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手を繋いで一緒に行こう  作者: 那由他
イーリン 心の再構築

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25/35

備えは鉄壁

「姉である私を嵌めたのっ!! アーノルドっ!! 答えなさい!!」

更に夫人の目が血走った。


アーノルドはマリーを背に庇い身を固くしている。


「あんな端金なんて、顔に叩きつけてやるわ! だからマリーを返しなさい!!」

耳障りな金切り声で弟に命じる。


ルドルフ伯爵が間に入る。


「これは正式な書類であり法的にも有効だ。ガラント夫妻はマリーと何の関係もない他人だ」

幼子でも理解できるように重ねて言う。


「姉上っ! もうお止めてください。」


「お前などに何がわかるのっ! 卑しい女が産んだ日陰者の分際で! お前は小さな頃から可愛くない子だったわ!!」


幼少期の辛い記憶を思い出したのか、アーノルドの表情が陰る。


「確かに僕は父上が外で作った子供です。姉上はイライラすると、いつも必ず僕を打った。でもそれを言うならば、姉上ば母上が浮気して出来た子供です。父上の血は一滴も継いではおりません」


「何よ、それっ!! 私は信じないわよっ!!」



だが、それは真実だ。


我儘で暴力的な娘の嫁ぎ先に窮した伯爵家は、縁談を断れない気弱な男爵に押し付けた。


それなりの持参金をつけて。


妻は夫を馬鹿にし罵倒する。


私のものだと持参金を湯水のように使う。


妻として夫を支える気など最初からなかった。


跡取りの長男が産まれたら、義務は果たしたともっと酷くなり、不貞の女の子を堂々と産んだ。


他所に慰めを求めた男爵は、あまり家に近寄らなくなった。


愛していた女性が亡くなったと、やがて男爵が連れ帰ったのが、幼いアーノルドだ。


たちまちアーノルドに敵意を募らせた女二人は、ありとあらゆる暴言を浴びせた。


最初は父も兄も使用人も、二人をたしなめようとした。


だが、庇えば庇うほどアーノルドへの仕打ちが酷くなる。


やがて遠巻きに心配そうに見守るだけになった。


少しアーノルドが大きくなると口答えしたと、苛立ち紛れにアーノルドを打つようになった。


だが、アーノルドは泣かなかった。


(泣いてコイツらを喜ばしてなんてやるものか! 負けるものか!)


「生意気なのよっ! お前に人間の食事なんか要らないわ! 台所で残飯でも漁りなさい!!」


兄と優しい使用人は、影でそっと食事を部屋に運んでくれ手当てしてくれた。


姉が成長するにつれ散財が増えていった。


そうまでして着飾っても貴族家からは縁談が来ず、姉は嫌々ながら持参金の要らない商家に嫁いだ。


(少し家の空気が良くなった)


姉が女の子を産んだと聞いて、家族でお祝いに行った。


「あんまり可愛くない子ねぇ」


「せめて男だったらなぁ。女なんぞ、どうしょうもない」


「妾に行けば金にはなるわよ。それに次は必ず男の子を産むわ。そうしたら、ご褒美をたくさん頂戴!」


隣の部屋では聞くに耐えない話をしてる。


父上と兄は無言だ。


もう二度と彼らが来ることはないだろう。


そっとベビーベッドを覗き込む。


(わぁっ! 何もかもちっちゃくて可愛い!)


指を握るとキャッキャッと笑う。


心の中に愛しさが湧き上がる。


(僕は血の繋がらない叔父さんだけど、僕のように酷い目に合わないように、僕がマリーを守ってあげるんだ)


時間を見つけて会いに行った。でも成長するにつれマリーの表情が暗くなっていく。心配した。


(僕のように酷い躾をされてるんだ)


やがて面会も手紙も禁止されて、会うことすらできなかった。



「父上は母上と離縁されました。そして姉上は絶縁されました。もう姉ではない」


「そんなの嘘よっ!!」


「この度の事件は、それほどの罪に値すると父上がお決めになりました」


「娘を取り返すのが、いったいどんな事件なのよっ!!」


「そこからは私が説明しましょう。この修道院は王族が治める祈りの場です。ここにいる修道女は皆が王族の庇護下にあります。一人の少女の誘拐を企んで、ゴロツキどもに襲わせようとした。修道女たちに下品な言葉を吐き、脅して怯えさせもした。殿下が庇えば暴力を振るわれたやも知りぬ。これは不敬罪です」


ルドルフ伯爵の声は淡々としていたが、奥底に込められた怒りは十分周囲に伝わった。


伯爵ばかりでなく、この状況に皆が怒っていた。


「ふんっ! 馬鹿にするんじゃないっ! 王族なんぞ何処にいる? まさかそこの下男のことかね?」

ガラントが下品に吐き捨てた。


部屋中に殺気が走った。


部屋の温度が寒く寒くなっていく。


その冷気を和らげるように、威厳溢れる院長の声が響いた。


「私が王族です。私は先王陛下の妹、王女ティベリア・ランカスター。今代の陛下にとっては叔母にあたります」


「……まさか……そんな馬鹿な……」


(そんなことがあるはずない。さっき骨を折ってやろうかと思ったばばぁが王女?……それじゃあ……俺は……)


ガラント夫妻の顔が見る間に青くなり、ガタガタと震えだす。


「……外には、まだ腕っぷしの立つ仲間達がいるんだ!! 奴らさぇ、ここに来たらっ!!」

それでも愚かな虚勢だけは漏れ続けた。


「そんな仲間はもういないわ。そうでしょう、ルドルフ副隊長?」


「はっ! 殿下! 既に捕縛してあります!」


「あなたの仕事に落ちがあるはずがないわ。でももう少し早く部屋に入って、事態の鎮圧化をはかるべきじゃなくて?」


「サム隊長の尋問のお手並みが素晴らしいので傾聴しておりました」


「仕方のない子ね」

院長がクスクス笑った。


その時二人の騎士が部屋に入ってきて、まず院長に敬礼する。


その後サムに向かって報告した。


「隊長! 移送の準備整いました!」


「ご苦労。この二人が主犯だ。連れて行け!」

サムの言葉には威厳があった。


イーリンとマリーの顔に???が浮かぶ。


それに気づいた院長が優しく説明する。


「この修道院には下男など一人もいないの。ここにいるのはみな近衛騎士たちよ」


「「近衛騎士さまっ!!」」


イーリンとマリーが仰天して声をあげた。


近衛騎士とは、王室を護る雲の上の憧れの存在だ。


((みんなが騎士さまなのっ!!))


キラキラした目で自分を見つめる少女たちにサムが苦笑した。


「儂たちはもう引退した身で、そんな御大層なもんじゃない。だが身体が動かなくなるまで、殿下とその庇護者をお守り致します」


「ありがとう、サム」


楽しげな口調で院長が言った。


「私がこんなに可愛い子供たちを危険に晒すわけがないでしょう。むしろ鉄壁の備えをしますよ」

『女子供ばかり』『男手がない』『不用心』

そう見せて油断を誘い踏み込むと、実は近衛騎士隊本部。なかなか酷い罠でした(笑)


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