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手を繋いで一緒に行こう  作者: 那由他
イーリン 心の再構築

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26/35

牙をむく羊たち 〜どうでもいいおっさんズ〜

ガラント達は腕を縄で縛られ、ひとまず近くの町に連行された。


「離せよっ!!」

「俺達は雇われただけだっ!!」


煩く喚くゴロツキに騎士が一喝した。


「騒ぐな! 抵抗したら、それだけ罪が重くなるぞ!!」


その声に押し黙った一団は粛々と歩き、町外れの陰鬱な石の建物に連れていかれた。


そして灰色の囚人服に着替えるよう命じられ、一纏めに牢屋に入れられた。


大人しくするよう看守に言われて皆が押し黙った。 


だが残されたガラントは蒼ざめる思いだった。


案の定、直ぐにゴロツキ達はガラントを取り囲んだ。


「てめぇのせいだっ! 騎士が待ち伏せしてるなんて調べもせずに下手をうちやがって!!」

「さては俺達を嵌めやがったなっ!!」

「雇ったてめぇが悪いんだ! 俺達は悪くないっ!!」

「そうだ! この間抜けな豚がっ!!」


鬼のように目を釣り上げた屈強な男達が怒声を浴びせる。


「ヒィィー。騎士がいるなんて知らなかったんだ! 知ってたらもちろん行かなかった! アイツら俺を罠に嵌めたんだ!! あんた達には謝る。追加で金を払う! だから許してくれ!!」


自らは人を脅し暴力を与えるが、人から与えられた事がないガラントはひたすら下手に出た。


しばらく考えたゴロツキの頭が言い出したのは法外な金額だった。


「とてもそんな大金はっ!!」

「何っ! 払えねぇってのかっ?!」

「払う払う! 払うから止めてくれ!!」


胸ぐらを掴まれたガラントは急いで言った。


「ちゃんと払えよ! それから俺達は悪くない、悪いのは自分だけと必ず言うんだぞ!!」

「………」

「てめぇ殺されてえのかっ?!」

「はいっ! 必ず言います!!」

「それでいい。だがな。こっちは騎士さまに痛い目にあわされてんだ。憂さ晴らしに、ちょっとヤキを入れさせてもらうぜ」

「ヒィィー」


よってたかってサンドバッグのように殴られ蹴られた。



翌朝には王都まで連行する為に、やはり腕を縛られ一纏めに馬車に載せられた。


粗末なガタガタする鉄格子付きの馬車は、座るのがやっとで誰かといつもぶつかり合い苛立たずにはいられない。


まさに家畜のように運ばれたのだ。


(臭い。汚い。私に触るな!!)


だが、それを口に出すほどガラントは愚かではない。


殴られ蹴られた跡がズキズキ痛む。最初に殴られた左目は腫れ上がり視界が狭い。


昨日、牢屋の騒ぎに気づいた兵士が止めなかったら重症を負っていたかもしれない。


(もう、あんなことは二度とゴメンだ)


馬車進行のBGMはゴロツキ達の罵詈雑言。


ガラントは俯き何一つ喋らなかった。


(王都まで行けば何とかなる。こんな奴らを相手にするより……何とか起死回生の一手を探す

!!)


だが、何も浮かばない。


昼間はトイレ以外は外に出られず、夜も馬車から出られず満足に眠れず。


必要最小限の飲食。


ただ監視の目があるので、僅かな水や食糧を取り上げられなかったのは有り難かったが。


(ああ。喉が乾いた。水が飲みたい。腹も減った。美味い物が食いたい。少しでもゆっくり横になりたい)


次第に話す言葉は減り活気も無くなり、馬車の中は等しく沈黙と諦めが重くのしかかる。


王都に着く頃には、話す気力もなくみなボロボロだった。


そして王都に着くとガラントは薄暗くカビ臭い独房に入れられた。


(あいつらから離れて、やっと手足を伸ばして寝られる)


それだけはマシだった。



妻は修道院以来見ていない。


きっと女だからと特別待遇だったんだろう。


(俺がこんな辛い思いをしてるのも知らないで! クソっ!! あいつが俺の足を引っ張ったんだ。あんな女は、もうどうでもいい)



翌日は尋問を受けたがたった一日だけ。


淡々とされた質問にガラントは言い訳だけを延々喋った。弁護人はいつ来るか何度もきいたが答えはなかった。


その後は放置された。


耳が遠い牢番が一日3回水と食事を持ってやってくる。


大声で話しかけても返事はない。


(俺の裁判は? 俺の店はどうなってるんだ?!)


いくら焦燥感に駆られようとも、外の知らせは何一つ入らなかった。



王都に着いてから一週間後にやっと弁護人がやってきた。


(頼りなさそうな奴だな)


青白く覇気のない痩せた弁護人だった。みすぼらしいカバンが分厚く重そうだ。


「来るのが遅い! 何をグズグズしてるんだっ!」


面会室に通されたガラントは直ぐに怒鳴った。


「色々な手続きで手間取りました。私は国選弁護人です」


「何故だ? もっと腕のいい弁護人う雇う金ならある!」


「いいえ。全て差し押さえられています」


「何だっ! 無能が何を言う? もっとマシな弁護人はいないのかっ!!」


「あなたの弁護をやりたい者などはいません。私は形式だけの弁護人です。まずはこれを見て下さい」


弁護人はカバンからいく束もの新聞を取り出した。


『ガラント商会会長逮捕! 罪状 ティベリア殿下への不敬罪!』


目に飛び込んできた第一面の見出しにガラントは絶句した。


「何だっ、これはっ!!」


大した事などしなかったはずだ。


誰かが新聞社にリークしたのか?


