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ゴットさんの目に映るのは雌の竜に違いない

 どうやら、リリアーヌ様はライナンス学園で私と再会できるのを心待ちにしてくれていたようだ。

 あのデビュタント呪詛事件で義足となった自分がちゃんと元気でやっていること、その事に再度お礼を言わなければと思っていたらしい。


 それなのに、入学式で会えると思っていたのに会えず。

 クラス分けの発表名簿にも私の名前が無いことにライナンス学園には入学していないことを確信した。


 その後は、私の情報を集めるのに奔走したらしい。

 と言ってもリリアーヌ様は寮生活のため主に実家であるバイアール伯爵家に手紙を出し侍女や執事に調査を依頼、そして兄のジョエル様が生徒会長をつとめるイントラス学園にたどり着いたという。


 そこで兄のジョエル様から私が学園長の息子であるダニエルになにやら絡まれていると言う情報をキャッチ。


 その後はいてもたってもいられず自分の父親を説得する事一ヶ月、編入試験の合否や制服の準備にさらに一ヶ月費やし今に至るとのこと。


 リリアーヌ様、情報が古いですよ。

 ダニエルとの確執は入学二週間目で解決済みなんです。

 おそらく、父親の説得と編入準備でその後の情報を一切遮断していたんだろうね。

 それにしても行動力がありすぎだよ。


 ざっと今の私達の状況を聞いたリリアーヌ様は恐縮し、何度もゴットさんに頭を下げていた。


「いや、良いんだ。俺の人相が悪いのも君達より老けているのも事実だからな」


 うん。

 確かに事実よね。


「なぜだろう。マリアに言われると腹が立つ」


 差別反対!


 リリアーヌ様はB組に編入し選択科目はもちろん『魔術科』だ。

 この時期の編入生は珍しい事とかなりの美少女という事で注目の的だ。

 そして注目の的という点でゴットさんも同じ。

 どう見ても大人の男性が制服を着ている時点で怪しげだ。

 今話題の編入生二人が揃っている私達のテーブルは必然的に視線が集まる。

 そんな中、ザワザワとした喧騒が一瞬静まり返って人だかりが二つに割れた。

 食堂の入り口から伸びた一本の道を何だか煌びやかな一団がこちらに歩いてくるではないか。

 あの先頭にいるのは生徒会長のような?


「あら、お兄様だわ」


 あ、やっぱり?

 ではあの一団は生徒会役員のご一行?

 ジョエル様を筆頭に恐ろしく美形な男女が5人。

 もしかしてこちらに向かっている?


「ああ、リリアーヌ様に用があるんですね。では、私達はこれで失礼しますね」


「いえ、違うと思いますわ。お兄様には夕刻に寮の食堂でご一緒する事になってますので。視線の先は私ではないようですわ」


 えっ、そうなの?

 まさかゴットさんをコスプレ変態と認知したとか?


「マリア、なぜ俺を見る」


 見れば見るほど怪しいからです。

 そして私達の前に到着したジョエル様が声を上げた。


「マリアーナ嬢、少し時間を頂きたい」


 えっ、私?

 善良な生徒ですがなにか?





 ***************




 生徒会役員の5人に連れてこられたのは生徒会室に隣接された会議室。

 ここまでの道程でリリアーヌ様が編入して来て驚いた事をジョエル様に伝えると、いつの間にか自己主張をする逞しい令嬢になって困っていると、とても困っていなそうな良い笑顔で教えてくれた。


 そしてここに連れてこられた理由は私が提案した部活動と学園祭の話を聞きたいと言うことだった。


 広々した室内には学園長、担任のクンラート先生、あとは見たことはあるが名前の知らない教師が3人。


 午後の授業は私は免除と言うことで学園長や教師、生徒会役員5人と向かい合った位置に腰掛けた。

 私の隣には当然と言う顔をしてゴットさんが座る。

 ゴットさんは竜玉の父親代わりと言うことで母竜の感情の安定、健康にいたるまで付きっきりでサポートする必要性を懇切丁寧に学園長に語り自分がこの場にいる正当性を主張した。

