01
会話のみ。
ワンパターン。
キャラクター性の酷似、言動思考パターンなど。
私にしかできないことを探すと決めてからもう5年。
「見つからないなあ」
普通に生きているだけで時間だけが消費されていく毎日。
普通に生きられているだけで十分なのかもしれないが、生まれてきた意味を知りたかった。
他の人ができなくて私にしかできないこと、そこまで極端なことを言うつもりはないから、私にもできることがないかと探している。
「アミ、ここにいたんだ」
「うん」
ここにいたもなにも、放課後の教室に居残ってうだうだ考えていただけだけども。
話しかけてくれたのは友達のウサちゃん、小学生の頃からの関係だった。
放課後の教室に残っていた理由は考え事をしたかったからだけではなくて、みんなの温もりが残っていたからということでもある。
でも不思議なものであっという間にそういうものは消えてしまうのだ。
それでも朝から放課後までは人の温かさに触れられるからありたいと考えていた。
とりあえず今日も保留だ、私にもできること探しはお終い。
早く家に帰らないとあっという間に外が真っ暗になってしまうため、急いで外に出た。
「寒い……」
「そう? 私は冬も好きだけど」
「強いね、私はいつまでも暖かい場所にいたくなっちゃうよ」
こういう時はコンビニに寄って肉まんを買うのがベスト。
が、ウサちゃんは用があるとかですぐにどこかへと行ってしまった。
私は知った、神様から夜ご飯前に買い食いなんてするなよと言われていることに。
なので無駄遣いはせずに家へと帰って、究極的に暖かい最強の場所にこもる。
「アミ、おかえり」
「あ、ただいまー」
この人は兄の沖くん、現在大学2年生。
凄く優しくていい兄だ、妹になれて良かったと思っている。
いつまでもこもっているわけにはいかないからご飯を食べてお風呂に入ることに。
終わったら部屋に戻ってゆっくりとする、うん、至って普通の日常だ。
「うん? 知らない番号からかかってきてる……」
インターネットで調べてみても情報は載っていなかった。
なんかこのままだと申し訳ないからかけてみたら、出てくれたのは女の人だった。
「望月さん、ですよね?」
「は、はあ……そうですが」
「明日の朝、ミカマルスーパー前で待っていてください」
「え、あの? あ……もう切れてる」
スマートフォンを置いて私は頭を悩ませる。
そもそも私がどこの県の、どこの市に住んでいるのかってわかっているのだろうか。
望月なんて名字の人は他にもたくさんいるのに。
でも、スーパーの名前は確かにこの近くにある店舗のものだった。
「うーむ……」
ずっとどうするべきかを考えていたら朝まで寝られませんでした。
仕方がなくベッドから下りて1階へ。
「おはよう」
「あ、おはよー」
顔を洗って最低限の準備を済ます。
普通に学校ではあるものの、身バレを恐れて私服で向かうことにした。
が、外に出てすぐに兄を頼れば良かったかと気づいて……でも引き返したりはしなかった。
「おはようございます」
「え」
話しかけてきたのがとても綺麗な人で硬直。
再度挨拶をしてきたから私ではないということではなさそうだ。
「はじめまして、私は小楠スズと言います」
「あ、望月アミです」
なんだろう、先輩さんというわけでもなさそうだけど。
メチャクチャ大人の女性って雰囲気を漂わせている。
まあ焦らなくてもこの人が説明してくれるだろうからこちらは待とう。
「ふふ」
「え?」
「あ、ごめんなさい、似顔絵とそっくりでしたから」
似顔絵? そんなの描いた覚えはないけど……。
私のことを描くような人がいるとは思えないし、なんか怖くなってきた。
「私、あなたに興味を持ったんです、ですからこれからよろしくお願いします」
「え、あの」
「どうしました?」
「その似顔絵ってどこで見ました?」
「インターネット掲示板です」
え!? それってなんかやばいことに巻き込まれてない?
下手をすれば色々な情報が漏れていて筒抜けの可能性もある。
年齢を聞いてみたら26歳だと答えられてしまったし不味いぞ……。
「あ、危険なことはなにもないので不安にならないでくださいね、あなただけではないですから」
「それはつまり私にだけ興味があるわけではないと?」
「いえ、私はあなたにしか興味がありません。けれど、他の子の似顔絵もそのサイトで紹介されているんです、名前や住所も一緒に」
いや確実にやばいじゃん……情報売られてるじゃん。
もし変な人に目をつけられたら人身売買とかそういうことをされていたのでは?
