これは運命…なのかしら?
思いつきと勢いで書きました。
深く考えずにさらっと読んでもらえたら幸いです。
それはとっても気持ちのいい春の午後だった。
王城の庭園の美しい花に囲まれた東屋のいつものお茶会の席で、私―――公爵令嬢リリアンヌ・ラメール・ローランド(15才)は突然思い出した。
現代日本に生まれて、高校の同級生と結婚して、男の子を出産した。
そしてその子が可愛い盛りの2才の時にあっけなく交通事故で世を去った、という前世の記憶を。
小さかった息子の名前は…
「…成島 類」
無意識のうちにつぶやいていた。
まずい、淑女にあるまじき変な人になってしまった。
どうやって誤魔化そうかとお茶会相手を見ると、いつもならクスクスとからかうように笑っているであろう王子様は、なぜか目を丸くしてひどく驚いた顔をしていた。
「え?なんでリリアがその名前知ってるの?」
予想外のリアクションにポカンとしたまま王子様と見つめあう。
キラキラの金色の髪に、少しタレた碧色の瞳。
整った顔と明るい性格で人に好かれる彼は、ルクス・メア・アテスタント殿下(16歳)。
我が国の第2王子で、私の婚約者だ。
「成島類は僕の前世の名前だよ。」
「…え?」
「え?」
一瞬目の前に果てしない宇宙が広がった気がする。
「ルクス殿下が、成島類?」
「そう。」
「日本人?」
「そう。」
そんな馬鹿な。
ルクス様はにこにこと笑っているが、常に淑女らしい微笑みを湛えているはず(?)の私の顔は無惨にひきつりまくっている。
「…お父さんとお母さんの名前は?」
「父は成島 徹で、母は妙子。」
偶然の同姓同名だと信じたかったのだが、成島 徹は前世のダンナ、妙子は間違いなく前世の私の名前である。
「でもっ…るうちゃんはもっと大人しくて、真面目で、恥ずかしがり屋さんだったよ?」
いつも余裕たっぷりで私をからかってばっかりのキラキラ笑顔のルクス様と同じ人だなんて考えられない。
「よく知ってるね?」
ルクス様はキラキラの笑顔で言う。
知ってるよ。
だって、ずっと見てたから。
死んだ後も、るうちゃんが心配で、ずっと近くで見ていたから。
るうちゃんが幼稚園に行くのも、小学生になるのも、高校を受験するのも。
ずっとドキドキしながら見守っていたから。
「成島類は16歳で死んで、まだやりたいことが沢山あったのにって後悔したんだ。だから、今度は考えすぎないでやりたいことをやって、いつ死んでもいいように毎日をちゃんと楽しもうって決めたんだよ。」
そうなのか。
さすがにそれは知らなかった。
本当にるうちゃんがルクス様なのか。
そんな事ってあるのか。
「おーい、リリア、いつも以上にぼんやりしてるけど大丈夫?」
ルクス様が私の目の前でヒラヒラと手を振っているけれど、びっくりしすぎてなんにも言えない。
あ、でもそれじゃあ。
「私、ルクス殿下とは結婚できませんね?」
「何言ってるの。王命で婚約済みだからやめられないよ?」
ルクス様が笑顔でバッサリ切り捨てる。
なんだか今、やたらと早くなかった?
「でも、私も思い出したんですの。私、前世はルクス殿下の母親だったようです。」
前世とは言え親子で結婚するのはおかしいような気がする。
「リリアが、母親?」
「はい。」
「類のお母さん?」
「はい。」
「成島妙子?」
「はい。」
ルクス様がまた驚いた顔で繰り返した。
目を瞬かせて私を見つめていたかと思うと、急に立ち上がってテーブル越しに私の両手を取った。
「それはきっと運命だよ!」
「はえ?」
勢いよく身を乗り出したルクス様にびっくりして変な声が出た。
近い近い!イケメンが近すぎる!
両手もぎゅうぎゅうと握られて離せそうにない。
思わず赤面しながらも小さな脳ミソをフル回転させて言葉の意味を理解しようとしたけれど、やっぱり何言ってるかわからない。
「成島類は、毎朝仏壇を拝んでいたんだ。」
こくこくと頷く。
るうちゃんは毎朝仏壇を拝んでいた。
小さいときはお父さんと一緒に。
大きくなってからは一人で、学校に行く前に。
でも、それが何だというのだろうか?