 それを横で聞いていた私は確信した。

 ゴットさんにとっての私の立ち位置は雌の竜なのだと。


 あのお父様とアンドレお兄様がゴットさんが四六時中私に張り付くことをそう易々と許可するなんておかしいと思ったんだよね。

 要は私はゴットさんから女性として以前に人間として認定されていないのだ。

 遠い目をしてそんな事を考えていると隣にいるゴットさんが私の顔を覗き込んだ。


「どうしたマリア? もしかして疲れたのか? それは大変だ。さあ、こんな所を出て空気の綺麗なところに休みに行くとしよう。マリアの体調より大事な事などないのだから」


 そう言って優しく笑った。

 それを見た生徒会役員の女性二人は真っ赤な顔で『ほー』とため息をついた。


 あーうん。

 強面の優しい微笑みね。

 あれね、ギャップ萌えってやつ。

 ゴットさんって目つき悪いけどまあまあ整った容姿だもんね。

 でもね、ゴットさんの目に映っているのは雌の竜ですから。

 私ではありません。


 私は頭を振ると「大丈夫です」と答えて前を向いた。

 そして部活動と学園祭についての話を皆さんにした。


 まず部活動は学年の括りなく同じ志をもつ生徒たちの活動であること。


「質問だが、魔道具を研究する部では活動費がいるのじゃないか?」


 学園長の質問に答える。


「そうですね。それは集まった部員達で部費を集めます。集めた部費が活動費になります。例えば、その活動費で魔石ランプを作ったとします。今度はそれを学園祭で販売します。その収益がまた活動費となります。淑女科の皆さんが刺繍部を立ち上げたのならその刺繍作品を販売、それがまた活動費となるんです」


「あーその学園祭だが、具体的にどんなものだい?」

 今度はクンラート先生の質問だ。


「読んで字のごとく、学園のお祭りです。各クラスで催し物を企画するんです。生徒の親たちを招待して楽しんでもらう。もちろん自分達も楽しむのが目的です」


 部活動立ち上げの設備費に当てるため、学園祭の招待はチケット購入制を提案。

 この学園に通わせている時点で経済的に困窮している家庭はないと思われるからその点は大丈夫だろう。


 学園の中庭を解放して屋台をよんで商売をしてもらうのも一考だ。

 その時は場所代をもらうのはどうだろう。


 各クラスでの催し物は招待客から人気投票をしてたくさん人気を集めたクラスが優勝、二位が準優勝だ。

 競争させることによりクラスの結束力が強まる。

 そう言えば、この学園は三年間クラス替えがないと言うから、ポイント制にして卒業の時に最も結束力の強かったクラスを発表するのも良いかもね。

 そこまで説明をして皆さんの反応を伺うと、生徒会役員の皆さんはキラキラした目を向けていた。

 そして生徒会長であるジョエル様が口を開いた。


「それは名案だ! 学園長、一年生の時からクラスの結束力を高めるのにこの学園祭のポイント制は使えるんじゃないでしょうか? 毎年、二年生になって魔物討伐に行く時期にクラスのまとまりが問題になりますよね?」


「「「なるほど……」」」

 学園長や他の教師達が頷いた。


 首を傾げる私にジョエル様が説明してくれた。

 一年生では同じクラスになっても選択科目の時間でバラバラになるのであまりクラスの結束と言うものがないという。

 そしてそのまま二年生になり魔物討伐の授業と試験が行われる。

 結束力が低い団体なので連携を取りながら行動をしなくてはいけない魔物討伐で苦労をするらしい。


「一応、クラスの対抗意識を高めるために成績をポイント制にして『クラスポイント』というものを発表しているんだがね」


「成績でクラスポイントですか? それではクラスの結束は強まりませんね。むしろ成績の悪かった子に対しての不満を煽るんじゃないですか?」


 私のこの言葉に教育者達は押し黙る。

 まったく、この人達ときたら…


「あのですね、結束というのは何かを一緒にやる上で困難や苦労を乗り越えた時、喜びを分かち合った時に生まれるんです。因みにそのポイント制ですが、ポイントが多かったクラスに何か特典があるのでしょうか?」


「い、いやそれは……」


 ないんかい?

 ダメダメだ。


 その後、部活動の設立と学園祭の開催案が通り学年の年度末にクラスポイント最高取得クラス全員に何らかの特典をつける事となった。

 人参をぶら下げないと馬は走らないのだ。




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