で、世界中にいるとか説明されて――なんか関わらない方がいい気がする。
「そのサイト、教えてもらってもいいですか?」
「それはすみません、口外してはならないと両親から言われていますので」
ああ、せめて友達の情報はありませんように。
ああ、せめて友達が被害に遭いませんように。
他に迷惑をかけないということならこれはもう私が引き受けるしかない。
それこそ「ここは私に任せて先に行け!」という状態だった、ほぼ強制的な感じで。
「それに安心してください、そのサイトを知っているのは私たち小楠家だけですから」
うん、全然安心できない。
下手をすればこの人が母親だったりする可能性もあるのか。
「それであなたは私に会ってなにをしたいんですか?」
「恋です」
「は」
別に同性同士で? となったわけではない。
だってこの人は私の似顔絵を見てやって来たんだよね?
それでこの単語を出すということは私に興味があるわけだ。
相手は多分26歳で、こちらは高校2年生の早生まれ16歳。
差が綺麗ーなんて悠長な冗談も言っていられないぐらい真面目で綺麗な顔。
「というのは冗談です、私はあなたのことを知りたいだけですね」
「はあ、そうですか」
「それでどうでしょうか? 嫌だと言うのなら諦めますけど」
「危険なことはなにもないんですよね?」
「はい、神様に誓えます」
「ならいいですよ」
「ありがとうございますっ」
あ、笑った顔は可愛いんだ。
なんだよなんだよ、こんな普通の女相手にさ。
学校へ行かなければならなかったことを思い出して別れようとしたら紙を渡してきた。
どうやら連絡先が書かれているらしい、後で連絡すると話してその場を離脱。
家に帰ったら制服に着替えてすぐに外に出た、ウサちゃんと待ち合わせをしているからだ。
「遅い」
「ごめん、ナンパされてて」
「え」
「冗談だよ、行こっか」
言ったら彼女を巻き込んでしまいそうだからと黙っておいた。
とりあえずいまのところは危険そうな感じもしないいいだろう。
仮に危ないことに巻き込まれているのだとしても、大切な友達が被害に遭わないならいい。
「あ、ウサアミコンビだ」
「おはよ」
「おはよー」
周りの子的にはウサちゃんの方がお姉さんみたいに見えているようだ。
実際はそんなことないんだけどなあ、勉強とかだって教えているのはこちらだし。
意外と寂しがり屋で一緒に寝てほしいと頼まれることもあるくらいだよ?
「アミちゃん」
「あ、夏津さん」
この人はウサちゃんのお兄さんだ。
ウサちゃんといたら夏津さんとも関わるようになっていたという感じになる。
背が高くて優しい男の人、兄もいいけど少しだけウサちゃんが羨ましいぐらいだった。
「今日は少し遅かったみたいだね、朝になにかあったの?」
「女の人と会っていまして」
「「女の人?」」
「うん」
これからそのために抜けることもあるかもしれないしと全ては言わずに説明しておく。
もちろん危ない情報は言えなかった、なんだよ、サイトに女子高校生の似顔絵があるって。
しかも名前や住所までフリーとは恐ろしい、怒らせたらまず間違いなく消されるだろう。
「とういうわけで、大人の女性とお友達になりました」
「「それ怪しくない?」」
ですよねという反応、だって私もそう思っているもん。
だが私はもう連絡先を登録して送ってしまった、それはつまり今度こそ筒抜けということ。
名前も住所も連絡先もばればれってもうなにをどうしたって変わらないからあれだね、一周回って平気でいられるというかさ。
「大丈夫だよ、最悪なことは起こらないと思う」
わざとらしい笑みとかいやな感じの笑みではなかったように思える。
最悪、警察とかそういう頼れる組織が存在してくれているのだからびくびくしても仕方がない。
「望月アミ」
「ふぇ?」
「授業中に寝るのはやめろ」
「ご、ごめんなさいっ」
そう、身近にもっと問題があるのだから。
うぅ、やはり徹夜なんかするべきではない。
午後21時に寝て午前5時ぐらいに起きるのがベストだ。
ウサちゃんや他の子にも笑われたし、恥ずかしいし。
情報が漏洩して夏津さんにも笑われた、もう家に帰りたいね本気で。
「もしもし?」
「あ、小楠です、いま大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
一緒に過ごす中で少しずつ探っていけたらなと思う。
