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手を繋いで一緒に行こう  作者: 那由他
イーリン 心の再構築

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22/35

輝かしい夏

「これが、わたしの植えたサツマイモ畑なのっ!」


マリーの目が点になった。


「まぁ!ちょっと大きくなったわ!!」


マリーの目が点、継続中。


「サムっ! おはよう!」

「おはようございます。イーリン嬢ちゃん! 嬢ちゃんの植えたサツマイモは儂がちゃんと見とる。もう少し育ったら、ちゃんと葉っぱを摘んで食卓に届けるよ。茹でても炒めても美味いからな」

「サツマイモの葉っぱが食べられるの⁉ わぁー! 楽しみにしてるわ!!」


マリーの目が点、更に継続中。


今日はイーリン自慢の畑をマリーに案内している。


始めて植えたサツマイモが気になって、イーリンはよく畑を訪れるのだ。


ここでは女手ばかりの非力さを補うように、あちこちで年配の男達が作業していた。


イーリンが最初にサツマイモ畑を見に行った時に、畑を手入れする初老の男性を見た。


(私の植えた苗を気にかけて世話してくれる人がいるんだわ)


そんな温かな気持ちを持った。


「こんにちは!」


それが始まりだった。


それからイーリンはサムと話すようになったのだ。


今では気楽に笑い合える仲である。


鳩が豆鉄砲喰らったような目をしながら、ずっと立ち尽くすマリーを見てイーリンが少し笑った。


「今日は少し話したいことがあるの」


それから修道院の中庭にマリーを誘い一緒に腰掛けた。


「マリーは私のことを知らないでしょう? どうしてここにいるのかも知らないでしょう」


マリーが頷く。


「私は悪いことをたくさんしたのよ。院長もシスター・ヴァネッサも知ってる。でも、他の人には話したことはないの。聞いてくれる?」


マリーはゆっくり頷いた。


「私は子爵家の一人娘として産まれたの。溺愛された。でも、私にはそれだけでは足りなかった」


自分よりも身分が高く、自分よりも可愛らしい従兄妹を妬んで、陥れようとした。


婚約者を愛する王太子様に逆に断罪されたこと。


反省の為にここに送られたこと。


始めは反抗ばかりして騒いだこと。


ちょっと牢屋に入るかと、おっかないオジサンに言われた時は恐怖で震え上がった。


それから懸命に身の周りのことをし始めた。


あれこれシスターに教わりながら。


暮らして行くだけで精一杯だった。。


そんな時に、嫌々ながらサツマイモを植えるのを手伝った。


それがイーリンの心に達成感を与えた、更に邪魔な髪を切って清々しい気持ちになった。


「でもね。中庭に咲き始めたオレンジの薔薇が、私の嫌いなエスターを思いださせて、箒でメチャクチャにしちゃったの」


「あんな綺麗な薔薇園をですかっ!?」


「でも院長は許してくれたわ。私にも心の傷があった。オレンジの薔薇が思い出させる傷が。それが何か? 私は両親の前で一番でいられない自分が許せなかったのよ。両親の前でも誰の前でも、一番にじゃない自分なんかいらなかった。……私の知らない私の気持ちを院長はわかってくれた。そして解きほぐしてもらった。それから自分を許すことを覚えていったの」


「イーリン様もお辛かったのですね」


「また様がついてるわよ、マリー?敬語もなしよ。 マリーの世話をあなたに任せると院長は言ったわ。子供時代をやり直しなさいって。辛かったことなんて思い出さないくらい、ここで一緒にたくさん楽しい思い出を積み重ねて行きましょうね」


「もちろんよ、イーリン!」


マリーにとってイーリンの話は肝が冷えた。


王太子様だの婚約者だのは雲の上の存在であるが、目の前のイーリンがそんな偉い人に罪を犯したと聞けば真っ青になった。


でも、どちらも雲の上には違いない。


でも、許されて反省の為にここにいるなら大丈夫なのだ。


マリーは改めて修道院を見回す。


やっとそれだけの心の余裕ができた。


白亜の教会は歴史を感じさせる厳かな建築物だった。


修道院の中も、丁寧に使われ大切に手入れされているのがよくわかる。


噴水の傍らに咲く薔薇を二人で見る。


「私も何を祈るのかわからなかった。だから訊いたの」


「何て言われたの?」


「祈りは自ら湧きい出るもので、人に教わるものじゃないんですって」


「…そう…」

マリーは俯いた。


「でもね、これだけ聞いたの。ただ無心に、自分自身の一番綺麗な心で祈りなさいって。だから私は花々や大地の恵みに感謝して祈るのよ」


「はい。わかりました。私も自分の祈りを探してみます」


「うん! 一緒に探しましょう! それから、また話す言葉が固くなっちゃったわよ、マリー!?」


二人の少女たちは笑いあった。



ある日二人はシスターと一緒に籠を持って修道院の一角に連れ立って行った。


ずっと見向きもしなかったみすぼらしい低木に、今では丸々とした紫の実がたくさん実っていた。


「これはブルーベリーよ。とっても甘いの。この大きな粒を食べてごらんなさい」


言われるままに、躊躇いなく手を伸ばして摘んだ。


「美味しい! すごく甘いわっ!!」

「本当に甘くて瑞々しいわっ!!」

二人の相好が綻ぶ。


「これは、このままデザートとしてみんなの夕食に出すわね。二人には収穫をお願いするわ。たくさん取れたらジャムにしてもらいましょうね」


「「はいっ! シスター!!」」

今度は三人で笑った。



季節は初夏へと移り変わる。


春先にわずかに見られた薔薇の花は、夏の訪れと共に雪崩れのように咲き乱れる。


ある午前中に中庭で花を愛でながら、イーリンがサムにきいた。


サムが薔薇の枝を切り落としていたのだ。


「ねぇ、サム。何故薔薇をそんなに大きく切ってしまうの? ちょっと色褪せてるけど、まだまだあんなに咲いているのに?」


「薔薇の枝を切り落とすと、次々に新しい枝が伸びて、後から後から花を咲かせるのさ」


イーリンもマリーも全く聞いたことがなかった。


イーリンの家には薔薇がなかった。


庭とは、いつも誰かしらが手入れさしているが、いつも綺麗で当たり前という感覚だった。


庭を見るよりも、本ばかり読んでいたマリーも知らなかった。


「それに薔薇はジャムにも薔薇紅茶にもなってね。これから厨房で作ってくれるはずで。薔薇の香りがとても素晴らしい紅茶さね」


「「うんっ!楽しみだわ!」」


「ははっ! 食いしん坊な嬢ちゃん達だ」


今度はサムも交えて笑う。



「全てが良い方向に向かって行くわね」

「ええ、院長」


その情景を窓から眺める院長とシスターの表情は、喜びと慈愛に満ち溢れていた。



誰にとっても、輝かしい夏が始まろうとしていた。

イーリンは一時期『わたし』という一人称を使いましたが、心の闇が晴れてちょっと退行した部分として書きました。

面倒をみる後輩ができ、自身を振り返り、少女たちは楽しい思い出を宝物のようにたくさん持った大人になります。


それから、こちらは仮題『さ』です。それは何だろうと考えたら、サツマイモの略でつけたのかもしれませんね(笑)

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