「仏壇にお願いしてたんだ、お母さんみたいに可愛い彼女ができます様にって!」
「はい?!」
え?仏壇で毎朝そんな事願われてたの?!
初耳なんですけど?!
「父さんがずーっと自慢してたんだよ。母さんは優しくて、小動物みたいで、ドジっ子で、世界一可愛かったって。」
「嫁馬鹿なの?!」
「だから僕もそんな可愛い僕だけの彼女が欲しいなって思って。」
「こっちはマザコン?!」
「リリアはほんとうに可愛くて僕の理想なんだ。これは運命でしょう?」
「えええええええ?!」
そうなの?!
これが運命なの?!
なんか私が知っている運命と違うような気がするけれど?!
納得がいかなくてそんなような顔をしていると、ルクス様は更に眩しいキラキラ笑顔を寄せて私を攻撃してくる。
「リリアは前世で何か願った事はなかった?」
近い!眩しい!溶ける!
私の心臓はどアップで見る麗しい顔の猛攻撃に晒されて壊滅寸前である。
「ね…願ったこと?ねがっ…たこと…は…」
私は残った申し訳程度の思考力をカバーするためにぎゅっと目を閉じた。
握られた手をミリ単位で押し返しながら、なんとか前世の記憶を呼び起こしてみる。
ずっと見守っていた。
けれど、るうちゃんは私の目の前で車にひかれてしまった。
手を伸ばしても、届かなかった。
最後の時に、ただ見ている事しか出来なかった。
目の前が真っ暗になった。
幽霊の私に出来ることなんて、何もなかった。
だから。
だから私は。
もしも、生まれ変わることができたなら…
「絶対にるうちゃんを、幸せにしてみせるっ、て…」
思い出して目を開くと、まだ目の前にあったルクス様の目が今まで以上にキラッキラに輝いていた。
「リリアがそんな風に思ってくれているなんて、嬉しいよ。大丈夫。僕はリリアが隣に居てくれたらずっと幸せだよ。」
「そそそ、そうじゃなくて!!立派に育て上げて見せるって意味で!」
「僕は、前世が母親だろうが、父親だろうが、ペットのハムちゃんだろうが、リリアなら何でも大丈夫だよ。」
言い切った満面の笑顔のルクス様はいつの間にテーブルの横をすり抜けて体ごと近くにいた。
本能的に身の危険を感じてのけ反ると、ルクス様はサッと握っていた手を離した。
バランスを崩した私が慌てていると、何故か次の瞬間には王子様に抱き上げられていた。
「でも、リリアが心配なら試してみたらいいよ。」
お姫様抱っこされた私の目の前にキラキラと笑うルクス様の顔があった。
あれ?なんで持ち上げたの?
「た…試す、とは?」
「うん。向こうで話すね?」
ニコニコしながら迷いのない足取りでズンズンスタスタと歩いてゆく。
「ど、どこに向かってるんですか?」
「うーん、内緒?」
キラキラの、でもつかみ所のないない笑顔でのらりくらりと返答を避けながら、ルクス様は王宮の中へ入ってゆく。
「あのっ!私こんなに王宮の奥まで入れる身分では!」
「うん。僕の婚約者なんだから大丈夫だよ。」
ズンズンと奥に向かうのに驚いて慌て言うと、ルクス様は当然のように答えた。
奥宮の護衛をしている騎士にルクス様がにっこりと顔を向けると、サッと通してくれる。
まってまって、このまま行ったら着く場所は…ダメよ!ダメなんじゃないかしら?!
「あのっ?!私、この後弟のシオンと待ち合わせしてまして!!」
「それなら誰かに言付けをしておこうか。」
私の言い訳が涼しい顔で流された!!
なんとか逃げようとジタバタすると、ぎゅっと抱え直されて…何故か顔が近づいて来るんですけど?!
「暴れたら危ないよ?いい子にしててね?」
ルクス様は至近距離で色気たっぷりに微笑むと、私の唇をふさいだ。
びっくりして暴れ…る事が出来ない。
というか、見えない何かに固定されているように全く身動きが取れない。
そうだった!!
ルクス様は王族の中でも特別に魔力が強くて、細身で全然強そうに見えないのに騎士団の一個小隊を一人で退けられるクソチートだった!!