まずは相手の家を知ることだ、そうすれば大体はなんとかなるから。
だってこっちばっかり情報がばれてたら嫌じゃん? なら少しずつ知っていかなければならない。
「それでどうしました?」
「今日の放課後ってお時間ありますか? もしあるのなら家に来てほしいんですけど」
きた! ふふふ、自分の方からばらすスタイルは嫌いじゃないぜ。
「大丈夫ですよ」
「それなら校門のところで待っていますね」
「え……?」
背中がゾワッとした。
いやでもあれか、住所がばれているのなら高校ぐらいばれててもおかしくない。
どこまで知られてるんだあ……性癖とかまで把握されていそう。
「え、ミカマルスーパー近くの公立高校ですよね? アミさんが通っているのは」
「……それなら16時には出られると思うので」
「はい、いつまでもお待ちしています」
電話を終えた後はとにかく怒られないように寝た。
授業中の対策でもあるし、放課後に負けたりしないためでもある。
そのおかげで残りの授業はいつものように過ごせた。
「こんにちは」
「は――」
「こんにちは!」
気づいたら後ろにウサちゃんがいて私の腕を握ってくる。
小楠さんはそれでも怖い顔になったりはせず「行きましょうか」と口にし歩きだした。
「大丈夫だよ?」
「怪しいでしょ、アミは危機意識がなさすぎ!」
「うーん、まあ確かに情報が漏れてるからねー」
でもこれから家を教えるみたいなんだからね。
本当に危ない人であればそんなことはしないと思うけど。
「ここです」
「アパートですか」
「はい、狭いのは我慢してくださいね」
うん、中に入らせてもらってもだろうねという感じでしかない。
あまり外見が綺麗な場所ではないから差に驚くようなこともなかった。
小楠さんはこちらに温かい紅茶を用意してくれて、飲んだらほっとしたぐらい。ホットだけに。
「あなたは松崎ウサさん、ですよね?」
「なっ、どうして知っているんですか!」
掴みかかろうとする彼女を止める。
もういちいち引っかかることが間違いだと思う。
「安心してください、危険な目に遭ったりはしませんから」
あれ? でもその割にはなんだか眠くなってきた気が……。
「すやぁ……」
「アミ!? な、なにか入れたわけじゃないですよね!?」
「違いますよ」
「でもアミ――こらっ」
「あいたっ!?」
温かい物を飲んだら誰だって落ち着いて眠たくなるもの。
徹夜明けの人間であるから影響が強く出てしまったのだろう。
「紛らわしいことするな!」
「しょ、しょうがないでしょ、小楠さんのせいで徹夜状態だったんだから」
しかも暖房をつけてくれていることで暖かくて気持ちがいい。
もう今日は家に帰らずにここにいたいぐらい、小楠さんがいいならだけど。
「ちょっと、人の家でくつろぎすぎだよ!」
「だってぇ、暖かいしぃ」
「もー……すみません、私の友達が」
「ふふ、大丈夫ですよ、狭い場所でも満足してもらえたのなら良かったです」
うーん、だけどもっと大きい家を予想していたんだけどな。
テレビもパソコンも存在しない部屋、周りを囲っている壁の向こうに秘密の部屋があるわけでもないだろうし……横は普通に他所の人の家だったしなあ。
「小楠さ――」
「あ、ちなみにここは私の家ではないですからね?」
それを聞いた瞬間にウサちゃんが立ち上がって私を引っ張ってくる。
小楠さんは特に動くことなく私たちを見ているだけだった。
「帰るよアミ!」
「あ……えっと、紅茶、ありがとうございました」
「はい、気をつけてくださいね」
外に出た後に彼女から凄く怒られた。
もう連絡先を消して、会うのはやめろとも言われた。
こちらとしてはあの家が小楠さんの家であることに違和感しかなかったから、先程のそれを聞いてもやっぱりなぐらいにしか感じなかったんだけどね。
ウサちゃんのべったり作戦が始まった。
休み時間もチェックされるようになって正直困惑。
小楠さんから連絡してこない限り返事とかはしないんだけど。
「どこ行くの」
「トイレ」
「スマホは置いていって」
「うん、元々持っていかないけど」
最近は年を取っているからなのかすぐにお腹が痛くなるのだ。
冷たい水を飲んだ時とか毎回そう、それでも摂らなければならないから難しい。
「アミ」
「うぇ、ちょ」
それはやめて……臭いとか出ちゃうんだよ、外に出られなくなっちゃうよ。
「小楠さんから連絡がきたよ」
