり話しかけられてびっくりしたが、なんとか平静を装い、応えた。
「あ、私は水野 林檎だよ」
すると、肴山光はにっこり笑ってこう言った。
「よろしくね。林檎」
いきなり呼び捨て?
「こちらこそ、よろしくね。肴山君」
「光って呼んでよ。せっかくのお隣同士じゃないか」
「え?えっと・・・」
一瞬迷ってしまったが、よく考えれば同い年なのだ。気にする必要はない。
「わかった。よろしく光」
こうして、私の高校生活が始まった。