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名古屋郊外日記 ぜんぜん気にならない。

「本を読む」エッセイコンテスト〈この本とわたし〉の落選作です。

 川上 弘美『東京日記1+2 卵一個ぶんのお祝い。/ほかに踊りを知らない。』を読んで書きました。

八月某日 晴

 猛暑日。

 子どもたちと午前中に図書館へ行く。

 夏休みと読書は相性が良い。

 何冊かの絵本と一緒に、『東京日記』を借りることにした。挿絵のかわいさに心惹かれたのである。

 家に帰ってからも、『東京日記』をぱらぱらめくってみる。やにわに、わたしも日記というものを書いてみたくなった。

 そういえば、「本を読む」エッセイコンテストがあることを思い出す。

 せっかくだから書いてみるのもいいかもしれない。

 さっそく、書きはじめてみる。

 午後、『東京日記』のあとがきを先に読んだ。

「どのひとの上にも、ひとしく幸いが訪れていますように。そして、もしまんいちなにがしかの不運をこうむったひとにも、近く幸いが訪れますように」と書かれている。

 川上弘美さんは、やっぱり素敵な方なのだろうと思う。お会いしたことはないけれど、大好きになりかけている。

 夜眠る前に「どうして逃げるのー。」という章まで、すらすら読んだ。

 おもしろい。おもしろすぎて、「どうして逃げるのー。」という章をもう一度読み返す。

「どうしておもしろいのー。」と心のなかで叫ぶ。

 おもしろい理由を考えながら、眠ることにする。

「夏の終わりはさみしい」からかもしれない、と思う。


八月某日 曇

 水曜日はデジタルデトックスの日、と決めている。

 しかし無意識のうちにスマホを手にしていることがあるので、できるかぎり文庫本を持ち歩くことにしている。

 そんなわけで『東京日記』を持ち歩いて、ちまちま読んだ。五分ほどのすきま時間で、ひとつの章を読み進められるのが素敵である。

 子どもたちがわたしのことを忘れて遊びはじめる瞬間には、もう夢中になって読んでいる。

 なんだかんだで子どもたちも、ずっとわたしに構っているわけにはいかないようなのである。

 しかし『東京日記』がおもしろすぎて、もっと読みたい気持ちが抑えられない。今日だけでいいから透明人間になれたらいいのに、と切実に思う。


八月某日 曇

 夜、毎年恒例の花火大会を鑑賞する。自宅の窓からちょうど見える花火である。

 三十分ほど、大きくてきれいな花火に魅入る。あっという間に終わってしまう。

 ふと『東京日記』を読んでいるときの気持ちが、花火が終わったあとのさみしい気持ちに似ていると気づく。

 しずしずと『東京日記』を開くと、半分くらいまで読んであった。

 来週の日曜日には図書館に本を返却しなければならない。順調に読めているので、安心して眠る。


八月某日 雨

 久しぶりの雨。

 雨と読書は相性が良い。

 午後三時にアイスカフェオレを飲んでから、『東京日記』を読みはじめる。飲みものと読書も相性が良いらしいけれど、わたしはひとつのことしかできないタイプで飲みながら読むのは難しい。

 順調に読み進めていたのだけれど、「くだんのおしいれ。」という章で心身が凍りついてしまった。

 おしいれが「ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ」と鳴くので見てみると、あひるのおもちゃが出てきたという話である。

「こんなあひる、一度も見たことないのに」というところが怖すぎた。心なしか空気がひんやりと冷たいように感じられる。

 夏にぴったりの話だ、と思う。


八月某日 曇

 一週間は早い。

 また水曜日になったので、『東京日記』を持ち歩いている。ちまちま読む。

「ぜんぜん気にならない。」という章が、すごく好きで浸ってしまう。「ぜんぜん気にならない。」と小さくつぶやいてみる。

 おおらかな気持ちを忘れずにいられたなら……、と思う。たとえばエッセイコンテストに日記を出しても良いのかなんて、気にしてはいけない。

 午後三時にコーヒーゼリーを食べてから、『東京日記』を集中して読みはじめた。

 あっという間に読み終わってしまい、唖然とする。

 しばし唖然としていたけれど、インターネットで検索してみると『東京日記』には続きがあるらしい。

 すごくうれしい気持ちになる。

 いつかまた、続きを読みたいものだ。


八月某日 晴

 子どもたちと午前中に図書館へ行く。

 本を返却して、借りる本を探す。

 小さな図書館には読んだ本も読みたい本も、たくさん並んでいる。『東京日記』はもう棚に戻っていた。

 夜眠る前に、エッセイコンテストに応募する日記を読み返す。

 そういえば、『東京日記』は五分の四くらいほんとうの日記らしい。つまり、五分の一くらいうその日記ということになる。

 ぜんぶほんとうだとつまらないからかもしれないし、ぜんぶほんとうに書くのは難しいからかもしれないと思う。

 わたしが今、書いている日記はどうだろうか。

 やっぱり五分の四くらいはほんとうの日記になっているのかもしれない。

 さいごに素敵な本と素敵なコンテストに出会えて、この日記を書けたことに感謝して眠る。

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