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手を繋いで一緒に行こう  作者: 那由他
イーリン 心の再構築

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18/35

深い心の傷

散々に驚かされた初日の夜、一人にマリーは不安だった。


修道院という不慣れな環境への緊張もある。


そして押しかけてくるだろう両親への不安。


もし連れ戻されたら、自分はどんな酷い所へやられるのか?


絶望に包まれて見える未来。


(私はどうしたらいいの?)


自分にできることはあまりにも少ない。


(それに私の恋は叶わない。クレメント様はきっとイーリン様のような方が好きよね。こんなに暗い私よりも…)


クレメントやイーリンは貴族で、平民の自分とは違う。


だが、それだけではない。


人としてもあまりにも違う。


父も母も私を愛さなかった。


愛された彼らと自分は違う。


血の滲むよいな努力は認めてもらえなかった。


(私が悪い子だったから)


こんなに期待外れの出来損ないじゃなくて、せめて私がもう少し頭が良かったら…。


いつもいつも両親の期待を裏切って…。


ずっとそう思ってきた。


偽ったならば自分を始めて受け入れてくれただけ。


だが、待望の男子であるだけで弟は無条件で愛された。


愛されぬ自分があまりにも惨めだった。


悶々と思い悩んだ。


旅の疲れもあったのだが、いつの間にかマリーは寝入っていた。



−トントン−


「…はい」

寝過ごしたのではないかとマリーは慌てた。


「おはよう! マリー!」

元気良くドアを開いたのはイーリンだった。


「おはようございます、イーリン様」


「良く眠れたかしら? 朝の日課を教えようと思って……」

イーリンは嬉々としてマリーに朝の日課を教え始めた。


顔を洗う噴水、水を汲む井戸、食事時を知らせる鐘の音。


「それから、ここが一番大切な礼拝堂。朝のミサはここでするのよ。ここにいる修道女たちはみな、一日4回祈りを捧げるの。場所はどこでもいい。心から祈ればいいの」

その言葉を聞いたマリーの表情が曇った。


「どうしたの?」

イーリンが首を傾げる。


「何でもありません」

明るく笑うマリーの表情は少し強張っていた。



決められた日課をこなしながら、少しずつ人目のない所でマリーは暗い顔をする。食欲も段々落ちてきて夜もあまり眠れないようだった。


「どうしたの、マリー? ここが嫌い?」

イーリンもシスターも心配した。


「とんでもありません。皆さまに良くして頂いて感謝してます」

笑おうとするマリーの顔には無理があった。



−トントン−


「マリー、おはよう!」

いつもはもっと早起きなのにと呼びに来たイーリンは、マリーを見るなり口をつぐんだ。


「すみません、寝起きで頭がボーッとしていて。直ぐに仕度しますから」

「マリー!? あなた目の下にくまができてるっ! 顔色も悪いわ! どこか具合が悪いんじゃなくて?」


「ちょっと寝付かれなかっただけです。大丈夫です」

眠れなかったのは自分が悪いのだから、人に迷惑をかけるわけにもサボるわけにもいかない。


気だるげな様子や顔色の悪さを理由にシスター・ヴァネッサが呼ばれ、マリーはベッドに追いやられ休むように言われた。また少しうつらうつらした。


昼食を運んできたイーリンが言う。


「厨房でマリーの為に消化の良いものを作って下さったんですって。少しでも食べてね」


「私の為にわざわざ手間をかけさせて申し訳ありません…」

(私はここでも迷惑ばかりかける出来損ないなのだろうか)


「…誰も手間だなんて思ってないわ。それから、もう少ししたら院長が診察に来るわ」


「院長が? 何故?」


「院長はお医者さまなの。心の傷を治してくれるお医者」


「えっ!? そんなお医者さまいるんですか?」


「いるのよ。私も心の傷を治してもらったの。だからマリーも辛いことや悩みがあるのなら相談してみたら?」


「でも、そんな偉い方に私なんかが……」


「院長は私なんかの話も親身に聞いてくれて、私なんかの苦しさをわかってくれた。私なんかが無礼なことを言っても怒らない。…とても優しい方なの」

そういうイーリンの表情は苦しげだった。


(イーリン様はどうしてこんなに自分を卑下するのかしら? 明るくて優しくて身分もある方なのに?)


戸惑いながらマリーは言った。


「わかりました」



昼食を少し食べからしばらくして、シスター・ヴァネッサやイーリンと共に院長はマリーを訪れた。


「気持ちを落ち着かせるお茶を用意したわ。まずは一緒にお茶を頂きましょう」


ワゴンを押してきたシスターが煎れてくれたお茶は、かすかに林檎の香りがした。


凛と背筋を伸ばし威厳に満ちた姿に慈愛の溢れる瞳。


マリーは間近で見た院長の姿に圧倒された。


「具合が悪いと聞いたわ、マリー。心労で眠れないの? 良かったら私に聞かせてくれる?」

心配そうに院長は話す。


「…聞いて下さい」

我知らずマリーは自分から語り始めていた。


「ええ、マリー」

院長はそっと頷いた。


「私は両親から虐待されてきました」

マリーは張り詰めた表情で言った。


「小さな頃から私の毎日は勉強だけでした。父はいつも出来が悪い、努力が足りないと叱りつけ怒鳴るだけです。……そして母は出来損ないと私を毎日罵りました」

場が一瞬にして重苦しい空気に変わる。


「でも父が責めた後は……長い時間金切り声で詰り続けて……真っ赤になるほど頬を打ったり……服の下を鞭で打ったり……真っ暗な物置きに閉じ込められたり……木に縛り付けられたり……」

話している途中から自然とマリーの目から涙が溢れてきた。


「…父は仕事ばかりで……叱りつける以外は私に無関心だった。母の暴力など、どうでも良かったのでしょう」

涙と嗚咽で話が途切れ途切れになる。


「私は……認めてもらえるように、褒めてもらえるように……一生懸命に頑張った」

皆がしんと静まり返る。


「でも……どんなに頑張っても、それが両親に認められたことは……ありません」

誰も口を挟むことができない。


「私は両親に……愛された記憶がありません。……優しい言葉をもらったことも……笑いかけられたことも……抱きしめられたことも……プレゼント一つもらったこともありません。でも弟は……生まれてきただけで愛された」

縋るように答えを待ち望むようにマリーが問いかけた。


「私の何が悪かったんでしょうか?」

頑張ったのですが、鬱展開は避けられませんでした。


感想を読んで自分でも考えて大幅改稿しました。

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