ああ!!それも転生者だからなのか?!
「もうちょっと待ってるつもりだったけど…運命だから、いいよね?」
ルクス様が大変麗しい笑顔で首を傾げている。
可愛らしく私にお願いしているようだけれど…決定事項ですね?
ちなみになんだか声も出せなくなっているようですが。
答えを聞く気がないですよね?!
「返事はぜーんぶ終わってからで大丈夫だよ。楽しみだなあ。」
婚約者だけど…婚約者だけど、やっぱりダメー!!!
まだ心の準備がーーーー?!
****
「ねえさま、いい加減観念して出てきてください。」
ぼく―――シオン・オズワルド・ローランド(13歳)は、うんざりする程繰り返したノックの後に、開かない王宮の扉に向かって容赦ない大声を出した。
「恥ずかしいのはわかりますけど、これ以上閉じ籠る様なら、ねえさまに危害を加えたという事でルクス殿下を闇討ちしてきますよ?」
扉の向こうから何かをひっくり返したようなドタンバタンととんでもない音が聞こえたかと思うと、バタバタと駆ける音が近付いてくる。
「ダメーーーー!!」
叫び声と共に扉が開いて、銀色の髪を振り乱した少女が飛び出してきた。
さっきまでシーツを被って現実逃避していたであろう我が姉上、リリアンヌは髪はボサボサで、半分べそをかいたような顔をしている。
「おはようございます、ねえさま。もう夕方ですけどね。」
「どうして…どうしてシオンが迎えに来るの?」
迎えにでも来なければ溺愛王子が帰さないに決まっているからだけれど、ねえさまは全く解っていない。
扉の影に隠れてぴるぴると怯えながらこちらを見ているねえさまは、小動物のように可愛らしい。
「父様も母様も領地に帰っているでしょう?領地から呼びますか?ねえさまがついに朝帰りしたって。」
「わーーーー!!!」
ねえさまは顔を真っ赤にして耳を塞いでいる。
まったく、ねえさまはどこまで間抜けで騙されやすいんだろう。
どうせなにか余計なことを言って、我慢できなくなったルクス殿下の勢いに見事に流されたに違いない。
だから城に行くならぼくを連れていけって言ったのに…。
「もう終わったことは仕方ないですから、帰りますよ。」
「シオン…」
ぼくがため息をつきながら言うと、ねえさまが目を涙でうるませて扉の影から出てきた。
世の女性より少し背の低いねえさまは、向き合うとぼくとほとんど同じ所に顔がくる。
長いまつげを伏せて俯いているねえさまの白い頬に手を伸ばして涙を拭うと、ボサボサの髪を手でととのえながらその頭をなでる。
「…シオン、怒ってる?」
どうにもぼくの顔を見れないらしいねえさまは、目の前にいるのに明らかに不自然に目線を逸らしている。
「怒ってませんよ。ぼくが怒っても仕方ないでしょう?ねえさまが怒ってないんだから。」
「ありがとう。」
恥ずかしそうに頬を染めるねえさまは、腹が立つほど可愛らしくて、ムカムカしてくる。
「…やっぱりあのむっつり王子、闇討ちしておけばよかったな。」
「誰がむっつりだ。」
低く響いた声に振り向くと、独り言をきっちり拾った金髪の王子様が向こうから優雅に歩いてきていた。
「久しぶりだね、シオン。元気そうで何よりだ。」
「ルクス殿下もご機嫌麗しいようで何よりです。おかげさまでこちらは大変面白くないですが。」
王子殿下は今日も輝く金髪と透き通った碧眼でキラキラと笑顔を向けてくる。
頭ひとつ上から覗き込むようにされると、素を知っているぼくとしてはどうしてもシラケた笑顔で返してしまう。
「本当はもう帰したくないんだけどねえ。」
「冗談も休み休み言わないと、父上が辺境から兵を引き連れて迎えに来てしまいますよ?」
幸せががにじみ出てくるような殿下の顔を見ていると一言言わずにはいられない。父上はねえさまが可愛くて仕方がないので、これっぽっちも冗談ではない。会うたびに婚約なんてやめて領地に婿を貰えばいいとねえさまに泣きついている。
「それは困るから、今日のところはシオンに任せるとしようかな。」
ルクス殿下の表情に前にはなかった余裕が滲んでいるように思えて腹立たしい。
ねえさまがいない時は大人気なく言いたい放題の癖に。
「それでは御前を失礼します。ねえさま、行きますよ。」
付き合ってられない。
ムカつく顔を見るのはやめてさっさと帰ろう。
ねえさまの肩を抱いて背を向けると、ぐい、と腕を引かれる。
ぎょっとして見ると、ルクス殿下の手がねえさまの顔に伸びて、額に唇を寄せていた。
「ぎゃっ!」
「リリア、またね。」
ルクス殿下のにっこりと勝ち誇った笑顔。
変な鳴き声を上げて真っ赤になっているねえさま。
あー、もう!やってられない!!
