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魔物討伐試験 ①

 雲一つない快晴の今日、いよいよイントラス学園二年生の魔物討伐試験の幕開けだ。


 季節は秋のはじめ、つい一週間前に終わった今年の学園祭は昨年よりも大盛り上がりだった。

 私達二年生はこの魔物討伐試験の準備が忙しいと言うことで、クラスの催し物はなし。

 昨年同様、一年生の通常クラスだけが催し物を披露したのだが、今年は外部からの食べ物屋の出店も多く、なんだか、日本の夏祭りを彷彿させる賑わいだった。


 馬車の中でシュガーをモフリながら、楽しかった学園祭を思い出しているうちに目的地についたようだ。


「さあ、着いたわよ。マリア、忘れ物はない?」


 到着したのは王都と学園都市の外れに位置する魔訶の森。

 ここが本日の魔物討伐試験の会場だ。

 朝の8時に現地集合。

 リシャール邸から馬車で3時間かけて到着だ。


 この魔訶の森は何を隠そう、私がこの世界に落ちた場所だ。と、言っても瀕死の状態だったため記憶はなし。

 覚えているのは、心配そうに眉を寄せる綺麗なルビー色の瞳のジーク先生の顔だけ。


「はい、大丈夫です。そういえば、今日は朝からべリーチェがいないんですよね。どこいったんだろう? ルー先生、知ってます?」


「そ、それは、えっと、今日、ゴットさんが来るからその準備をするって言ってた?」


 ん? なぜに疑問形?


 青の騎士団の団長であるゴットさんは昨年誕生した子竜のクラウドのことを心配しているのだ。

 それは、一年たった今もなぜか体長60センチのままだから。

 真っ白い産毛の生えたぷっくりとしたお腹を見せて寝る姿は、超絶可愛いので私としてはこのサイズのままでなんの支障もない。

 だが、竜至上主義のゴットさんとしてはそうもいかないらしい。


 今日は、リシャール邸へクラウドを迎えに来て青の騎士団で獣医に見てもらうことになっているのだ。

 一向に成長しないクラウドのことは心配といえば心配なんだけど、病気というわけではないみたい。

 だって、食欲もあるし、いつもべリーチェとシュガーと一緒に屋敷の庭を走り回っているのだ。

 最近は背中の翼をパタパタと動かし地上一メートルほど上を飛んで移動できるようになった。

 悶絶するほど可愛いその姿に、母は感無量です。


「ほら、ちゃんとマジックポーチをウエストに装着して。また夕方迎えに来るから。ジークさんとエリアスも試験監督として森に待機してるから安心ね。夏休み中の討伐体験をいかしてがんばるのよ」


 そう言いながら私に学園のローブを着せかけるルー先生は、相変わらずオカンのようだ。


「はい! がんばります。では、行ってきますね」


 ルー先生と別れてクラスの集合場所までウキウキとした足取りで進む。


 ふふふ、実は私は学園所有の森で行われる討伐実習のほかに、学園のお休みに冒険者のデリックさんのもとで修業をしたのだ。


 さすがに魔物などというものに遭遇することがない平和な世界からきた私。

 当然のごとく討伐実習では、躊躇している一瞬のすきに下級魔物に逃げられるという失態を繰り返し、クラスの皆を落胆させた。


 そんな私の腑抜けっぷりにいきり立ったのは、委員長のクルトだった。


「マリア、そろそろ本気出そうか? え? もしかしてそれで本気なの? 嘘だよね? 言っとくけど、あのビガンゼって下級魔物だからね。今、僕たちのクラスはB組とC組に挑戦状を叩きつけた状態なわけ。その張本人が、下級魔物相手に手も足も出ないなんてことないよね? 魔物を倒してないのはマリアだけだよ」


 ビガンゼはダチョウのような見た目の下級魔物。

 羽はないので飛ぶことはできない代わりに逃げ足が速いのだ。

 なので、見つけたと同時に攻撃しなければ逃げられる。


 いつも穏やかな委員長のお怒りモードに、私は助けを求めるようにダニエルに視線を向けたが速攻でそらされた。

 裏切者め。

 そもそも最初に挑戦状を叩きつけたのは私じゃないぞ。

 恨みがましい視線をダニエルに送っていると、隣から女神の声が……。


「委員長、あまりマリアを怒らないであげて。ここは私にお任せ下さいな」


 シャノンはそう言うと、私の目を覗き込みながら言った。


「マリア、あれはお肉よ」


「お、お肉?」


「そう、お肉よ。あのビガンゼのシチューはマリアも好きでしょう? 甘辛タレと塩の串焼きも最高だわ」


 お肉……。

 あら不思議、シャノンの言葉に私の目の前にいる魔物が美味しそうなクリームシチューと串焼きに大変身。


 それからの私は強かった。

 大事なお肉に無駄な傷はつけませんよ。

 火炎攻撃などで丸焦げなどもってのほか。

 ビガンゼの足を水の上級魔法で凍らせ足止め、動けなくなったところを剣で首ちょんぱだ。


 肉と聞いて豹変した私に委員長のクルトは残念な子を見る目を向けたが、きっかけはどうあれ討伐試験への憂いがなくなったんだよ?

