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弾む卵と見えてきた真実

 マウリッツ王子と王妃様の遺体の謎を抱えたまま私は学園に登校する。

 ラウルの義翼が成功した今、こうして王城から登校するのも明日が最後だ。

 明日の学園からの帰宅場所はリシャール邸となる予定。


 馬車にはゴットさん、ルー先生、ベリーチェ、シュガーのいつものメンバーがいる。


 その中で先ほどから私の向かい側に座っているゴットさんの様子が、なんか変なのだ。

 妙にソワソワしていて、落ち着きがない。


「どうしたんですか? ゴットさん。お腹でも痛いんですか?」


「腹は痛くない。ただ8番の竜玉がもうすぐ孵化しそうだ。昨日から竜玉の弾力が強くなって弾みだした」


 へ? 弾みだした? およそ卵とは無縁のフレーズが聞こえましたが、聞き間違いでしょうか?

 思わず自分が胸元に抱えている巾着の入り口を広げて、リュウちゃんを覗き込む。

 指でつんつんと触ると、確かに少し柔らかい感触だ。

 でもこれって、卵なんだよね?

 卵って、普通殻が割れるんだよね?


「あ、あの、卵って割れて中から竜の赤ちゃんが出てくるんですよね?」


「卵が割れる? そんなわけないだろう。まさかマリアは竜玉が割れるような無体なことをしているのか?!」


「ち、ちがいます! ほ、ほら、鳥なんかの卵は孵化すると自分で殻を割って外に出てくるじゃないですか?」


「ああ、普通の鳥の卵はそうよね。でも竜の卵には殻はないわよ」


 私の隣の席でそう言うルー先生に、驚きの目を向ける。

 殻がない?


「りゅうのたまごはそのまま形がへんけいしてあかちゃんになるんでしゅ。マリアがよんでた本にものってたでしゅよ?」


 そしてべリーチェの一言にさらに驚愕した。

 うっそ!