次々と新たな新聞をめくり見出しを読む度に状況は悪化する。


『ガラント夫妻、少女誘拐未遂で逮捕される!』


『ガラント夫妻 徒党を組んで修道院襲撃か!?』


「何だ、これは?」

「あなたが捕まった翌日に出た新聞です。ティベリア殿下への襲撃となれば大事件ですから、おそらく王都に早馬が出されたのでしょう。新聞社が書き立てて当然です」

「俺の店は?! 俺の屋敷はどうなってる?!」

「その話の前に、こちらをご覧下さい」


次々に取り出される新聞はガラントの醜悪な生活を暴露していった。


『ガラント夫妻 我が子への長期に渡る虐待!』

『ガラント夫妻 子供の頬を打ち鞭を与えるだけが親の愛か?!』

『ガラント夫妻虐待した挙げ句、要らなくなった娘は金で売る非道な夫妻の姿』


マリーに笑いかける事もなく話しかけるのは叱責する時だけ。


ただ詰め込むように教育し、努力が足りないとストレス解消のように打つ日常生活。


やがて跡取りの男子が産まれるとマリーはいない物として扱われ、妾として金持ちに売り飛ばそうとした。


赤裸々な事実のみが書いてあった。


淡々と、そして悪意を持って。


「ひっ!! 誰が喋ったんだ?! 店は無事なんだろうな?!」

「一足早く警備隊が閉鎖しました」

「じゃあ、無事なのか……」


ガラントはホッとした。


「次は、こちらです」


『ガラント夫妻の余罪多数! 談合、違法取り引き、更に同業者へ悪質な営業妨害か!』


「……何だ……これは……?」


「ティベリア殿下は民衆に絶大な人気があります。許せないと激高した民衆が集まって石を投げたり店を破壊しようとしました。あなたの家や店への襲撃や、従業員への暴力を止めたのは王都警備隊です。そして憤った新聞社が、こぞってあなたの暴挙を調べて報じたのです。この国では王族への敬愛も忠誠も強い。ティベリア殿下を敬う人々も多い。殿下への不敬は国民全てを敵に回す行為です」


ガラントは顔色を変え、すがるように叫んだ。


「だが俺は知らなかったんだ! あんな辺鄙な所に王族がいるなんて普通思わないだろ!?」


「ではあなたは、ただの年老いた修道女ならば問題なかったと仰る?」


「もちろんだ!」


無表情だった弁護人の目が冷たく光る。


「その老いた修道女がマリーを庇って怪我をしても?」

「年寄りの冷や水だ。当たり前だろう」

「怯えて質問に答えられない少女を暴力を匂わせ脅すのも?」

「答えられないグズがいけないさ」


ガラントにとっては至極当然の話だった。


だが弁護人は違ったらしい。諦めたように首を振りながら、絶対零度の目を伏せた。


「我々は金の為に動くのではない。被告人の無罪を、又は善意を信じて弁護するのです。これでは一欠片の情状酌量も私は求められません」


「金なら払うと言ったはずだ!」


「いいえ。今まで泣き寝入りしていた者たちが、報道を受けて一斉に声をあげました。報道が勇気を与えたのでしょう。あなた方夫妻から暴力や金銭的被害を受けたという声は多く、更に訴えが裁判所に殺到してます」


「あの弱虫どもがっ!!」

ガラントは憤った。今までは金と商会の力で捻じ伏せていたクズどもだったのに。


「一人一人の声が弱くとも、これだけの数が揃えばそれは大きな力となる。商会は全て閉鎖され書類の監査に入りました。今は個人の事情聴取をしています」


その言葉は絶望をもたらした。


役人へのワイロに裏帳簿、競争商会への脅しと嫌がらせ、税金の誤魔化しまでバレるのか。


自分が生涯かけて築き上げてきたものが……。


「どの道ガラント商会はもう終わりだったのです。激怒した人々が連日店やご自宅に押し寄せて、止めてくれる兵士がいなかったら全て廃墟と化していたでしょう。従業員達も使用人達も関わりを恐れて逃げ出しました。取り引きも全て中止です」


「俺が何をしたって言うんだ!? 娘を連れ戻しに行っただけじゃないか!?」


「金で売り払った娘をですか?」


「今まで育ててやったんだ。親に恩返しするのは当たり前だろう!?」


「お金ならもう受け取っているではありませんか?」


「伯爵との繋がりがないなら、あんな端金なんぞ話にもならん」


「アーノルド氏が姪の自由を買う為に一生懸命貯めたお金ですよ?」


「アーノルドなんぞ下らないことばかりマリーに吹き込むクズは、そもそも我が家に出入り禁止だ!!」


弁護人は肩をすくめた。


「お話になりません。裁判は数週間後に行われます。あなたが何を言おうと言うまいと、あなたの有罪は覆らない」


「それでも弁護人かっ!!」


「私はこれで失礼します。法廷でお会いしましょう」

「小汚いおっさんズはどうでもええし! 適当でええやん!」


んっ!


「何か忘れとるわ〜?」


んんっ!


「何やろ? よう考えんと!」


んんんっ!!


「世論を無視してるやん?!」


ガラント夫妻は普通なら暴動で殺されるレベルでしたね(汗)



話変わって、『羊たちの沈黙』は屠殺される羊たちへクラリスが抱いたトラウマがテーマです。


『ドナドナ』の元歌には英語で『屠殺』とはっきりあります。


弱者は虐げられても沈黙するしかないのか?


『羊たちはちゃんと反撃する』


それが今回のテーマです。

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