レッツ乳絞り(笑)
芋洗いの翌朝、イーリンは夜明け前に目を覚ました。
(ちゃんと起きられたわ。まだ眠いけど…)
昨日はあれからシスター・ヴァネッサに言われたのだ。コリンから教わる全てが学びだと。
(学び、学びねぇー。お芋を洗う事が??よくわからないわ。それより急がなきゃね)
手早く着替えて待ち合わせ場所に行くと二人は既に待っていた。
「おはよう!」
「「おはようございます」」
「二人とも、ここでは身分がないのだから私にはもっと普通に砕けて話してね」
「すみません。私は普段からこんな話し方なんです」
「私は田舎者だから、町の人にはきちんと話すんだよといつも祖父に言われてました」
「うーん。まぁ、いいわ。でも挨拶だけはおはようと返してね」
「これからはそうします」
「わかりました」
三人娘の話はさっさと変わる。
「ねぇ、昨日もらった蜜蝋クリームすごいわね。寝る前に手に塗ったら、とても肌に馴染むの。香りも素敵ね」
イーリンは上機嫌だ。
「ええ。そのせいか昨日はぐっすり眠れました。今日はとても気分がいいです」
マリーが微笑む。
「本当ですね。昨日はガサガサだったのに今朝はスベスベで。こんなに良いクリームは村にはなかったです」
ナタリーも気に入ったようだ。
「商会のものより質が良いかもしれないわ」
ちょっとマリーが考え込んだ。
そうやってかしましくお喋りする三人の元へ、ニコニコしながらコリンがやってきた。
「おはよー、お嬢さんたち」
「「「おはよう、コリン」」」
「元気いっぱいですね!」
「「「はいっ!!」」」
「では、今日は牛の乳しぼりに行きます!」
「「ええっ?!」」
と声をあげたのはイーリンとマリー。
「「「乳絞り?!」」」
「はい、そうです」
「「私達が?!」」
「もちろん!ナタリーさんはやった事あるかな?」
「私の村にはヤギしかいなかったけど、ヤギの乳絞りならした事があります」
「私、ヤギは見た事もないわね。牛は遠くから見ただけで近寄った事ないわ」
「私は生き物に触った事すらありません」
イーリンの言葉にマリーが俯く。
「私は馬や猫なら触った事があるわよ」
……イーリン、そこはドヤ顔で言う所ではない。
「はい、皆さん!猫と牛では全く違います。先ずは牛を見に行きましょう」
コリンの先導で野原とは違う進む。
「こっちの方は確か牧場があるのよね。シスター・ヴァネッサに教えてもらったの」
「えへへっ。こちらは皆さんがよく行く川の上流で、牛の放牧牧場です!」
得意そうにコリンが言う。
あちこちに茶色の牛が点在し、草を食んだり木陰で休んだりしている。
「こんな原っぱに、こんなにたくさん牛がいたんですか?!」
マリーはちょっとビックリである。
「だって牧場だもの」
イーリンはやはりドヤ顔である。
「それでは皆さん、まずは注意です。牛は好奇心旺盛だけど臆病で人見知りです。これから搾乳舎に連れて行きますから、くれぐれも大声をだしたりしないでください」
「「「はい」」」
搾乳舎に入ると既に何人もが働き乳絞りをしていた。
「どんな場所か、どんな動きをしているか、先ずはちょっと見学しましょうね」
そのまま皆でしばらく観察した。
「手際がいいのねぇ」
「牛さん、大きいです」
「乳絞りのやり方がヤギとちょっと違いますね」
三者三様の感想を言い合う。
「それでは皆さん、実地研修にいきましょうか。そこに洗った牛乳缶が用意してあります。乳絞りのコツはキュッキュッキューと絞ってジャーと出す事です」
「何だかよくわからないわ……」
「私にも何が何だかわかりません」
ナタリーは沈黙している。
コリンが牛を連れて来ると離れた所にいる三人娘たちに声をかけた。
「さぁ、近寄って」
恐る恐る近寄ってくる三人。
「まぁ、大人しそう」
「可愛いです」
「優しそうな目をしてますね」
コリンは牛乳缶とタオルにバケツを用意した。
「はい、皆さん。キュキュッとジャーの最初は捨てます」
「何故捨てるの?」
「最初の牛乳は傷みやすいんですよ」
「そうなのね」
「そしてタオルで優しく拭いてキュキュッとジャー」
言いながらコリンはサササッと牛の乳を絞り出す。
ビックリしたイーリンがナタリーにたずねた。
「ねぇ、ナタリーもあんなふうにシャカシャカ絞れる?」
「ヤギと牛は違いますけど、私にはとてもあんなふうには……」
「じゃあ、コリンは乳絞りの名人なのね」
マリーはコリンに見とれるばかりである。
絞り終わった後にまたタオルで乳を拭いているのを見てマリーがきいた。
「何故終わった後も拭くんですか?」
「ちゃんと拭いてあげないと炎症を起こして病気になるからですよ。病気になったら牛さんも痛いでしょう?」
「それは可哀想です」
マリーが呟く。
「じゃあ、皆さんもやってみましょう!」
ナタリーはゆっくりと絞った。
「ナタリーさん、上手ですね」
「ヤギなら村でやってましたから」
イーリンはアワアワして終わった。
「イーリンさん、それじゃあ牛が不安になります!交替!!」
じっと見ていたマリーはたどたどしい手付きながらキュキュッとしている!!
「そうですそうです。そこでジャー!」
牛乳缶に勢いよく乳が絞り出された。
「やったわ、マリー!!」
イーリンが飛び上がって喜んでいる。だが、できなかったのはイーリンだけだ。そこに突っ込むものはいない。
マリーがちょっと汗をかきながら乳絞りを終える頃、周囲は牛乳缶の運び出しに入っていた。
「牛車って始めて見たわ~」
「田舎では馬より牛ですからね。それより皆さん、お腹が空いてませんか?」
「起きるのがやっとで今朝は朝食を食べてないの」
「それは大変だ!」
コリンの言葉に三人は笑った。
「母さんが焼いてくれたパンを持ってきましたから、みんなで食べませんか?」
「まぁ、お母様がっ!優しいお母様ね」
「「……」」
「マリーさんもナタリーさんも一緒にどうですか?母さんの焼いたパンは美味しいって評判なんです」
コリンは困ったようにイーリンを眺める二人を誘った。
「ありがとうございます。ご馳走になります」
「じゃあ、私も少しだけ」
四人は川が見える休憩所でテーブルを囲んだ。
「はいっ!母さんのブルーベリーパンです!!」「「「わぁーっ!!」」」
コリンが持ってきたのは紫がかった大きなパンだ。
「ブルーベリージャムが入ってますから、ちょっと甘いんですよ~」
カットされたパンに皆が手を伸ばす。
「美味しいわ~。コリンのお母様はパン作りの名人ね」
「ええ。甘酸っぱくて美味しいです」
「絞りたてのミルクと一緒だともっと美味しいです」
場が暖かい雰囲気に包まれた。
「今日の学びは乳絞りね!」
…イーリンは何もしていないと突っ込むものはいない。
「私は動物に始めて触った事です」
マリーが言う。
「私は、仕事をちゃんとできて嬉しかったです」
ナタリーが微笑む。
その三人をニコニコしながらコリンが見つめていた。
遅くなってすみません。
乳牛の放牧牧場は北海道にあったのをネットで見ましたが、後は想像過多です(笑)




