大地の恵み
これは私のブラックベリーです(^-^)
次の日からイーリンは少しずつ努力し始めた。
もちろん労働などしたことはなく、その上イーリンは不器用だった。一人で着替えるだけでも時間がかかる。床を掃こうにもうまく掃けない。バケツを運ぼうとしてもあちこちに水を跳ね飛ばしてしまう。その度にやり直しや後片付けで他のシスターたちが迷惑する。
(私はダメな人間だ)
イーリンはいつしかそう思うようになった。
沈んだイーリンを見かねたシスター・ヴァネッサが声をかけた。
「ものにはコツというものがあるのですよ。少しずつやり方を覚えて 掴んでいきましょう」
シスターはゆっくりと丁寧に教えてくれた。
「バケツを運ぶときは手を揺らさず、体の重心をしっかり持って両手で軽めのバケツを運んだ方が楽でしょう」
「はいっ!シスター!!」
「コツを掴んだら誰でもできるのよ。もちろんイーリン、あなたにも」
水汲みが上手くできるようになったなら次は床掃除だ。
「床板はどうしても溝が掃ききれない。だから床板に沿ってやるのです。部屋の隅には埃が溜まりやすいから丁寧にやります」
一度で覚えきれないことは、何度も何度も教えを乞うて、イーリンは頑張った。
努力を重ねるうちに 人並みとはいかずとも、なんとか形になるようになった。
1日4回の祈りも礼拝堂に行って跪き、過去の自分の行いを思い出しながら祈るようになった。
「お茶を摘みに行きましょう」
「えっ!?」
普通の令嬢にとって、お茶は侍女が煎れるものであって、自分で摘むなど思いもよらない。
「ここでのお茶は野原にある野草を摘んで煎れるものなのですよ」
(お茶はどうやって作られる?)
そんなことを考えたことはなかった。
シスターはカゴを持ってイーリンを修道院の裏庭に連れて行った。
「あの白い花はブラックベリー。もう少しすれば甘酸っぱい実になります。ブルーベリーの花はもう終わってしまいましたね。この地にはたくさんの恵みがあるのです」
イーリンはシスターに指さされた花を見た。木を見た。そして地の恵みという言葉を考えた。それは新鮮な響きであった。
やがて二人は一面の白い花畑に着いた。
ほのかにリンゴの香りがする。マーガレットのような、でもずっと小さい花がたくさんたくさん咲いていた。
「この花はお茶になるんですよ。とても気持ちが落ち着くの。あなたが持ってきたカゴに花だけ千切って入れなさい」
花を千切るなんて乱暴な真似をしたことがないイーリンは、どうしたらいいか迷った。
シスターは笑いながら言った。
「この花は後から後からとってもたくさん咲いて、そして小さな種からまたたくさんの芽がでるの。この花が咲くことで、他の畑の作物の成長を助けるわ」
それからイーリンは頑張った。一つ一つ摘んでいたら全然集まらない。手のひらに10ほどの花をすくい上げてプチプチっと全て千切る。やがてカゴがいっぱいになる頃にシスターは微笑んだ。
「随分頑張ったわね。この花はそのままでもいいし、少し日に干して乾燥させてもいいのよ。好きな方が多いから喜ぶわ」
帰り道の修道院の敷地で、またシスターが言った。
「あの木はローズマリー。それから あちらの方に植わっている草はミントよ。どちらも肉の臭みを消して風味を増すハーブなの。お茶にもとてもいいのよ。でもミントは雑草よりも増えて大変だから、厳重に管理をしているの」
シスターはミントの葉をいくつも千切った。
「3時になったら、このミントでお茶を入れましょう。優しい味がするお菓子もあるの」
帰ってきてからシスターは厨房に行った。そして持ってきたお盆の上には、ミントを浮かべたティーカップと、透明なプルプルしたゼリーがあった。
「さぁ、召し上がれ」
恐る恐るイーリンはカップを口に運んだ。
「とっても爽やかだわ」
シスターが微笑んだ。
(ゼリーの中に入ってる黄色いものは何?)
イーリンはブルブルするお菓子を、また恐る恐るフォークで一口食べた。
「甘い。優しい味がする」
「それは近くで取れた蜂蜜と、この修道院でとれたサツマイモから作ったお菓子です。ここでは最高の蜂蜜が取れるの。贅を凝らした料理はないけれど、ここでは、この国で一番美味しい野菜を作っていると思っているわ。野菜は作り手によって味がずいぶん違うのよ。貧しい料理と蔑むのではなく一口一口大地の恵みを味わいなさい」
シスターの言葉はイーリンの心に深く響いた。そしてシスターはにっこり笑って言った。
「明日はサツマイモの植え付けがあるの。一緒にやりましょう」
その日の夜イーリンは出された夕食をゆっくりゆっくり味わった。豪華な香辛料ばかりの食事に慣れてはいた。見た目も綺麗な砂糖ばかりのお菓子に慣れていた。でも野菜というものはこんなにも美味しかったんだ。そう初めて思った。
翌朝さつまいもを植える畑にシスターと共に行った。近くの農民が灰を混ぜ畑の整備をしてくれている。苗も用意されている。その畝に木の棒を差し込んで、できた穴に一株一株植えていく。
(あー。長い爪に土が入って泥だらけ。長い髪も邪魔だわ)
腰まである長い髪は ベールから零れ土で汚れてしまう。
作付が終わった時イーリンはシスターに頼んだ。
「爪を切りたいんです。それから髪を切ってください」
「そう。わかりました」
パチンパチンと爪を切ってもらう度に爪の中の泥が取れていく。
「さあ。後は水で洗ったら爪もきっと綺麗になるわ」
それから肩より少し長めにシスターに髪を切ってもらった。
「まあ、とても可愛らしいわ」
それは修道院に来て初めて言われた 褒め言葉だった。
以前のように賛美されることが当たり前と傲るのではなく、心の底からの賛辞の言葉にイーリンは心から嬉しく思った。
野菜作りには才能があるようです。私のニラは育たずミントも枯らしました。
親戚の育てる野菜は最高の甘さと旨味があります。才能の無さは、なかなか辛いですね。
スローライフの 定番は じゃがいもでしょうが、 ジャガイモ飢饉を 読んでから 怖いからとじゃがいもは書きませんでした。
さつまいもの育て方やら調べていて遅くなりました。
皆さんが 知っている 一番の 庭の雑草は どくだみかと思いますが、 ミントも非常に強い植物です。Gよりも強いとか…。
ミントテロという言葉が ネットでは いくつも聞かれます。
食用ほおずきも 我が家ではどくだみやミントに変わらないほど 酷いテロです。
作中のイーリンはミントティーを飲み、さつまいも餡の水饅頭を食べてます。私もこれから作ってみます(笑)
写真の ブラックベリーは 私が植えたのですが、 ジャングルのような恐ろしいものになってしまいました。
さあそこで歌いましょう!ジャングルが出てくる歌を!
♪正義のパンチをぶちかませ♪
私が一番得意なところですが、お後がよろしくないかな(笑)