「あ、なら後で返事してお――」
バンッと扉が叩かれて色々なものが引っ込んだ。
どうしてこんなに怒りモードなんだろう、さすがに警戒しすぎな気が。
「なんでブロックとかしてないの」
「いや、うーん……」
「なにかあってからじゃ遅いんだよ!?」
彼女の言っていることは正しい。
問題なのはあの家が誰のものなのかということ。
勝手に入っていたということなら……確かにやばいけど。
「アミになにかあったら嫌なんだから……」
「なら一緒にいてくれる?」
「そんなこと言って、どうせひとりで会いに行こうとかしているんでしょ」
もう腹痛もなくなったから扉を開けて出る。
手を洗って鏡越しに彼女を見たらすごい寂しそうな表情を浮かべていた。
別に去るってわけじゃないのにな。
「大丈夫だよ、そんな顔しなくても」
「……行く時は必ず私に言ってからにして」
「え、だけどやっぱりまだ怪しいから……」
「いい、アミひとり危ない目に遭うよりマシだから」
「あ、じゃあ……とりあえず連絡返してみるよ」
渡してくれたスマホを受け取って連絡。
彼女は帰ることなく側にいてくれた、話もしっかり聞きておきたいらしい。
「あ、先程はすみませんでした、すぐに出ることができなくて」
「大丈夫ですよ。それでですね、今日は外で会いませんか?」
「あ……ウサちゃんもいていいですか?」
「はい、大丈夫です、それではまた校門で待っていますね」
「わかりました、失礼します」
今日の目的地はファミレスのようだった。
自由に注文してくれていいということだったが、悪いのでドリンクバーだけに留める。
「アミさん、あなたにしてもらいたいことがあります」
「なんですか?」
「いいですか、あなたにしかできないことですからね?」
え、私にしかできないこと?
それはずっと探してきて見つからなかったことだ。
それがこんな簡単に叶うということなら、うん、悪いことばかりじゃないな。
「私はあなたのことを気になっています、ですから」
「はい」
「あなたも気になっているウサさんと仲良くしてください」
「「え? そんなことですか?」」
「はい、それが私の理想です。昨日見てわかったんです、あなたたちの関係は素晴らしいと」
それが言いたいだけなら変なこと言わなければ良かったのに。
そりゃウサちゃんと仲良くできるのが理想だ、他の子はともかく彼女とはいつまでもいたいから。
だからわざわざ言ってくれなくたって私はそうする、彼女がいいならだけどね。
「望むならお金だって渡します、1日1万円でいいですか?」
「そんなの貰えませんよ、それにお金がなくても私たちは仲良くやれます」
「そうですか、それならどんどん見せてくださいね」
「任せてください」
今日もそこそこ早い解散となった。
小楠さんと別れてふたりで帰路に就く。
「心配してくれてありがとね、ウサちゃんがいてくれて良かった」
「……アミはもうちょっと考えて動いた方がいいよ」
「ごめん……」
「謝ってほしいわけじゃないけどさ……もしアミが嫌だって言っても私はずっと一緒にいるから」
「それはこっちのセリフだよ」
お礼として今日は肉まんを奢ることにした。
こちらはピザまんを買ってコンビニの外で食べる。
温かくて美味しい。
夕方だということと、吐いた息が見えるというのもなんだかいい感じで。
「美味しいね」
「うん、人に買ってもらえたから余計にね」
「えー、そんなこと言わなくてもいいのに」
食べ終わったのを確認してから手を握って帰ることにした。
実は一緒に帰る時はこうするのが常だった。
惜しいのは、彼女とこうして帰れる日ばかりではないこと。
また彼女には友達が多いこと、だからひとりの時はその差に寂しくなるぐらいだ。
「アミにだけできることか」
「いや、気になっている私がウサちゃんと仲良くするのがいいんじゃない?」
だって彼女と仲良くすることなんて他の子もできるから。
他人をなっていればまず間違いなく私ではなかった。
まあそれは問題ない、大体、彼女にとって仲良くするのがいいのかわからないし。
無自覚に甘えてしまっているところがあるからなあと苦笑い。
「昨日出会ったばかりなんだよね? どうしてもう気に入られてるの?」
「わからないんだよ」
自分たちだけが見えるサイトに掲載されている似顔絵。
それっておかしくない? 写真ならまだしも絵ってさ。
うーん、まだ完全に信用はできないな、家の件もあるし。
