芋洗い娘たち
イーリンはワクワクした思いと共に目覚めた。
あれから話し合って一人ずつがお茶を淹れる事になったのだ。
最初の今日はイーリンの番である。
(ちゃんとできる。頑張るわ!!)
先ずお湯に湯気が出たらポットやカップにいれて温めて、お湯を棄ててから茶葉をいれてと。
手際はモタモタしているが、イーリンは昨日教わった事を頭の中で復唱しながら頑張った。
(蒸らす時間はこんな感じ!今だわ!!)
イーリンはシスターのカップに紅茶を注いだ。
それからマリーとナタリーにも同じように紅茶を注いだ。
シスター・ヴァネッサは目の前のお茶を凝視した。
……湯気が出ていない。
その紅茶は薄く色のついた白湯にしか見えなかった。
一口飲んで、そしておもむろに語りだした。
「‥‥これっ、沸いてませんね!!」
「ええっ?!ちゃんと湯気が出るのを見ましたよっ?!」
「湯気が出たから湧いたんじゃありません。沸騰はまず音で区別すべきですよ。昨日話した通りに。これは湧いてません。だから色も薄いし味も香りもない」
イーリンはシュンと項垂れた。
(私ははお湯一つ満足にわかせられないのかしら??)
「私もお湯の沸かし方がわからないです!」
マリーが言った。
マリーはほぼ軟禁されていたので、もちろん厨房など見た事もない。
「ではまず、お湯を沸かす練習ね。3日ほど厨房の方に混じって2人でお手伝いをなさい」
「私も一緒に行きたいです」
「でもナタリーはお湯を沸かせられるんじゃないの?」
イーリンの問いにナタリー
が答えた。
「確かにできるけど、私は田舎育ちだから知らないことはたくさんあると思うの。私はみんなと一緒がいいわ」
その言葉にイーリンとマリーは嬉しそうな笑顔を浮かべた。シスターも柔らかく微笑む。
「では3人で頑張りなさい」
そして連れ立って厨房に入ると厨房長のもとに向かった。
「この3人を3日ほど厨房の見習いにして下さるかしら?」
厨房長は値踏みするようにイーリンとマリーを見つめた。
「とても厨房で働けるようには見えませんが?」
「確かにイーリンとマリーははお湯も沸かせないけど、ナタリーは村で煮炊きをしていたから2人のフォローをします。あなたに迷惑がかからないように」
それでも厨房長は渋い顔である。
「何よりこれは学びなのよ」
言葉を重ねるシスターに渋々厨房長は納得した。
誰もが最初は初心者なのだ。円滑な業務は大切だが、学ぶの姿勢は評価されるべき。それは後継を育てる先達として当たり前の事だった。
「わかりました、シスター・ヴァネッサ。包丁を使わせない簡単な作業ならできるでしょう」
それをきいたシスターは満足して厨房を去った。
厨房長は近くにいたは3人を見て言った。
「私は厨房の仕事全てに責任があります。3人の世話は……」
そして近くで野菜の皮むきをしていた一人の少女に目をとめた。
「コリン。話を聞いていたでしょう?3人の指導を任せます」
「ええっ?!あたしですか?」
真ん丸な目とちょっと上を向いた鼻。ソバカスのコリンは近くから働きに通う村娘だ。
「あたしじゃ人に教えるなんてできないです!」
「出汁の取り方とか難しい事を教えなくていいんです」
厨房長は、おもむろに3人を見てきいた。
「皆さん、じゃがいもを食べた事はありますね?」
「「「はいっ!もちろんです!!」」」
「ではじゃがいもの実を見た事はありますか?」
「ありません!絵なら見ました」
マリーが率先して答え、イーリンは沈黙しナタリーは首を傾げている。
「こういう所からですよ」
「……はい。わかりました」
唖然としていたコリンも納得した。
期待を込めたキラキラした目で見られて、ちょっと居心地が悪そうである。
「あたしはコリンと言います」
「私はイーリン。料理する所なんて見た事ないわ」
「マリーです。部屋からあまり出た事もありませんでした」
「ナタリーです。以前は村で暮らしていました」
ちょっと頭がクラクラしたコリンだが、最後のナタリーの言葉に安心した。自分の言葉が拙くてもナタリーがフォローしてくれるだろう。
「あれは人参。こちらが玉ねぎ。そしてじゃがいもです」
イーリンとマリーはウンウンと頷き、皮を剥いたり切り刻むスピードにビックリする。
「私はあんなに早く上手にはできないのです」
「ナタリーさん。手を切るといけないしプロの仕事の邪魔になりますからいいですよ」
「じゃあ、何をしたらいいんですか?」
「先ずはジャガイモを洗う所から始めましょう」
「「ジャガイモっ?!」」
「一番大切で安全な仕事です」
「「……」」
「確かに大切な仕事です。喜んでやらせて頂きます」
黙ってしまった2人を取りなすようにナタリーが言った。
「ついて来て下さい」
コリンが案内したのはわジャガイモが山と積まれている噴水の傍らだった。
「力仕事は男衆がしてくれるので、洗うだけならキツいけれど簡単です」
そして3人にタワシを渡し自分も手に取って溢れる流水で洗い始めた。
ナタリーは率先して、イーリンとナタリーは恐る恐るタワシを手に取った。
「じゃがいもの芽を食べるとお腹が痛くなる事は知ってますね?」
「はい。知ってます」
「普通の茶色のじゃがいもの皮は食べられますが、青い皮を食べるとお腹が痛くなります」
「それは知りませんでした」
ナタリーは畑仕事はしていなかったので、選別された野菜を調理するだけである。
「じゃがいもの葉っぱも同じですよ。ここでは小さくて青いものは捨てます。洗いながら選別もするんですよ」
野菜の奥は深い。
あれこれコリンから聞きながら山と積まれたじゃがいもを洗い続けた。
コリンのウンチクやナタリーの体験談を聞きながら。
洗い終わったじゃがいもは時折来る男衆が厨房に運んでくれる。
全て洗い終わった時にコリンが言った。
「今日はお疲れ様でした。皆さんシスター・ヴァネッサの所へお話に行って下さい」
3人はシスターに競って今日の報告をした。
一人一人の話にシスターが微笑む。
「みんな手が荒れたでしょう?」
それぞれ手を見ると確かにカサカサだ。
「これは修道院で作っている蜜蝋ハンドクリームです。水仕事する全員に配っています。手荒れが治るから、よくすり込んでね」
「お湯が沸かせない人っているの?」
→「はいっ!私です!職場で教わりました!!」
紅茶→お湯ゆ沸かす→じゃがいも見た事あるの?
ずっと書き直ししてましたが、あまりに下らない話になってしまい汗顔の至りです。
コリンって聞いた事のある名前だなぁ→『秘密の花園』です。間違ってたらごめんなさい。