むっつり王子にはせいぜい夜道に気を付けるがいい!!
****
「もう、いつもいい加減なことばっかり言って!」
僕の最愛の女の子は、いつも長い黒髪を揺らしながらそう言って、大きな目を細めて膨れた。
それでもぎゅっと腕の中に閉じ込めると、嬉しそうに笑ってくれる。
永遠に一緒に居ると誓ったのに、僕を置いて居なくなってしまった。
彼女の残した生きた証まで、僕より先にいなくなって。
そうして世界は違ってしまって、僕は泣き方も忘れてしまった。
それでも人生は続いていく。
その先に何の希望も無いとしても。
ふいに目が覚めた。
隣に目をやると、すっかり自分のものになった、夢のように可愛らしい少女が無防備に眠っている。
しんと静まり返った夜の空気の中に、規則的で穏やかな寝息が響く。
確かめるようにそっと手を伸ばすと、深夜の月を映したような銀色の髪に触れた。
健やかな寝顔はいつも以上にあどけなくて、手に終えない。
『…成島 類』
あの時、心臓が止まるかと思った。
ああ、君にとって一番大切なのはあの子なのか。
最後まで見守っていたのは。
ずっと心に残っていたのは。
とっさに、言っていた。
それは僕の名前だ、と。
「…本当にひどいよね、僕の奥さんは。」
僕がいないと生きていけない癖に、いつも僕のことなんて忘れてしまう。
僕にとっては、誰よりも、君が。
君だけが、大切なのに。
いつも僕を睨み付けてくる、リリアにそっくりの銀の髪の子供が思い浮かぶ。
何かといえばくっついて、側にいて、いつもリリアの心を占めている。
…多分、彼こそが本物の成島類だ。
「…リリアには、教えてあげない。」
死んだとしても生き返らせる魔法を用意しなくては。
もう二度と、僕より先に死なせない。
けれど、僕の居なくなった世界で君が他の誰かと生きている所なんて見ていられないだろうとも思う。
本当は知っているけれど。
あの頃の君の心を支えていたのは僕で、君が空気のように思っている僕が居なくなったら、君がどうなってしまうのかを。
それでも、それを見たいと思ってしまう僕は、本当にひどい人間かもしれない。
眠り続ける最愛の少女の唇をそっと塞ぐと、ふるふる、と小さく身動ぎをする。
「リリアがいけないんだよ?」
僕が誰なのかわからないなんて。
僕は君を間違えたり、しないのに。
だから、もう一度手に入れよう。
僕なしでは生きていけないようにしてあげる。
額に、頬に、鼻先に、唇を落とす。
整った白い顔が、小さく笑みのかたちに歪んだ。
「絶対に、誰にもあげないから。」
今度こそ。
運命の死神からだって、奪ってみせる。
眠るリリアの唇に自分の唇を重ねる。
もっと深く、もっともっと深く。
くぐもった吐息が漏れて、ふるふると震えるまつげの間から空色の瞳が覗く。
ぼんやりとして焦点のあっていない瞳には金色の髪の僕が映っている。
その柔らかい唇を気が済むまで食むと、リリアの腕がゆっくりと持ち上がって、僕の首の後ろに回された。
「大好きだよ、僕のリリア。」
かたちのいい耳に唇を寄せて、この上なく甘い声で囁く。
「ルクスさま…」
銀の髪の少女は僕だけを見つめて…その空色の瞳を細めると、うっとりと笑った。
拙い文章ですが最後まで読んでくださって有難うございます。
もしあなたの思う評価をしていただけたら、私の中で参考にさせていただきますのでよろしくお願いします。