そしてウサちゃんはあまり巻き込まないにしようと決めている。
動くのならなるべく私だけでだ、小楠さんといる時の私は演技しているようなものなのだから。
さすがにそこまで馬鹿じゃない、あとは自分のせいで彼女が傷ついたら嫌だしね。
「あ、私、こっちだから」
「うん、それじゃあね」
「肉まんありがとね、それじゃ」
彼女が家に入ってしばらくしてから電話をかけた。
先程のファミレス近くの場所で集合ということにして電話を切る。
「まさかアミさんの方から誘ってくれるとは思いませんでした」
「あの、ウサちゃんになにかしたら許しませんから」
これだけは言っておかなければならない。
なにができるというわけではないけれど、言っておかなかった場合よりはマシになると思う。
「あと、本当の家の場所を教えてもらえませんか? 教えられないということならもう会うのはやめます。だってリスキーじゃないですか、それにこちらの情報ばかり知られているのはフェアじゃない、ですよね?」
「ふふ、なるほど、実はあなたが1番警戒していたということですか」
そりゃあまりにも要求が不自然だからだ。
私にしかできないことと言われて舞い上がった自分は置いておいてもらいたいけど。
「いいですよ、あなたには信用してもらいたいですから」
「はい、よろしくお願いします」
で、約20分ぐらい移動した結果、
「え、これまじですか?」
「はい、ここが私の家です。本当ですよ? 表札にだって小楠と書いてありますよね?」
メチャクチャでかい家ぇ……。
アニメとかでよく見る豪邸ってわけじゃないけど、3回建てで横幅も広いと。
どういう生活を送っていたらこんなところに住めるんだ、住んでる世界が違いすぎる。
「どうします?」
「あ、あの……この前の家は誰のなんですか?」
「ああ、あの家は友達の家です、あの日のために借りたんです」
なんでそんなことを……。
つまりあれか、小楠さんも私たちのことがまだ信用できていないと。
当然だよなあ、お金持ちだと思うから警戒心も高いだろうしさ。
「あ」
「え?」
「謝っておかなければならないことがひとつあります」
なんだか凄く嫌予感が。
美人や可愛い人が真顔になるとなんでこんなに恐ろしいのか。
「私、実はあなたとは別の高校の3年生なんです」
「えぇ!?」
「あ、そんなに老けているように見えましたか?」
「そ、そんなことはないです」
ま、それじゃあ親がお金持ちってことだよね。
高校3年生という証拠がほしいけど、見せてくれるのかな?
「信じられないという顔をしていますね」
「す、すみません……」
「いまから学校に行きましょうか」
「は、はい」
私服で? いまから? 気になることは色々あるけど付いていく。
ミカマルスーパーの南側にある高校だった。
彼女は躊躇せずに学校敷地内に足を踏み入れて歩いていく。
まだ残っている生徒がそれなりにいるため私はたじたじだった。
「あなた帰ったんじゃなかったの?」
「この子が私を高校生だと思えなかったようなので」
「ふふ、あなた老けているものね」
「お、大人びていると言ってくださいっ」
いや待て、話している人もメチャクチャ美人だぞ。
いやそれだけじゃない、帰ろうとしている人や部活動をやっている人たちも同じこと。
というか結構遅くまで残っているんだなというのが正直な感想だった。
「なるほど、その子が例の子ね」
「はい、やっと見つけられました」
「あなた、望月アミさんでしょう?」
「は、はい」
「スズと仲良くしてあげてね、それじゃ」
長い髪を左右に揺らしながらその人は帰っていった。
小楠さんは「これで証明になりましたかね?」と聞いてくる。
「あの、みなさんとても綺麗ですごい場所ですね」
男の子からしたら楽園とも言えるのかもしれない。
ただ、女子校っぽいから入ることは不可能だろうけども。
「私以外は、ですけどね。帰りましょうか、送っていきますから」
「ありがとうございます」
ふむ、これなら大丈夫だな。
いきなり全て信用はできないけど疑う必要もない。
「先程の方とは仲がいいんですね」
「はい、優しい方ですから」
あ、そういう笑みも浮かべられるんだ。
私で言えばウサちゃんがそうか、彼女のことを考えると自然といい笑みを浮かべられる気がする。
「あれ、アミじゃん」
「あ、沖くん」
「それと、スズか」
え、知ってるの?
