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雨乞いの遺灰

雨雨ふれふれ。

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「……で?今日は何を持ってきてくれたんだ、セレスタン」


 あの日以降、セレスタン様は毎日のように伯爵邸へといらっしゃるようになった。魔力に関係する呪われたアイテムを次々と持ち込んでは、旦那様に買い取るよう迫っている。


 尤もこれまではゴミの方がマシと思える物しか持ってきておらず、ほぼお茶会をするだけといった有様だったが。


 例えば血塗られたダンシングシューズ。赤い色のトゥシューズで、装着者は魔力と引き換えにこの世で最も華麗なダンスを踊れるようになる。なお脱ぐには脚を斬り落とすしかない。


 他にはシリアルキラーのデスマスク。着けると膨大な魔力を吸い上げ、鬼神の如き強さで敵も()()()圧倒する。なお脱ぐには死ぬしかない。


 後は世界樹の枯れ葉。触れると二度と動けなくなるが、魔力が続く限り傷を癒やし続けて絶対に死ななくなる。なお絶対に死なないため寿命を迎えることも出来ず、他の誰かが触れるまでは指を外すことは出来ない。もちろん、その別の誰かさんが新たに呪われることになる。


 その他にも使い道の分からない謎アイテムばかり持ち込んでくるため、旦那様も私もあまりセレスタン様に期待しなくなった。奥様に至っては初日に見切りをつけてしまっている。


 さて、今日は何を持ってきたのか……。


「まず"断罪人の涙"と呼ばれる宝石だ。持ち主の魔力を吸い上げてくれる」


「いや、だから呪いを言え呪いを。吸い上げた魔力はどこにいくんだ?」


「ネックレスにして身に着けると無性に首が痛くなって、血で滲んだような紐状の傷が首に付く」


「バカかお前は。そんな傷見られたら色々誤解されるだろうが。却下だ却下!」


 ……確かに、そんな傷を見た日には自殺未遂者か、飼い犬プレイでもしたのかと思われてしまうだろう。まともな傷だと思ってもらうことは難しい。


「なら、これはどうだ?"英雄王のブレスレット"だ。ごっそりと持ち主の魔力を吸い上げてくれる」


「だから呪いはなんだって聞いてるだろ……!」


「自分を中心とした魔法障壁を作る。ただし障壁は自分に向かう攻撃しか防がないし、障壁の中で誰かが傷つくとブレスレット保持者に跳ね返る」


 それは呪いなのだろうか?見ようによっては祝福のようにも見えるが……。


「……周りで誰かが首を跳ねられたらどうなる?」


「試したことは無いが、少なくともブレスレット保持者は助からないだろうな」


「……そうだよなぁ……だが、まあいいか。それは買い取っても良い。オレリーを護りやすくなる。」


 ブレスレットは呪われているという割にはミスリル銀が使われている為かそれなりに美しく、旦那様が装備すると強く輝き、全盛期の勇者の風格を蘇らせてくれた。これでマントでも着ければ伝説の勇者様みたいな格好になるだろう。


「毎度あり。……ああそうだ、ミス・コレットにも何か買い与えることをお勧めする」


「何故だ?いや、もちろんそのつもりではあるが、そちらにも急ぐ理由があるのか?」


「シアによれば、ミス・コレットの魔力量がそろそろ限界に近いらしい。これ以上蓄積すると、赤ん坊に戻る前に破裂するそうだ。実際に弾けるのかどうかは知らんが、命に関わるのは確からしいな」


 そういえば、あの童女は私にもそう言っていたな。そんなに危険な状態なのか。旦那様と出会うまでは魔力に飢える事はあっても、魔力が飽和することなど無かったので実感が無い。


「わかった。それは俺としても願っても無いことだ。今日は他には持ってきていないのか?」


「今は持ち合わせが"断罪者の涙"くらいしか……ああ、いやもう一つだけあった。これだ。商品にするつもりはなかったのだが、シアから持っていくように頼まれた」


 執務机の上に、最初の宝石より少しだけ大きめの宝石が置かれた。よほど危険な物なのか、セレスタン様も素手で触ろうとしない。


「"雨乞いの遺灰"と呼ばれている宝石だ。待て、触るな。……これは触れた者から凄まじい量の魔力を勝手に吸い出し、上空に雨雲を作り出す。どうやら上級破壊魔法ウォーターサイクロンを応用した術式が書かれているようだが、あまりにも大量の魔力を使うから誰にも使いこなせない。かつてこれを使って雨乞いを行おうとした祈祷師が、魔力を全て吸い上げられて灰すら残らなかったことが由来らしい。雨は降ったらしいがな」


「猛烈に駄目じゃないか、それ?」


「シアによると、取り急ぎこれを使って凌いでほしいとのことだ。どうやらこれに頼る必要があるほど、ミス・コレットの体は光の魔力で満ち満ちてしまっているらしい。買わないまでも、今日触れておくくらいはしておいた方がいいだろう」


「…………いや、使うからには買う。コレット、早速これに触ってみてくれ」


 話を聞けば聞くほど気乗りしないのだが、いつも皮肉げなセレスタン様が真面目な顔をしている時はちゃんと従ったほうがいい。それは知り合ってから日が浅い私でも分かった。


 私は机の上の宝石に指を押し当てた。たったそれだけの接触だったのだが……。


「……っ!?あ、え、何!?」


 振れた指の先から全身の血液が宝石に向かって流れていくのを感じた。それがこれまで溜め込んできた魔力だと気付くのに時間が掛かった。


「お、おいセレスタン!これ大丈夫なのか!?」


「凄まじいな……魔力注入の段階でこれか……!そのまま指を離すなよ!途中で止める方が危険だ!」


 言われなくても指を離そうと思っても離れない。私はあまりの虚脱感に立っていられなくなり、ついには膝を付いた。しかしそれでも指は宝石から離れなかった。このまま魔力を奪われ続ければ、そのうち本当に死んでしまうように思えた。


 意識が薄れ始め、旦那様とセレスタン様の声が遠くなっていく。


「あ……ああっ……!も、もう……だめ……!」


 私はついに意識を手放し――同時に指が宝石から離れたのが見えた。最後に見えたのは、私を床に落ちる寸前に受け止めてくれたセレスタン様の心配そうな顔。お二人の声は全然聞こえないのに、雨音が窓を叩く音だけはしっかりと聞こえてきた。




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空が泣いている。

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