 驚きで言葉も出ない私に今度はゴットさんが説明してくれた。

 竜玉は母竜の魔力を注がれてすくすくと大きくなる。

 直径二十センチ以上になるころには自分でころころと転がるようになり、自在に自分の意志で転がれるようになると竜玉の表面が弾力を持つという。

 そしてそのうちにピョンピョンと弾むようになるらしい。

 弾みだすと孵化が近づいた証拠で、あるときに眩い光と共に今まで球体だった竜玉が赤ちゃん竜の形に変化するという。


 知らなかった……。

 大きくなった竜玉がパカンと割れて、中から赤ちゃん竜が出てくるのかと思ってた。

 でも、ピョンピョン弾むなんてなんだか可愛い。


「図書室では竜の体の構造を調べるのに夢中だったから竜玉に関しての情報は見てなかったわ」


「ああ、図書室と言えば、昨日の夜にエリアスに変なことを聞かれたな。Sエリアを知っているかと」


「え? それで、ゴットさんは知ってるんですか? そのSエリアの場所」


「いや、俺も噂で聞いたことがあるだけだ。なんでも王家に関わる文書が置いてあるらしいが、そもそもあの図書室のどこにあるのか見当もつかんな」


 そうなんだ。

 私は隣のルー先生の膝の上にちんまり座っているべリーチェと目を合わせて頷きあう。

 おそらく図書室のソファ席の壁の向こうがSエリアに違いない。


「あら、なんにしても8番の竜玉が弾みだしたということは同じ日に生まれたリュウちゃんの孵化も近いということよね?」


 ルー先生のその言葉にゴットさんは頷きながら答えた。


「そういうことだ。まあ、里親の元で育てられた竜玉だから多少の時期はずれるかもしれないが。マリア、リュウちゃんが弾みだしたら真っ先に教えてくれ」


「わかりました」


 なんだか、いろいろと腑に落ちないことが多々あるがリュウちゃんがすくすく成長しているのは喜ばしいことだものね。




 ***************




 部活の時間になり、皆で集合した魔術の教室。

 朝からソワソワしていたゴットさんは早退。

 もうすぐ孵化する8番の竜玉の様子を見るために、明日の朝まで青の騎士団に籠るようだ。

 まるで妻の出産を待つ夫だな。


 シャノン以外のクラスの違うリリーとドリーに体調を心配されたがすっかり元気なった事を今日の食事の内容でアピール。

 そして集まった部活のメンバーに昨日までの赤の賢者に関するわかったことを報告した。


「死者蘇生の禁術……マウリッツ王子はカナコさんの死が受け入れられなかったということね。それにしてもブラッドフォードさんが聖人として王城の墓地に埋葬されていたのは驚きね」とシャノン。


「そうですわね。それにカナコさん、ブラッドフォードさん、マウリッツ王子に王妃様の4名が同じ日に亡くなっているなんて。いったいその日に何があったんでしょうね?」


 そうリリーが言うと、ドリーが遠慮がちに口を開いた。


「あ、あの、その日にあったのは大量殺戮事件です。そしてその大量殺戮事件を起こしたのは赤の賢者ではないということが真実なのではないですか?」


 え?

 ドリーのその言葉に私とエリアス先生は目を合わせた。


 そう……そうだよね。

 なんでそんな事に気が付かなかったんだろう?


 4人が同じ日に亡くなっているというよりも『大量殺戮事件』の日に4人とも亡くなっているんだ。

 そして赤の賢者がその事件に関与していないなら大量殺戮事件を引き起こしたのは別人だ。

 では、大量殺戮事件を引き起こしたのは誰?

 聖人の称号を授与されて王城の墓地に埋葬されたブラッドフォードさん。

 ゴットさんはあの時なんと説明してくれたんだっけ?

 確か、『聖人』の称号は国にとって大きな功績を残した者に授与される称号だと……。

 国にとって……それは王族にとってと置き換えてもいいのでは?

 大量殺戮事件を引き起こしたのは、マウリッツ王子ではないだろうか?

 死者蘇生の禁術により悪霊に体を乗っ取られた……。

 そしてその犯人としてブラッドフォードさんの異名である『赤の賢者』が身代わりとなったんだ。

 だから赤の賢者である『ブラッドフォード・ジャクソン』という本名を秘匿とする国王命令が出たってことか。

 王族のスキャンダルを隠ぺいするために善良な一般市民を犠牲にした。


 ブラッドフォードさんに『聖人』の称号を授与したのはせめてもの罪滅ぼしといったところか。


 『ブラッドフォード・ジャクソン』に名誉を『赤の賢者』に汚名を。


 きっとこれが真実だ。


「エリアス先生、なんだか真実が見えて来ましたね」


 私のその言葉にエリアス先生は頷きながらギュッと両手を握りしめた。

 でもこのままでは誰に言ってもただの想像に過ぎないと一蹴されるだけだ。

 確実な証拠をつかみたいところだ。

 

「そう言えば、エリアス先生。図書室にあるというSエリアなんですけど、ゴットさんは場所は知らないようですね」


「そうなんだよ。魔導師団長と副団長だけが入室できる場所だからゴットさんが知らないのは当然かもしれないね」


「Sエリア? それってなんですの?」


 リリーの問いかけにエリアス先生が王家に関する文書が管理されていて一般には隠されていることを説明した。


「王家に関する文書がある場所ですか? もしかしてそこに赤の賢者の真実が隠されているかもしれませんね」


 シャノンのその言葉にその場にいたみんなは頷いた。

 きっと120年前に起きた大量殺戮事件の真相がそこに隠されているに違いない。

 そしてそれはあの壁の向こう側……。

 

 それでは、私は問題のSエリア潜入を決行しましょうかね。

 決行は今日の夜。

 ゴットさんが8番の竜玉に張り付いているのは好都合だ。

 




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