本当にあった怖い話
昔から、野田は極度の怖がりでしてね。
おおよそ人の怖がるものの全てがダメだと思われます。
高所や暗所や閉所は単発でも十分にスリルを味わえるものですから、ホラー映画や絶叫マシンに関して野田には一切の必要性がないと申し上げておきましょう。
怖がらせようとしていただかなくても大丈夫ですよ。
世界は怖いもので溢れていますから。
そして、絶叫マシンは落ちる前から普通に怖いです……。
虫も全般的にダメです。
どんなに小さくても可愛くても無理です。
団子虫がいるだけで、周りに助けを求めます。
フットワークの軽い虫だと、叫びながら逃げ回る羽目になります。
「おまえの方が怖いわ」とよく言われるのですが。
正直なところ、対峙しなくても殺虫剤に描かれた絵を見るだけで怖いです……。
痛いのも無理です。
ギターは、弦を押さえるのが痛くて弾けません。
ピアスは、開けようなんて1ミリも考えたことがありません。
永久脱毛は、恐れているうちに行く機会を失いました。
包丁は、家で人が死んだら困るのでプラスチック製のものしか置いておりません。
注射も病気も病院も怖いですね。
すでに検査の時点で怖くて逃げ回ってしまうタイプなので、病気にかかっていないことを切に願ってやみません。
人をひとり普通分娩で産んでおりますが、あれは何かの手違いでした。
次があれば、絶対に無痛分娩を選びます。
しかしながら。
出産時に助産師さんから伝えられたのですが、野田は痛みに強いタイプの人間だそうです。
はい、ただのヘタレということですね……。
スポーツも怖いものが多いです。
格闘技は勿論ですが、サッカーやバレーもシンプルに痛い。
ドッジボールに至っては、人にボールをぶつけて喜ぶ野蛮なゲームという認識です。
あまりにも怖いものが多すぎて、よく家族からバカにされる人生でした。
しかしながら。
一緒にスケートを滑っていた夫が転びそうになった際。
ナチュラルに野田を引っ張って転ばせたことは、一生忘れられそうにありません。
痛くなかったのですけどね……。
やはり、人も怖いです。
文章では何とでも書けますが、顔を合わせると野田は何も言えません。
でも、見知らぬ人々は普通に話しかけてきます。
駅を歩いているだけで知らないお婆さんに「1万円ありませんか」と聞かれます。
路地を歩いているだけで知らないお兄さんに「地下駐輪場に行こうよ」と誘われます。
本当にあった怖い話は、何気ない日常のなかに溶け込んでいるのです……。