アキアカネ
ちょっとふざけた男主人公を書きたかったので。
やかましかったらすみません。
赤とか黄色とかの葉っぱをバリバリ音を立てて踏みつけながら、俺は家へ歩く。
もうすっかり紅葉して、ほとんどの木は秋仕様にドレスアップしていた。
たまーにある針葉樹は全くのポーカーフェイスで可愛げが無い。暖色系の中、一人だけ浮いてる感じで。
なーんて考えながら、俺はまた新しい葉っぱを踏みつけた。周りはクリスマスに向けて彼女とデートをする中、俺は彼女もいねーし、さながら秋の針葉樹。
冬に向けて準備とか、アリかっての。
一人で怒りながら曲がり角を曲がった時。
こつん。額に何かぶつかった。
それは地面に落ちたようだ。残念ながら女の子では無かった。
しゃがんで見てみると、なんとトンボ。
人間にぶつかって落ちるとか、間抜けだなぁ……げげげっ。
頭が取れている。
バタバタと足を動かしながら、トンボはもがいていた。
うお、俺のせい……?
「ごめーん」
一応俺のせいだから、どっかに埋めてやるか。
手に乗っける。
その瞬間、目の前がおかしくなった。
同じ景色が何百個も見える。酔いそうだ。
立ちくらみなのかと思っていると、視界がぐんぐん動き出した。
やべーよ、止まんないと——ん?
足を動かしてもスカッと宙を切る。手を動かしてもスカッと宙を切る。感覚があるのは背中だけ。
も……しかして俺、トンボになってる?
殺しちゃったから……やっぱ呪いとかなの?
うわわわわ、ごめんってぇ。つか、ぶつかってきたのそっちじゃん!
ゴツン!
再び、額のあたりに激しい衝撃を感じた。めちゃくちゃ痛い。あーあ、俺はこのまま死ぬんだ……。
「す、すみません!」
いてて。死んでない。
またあの景色を見るのか、うんざりだぜ……え?
「私が前を見てないばっかりに……。大丈夫ですか?」
信じられん。いつの間にか視界は元に戻ってるし、俺は下から見上げてるし、それも女の子を。
めちゃくちゃ可愛い女の子を。
「あ……いえ、俺こそスミマセン」
ぼーっとしたまま立ち上がる。その女の子は黒髪に黒縁眼鏡の、どこか文学的な雰囲気のする人だった。
めちゃくちゃ可愛い。
「あっ、これ、アキアカネですか。えーっと、多分メスですね。まだ未成熟みたいだし、子供産めなかったのかな……」
女の子は俺の手の中のトンボを見て悲しそうに呟いた。お前、アキアカネだったのか。
「アキアカネって言うんですか? 俺にぶつかって首が取れちゃって……」
「トンボは首が取れやすいんです。仕方がないですよ」
再び手の中のアキアカネに視線を戻す。
そうかお前が俺とこの子を引き合わせてくれたんだな……。ごめんな、無念な死に方させちゃって。
「虫、詳しいんですね」
今年こそは、彼女作るぞー。