表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手を繋いで一緒に行こう  作者: 那由他
イーリン 心の再構築

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

虐待された少女

院長と話した数日後、イーリンはかつてないほど爽快な気分で目覚めた。心を蝕んでいた、長年の澱のような何かが純化したのかもしれない。


(私は自由だ。今なら空だって飛べるわ)


嫌々やっていた労働にも新たな喜びを見出だすことができた。


(わたしが飲む水くらいちゃんと運べるわ。前とは比べられないくらい力持ちになったんだから)


実際にはほんの僅かであるが、人の前を向く気力の問題だろう。


朝食では素材の甘さを味わった。


(ふー。お腹いっぱい。運動した後は、こんなに食べ物が美味しいんだわ)


ふと、周りの修道女たちをそっと観察した。


何気ない世間話をしている人達。


一人で物思いに沈む人。


(この中にも心にケガした人がきっといるんだろうか?)


ふと、イーリンは部屋の隅で佇む女の子を見つけた。


暗い茶色の髪で、イーリンより少し下に見える。ガリガリとまではいかないが、とても痩せた体をしていた。子犬のように可愛らしい。でも、せっかくの可愛らしい顔立ちも暗い表情のせいで台無しだ。


(新しく来た子なの? でもあの子、どこか具合が悪いんじゃないかしら? 病気かもしれないわ)


女の子に向かって歩き出した時だった。


「院長がお呼びですよ、イーリン」

「はい」


ちょうど現れたシスター・ヴァネッサの言葉に、素直にイーリンは従った。


だが好奇心が抑えきれず、矢継ぎ早に質問した。


「あの子は誰? いつ来たの? 名前は何て言うの? 年はいくつ? どうしてあんなに暗い顔してるの? どうして……?どうして……?どうして……?」


「待ってね、イーリン。院長からのお話はそのこともあるのよ。真剣なお話だから、ちゃんと聞いて考えて欲しいの」


(きっと、あの子も心にケガした子なんだわ)


そして待っていた院長の話は、イーリンの想像を絶したものだった。


「あの小さな子供はマリーという名前なの」

「うんうん、それで!?」

「ガラント商会の一人娘だったわ」

「……だった!? じゃあ、今は違うの?」

「ええ。数年前に年の離れた弟が産まれたの」

「…………」


イーリンにはわからなかった。自分はずっと兄弟に憧れてきた。弟が産まれるなんて素晴らしいことじゃないの?


だが、院長が続ける話に衝撃を受けた。


「小さな時からマリーは跡取りとして、それは厳しい教育を受けてきた。躾という名の虐待のような教育をね。マリーは黙って頑張っていたけど、弟が産まれた途端にいない者のように扱われれようになったの」

「…………」

「遅くに産まれた弟を溺愛するあまり、周りはみんなマリーに冷たくするようになった。そればかりか居座られても厄介だからと、父親よりも年上の男性に嫁ぐように命令したの」

「酷いっ! そんなの酷いっ!! あまりにも酷すぎるっ!!」


イーリンのいた世界は優しい世界だった。両親から愛されてるのは当たり前。エスターだって、家族みんなに愛されていた。


「知りなさい、イーリン。この世界は優しいものではない。親に愛されない子供もいる。殴られ叩かれる子供もいる。食事をもらえない子供も、納屋に閉じ込められる子供もいる」

「…………」


イーリンはぎゅっと唇を噛み締めた。


「そういった子供たちを、国は孤児院で保護するようにしています。でも掌からこぼれ落ちる子供たちは、決して少なくない。前から気にかけていた叔父さんが、マリーを見つけてくれたの」

「うんうん。良かった。院長ならきっとマリーのケガを治してあげられる」

「それが私には無理かもしれないの」

「えっ!」

「マリーは大人を、特に大人の女性を怖がっているわ」

「院長もシスターも、こんなに優しいのにっ!?」


院長は楽しそうにクスクス笑った。


「ありがとう、イーリン。でも私は、こんなにおばあちゃんですからね」

「院長がおばあちゃんだなんて絶対にないっ!!」


目の前の院長は、こんなにも気品に溢れて強い存在感を放っているではないか?


「大人を信じられないのよ。だからイーリン。マリーの助けになってあげて欲しいの」

「そんなのわたしにできるはずないっ!」


イーリンは目を見張った。わたしは院長とは違う。シスターとも違う。聖人でも聖女でもない。普通の女の子だ。


「マリーは同じ年頃の女の子と遊んだことがないわ。それどころか話したことすらないの。多分年の近いイーリンなら興味を持つわ。難しいことは言わない。明るく挨拶したり、ちょっと笑いかけたり、元気かとたずねるだけでいいわ」

「そんなことでいいの?」

「でも怯えるから、決して大きな声をあげたりしないでね。優しく優しくよ」

「わかったわ、院長」

「私は、いつでもあなた達を見守っています。ねぇ、イーリン。平民と話すのが嫌だなんて言わないわよね?」

「言わないわよ! 言うわけないわ!」


院長とシスターの軽やかな笑い声を背にイーリンは決然と歩き出した。


「院長。イーリンはやっと持ち直したばかりです。マリーを任せて大丈夫でしょうか?」


シスター・ヴァネッサが心配そうにきいた。


「イーリンは今まで愛されること、与えられることを甘受してきた。誰かを助けたい。救いたい。守りたい。そう願って行動することは、イーリンの心を成長させます」


一端言葉を切って院長は続けた。


「反対にマリーには、気にかけて愛してくれる存在が必要です」


ふと物思いに沈んだ院長は顔を上げて言った。


「救いを与えることは容易い。でも私は永遠に生きるわけではない。私が死んでしまったら、あの子たちは道しるべを失うわ」

「…………」


「あの二人を引き合わせること。それが最善の選択だと私は思っていますよ」

友達が出版しました。

細川(ささらがわ)・セピア」高樹 礼著作 文芸社からです。

「虐めに抗う青春、屈する青春という相克を描いた物語」と聞いてます。

本屋に買いに行ってなかったので、私は今度注文してみます。

みなさまもよろしければ、お手に取って下さいね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