しかも呼び捨て? 大変仲が良さそうだ。
「しー!」
「はは、別に言わないよ、僕も一緒に帰るけどね」
「ほ……これからも余計なこと言わないでくださいね」
「もし言ったら?」
少しだけ挑発するような表情を浮かべる兄。
家族以外にするところを初めて見た、仲が良くなければできないこと。
「別に脅したりはしませんよ……でも、いちいち言わなくていいですよね?」
小楠さんはそこに触れることはなく返答した。
これが大人の対応というやつである、私も少しは見習いたい。
兄も「ま、言わないから安心して」と口にし、いつもみたいな優しい笑みを浮かべる。
ふむ、よくわからないけど兄と知り合いならより好都合だ。
兄は危ない人と仲良くしたりはしない、仮に相手の見た目がいいのだとしても。
それに会話だけを聞いていると兄の方が有利に思える。
脅すようなタイプでもないから問題が起きる可能性は低いと。
「お、沖くん」
「なに?」
「ありがとうございます、あなたのおかげですから」
「はは、良かったね」
ただねえ、もう少しぐらい説明していただきたいものだけど。
一緒にいるのに別のところにいるみたいな疎外感。
学年が違うし、まだ友達というわけではないから仕方ないんだろうけどさあ。
「ただ、嘘をついたのは良くないね、ウサちゃんからアミをちゃんと見守っておいてって連絡がきたぐらいだし、それにアミもあまりいい印象は抱けないだろうから」
「はい……反省しています、沖くんが教えてくれたのだと説明しておけば良かったです」
なるほど、やはりそういうことか。
だけどこの兄と小楠さんはどうやって知り合ったんだろう。
高校が一緒というわけでもないし、そもそも兄は大学生だし、兄は休日もあまり外出するタイプじゃないから接点が?だ。
「うん、そうだよね、別に隠す必要もないからね。それに僕経由ならアミも安心できるだろうからさ、これからはあんまり不必要な嘘はついたら駄目だよ?」
「わかりました。アミさん、ごめんなさい」
「いえ、寧ろ知ることができて安心できましたから」
まあいいか、兄と小楠さんは知り合いだったで終わる話。
いまはとにかく早く帰って母の作ってくれた温かいご飯を早く食べたい。
「スズも食べてかない? 帰りは送ってあげるからさ」
「いいんですか? それなら……あの」
こちらを見て「行かせていただきます」と口にする。
うーむ、小楠さんは私のどこを気に入っているんだろう。
こちらとしても元々言おうとしていたからいいんだけど……。
ただ、口に合うのだろうか?
あんな家に住んでいるのなら豪華な食事を毎日摂っていそうという偏見がある。
「ただいま」
「お邪魔します」
そこからはこれまた特に変わらない。
ご飯を食べてお風呂へ入るだけだ。
「アミさん、一緒に来てくれませんか?」
「いいですけど」
お風呂に入ったら寝るだけだから別に構わない。
なにより歩いておけば太らなくて済む、問題なのは外がメチャクチャ寒いこと。
「沖くん、手握っていい?」
「それならスズに頼みなよ」
「あ、じゃあいいですか?」
「は、はい、どうぞ」
手が冷えるとなにかにぶつかった際に痛くなる。
その点、こうして他人の手を握っておけば問題もないわけで。
「温かいですね」
「そ、そうですか?」
「はい、ありがとうございます」
もう両手で握っておきたいぐらい。
そんなことをしたら歩きにくいからできないのが残念。
出会ったばかりでも人の手を握っていると落ち着けるんだとわかった。
「疑ってすみませんでした」
「それは私が悪いですから……」
「小楠さんさえ良ければ仲良くできたらって」
「私があなたと仲良くしたいんです、よろしくお願いします」
ウサちゃん以外の長期間関われる存在ができたのは大きい。
しかも向こうから来てくれた、もちろん問題はあるけど。
愛想を尽かされないように努力しなければならない。
それどころか友達になってもらうことよりもそれは大変かもしれない。
ウサちゃんに甘えてばかりなのもいけないし、積極的にいかなくては。
「名前で呼んでもいいですか?」
「はい」
「す、スズさん」
「はい、スズですよ」
な、なんだろうこの時間、横にいる兄はなんかにこにこと笑みを浮かべて見ているだけ。
やはり笑った顔は凄く可愛い、こういう人をハイスペックと言うのだろう。
「あ……着いちゃいましたね」
「いつでも来てください、アミさんたちなら大歓迎ですから」
「はい、ありがとうございます、それではまた」
手を離したら寒さとなんとも言えない寂しさが伝わってきた。
おいおい、本当のことがわかった瞬間にこれってちょろすぎ。
「沖くんはどうやってスズさんと知り合えたの?」
かなり恥ずかしかったこともあって気になったことを聞いた。
兄は「んー」と少し言いづらそうにしながらも、「実は合コンなんだよね」と答えてくれた。
が……大学生と女子高校生の合コン、やばい感じしかしない。
それでお持ち帰りをしようとしたということか? 兄も実はやばかったと?
