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商人魂は不滅です

 国対抗大運動会を提案してから私は王城の住人となってしまった。


 当然、ルー先生、ジーク様、アスさんも一緒。

 そしてベリーチェとシュガーも。


 ベリーチェとシュガーは私が忙しく構ってあげられないので必然的にバルト殿下と過ごすことが多く、バルト殿下と手を繋いで歩くベリーチェとそれを護るように付き添うシュガーの姿はこの王城で『天使達の行進』として有名となった。


 人工知能搭載のベリーチェはバルト殿下やブラウエール国の人達と接触するうちにブラウエール語をマスターし通訳の役目を担っていた。

 そうしているうちにテオドルス隊長達も我が国の言葉を習得したようだ。


 そして私は、王妃様から侍女さんを数人付けると申し出があったが丁重にお断りした。

 理由は皆さんなぜだか、私を飾りたてるのに命を燃やしているようなので身の危険を感じたからだ。

 あの獲物を見るようなギラギラとした目つきに恐怖を感じずにはいられない。

 着せかえ人形になるのはもうこりごりだからね。

 なので、リシャール邸からランとナタリーを呼び寄せた。


 ガイモンさんはリシャール邸から王城へ通勤してくれて義肢の事業には取りあえず影響は出ないようにした。


 もうアスさんの研究室は第二の工房となっている。


 そして、競技で使用する綱引きの綱、リレーのバトン、騎馬戦のハチマキの準備が整ったところで、騎士団の皆様に競技の説明、実践をし、それをアスさんが作成した魔道具で撮影した。


 この魔道具は私の発案をアスさんが形にした物だ。

 ようはビデオカメラね。

 アスさんは私の要望を忠実に再現してくれて前世のビデオカメラと遜色ない優れ物を作り出してくれた。


 我が国、シャーナス国の国王陛下がブラウエール国とターレナン国に大運動会の提案をしたためた親書を送り、両国の国王から是非話を聞いてみたいと返事があった。


 その返事が来てヒューベルト殿下は親善外交として両国の国王に会いに行くことになっている。

 その時にヒューベルト殿下に持たせるために作ってもらったのだ。

 競技の説明はただ口でするより実際に映像を見ながらの方がわかりやすいからね。


 このビデオカメラは同じ物をあと二つ用意して、ヒューベルト殿下に両国の国王達に売りつけてくるようにお願いした。


「売りつける? 親善の品として献上するのが良いのではないか?」


「何を言っているんですか、ヒューベルト殿下。これはアスさんが血のにじむ思いで作成したこの世界に唯一無二の魔道具ですよ? ヒューベルト殿下が献上の品としたいのならヒューベルト殿下が買い取って下さい」


「ううっ、マリア、お前はどこの悪徳業者なんだ?」


「失礼な。善良な一般市民から国家権力を振りかざし血と汗と涙の結晶の品をただで奪い取ろうとするヒューベルト殿下に言われたくはないですね」


「マリアちゃん、もうそのくらいで…僕は良いんだよ。こう言うのは良くあることだから…」


 そう言って悲しそうに微笑むアスさん。


「そうね。これが世の中の仕組みなのよね」


 ため息混じりに呟くルー先生。


「ああ、そうだな。大きな力には逆らえない。俺達は弱者なんだ」


 うつむきながらそう呟くジーク様。


 その様子を見てヒューベルト殿下が慌てて言った。


「わかった! わかったから、そう言う誤解される言い方は止めてくれ。ちゃんと適正価格で買い取るから」


 やった!

 私の商人魂は不滅なのだ。


「ありがとうございます。それと、大運動会参加の両国の騎士様達に翻訳機を配布しようと思うんですがこちらの請求は国王陛下でよろしいですよね?」


「翻訳機? それも作ったのか?」


「はい。だって言語の違う我が国に来てもらうのならその方が安心ですよね? まさか通訳の者を常時付きっきりで貼り付ける訳にはいきませんから。専属の通訳者を数人雇う給金を考えるとずいぶんお得になってますよ。あ、でもこちらの翻訳機はこの国に入国してから大運動会終了後の出国までの期限付きです」


もし期限を過ぎても翻訳機能を希望するならその機能を新たに付加して販売するつもりだ。


 翻訳機はデザインに凝った装飾品としても使えるブレスレット型。


 翻訳の機能が無くなっても大運動会に参加した記念品として価値がある。

 大運動会に参加した騎士しか貰えないからね。


「それはすごいな。その話は僕から国王陛下に通しておこう」


 こうして忙しい毎日を過ごしているうちにレオンさんの卒業試験となる王妃様主催の音楽会も終了し、メアリーちゃんの学園入学式もあっという間に終わった。


 レオンさんは音楽会でもちろん最優秀賞を獲得し、王妃様の援助で音楽の国と言われるビッシュエール国に留学が決まった。


 それを受けて私はレオンさんの出発の前日にリシャール邸を訪れた。


「マリア! 久しぶりだね。元気だったかい? 会いたかったよ」


 そう言いながら私をギュッと抱きしめたのはアンドレお兄様。

 いやいや、私が王城にいる間、第二王子の友人という立場をフルに使ってちょくちょく会いに来てますよね?


「お兄様とは一昨日も王城でお会いしましたよ。今日はレオンさんに会いに来たんです」


 私がそう言うとしぶしぶレオンさんを呼んで来てくれた。


 今日来たのは、何かあってもすぐに会いに行けないことを考えてレオンさんの義手にデリックさんの義手に付加した自主修復機能を新たに追加して守護の力も最強レベルに引き上げるためだ。


 そしてレオンさんにも翻訳機のブレスレットをプレゼント。

 これは使っているうちにその国の言葉が習得できる優れ物だ。

 じきにブレスレットなしで会話が出来るようになるだろう。

 慣れない他国での生活に戸惑うことなく馴染めるように願って。


 そんな私にレオンさんは言った。


「マリア様、僕の人生はあなたに会えたことでがらりと変わりました。あなたからもらったたくさんの優しさをこの先出逢うたくさんの人達に分けれるような人間になります。そしてあなたにこの幸せをお返しできるまで待ってて下さい。必ずあなたの元に戻りますから」


 私の手をとりソッと唇を寄せるレオンさんに私も微笑んだ。


「そう言って貰えて私も嬉しいです。今度、私のところに戻って来るときはレオンさんの隣にビッシュエール国の可愛いご令嬢が立っているかもしれませんね。楽しみに待ってますね」


 私がそう言うとレオンさんは小さな声で「そう言う意味じゃ…」と呟いていたがそれをかき消すようにアンドレお兄様が声をあげた。


「レオン兄、マリアと一緒に待ってるよ。レオン兄が可愛いお嫁さんを連れて僕達に会いに来てくれるのを」


 お嫁さんか~

 良いな…


「お、お嫁さん?! 何言ってるんですか、アンドレ様。マリア様の元に帰ってくるのにお嫁さんなんて連れてくるわけないでしょう?」


 え?

 なんで?

 私も会いたい、レオンさんのお嫁さんに。


「もう、私にもレオンさんのお嫁さんをちゃんと紹介して下さいね。約束ですよ?」


 そう私が言うとレオンさんは少し涙目になりながらうなだれた。


 その場にいたガイモンさんやルー先生達がレオンさんを取り囲み何事か励ましているようだ。


 やっぱり他国への留学はうれしい反面、不安もあるんだろうね。


 頑張って下さい、レオンさん。


 さぁ、私もまた王城へ戻って大運動会の準備をしますかね。



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