 もっと喜びたまえ、少年よ。


 その一連の出来事を経て、長期のお休みに突入した私はデリックブートキャンプに参加。

 ちょうど、戦闘侍女として目覚めたランとナタリーも冒険者登録をしてパーティをくみ、ランク上げに没頭した。

 おかげで冒険者のランクは最低ランクのGよりも2ランク上のEランクだ。

 その上のDランクになるにはギルドで試験を受けないと昇格できないらしい。


 夏休みが明けたあとも学園のお休みのたびにデリックさんにまとわりつき、獲物の解体まで伝授してもらったので、伯爵令嬢を廃業しても冒険者でやっていけそうよ。


 ふふふ……今日は一皮むけた私を皆様にお見せしようではないか。


「マリア、おはよう。なに一人でニヤニヤしてるんだ?」


「おはよう! ダニエル。今日はいい日になりそうだなぁと、思って」


 集合場所に到着してダニエルとそんな会話をしているうちに次々とみんなが集まりだした。


「シャノン、おはよう。例の準備は大丈夫?」


「もちろん、ほらこの通り」


 そう言ってシャノンは羽織っていたローブの前を開ける。

 そのローブの内側には長細いポケットがいくつもありその一つ一つに杖がしまわれていた。

 杖の本数は全部で十本。

 シャノン特性魔道具、魔法弾杖だ。

 それぞれの杖に魔力が込められた魔石が仕込まれていて杖の先には水、風、火の魔法陣が構築されている。

 杖の種類により、水弾、風弾、火弾が飛び出すようになっている。

 魔力の少ないシャノンならではの武器魔道具だ。


「さすが、シャノン。イデオンは? ちゃんと準備してきた?」


「おう! たんまり作ってきた。体力用と魔力用のポーション(回復薬)。それと、空気と混じることで目にしみる煙幕。これは魔物だけに効くように調合するのに苦労した。あと、悪臭で臭覚がバカになる魔法薬だ。二種類ともガラスの瓶に詰めてきた。これ、けっこう使えると思うよ。あとは、傷用の軟膏も持ってきたぞ」


 イデオンの実家は王都でも有名な薬師所。

 イデオンも薬師のスキル持ち、ちなみに私とダニエルもだ。


「ティーノは? 準備オッケー?」


「おれの準備って、マリアのおやつだろ? はいはい、もって来ましたよ。でもさ、討伐中におやつは食べれないんじゃないか?」


「いいんです。食べれなくても。おやつがあることでがんばれるんです」


 私のその言葉に、ダニエルは豪快に笑いながら言った。


「そうだな。さくっと、終わらせておやつ食べながら他の奴らを待つつもりでなきゃな」


 私の頭をポンポンとするダニエルはこの数か月で見違えるほど背が伸びた。

 見上げる私の首が痛いくらいだ。

 くー、これが一足先に14歳になったやつの余裕なのか。

 中身の年齢なら私だって負けてないんだぞ。


 私のチームはいつも一緒のこの五人だ。


 我が、A組は総勢二十名なので五人一組のチームが四つ。

 貴族と平民はちょうど半々のバランスの良いクラスだ。

 昨年の学園祭で一緒に劇を作り上げただけあって、身分など関係なくまとまりがある。

 魔物討伐試験に向けて、『打倒! B組、C組』のスローガンのもと放課後の特訓を決行、今ではみんな下の名前を呼び捨てにするまでになった。


 これもクラスをまとめてくれる委員長のおかげだろう。

 感慨深げにクルトに目を向けた。


「ん? なに? マリア、もしかしてお腹すいたのかい? 今日、討伐した魔物は魔石を回収したらもって帰ってもいいらしいよ」


 誰が腹ペコじゃ!

 もちろん、もって帰る気満々ですがね。

 そのためにマジックポーチを無限亜空間に仕上げましたから。

 このマジックポーチは、二年生になってから授業の一環で作成したいわゆるマジックバッグだ。

 時間停止亜空間の魔法陣を構築後、自分の魔力を流して作成するので個々の魔力量で収納される荷物の量が違うのだ。

 私は魔法陣にルメーナ文字を駆使し、無限にものを収納できるようにした。

 これで大きな獲物もバッチこいだ。


 まあ、今日の討伐試験は魔訶の森の一番浅い第一層で行うので遭遇するのは下級魔物なんだけどね。


「よし! みんな揃ったな。回収した魔石の数で試験の成績が決まる。最低合格ラインはひとチーム五個だ。途中でギブアップの場合は、事前に配布した黄色い旗を風魔法で空高く打ち上げてくれ。さあ、ここから先は武器の魔道具につけられた魔石と守護の魔石以外は持ち込み禁止だ。順番に探知の魔法陣の上を通過してくれ。余計な魔石を持ち込んだものは魔法陣が発動して警報がなるからな」


 担任のクンラート先生のその言葉にみんな一列になって地面に敷かれた探知の魔法陣を通り過ぎる。


 隣のC組の魔法陣の列では、なにやらシリウス・ニューマンが揉めてるようだ。


「なに揉めてるのかしら?」


 私のその言葉にティーノが『地獄耳』のスキルを使って情報を収集。


「どうやら、大事な懐中時計を身に着けたまま探知の魔法陣を通るのがいやみたいだね。繊細なつくりなので魔法陣の影響で動かなくなったら困ると訴えてるみたいだな」


 なるほど。

 確かに時計は磁力に弱いものね。


 さぁ! お肉の捕獲に出発だ!



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