顔文字
人のなかに、風景のなかに。
溶け込んでいたいと感じること。
みなさまは、ございませんか?
控えめにいって、野田は周囲の反応を気にしてばかりの人生でした。
しかしながら。
周囲の反応を気にすれば気にするほど、失敗だけが積み重なっていくのです。
初めて、「ご趣味は?」と聞かれたとき。
「TRPG」と答えたことを、未だに野田は後悔しております。
結果として。
「なんだか難しいことを趣味にしているんだね」と苦笑いされてしまったのです。
お相手の方は、適当な会話を成立させたいだけでした。
当たり前ですが、TRPGについて聞きたいわけではありませんでした。
会話を円滑に回すためには、わかりやすい趣味を答える必要があったのです。
数年後。
「ご趣味は?」と聞かれたときには。
「読書」と答えて、また失敗しました。
会話をしていた女の子が、本を全く読まない子だったのです。
「えっ……、すごいね」と言ってくれたのですが。
思いっきり、顔が引きつっていました。
めっちゃ引かれとる! と、野田は変な汗をかいてしまいましてね。
友だちになれませんでしたよ……。
それ以来。
「ご趣味は?」と聞かれたときには。
「岩盤浴」と答えるようにしていました。
「いいよねー」「わたしも行きたーい」などという会話を楽しみながら。
よしよし。と、ほくそ笑んでいたのです。
しかしながら。
こちらも暑がりの男性には通用しませんでした。
「崇高な趣味ですね」と言われてしまったのです。
大きな壁の隔たりを感じましたよ。
趣味を聞かれたときの無難な答えを、未だに野田は見つけられずにいます。
誰しもが共感できる趣味なんてないのかもしれません。
周囲の反応を気にすること自体が、失敗の始まりなのかもしれません。
でも、気にしてしまうのです。
人間だもの……。
ところで。
ちょっと変わった子だね、と言われている女性が職場にいるのですが。
『わかりました……!』というメールの文言が問題になっていたので、野田は戦慄してしまいました。
「『てんてんてんてん』なんて、わざわざ打たないよね」
「やっぱり、ちょっと変わった子だよね」
みたいな会話がありまして。
「三点リーダーね」とか「2回続けるのは正しいんだよね」とか。
口が裂けても言えませんでしたよ。
人のなかに、風景のなかに。
全力で溶け込みたい!
本当は、ちょっと変わった子の野田。
そろそろ、顔文字や記号ではなくて。
スタンプや絵文字をマスターしなければならないようです……!