「最低……」
「待って待って、誤解しないでね」
「でも、お持ち帰りしたんでしょ?」
「してないよ、しかもスズ以外はみんな大学生だったからね」
どんな集まりなんだそれは。
兄曰く、無理やり知り合いに参加させられたらしいが。
結局、若く綺麗なスズさんに興味が集まったところを兄が連れ出したらしい。
「お持ち帰りじゃん……」
「守るためには仕方がなかったんだよ」
「というかさ、合コンとかしなくていいじゃん」
失礼な話になるけど、合コンとかってあまりいいイメージがなかった。
なんか頻繁に男女が行ってそうだし、くっついても大抵すぐに別れそうで。
もちろん偏見なのはわかっている、合コンで知り合ってしっかりと愛を育んだ人だって中にはいるだろうから。……単純にあまり余計なことを言うべきではないなと反省した。
「僕も無理やり参加させられた側だったから気持ちがよくわかったんだよ」
「ふーん、物は言いようだね」
「えぇ……守ったんだから褒めてよ」
だけど確かにそうだから偉い偉いと頭を撫でて褒めておいた。
あの笑顔が壊されていたかもしれないと考えると、もう嫌な気分になるし。
ちょろいとかどうでもいい、そういうわけのわからないまま自由にされてしまうのは許されない。
というか、余程自信がなければあんな綺麗な人を誘えないと思うけど。
そりゃ注目集めるでしょ、あのレベルはほいほいといないのだから。
過信したうえに責めてなければいいな、同性って怖いからなあ。
「同じ学校なら良かったなあ」
「いつでもすぐに会えるわけじゃないからこそ逆に燃えると思うけど」
「そうかなあ、同じ高校の先輩さんならなあって」
「大丈夫だよ、スズはいつだって会ってくれるから」
わからないじゃんそんなの。
どこを気に入ってくれているのかわからないから磨きようがない。
悠長に生活しているだけだったらあっという間に愛想を尽かされて終わり。
それだけは嫌だ、ウサちゃんにあまり依存しないためにも必要なことだから。
「というかさ、なに馴れ馴れしく名前で呼んでるの」
「あれ、もう嫉妬?」
「……沖くんが呼ぶ必要はない件について」
「出会って2日目に名前で呼んでしまう妹は?」
「同性同士は別だから」
嫌そうな顔はしていなかったから迷惑じゃないよね?
まあ仮にこれからそのような表情を浮かべていたら改めることにしようと決めた。
「ただいま」
「おかえり!」
「あれ、もしかしてお酒飲んでるの?」
「だって……ひとりで寂しかったから」
「私たちはちゃんといるよ、私もジュースで参戦するね」
なにより1階には最強のアイテム、コタツがあるから!
そこで敢えて冷たいものを飲む快感! もちろん、
「いたた……」
すぐにこうしてトイレに行くまでがワンセット。
でも凄く幸せだ、これが冬を最大限楽しむ行為のひとつだ。
お腹が痛くなるぐらいでなんだ! コタツに体を突っ込んで飲む冷たいのは美味しいぞ!
「あっはっは!」
「アミちゃん早くー」
「いま行くよー」
とにかくいまはただただスズさんに嫌われないように頑張ろう。