ゆずのお酒に紅茶
「カルーアミルクください。」
初めてのお酒の席でおすすめされた甘いお酒を頼んだ。油の回った唐揚げをつまんで、カルーアミルクで流し込んだ。口の中に広がる甘ったるい香りに思わずむせそうになる。口をむにむにと動かして、どうにかこうにか飲み込んで、わたしは、ほうとため息をついた。
まったく料理に合わない。お茶のほうがましだ。一人心の中で呟いた。
たくさんの人と同じ席に着くが苦手だった。会話の間に入れなくて、奇妙な疎外感をいつも感じていた。今日だって、ほんとはあんまり来たくなかった。ただ、職場の人間がほぼ出席する飲み会を断る勇気なんてなかった。
腕時計をそれなくちらりとみる。お気に入りのアナログ時計は生真面目に今の時刻を指していた。21時22分。もうすでに2時間が経過しようとしていた。
同じテーブルの人たちは趣味のアイドルの話で盛り上がっている。唐揚げを箸先でつつきながら、適当に相槌を打つ。
「佐藤さんは、何が好きなの?」
急に話を振られて、ややどもりながら、ゲームと答えれば、興味なさげにへえ、と言われる。私に興味を失ったかのようにまた話題はアイドルの話へと戻っていった。そんなことを数回繰り返して、その都度何かに罪悪感を感じる。別に悪いことなんてしてないはずなのに。
結局23時まで酔った彼らの飲み会は続き、頃合いを見てようやく抜け出せた。夜風が、体を冷やしてくれる。途中によった近所のコンビニでゆずのお酒を見つけた。これなら飲めるか、なんてやや酔いの回った頭で考えて、思い付きで重たい瓶を買った。マンションにつく頃には手はしびれてやや後悔した。
明かりをつけて、玄関のカギを閉めたことを確認する。イスに深く腰掛けて、ふうと息をついた。
「あー、つかれた。」
お気に入りのマグカップにさっき買ったゆずのお酒をいれて、ちびりと飲んだ。うん、おいしい。紅茶を入れたら、紅茶のお酒みたいにならないだろうか。
市販のストレートティーを少量混ぜて、一口飲んでみれば、くどいくらいに紅茶が残る。
「おいしくないなあ。」
それでも、カルーアミルクより、ずっと良かった。