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きわどい賢者なんて称号はお断りですっ!

「さがりなさい」


 私はドラゴンたちに告げる。残り四匹。


 何故この世界の冒険者は服が破れたり、布面積が少なくなると強くなるのでしょうか。

 しかも若い女性限定で、です。いつか解き明かさないといけない秘密です。

 水着は皆様、だいたい水属性か火属性になりますしね。海と夏ってちょっと安直では無いかと思います。

 

 おっと今は目の前のドラゴンたちに意識を向けないといけないですね。


「死ね! アバズレ痴女め。絶対生かしておけぬわ!」

「ドラゴンにそこまで言われる筋合いはありませんよ?」


 水着を着ただけで何故アバズレとまで言われないといけないのでしょうか。

 理不尽です。


 ああ、額がぴきぴきするー。


 髪が逆立ってきました。


 雷鳴が轟きます。

 私の魔力に呼応しているようですね。


「ひっ」


 ドラゴンが息を飲んだ。

 

「さあ。受けなさい。【爆熱鱗粉】」


 【魔法使い】系最大の攻撃魔法の一つ、第10位階の魔法を行使する。

 秘技の一つ。前世から受け継いだ知識。大魔法使いアレット必殺の呪。


 私の手から輝く鱗粉がドラゴンを覆う。


「く。こけおどしか!」


 地味ですよね。それは認めます。

 ブレスを吐くため、息を吸い込む。特大のブレスですね。次まともに喰らえば、カーディガンが吹き飛ぶぐらいでは済まないでしょう。


 だけど――それが命取り。


「ぐわっ!」


 吸い込んだ息を吐こうとした瞬間。

 鱗粉もたっぷり吸い込んだのです。


 目から、鼻から、口から、お尻から、毛穴から――発光が漏れる。

 鱗粉が爆発したのだ。


 ドラゴンなど一部のモンスターは体内に火炎袋という、魔力を込めた発火機関があるのです。息を吸い込んで空気を燃料にして、魔力のエネルギー弾として吐き出します。

 【爆熱鱗粉】は、炸薬の性質を持つ鱗粉を送り込み、内部から誘爆させる魔法。レジストしにくいのが利点です。


 ドラゴンは体の内から灼熱に焼かれ、大爆発です。

 その絶叫は耳を塞ぎたくなるほど。


 破片は地上に落ちますが、これぐらいの肉片なら住人にダメージはないでしょう。


 彼らは私に勝てるだけの戦力はあるのです。

 防御魔法をしっかり張り、連携し、持久戦に持ち込めば私に勝てたでしょう。

 人間を侮りすぎたのです。


「ひぃ!」

「ご、ごめんなさい。青の乙女様!」


 乙女。いい響きです。そこのドラゴンは生かしてあげます。早くお逃げなさい。


「引きなさい。それとも私と最後まで戦いますか?」

「引きますっ!」


 ドラゴンたちは逃げ去った。

 

 さて、このあとの一悶着のほうが厄介ですね。実力隠してたからなー。


「よくやってくれた! シアン!」


 降り立てばディオン将軍が待っていました。

 感激しているようだ。王都の危機でしたからね。


「王が礼をいいたいそうだ。すぐに謁見の間に」


 え。いやですよ。

 王様に謁見なんて面倒臭い。どうせ私が撃退したとしても損得勘定でしか考えていないでしょうから。

 そもそも王様が前世の私が成し遂げた不可侵条約を破ったのがいけないのです。

 火の魔王は決してむやみに虐殺をする男では無いのだから。


「いえ。このまま去りますよ」


 謙遜した振りをして辞退する。


察して将軍!


「何故だ! 報酬も与えぬまま、賢者を手放すわけにはいかない」

 

 ダメですね。

 将軍は王命で動いていますね。


「わずかな報酬で国の守護や他の魔王退治命じられてはたまりませんから」

「しかし、勇者の仲間で!」

「その勇者に追放されましたからね。それもあなたの元部下のエティに頼まれたからです。もう義理は果たしましたよ」


 エティは寡黙な剣士です。修行中の時、彼に幾度となく命を助けてもらいました。

 そのエティの頼みだからこそ、勇者パーティーに身を寄せたのです。将軍は面識がありますが、義理があるわけではありません。


「頼む! 王も君に【きわどい賢者】の称号を与えよと仰せだ!」

「絶対いりませんからね? そんな称号! お断りですっ!」


 誰が謁見するものですかっ!


 私は再び浮遊魔法で飛び上がる。

 このままだと捉えられて無理矢理謁見させられかねない。絶対嫌です!


「あ、待って。騎士たち、追え!」


 やっぱり騎士たちがわらわらと追いかけてくる。

 

 いっそ、もうこの城吹き飛ばそうかな…… さすがにまずいか。


 捕まるわけにはいきませんから。さようなら。


 王城から浮遊し、雷雲が晴れていないことをいいことに闇に紛れ裏路地に逃げ込む。

 水着はどうしても目立っちゃいますからね。


 路地裏に潜んでいるところ、頭からぱそっと外套がかけられる。

 振り返るとロイがいました。


「派手にやったな。心配でみてたよ、あんなの俺じゃ何もできないが」


 盗賊系の職業でドラゴン五匹はどうしようもないですからね。

 あなたの本当の実力なら、それでもなんとかしてしまいそうですけれど、内緒ですもんね。


「今外套かけてくれたじゃないですか。ありがとう、ロイ」


 水着で困っている私を察して探してくれたのです。

 こういう気遣いができるのは良い男です。人相は悪いけど。

 素足はどうしようもないけど、アイテムボックスから靴を取り出してなんとかしよう。痛くないからこのままでいいかな。


「いいってことよ。今度こそ、またな」

「ええ。また会いましょう」


 ロイと別れ、私は王都を今度こそ離れる決意をします。


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