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手を繋いで一緒に行こう  作者: 那由他
イーリン 心の再構築

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29/35

古参騎士隊の忠誠

時は少し戻って……。


目の前でガラント夫妻が暴力をふるおうとしたり、サムは何故か隊長と呼ばれてるし、ルドルフ伯爵やアーノルドが登場し、そして皆があっという間に去るというカオスな光景に、イーリンは何が何だかよくわからなくなっていた。


−−トントン−−


「どうぞ」


扉を開けたのはルドルフ伯爵だ。さっき出て行ったばかりなのに?


「どうしたの?」


「さぁ、どうぞ」


ルドルフ伯爵は一旦下がり、一人の少女が顔をのぞかせた。


「ナタリー?! どうしたの?」

シスター・ヴァネッサがきいた。


「「ナタリー??」」


ナタリーと呼ばれたのは痩せ気味で真っ直ぐな黒髪で、凛とした印象を与える少女だった。


「この子は院長やシスターを心配してオロオロしてたんですよ」

ルドルフ伯爵が説明した。


「ほら、大丈夫だったろう」


「さっきの乱暴な人が皆さんに怪我をさせないか心配してたんです。ご無事で良かったです」


それを聞いた院長がほんのり笑う。


「大丈夫よ。みんな無事だった。ありがとう、ナタリー」


そしてイーリンとマリーを見て言う。


「そうそう。紹介しましょう。この子は先日ここに来たナタリー。いつかシスターになるかもしれないわ」


「「シスター?!」」


「そう。シスターよ」


二人は驚いてナタリーを見た。


この教会でのシスターは、召命を受けた人間にしか与えられない称号だ。では、自分たちと年の変わらないこの少女は神に呼ばれてここにいるのか。この少女に見える世界はどんなものなんだろうか。


「始めまして、ナタリーです。よろしくお願いします」

穏やかな優しい声だった。


慌てて二人は我に返った。


「イーリンです。よろしくね」

「マリーです。仲良くしてください」


院長は三人を微笑ましげに見ると言った。


「色々説明したい事があるけれど、明日ゆっくりお茶をして話しましょう」


「「「はい、院長」」」


「ナタリー、疲れたでしょう?もう部屋で休みなさい」

「わかりました、院長。ありがとうございます」


「イーリン。マリー。よく聞いてね。ナタリーはたった一人の肉親であるお祖父様を亡くしたばかりなの。他に身寄りはいないわ」


「えっ!!お祖父様を?!」

「可哀想に……」


「その事はナタリーが話したいという時に聞いてあげなさい。あなた達はナタリーを気にかけてあげてね」


自分に何ができるか、どう慰めたらいいのか考えながら少女たちは頷いた。


全て滞りない院長の姿を確認してから、そっとルドルフ伯爵は退室した。




中庭で5人はテーブルを囲んだ。まず院長はナタリーにマリーの両親の起こした事件の話を説明した。


「まぁ、そんな大変なことが起こっていたんですか? さぞや怖かったでしょう。大丈夫でしたか? ケガはしませんでした?」


「お母様に殴られそうになった時は怖かったけど、サム隊長が助けてくれたの」


「サム隊長が悪い人達をみんな懲らしめてくれたのよ!!」


「サム隊長って誰でしょう??」


イタズラそうにきいていた院長が言った。


「イーリンもマリーもナタリーもサム隊長に興味津々でしょう?」


「「「はいっ!!」」」


「騎士は一生にただ一人の主君を決める権利がある。その主君に剣を捧げる権利がある。認められれば主君の剣となる。古參騎士隊は先王陛下と私、先代王室に忠誠を誓った騎士たちです」


そうだ。気さくな態度ですぐに忘れてしまうけど、この方は確かにティベリア第一王女殿下でいらしたのだ。


「先王陛下は退位されたけど、生きている限り国を守る為に力を尽くすでしょう。私は拙い力で守るべきものを守ります。でも私一人では、権力や暴力から誰一人守れない。私の手足となり剣となる為に古参騎士隊がいてくれるのよ。サムが隊長、ルドルフは副隊長です」


威厳に満ちた姿で語らう院長に少女たちは改めて感じ入った。


「でも騎士隊の騎士さまはサム隊長とルドルフ副隊長だけですよね?」


「二人だけのはずがないでしょう」

院長が笑った。


「この修道院にいるほとんどの男性が騎士隊員です」


「「「ほとんど?!」」」


「そうですよ。お兄様が引退して田舎や家庭に戻った者もいますが、体が動く限りは騎士隊にいるという者達は先王陛下や私といてくれるそうよ。宿舎では剣の稽古もしているはずよ」


「じゃあ、サム隊長や皆さんが畑仕事をするのは何故ですか?」


「サムは元々村の出身なの。畑にも庭にも詳しいし楽しいようよ」


意外な理由にホッとした。


「それに騎士服より庭師の格好の方が、敵は油断するしその人の本性がでるでしょう」


言われてみれば確かにと少女たちは思った。


「私も村出身です」

ナタリーが言う。


「そう。きっと話が合うわね。イーリンは貴族、マリーは商人、ナタリーは村娘として暮らしてきたから、お互いに知らないことがいっぱいね。たくさんの事を教え合って仲良くしてね」


「「「はいっ!!」」」


「あなた達には、またまた学ぶことがたくさんありますよ」

中座したシスター・ヴァネッサが紅茶の入ったカートを運んできた。


香り高いミルクティーに焼き立てのブルーベリーマフィン。


「さぁ、皆さんお待たせしました」


「この紅茶とっても美味しいわ!」

「これは私たちが摘んだブルーベリー? 焼き立てで温かくて、なのにしっとりしていてとっても美味しいわ」

「こんなに美味しいもの食べたことないです」


嬉しそうにキャイキャイする三人に院長が言った。


「この紅茶はシスター・ヴァネッサが淹れたのよ。シスターはね。この修道院で一番紅茶を淹れるのが上手いの。あなた達も大事な人に美味しいと言ってもらえるように、紅茶の淹れ方を教えて頂いたら如何かしら」


(……大事な人って、お父様やお母様に喜んでもらえるかしら)

メイド任せで紅茶を淹れた事がないイーリンは考えた。


(お世話になったアーノルド伯父様に淹れたら美味しいって言ってくれるかしら)

マリーも考えた。


(村ではハーブティーが多かったわ。私も紅茶の淹れ方を知りたい)

ナタリーは思った。


「そして、サムとルドルフやアーノルド達がこちらに戻ったら、あなた達がお疲れ様とお茶を淹れるのはどうかしら?」


「「「はい。頑張ります!!」」」


そして少女たちは顔を見合わせて笑った。

参考文献 ①wikipedia

古参騎士隊はナポレオンに忠誠を誓った精鋭部隊で、ナポレオン亡き後も戦場を走り続けどんな戦いにも降伏せず、最期は戦場に没したそうです。


② クーンツの『ライトニング』他

クーンツの小説に繰り返しでてくるモチーフがあります。


 亡くした者は戻らない。癒えぬ心の傷は血を流し続ける。喪失も慟哭も心を苛んで止まない。だが、ある日ふと奇跡が起きる。疲れ切った老人が子供のように瞳を輝かせるような奇跡に出会う。それもまた、生きていればこそ……。


裁判+2話の予定でしたが、クーンツを出したからにはと後数話だけ『若草物語』を入れます。

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