プロローグ 百億聖女と死神王とオークション(上)
「それでは、次の商品のお目見えです!」
高らかに司会の声が響いた。
豪奢な舞台の上にスポットライト。黒い衣服を纏った愛想の良さそうな司会。
そこ以外は薄暗い、明らかに様子が違法人身売買の会場であった。やんごとなき人々が微笑み、お互いに腹を探り合いながら人を買い取る……ここは。敗戦国の有望な『人材』を、他国へと売買するオークションだ。
ドレスにタキシード、フォーマルな華やいだ衣服を着た人たちが笑いさざめきあう、王道オークション会場だ。
「あら、まあ……次が本日の目玉ですか」
「そのようですねえ。敗戦国の『聖女』だとか?」
「『聖女』といえばあの国では、戦争の最前線に立つ最高戦力でしょう。はてさて、聖女といえどどのようなゴリ……おっと、体格のいい娘が出てくることやら……」
「正直戦わせられればなんでもいいですね」
「おやおや、こき使われるゴリマッ……『聖女』も可哀想に……」
「まあどうせ戦闘力ゴリマッチョですからね、あの国の『聖女』」
「まあゴリマッチョしか歴代いませんからね、あの国の聖女」
くすくす。陰湿な、『聖女』を憐む笑い声が会場のあちこちで起こる。やんごとなき方々は普通に性格が悪かった。
——そんな中、注目を集める中。舞台上に一つの椅子が引き出される。
「『聖女』、イーナ・ストロング!」
その上に華奢な少女が座らされていた。
銀色の天使がいた。
彼女は緩やかに伸ばした銀髪美しく、華奢で小柄。まるで攫われてきた姫君のようだった。長い睫毛を震わせて、彼女は気丈に花のような形の唇を噛む。
ゴリマッチョだろと思っていたら天使だった。
「可愛いですが!!!??」
「マッチョじゃなかった……」
「可憐すぎる……!!??」
「どう考えても嫁にほしい……私の子猫ちゃんにしたい……」
「戦わないで宝石箱に入れておきたい……マイスイートハート……!」
変態大量発生。
聖女が可愛すぎたので会場内の反応が普通にキモくなった。
その変質者集団に対して、聖女はキッと瞳に怒りを込めて可憐に周りを睨みつける。
「あなたたち、わたくしに、こんなことをして……っ、絶対にっ、絶対にっ、ただではすましませんことよ……!」
高貴な聖女という概念を絵で描いたような反応だったので、買い付けに来ていた人々は「やべえよやべえよ……本物じゃん……」みたいな空気になり、オークションは当然のことながら——熱狂の兆しを見せはじめていた。
そんな中、銀髪の天使は絶えずなんかごそごそしていた。
落ち着きないな……と何人かが思ったが普通に放置した。
まあ可愛いからなんでもいいよね。多少落ち着きないところも可愛いわ、天使だわ。
「ではこの聖女の値段を……一、三、六…でました!六億!」
結果的に彼女のオークションは、金が乱れ飛んだ。人に六億なんて普通は使わない。領地が余裕で一つ買えてしまう値段だ。超無駄遣いである。
「まあ、『聖女』に六億。思い切ったものねえ」
「でもわかります、あの外見ですからねえ。正直戦闘以外にも幾らでも使い道はありそうだ」
「どこへ売られていくか見ものですわ」
ふふ、と笑いさざめく貴族たちを睨みつけながら、銀色の彼女は相変わらず手をごそごそしていたが、やっぱりまあ可愛いからいっかと放置されていた。落ち着きないけど天使だしいいわ。無害そうだし。
司会が高らかに声を上げる。
「さあ皆様!もういいですか?これでよろしかったでしょうか?それではそちらの方が、この『聖女』イーナ・ストロングをお買い上げに——……」
ぶわり、と銀色の風が逆巻いた。
ぶちぶちぶち、と音がした。
聖女を拘束していた、鉄ワイヤーがちぎれ飛んで貴族の男のカツラが三つぐらい華麗に吹き飛んでいった。
質量があるみたいな、コンクリートで殴られるような濃密な神術の力に殴られて、皆の視線が一斉に舞台の上に向けられる。
何故かそこで。
『聖女』が。
ガトリング砲を抱えていた。
「安い!!!!!!!」
彼女は叫んだ。同時にガトリング砲を乱射した。




