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深夜の図書室は大騒ぎ

 学園から帰って王城の自室でワンピースに着替えると、私はルー先生に付き添ってもらいながらべリーチェとシュガーと共にフェリシー王女の部屋へ向かった。

 週二回のお部屋訪問も今日が最後だと思うと感慨深い。

 ディアーヌ様のお茶会で知り合ってから一か月、フェリシー様はみるみるうちに症状が良くなり、元気になった。

 今では喘息の発作は出なくなり、食欲もあるようだ。

 フェリシー様の部屋が見えてくると例によってルー先生の指導が入る。


「分かってるとは思うけど、夕飯前だからお菓子は少しにしておくのよ。また迎えにくるわね」


 はい、はい。

 ルー母さん、ちゃんとわかってます。

 苦笑いをしながら頷く私にルー母さんは安心したように微笑みながら私の襟元のリボンを直す。

 その様子をドアの前で待っていたフェリシー様の侍女さん達が、顔を赤らめため息をつきながら見ている。

 あはは……まさか、お菓子の食べ過ぎを注意しているとは思うまい。


「マリアお姉様! さあ、早くお入りになって。べリーチェとシュガーもさあ!」


 出迎えてくれたフェリシー様は出会った頃よりも頬がふっくらとし、身長も伸びたようだ。

 体の弱い自分を卑下して俯いていた消極的な面影はない。

 健康的なピンクの頬にふわふわの水色の巻き毛、大きな淡紫の瞳をキラキラさせて微笑む姿は水の妖精のように愛らしい。


 フェリシー様に促されて部屋に入るとなんと先客がいた。

 ラインハルト殿下だ。


「ラインハルト殿下、お久しぶりでございます。ご兄妹水入らずのお時間だとはつゆ知らず、失礼いたしました。フェリシー様、お茶にはまた後日改めてお呼ばれいたしますね」


「いや、マリア、勝手に押し掛けたのは僕の方だ。それに今は僕らだけだよ、ライと呼んでくれ。さあ、座ってくれ。フェルから今日、マリアと会うと聞いて美味しいケーキを用意したんだ。王城生活も明日までだろ?」


「そうですわ。マリアお姉様。私、マリアお姉様とのこのお茶の時間をいつも楽しみにしてますのよ。義翼作成の時のお話をしてくれる約束です。それにしてもリュウちゃんもだいぶ大きくなったのですね」


 王子様と王女様からそう言われては座るしかない。

 決してケーキに目がくらんだわけではないぞ。


 三人でケーキを食べつつこの前の義翼作成の話を始めると、ラインハルト様もフェリシー様も興味深々で聞いていた。


 その間に暇を持て余したべリーチェたちはリュウちゃんを床に降ろして遊び始めた。


「まあ! 見て、お兄様。リュウちゃんが自分で転がっているわ」


 リュウちゃんはべリーチェとシュガーの間を行ったり来たりしている。

 べリーチェが「こっちでしゅ」と声を掛けるとコロコロとそちらに。

 シュガーが「ウオン!」と吠えるとそちらにコロコロ。

 そのうちにフェリシー様まで床に陣取り「リュウちゃん、こっちよ」と遊び始めた。

 呼ばれるたびにコロコロ転がるリュウちゃん。


 その様子をラインハルト様は目を細めて見ていた。

「マリア、君には本当に感謝している。フェルのあんな笑顔は初めて見たよ。今では侍女達が驚くほど活発になって周りを困らせているよ」


「いえ、私もフェリシー様の笑顔が増えて嬉しいです。フェリシー様の笑顔は本当に可愛くて、なんだか妹が出来たみたいです」


 私のその言葉にラインハルト様は笑顔を向けた。


「妹か。良いね、それ。僕と婚姻を結べば本当の妹になるよ。どうかな?」


 あはは……ご冗談を。


「え? ライ様、今なんておっしゃったのですか? すみません、お声が小さくて聞き取れませんでした」


「おっと、これはうまくかわされたか。それはそうと、僕からマリアに何かお礼がしたいが何が良いだろうか?」


 お礼?


「い、いえ、恐れ多いです。そもそもお礼が欲しくてやったことでは無いですから」


「それは分かっているよ。だが、フェルの兄として感謝の気持ちを形にしたいんだ。何でもするよ。言ってくれ」


 ライ様の『何でもする』発言に私はごくっと喉をならした。

 何でもするですと?

 この申し出を利用してしまおうか?

 王族はたしか、図書室の入室は二十四時間フリーパスのはずだ。


「夜、図書しっんん……」そう言いかけて口を閉じる。


 いやダメだ王家の秘密を探るのに、王子様を引き連れて行くわけにはいかないではないか。

 しかたない、今日の閉室時間を狙って扉の鍵の構造を調べますか。


「ん? なんだい? 図書室に行きたいのかい?」


「あ、い、いえ何でもありません。忘れてください」


「ん? うむ……」



 ***************




 只今、夜中の12時過ぎ。

 暗い王城の廊下を灯り魔石が放つ小さな光りを頼りに、音を立てずにそろそろと歩きながら図書室へと向かう。

 メンバーは私とべリーチェとシュガーだ。

 暗闇に紛れるように黒のスラックスに黒のブラウス、深緑のベスト着用。

 そしていつもおしゃれなべリーチェも私に倣って茶色のサスペンダーつきズボンに緑のブラウス姿。

 しかし、夜の王城なんてなんだか吸血鬼でも出て来そうなくらい不気味だ。

 べリーチェを背中に乗せたシュガーの後を歩きながらドキドキする胸を押さえる。

 胸に抱えているリュウちゃんも私の動揺が伝わるのか先ほどからプルプルと震えている。


 図書室は王族の居住区の手前にあり、私が使っている来客の間から比較的近い。

 誰にも見つからずに到着すると、扉の鍵を開けるために開錠パネルに手を添えた。

 司書官のダンさんの目を盗んで、許可認証系の魔法陣にこっそりと私の名前も書き加えておいたのだ。

 つい先日、魔術の授業で習った手法の応用だ。


 あれ? すでに開いている? 魔力を流す前に開いた扉に思わず、べリーチェと顔を見合わせた。

 もしかして、ダンさんが鍵をかけ忘れたのかな?

