後悔の嵐で溺れる俺は床にひれ伏し懺悔する ダニエル・ブレッサン視点
マリアーナに関する衝撃の事実を聞いた翌日、俺は何と言ってマリアーナに謝れば良いのか頭を抱えていた。
今更ながらに教室の窓際の席で儚げな様子で本を読むマリアーナの横顔が思い出されて胸を締め付ける。
自分の希望じゃない学園に入学させられたうえ、俺からいわれのない言いがかりをつけられてクラスで孤立したマリアーナ。
いったいその責任をどうとれば良いんだ?
朝から浮かない顔をして学園に向かう俺に父上は心配そうな目を向けるが言えるわけがない。
俺の失態のせいでマリアーナが学園を辞めるかもしれないなんて…
朝の馬車乗降場でマリアーナの到着を待っているといつの間にか現れた学園の生徒達に端の方に追いやられてしまった。
何なんだ?
この人だかりは?
ほどなくすると、リシャール家の紋章が入った馬車が入って来た。
俺を端に追いやった生徒達が途端に色めき立ったのが分かった。
なる程、こいつらはマリアーナの到着を待ってたのか。
追いやられた大樹の影からジッと様子を窺う。
騎士団総団長の娘でこの国の宰相の姪とくれば知らない者はいないというわけか。
そう言えば、同じ学年のマリアーナの従兄であるサムエール・グットオールも入学早々令嬢達の注目を浴びていたな。
男にしては美しい従者の手を借りて馬車を降りるマリアーナはまるで人間界に舞い降りた花の妖精のようだ。
リシャール家のお抱え錬成術師が作り上げたと噂されるぬいぐるみのゴーレムに異世界から来た白い大型犬。
この白い大型犬については界を渡ってこの世界に来たことから『界渡りの乙女』に準ずる扱いだという。
噂では人の言葉を理解していると聞いたが本当だろうか?
それらに囲まれている様はまるでそこだけ童話の世界から抜け出てきたような神秘的な光景だった。
一定の距離を保ちながらキャッキャとはしゃぐ女子達に、遠巻きに視線を送る男子ども。
中には俺のクラスの奴らまでいるではないか。
俺さえあんな事を言わなければマリアーナは今頃沢山の友人に囲まれていたはずだ。
それにしてもマリアーナに向ける男達の熱のこもった視線に無性に腹が立つ。
なんでこんなにモヤモヤとするのだろうか?
俺は心のモヤモヤを振り切るように頭を左右に振ると、マリアーナに近づくために踏み出そうとした。
「おう、ダニエル。今日はいつになく早いな」
ちっ、厄介な奴に捕まった。
コラッティーノ・ジラルディ。
王都でいくつもの飲食店を展開しているジラルディ社の御曹司だ。
平民だが、下級貴族よりも資産家と言うことでこの学園でも一目置かれている存在だ。
コラッティーノとは家庭教師が同じこともあり、入学前からの友人だ。
こいつはかねがね俺がマリアーナに対して取った行動を諫めていたのだ。
「ああ、マリアーナ様の登校風景はいつ見ても圧巻だね。あのクマのぬいぐるみのゴーレムってリシャール家お抱えの錬成術師の作品だって噂だけど実のところマリアーナ様の作品らしいよ。それにリシャドール社の樹脂車輪とサスペンションもあの子が発案者だってよ。リシャール伯爵は娘の身を案じて公には発表してないがな。」
ああ、知ってるさ、だから各学園がこぞってマリアーナ獲得に乗り出していたんだよ。
「ここ一週間、ジラルディ家の情報網を駆使してマリアーナ様の事を調べたよ。マリアーナ様はこの学園じゃなくてライナンス学園に行くつもりだったようだ」
うおっ、こ、こいつ俺の心をいきなりえぐりやがって。
「コラッティーノ、お前は溺れている人間の頭を押さえてとどめを刺す極悪人だ」
「は? 誰が溺れてるんだよ?」
「俺だよ。俺は今、後悔という嵐の海で瀕死の状態でもがいているんだ」
「なんだよそれ?」
そう言うコラッティーノに俺は父から聞いたマリアーナのいきさつを話して聞かせた。
俺の話を聞き終えたコラッティーノの一言が俺にトドメをさした。
「うん、この場合の極悪人は間違いなくお前だな。ダニエル」
ううっ、くそっ、反論できないじゃないか。
マリアーナに声をかけるタイミングがなく、とうとう2時限目が終わってしまった。
次の剣術の授業のため剣士服に着替えている時にコラッティーノが話しかけてきた。
「おい、ダニエル。いつマリアーナ様に謝るんだよ」
「う…今タイミングをはかっている所なんだ」
「早めの方が良いぞ。遅くなればなる程こじれるぞ」
わかってる。
そんなことは分かってるんだ。
コラッティーノと共に剣術の練習場に向かっている途中でなぜかこちらにうちのクラスの数人が走ってきた。
「大変だ! イデオンの奴がマリアーナ様に剣を向けてる! マリアーナ様にシャノン様が話しかけたのが気に入らないと!」
なに?!
「おい! ダニエル早く止めろ! 走れ!!」
コラッティーノのその言葉に弾かれたように走った。
練習場に着くと剣を持ったマリアーナとイデオンが対峙していた。
それを見て俺は叫んだ。
「おい! お前達何やっているんだ?!」
そんな俺にマリアーナは剣を向けて口を開いた。
「ダニエル・ブレッサン! あなたのお友達が私に言いがかりを付けて何の罪もないシャノンさんに手をあげたわ。自分のお友達を使って私に嫌がらせをするのなら正々堂々とあなた自身で私に向かって来たらどうなの?! いつまでも私が大人しくしていると思ったら大間違いよ。さあ、次はあなたが相手よ。剣を構えなさい!」
その言葉にとっさに床にひれ伏した。
「すまない! 全部俺のせいだ! 悪いのは全部俺なんだ! マリアーナは何も悪くない!」
ごめん、マリアーナ!
その剣で思う存分俺を打ってくれ。