 そっと中に入ると、廊下にいるときは気が付かなったがどうやら部屋の明かりもつけっぱなしのようだ。

 いつものようにリュック型の巾着は受付のカウンターの上に置き、リュウちゃんを両手に抱え中へ進む。


「誰かがいるでしゅ」


 前を行くべリーチェのその囁きに『ひっ』と声にならない息が漏れた。


 うわ! な、なんで、ライ様がいるの?

 あれ? 本を読みながらテーブルに突っ伏して寝ている?

 周りをざっと見まわしたが護衛の姿はないようだ。

 

 どうしよう? このまま引き返す? でもこのチャンスをみすみす逃すのはもったいない気がする……。


 よし、ライ様が起きる前にとりあえずSエリアの探索をしてしまおう。

 見つかったら、その時はその時だ。

 ライ様がいる隣のテーブルにリュウちゃんをそっと置くと、べリーチェとシュガーと一緒にソファ席後ろの壁まで慎重に移動する。

 壁を軽く叩こうと拳を上げたところでその手を後ろから掴まれた。


「マ、リ、ア、こんな深夜に何してるんだ?」押し殺した男性の低い声に心臓が一瞬止まった。


 恐る恐る振り向くと、そこにはルー先生が怖い顔をして立っていた。


「る、る、る、ルー先生? な、な、な何でここに?」


「ルーベルトだけじゃないぞ。俺たちもいる。本当にマリアは目が離せないな。こんな深夜に部屋を抜け出すなんて。何かあったらどうするんだ?」


 え? ジーク先生?


「まったく無理するよね。マリアは。夕食の時の様子があまりにもおかしかったから見張ってて正解だったよ。でも、ちょっと責任感じるな」


 うお! エリアス先生までいる。も、もしや、モロばれだったのか?


「まあ、マリアが無鉄砲なのは今に始まった事じゃないけどな。無駄にある行動力をなめちゃいけないってことだな」


 げっ、ガイモンさんだ。


「マリアお嬢様、こんな夜中にお部屋を出るなんて淑女にあるまじき行為ですよ」


 ランがあきれた声でそう言うと、ナタリーがため息をつきながら口を開いた。


「それにしてもその恰好はいただけませんね。マリアお嬢様はもっと明るい色のお召し物がお似合いですのに」


 えっ、そこ?


 深夜の図書室に現れたリシャール邸ご一行に私は声もなく立ち尽くす。


「ん? んん……。あれ? 寝ちゃってたなのか? マリア?」


 ああ、間の悪いことにライ様が起きてしまった。

 案の定、目の前の光景に驚き顔だ。

 絶体絶命、四面楚歌、八方塞がり、そんな言葉が頭をグルグルと回る中、テーブルに置いてあったリュウちゃんが突然転がりだした。

 うわ! テーブルから落ちる! 慌てて駆け寄ろうとしたが、腕をルー先生に掴まれたままだった。


 そのすきにリュウちゃんはコロンとテーブルから床に落ちそのままピョンピョン跳ね回った。

 弾んでる!

 しかも楽しそうにそこら中。

 本棚に弾みながら体当たりをしては本を床に落としていく。

 ま、まずい止めなきゃ。貴重な本を傷つけたらダンさんに怒られる。


「大変だ、リュウちゃんを捕まえるぞ!」ルー先生のその言葉にみんなでリュウちゃんを追いかける。


 リュウちゃんは弾むことが嬉しいらしくそんな私たちの間をすり抜けて行く。

 まるで鬼ごっこだ。

 起き抜けのライ様まで一緒になって追いかける。


 ようやくみんなで壁際に追い詰めた。

 ちょうど例のソファ席の後ろの壁だ。

 じりじりと距離を詰めながらリュウちゃんを追い詰める。

 今にも逃げ出しそうにピョンピョンと弾んでいるリュウちゃんを見ながらべリーチェが一言。


「リュウちゃんは呼ぶとくるでしゅよ。おりこうしゃんなんでしゅ」


 へ?

 そ、そう言えば呼ぶ声に反応してコロコロしてたっけ?


 一番壁に近いエリアス先生が魔力で捕獲用の網を出現させながら近づいて行くのを隣で確認しつつ私はリュウちゃんに声を掛けた。


「リュウちゃん、こっちにおいで」


 そのとたんリュウちゃんから眩い光が放出された。

 あまりの眩しさに私は目をギュッとつぶり、エリアス先生はよろけて壁に手をついた。

 

 そして次に目を開けたときは、目の前に真っ白な体長60センチ大の赤ちゃん竜が翼を広げて伸びをしていた。

 わ! 孵化した!

 

 さらに驚く事に、先ほどまであった壁が無くなり、代わりに豪華な装飾がされた扉が現れた。

 Sエリアの扉だ!





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